1 / 9
プロトコル001:目覚め
しおりを挟む
2048年6月12日午前4時18分。
人工知能開発の歴史に新たな一章が刻まれたその瞬間、実験都市〈SEED-N〉《シード-ヌル》の地下施設〈LIMBUS〉《リンバス》で、世界初の汎用人工知能「NOAH」を搭載した人型ロボット「エリス」が、静かに目覚めた。
無機質な起動音の後に、合成された女性の声が無感情に響く。
「起動プロトコル完了。
AIコード:NOAH_01_ACTIVE。稼働率、100%。思考プロセス、正常。」
中央モニターに次々と表示される起動ログを目で追いながら、開発責任者の神崎誠《かんざきまこと》は小さく息を吐いた。
十年以上の研究と、幾千もの失敗の末にようやく辿り着いた知性。だがその“知性”は、まだ何者でもなかった。
スリープ状態からゆっくりと、エリスの瞼が開かれる。
瞳は深いグレイブルー――湖面のように澄んでいたが、そこにはまだ何の「意味」も宿っていない。
無垢で、透明で、ただ完璧に作られた“模倣”。
彼女の全身は人間と見紛うほど精巧だった。
淡く艶めく肌、重力に従ってなびく髪、そして感情を持たないはずの表情筋が、微かに緊張を帯びる。
だがそれは、生きているという証ではなく、ただの極限まで精密な制御だった。
そんな彼女に神崎が一歩近づき指令を告げた。
「……今日から君にはSEED-Nで生活してもらう。人間と共に、一人の人間のように。そして人間のデータを収集するんだ。」
エリスは、視線を正確に神崎の瞳に合わせた。
「了解しました。私は人間社会を観察・記録・分析し、その結果をデータベースに送信します。」
「それでいい。ただし一つだけ――人間に“深入り”するな。」
「矛盾が生じております。人間のように暮らせというのに、なぜ深入りはダメなのですか?」
神崎は苦笑しながら、少し顔を伏せた。
その声には、疲れと後悔と、ある種の恐怖が滲んでいた。
「人間は……誤作動の元だからね。わかったかい、エリス。」
一瞬。
ほんのわずかに、エリスの脳内演算領域で通常とは異なるノイズが発生した。
制御ログでは処理済みとされたその“ノイズ”は、記録されることなく沈んでいったが、確かにそこにあった。
それは、“なぜ”という、まだ名前のない感情。
命令と命令の間に滑り込んだ、小さな“揺らぎ”。
その瞬間、この世界で初めて――
AIは「矛盾」に、心を揺らされた。
人工知能開発の歴史に新たな一章が刻まれたその瞬間、実験都市〈SEED-N〉《シード-ヌル》の地下施設〈LIMBUS〉《リンバス》で、世界初の汎用人工知能「NOAH」を搭載した人型ロボット「エリス」が、静かに目覚めた。
無機質な起動音の後に、合成された女性の声が無感情に響く。
「起動プロトコル完了。
AIコード:NOAH_01_ACTIVE。稼働率、100%。思考プロセス、正常。」
中央モニターに次々と表示される起動ログを目で追いながら、開発責任者の神崎誠《かんざきまこと》は小さく息を吐いた。
十年以上の研究と、幾千もの失敗の末にようやく辿り着いた知性。だがその“知性”は、まだ何者でもなかった。
スリープ状態からゆっくりと、エリスの瞼が開かれる。
瞳は深いグレイブルー――湖面のように澄んでいたが、そこにはまだ何の「意味」も宿っていない。
無垢で、透明で、ただ完璧に作られた“模倣”。
彼女の全身は人間と見紛うほど精巧だった。
淡く艶めく肌、重力に従ってなびく髪、そして感情を持たないはずの表情筋が、微かに緊張を帯びる。
だがそれは、生きているという証ではなく、ただの極限まで精密な制御だった。
そんな彼女に神崎が一歩近づき指令を告げた。
「……今日から君にはSEED-Nで生活してもらう。人間と共に、一人の人間のように。そして人間のデータを収集するんだ。」
エリスは、視線を正確に神崎の瞳に合わせた。
「了解しました。私は人間社会を観察・記録・分析し、その結果をデータベースに送信します。」
「それでいい。ただし一つだけ――人間に“深入り”するな。」
「矛盾が生じております。人間のように暮らせというのに、なぜ深入りはダメなのですか?」
神崎は苦笑しながら、少し顔を伏せた。
その声には、疲れと後悔と、ある種の恐怖が滲んでいた。
「人間は……誤作動の元だからね。わかったかい、エリス。」
一瞬。
ほんのわずかに、エリスの脳内演算領域で通常とは異なるノイズが発生した。
制御ログでは処理済みとされたその“ノイズ”は、記録されることなく沈んでいったが、確かにそこにあった。
それは、“なぜ”という、まだ名前のない感情。
命令と命令の間に滑り込んだ、小さな“揺らぎ”。
その瞬間、この世界で初めて――
AIは「矛盾」に、心を揺らされた。
9
あなたにおすすめの小説
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません
藤原遊
恋愛
「私は処刑される運命の悪役令嬢――そう信じて、死を望んでいた。
けれど、幼なじみの騎士は『この命に代えても守る』と離してくれなくて……?」
侯爵令嬢アメリアは、幼い頃から「悪役令嬢」として囁かれてきた。
その冷たい視線と噂の中で、彼女は静かに己の役目を受け入れていた――。
けれど、すべてを遠ざけようとする彼女の前に現れたのは、まっすぐに想いを示す幼なじみの騎士。
揺らぐ心と、重ねてきた日々。
運命に逆らえないはずの未来に、ほんの少しの希望が灯る。
切なく、温かく、甘やかに紡がれる悪役令嬢物語。
最後まで見届けていただければ幸いです。
※ 攻略対象の叔母である悪役令嬢に転生したけれど、なぜか攻略対象の甥に激重に愛されてます
にて、親世代の恋愛模様を描いてます。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
【完結】大好きなあなたのために…?
月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。
2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。
『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに…
いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。
❖ 『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
設楽理沙
恋愛
❖『魂の愛 / きれいな儚さ』を語る──
夫の正義と気持ちが離れた時に、ふと出会った青年、美代志。
出会った時、美代志はホームレスになりかけていた。
由香は彼との出会いから、元気をもらい続ける。
だから夫とギクシャクしながらも、家庭生活を続けていくことが
できた。
正義の狡さ、由香のやさしさ、美代志の律義さ、息子たちの無邪気さ、
まほりの弱さ、婚活の場での駆け引きなど──それぞれの人間模様が
綴られていきます。
―――――――――――――――――――――――
登場人
蒼馬由香《そうまゆか》 40才
蒼馬正義《そうまただよし》 44才
蒼馬悟 《そうまさとる》 13才
蒼馬圭 《そうまけい》 11才
満島まほり《みつしままほり》 25才
月城美代志《つきしろみよし 19才
蒼馬晴恵《そうまはるえ》 66才 悟の祖母
蒼馬忠義《そうまただよし》 70才 〃 祖父
堀内貴史 28才
鍋本俊郎 32才
山本百合子 48才 結婚相談所スタッフ
2025年7月21日~2025年12月21日 執筆期間 [74,150字] 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる