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第1章:闇天星士断罪編
【第9話】黄色い砂塵
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天星神の城を後にし、シエラ、ギル、クウの三人は一路、任務地ヴァルベールへと向かっていた。
城を出てすでに半日。道のりは平原続きで、太陽は傾きかけているというのに、目的の街影は一向に見えない。
地平線の向こうには揺らめく陽炎だけが見え、風もない。まるで時間までもが止まったような不気味な静寂が続いていた。
「なあ、クウ。俺、偶然聞いちゃったんだけどさ――リオンが言ってた“あの人”って誰だ?」
歩きながらシエラが口を開く。
「あー、僕の師匠のことだよ。矢座の使徒、アル・ファーシャムっていう人。弓の名手でね、僕がまだ子どもの頃に拾って育ててくれたんだ」
「拾ってくれた?」
「うん。僕、山に捨てられてたらしいんだ」
「……両親は?」
「覚えてない。生きてるのか、死んでるのかもわからない。だからアルは、たった一人の家族だったんだ」
どこか懐かしそうに語るクウ。その声音に、シエラが眉を寄せた。
「だった? ……その師匠、今は?」
「死んだよ。何者かに殺された」
淡々と答えるクウ。風がひとすじ、頬をかすめた。
「最後にこの弓を託されたんだ。次の矢座の使徒に会ったら、渡してくれって」
クウは背中に背負った弓を軽く叩く。その手つきは、まるで大切な遺志を撫でているかのようだった。
「……悲しいこと、思い出させたな」
「そんなことないよ」
クウはいつものように笑って見せた。だが、その笑みの奥に、かすかな寂しさが滲んでいた。
気まずい沈黙が流れ、ギルが軽く咳払いをした、その瞬間――
「……風、強くねぇか?」
ギルの髪が揺れ、裾がはためいた。
「え?」
シエラとクウが同時に顔を上げた。次の瞬間、耳を裂くような轟音が辺りに響き渡る。
「うわっ、ちょ、待っ――!!」
強烈な突風が三人を襲った。
砂が爆ぜ、大地が唸りを上げ、視界が一瞬で砂色に塗りつぶされる。
砂礫が肌を叩き、息をするたびに喉が焼けた。
「な、なんだよこれ……砂嵐か!?」
地面に手をついて体勢を立て直したシエラが顔を上げると――そこには、“壁”があった。
それは空を覆い隠すほど巨大な、分厚い砂の壁だった。
渦巻く風が街を包み込むように吹き荒れ、世界を切り離す境界線のようにそびえている。
「急になんなんだよ、これ!」
「もしかして……結構歩いたのに街が見えなかったのって、これのせい!?」
驚きを隠せないクウ。
「お前、魔力探知できるんじゃねーのか!?」とシエラが怒鳴る。
「ずっと探知してるけど……全然ダメ。何か強い力で妨害されてる。風の中に“魔”がある感じ」
クウの目が細まる。風が生き物のように唸っている。
「……ここがヴァルベール、なのか?」
ギルが呟いた。
「だとしても、どうやって入るんだ? この風……ただの自然現象じゃないぞ」
クウは少し考えると、道端の小石を拾い上げ、ふっと風の壁へ投げ入れた。
「おい、何やってんだ?」
「え、まさかの石占い?」とシエラが眉をひそめる。
ギルが呆れ顔で見つめる中、小石は壁に触れた瞬間、風に巻き上げられ、空の高みへと吸い込まれていった。
まるで天へと誘われるように。
「ふむ……」クウは真顔で頷く。
「少なくとも、体が引き裂かれるほどの風圧じゃなさそうだね」
「はあ!? お前まさか、この中に突っ込むつもりか!?」
「そうだよ?」
シエラは頭を抱えた。
「あの石、めっちゃ高く舞い上がったぞ!? 生身でいったら絶対ヤバいって!」
「石だからだよ。僕らはある程度重いから、そこまでは飛ばされないって」
「そういう問題じゃねぇだろ!!」
ギルが腕を組み、ゆっくり頷いた。
「……けど、他に方法あるか? 街の中に入れなきゃ、調査もできねぇ」
「でもここがヴァルベールだと決まったわけじゃ、、」
子供のように駄々をこねるシエラ。
「たとえヴァルベールじゃなくてもこんなの放って置けるわけないだろ!」
「ぐ、ぐぬぬ……」
ギルのその言葉に、シエラはぐっと詰まる。
《ギルの言う通り、そこがヴァルベールよ!うだうだ言ってないで早く行って来なさい!》
駄々をこねるシエラに業を煮やしたのか、リオンが念波を送ってきた。
「リオンまで、、」
渋い顔のまま視線を逸らすシエラに、クウが笑って手を伸ばした。
「じゃあ決まりだね」
「決まってねぇって!」
ギルが二人の肩を抱いた。
「行くぞ。――せーの!」
「おいおいおい、マジで行く気か!? って、うわぁぁぁぁあああああ!!」
三人の叫び声が風に飲み込まれた。
砂の壁の中へと吸い込まれた瞬間、世界がぐるりと裏返るように揺れる。
足元がなくなり、体が宙に浮かび、視界は渦の中心へと引きずり込まれた。
「くっ、なんだこの風圧――!」
「……やっぱり、ただの風じゃない!」クウの声が震える。
「風が……笑ってやがる……」とギルが低く唸った。
耳の奥で、不気味な囁きが響いた。
《ようこそ……“風の檻”へ……》
「えっ? 今のリオン? じゃねぇよな、誰だ!」
その声は、まるで風そのものが話しているように聞こえた。
砂が弾け、光が歪み、すべてが白に飲まれていく。
――次の瞬間、三人の姿は、どこか別の場所へと放り出された。
乾いた風が唸りを上げる。
目を開けたシエラ達の前に広がっていたのは――
かつて“養蜂の楽園”と呼ばれたはずの街が、砂に沈んだ無残な姿だった。
城を出てすでに半日。道のりは平原続きで、太陽は傾きかけているというのに、目的の街影は一向に見えない。
地平線の向こうには揺らめく陽炎だけが見え、風もない。まるで時間までもが止まったような不気味な静寂が続いていた。
「なあ、クウ。俺、偶然聞いちゃったんだけどさ――リオンが言ってた“あの人”って誰だ?」
歩きながらシエラが口を開く。
「あー、僕の師匠のことだよ。矢座の使徒、アル・ファーシャムっていう人。弓の名手でね、僕がまだ子どもの頃に拾って育ててくれたんだ」
「拾ってくれた?」
「うん。僕、山に捨てられてたらしいんだ」
「……両親は?」
「覚えてない。生きてるのか、死んでるのかもわからない。だからアルは、たった一人の家族だったんだ」
どこか懐かしそうに語るクウ。その声音に、シエラが眉を寄せた。
「だった? ……その師匠、今は?」
「死んだよ。何者かに殺された」
淡々と答えるクウ。風がひとすじ、頬をかすめた。
「最後にこの弓を託されたんだ。次の矢座の使徒に会ったら、渡してくれって」
クウは背中に背負った弓を軽く叩く。その手つきは、まるで大切な遺志を撫でているかのようだった。
「……悲しいこと、思い出させたな」
「そんなことないよ」
クウはいつものように笑って見せた。だが、その笑みの奥に、かすかな寂しさが滲んでいた。
気まずい沈黙が流れ、ギルが軽く咳払いをした、その瞬間――
「……風、強くねぇか?」
ギルの髪が揺れ、裾がはためいた。
「え?」
シエラとクウが同時に顔を上げた。次の瞬間、耳を裂くような轟音が辺りに響き渡る。
「うわっ、ちょ、待っ――!!」
強烈な突風が三人を襲った。
砂が爆ぜ、大地が唸りを上げ、視界が一瞬で砂色に塗りつぶされる。
砂礫が肌を叩き、息をするたびに喉が焼けた。
「な、なんだよこれ……砂嵐か!?」
地面に手をついて体勢を立て直したシエラが顔を上げると――そこには、“壁”があった。
それは空を覆い隠すほど巨大な、分厚い砂の壁だった。
渦巻く風が街を包み込むように吹き荒れ、世界を切り離す境界線のようにそびえている。
「急になんなんだよ、これ!」
「もしかして……結構歩いたのに街が見えなかったのって、これのせい!?」
驚きを隠せないクウ。
「お前、魔力探知できるんじゃねーのか!?」とシエラが怒鳴る。
「ずっと探知してるけど……全然ダメ。何か強い力で妨害されてる。風の中に“魔”がある感じ」
クウの目が細まる。風が生き物のように唸っている。
「……ここがヴァルベール、なのか?」
ギルが呟いた。
「だとしても、どうやって入るんだ? この風……ただの自然現象じゃないぞ」
クウは少し考えると、道端の小石を拾い上げ、ふっと風の壁へ投げ入れた。
「おい、何やってんだ?」
「え、まさかの石占い?」とシエラが眉をひそめる。
ギルが呆れ顔で見つめる中、小石は壁に触れた瞬間、風に巻き上げられ、空の高みへと吸い込まれていった。
まるで天へと誘われるように。
「ふむ……」クウは真顔で頷く。
「少なくとも、体が引き裂かれるほどの風圧じゃなさそうだね」
「はあ!? お前まさか、この中に突っ込むつもりか!?」
「そうだよ?」
シエラは頭を抱えた。
「あの石、めっちゃ高く舞い上がったぞ!? 生身でいったら絶対ヤバいって!」
「石だからだよ。僕らはある程度重いから、そこまでは飛ばされないって」
「そういう問題じゃねぇだろ!!」
ギルが腕を組み、ゆっくり頷いた。
「……けど、他に方法あるか? 街の中に入れなきゃ、調査もできねぇ」
「でもここがヴァルベールだと決まったわけじゃ、、」
子供のように駄々をこねるシエラ。
「たとえヴァルベールじゃなくてもこんなの放って置けるわけないだろ!」
「ぐ、ぐぬぬ……」
ギルのその言葉に、シエラはぐっと詰まる。
《ギルの言う通り、そこがヴァルベールよ!うだうだ言ってないで早く行って来なさい!》
駄々をこねるシエラに業を煮やしたのか、リオンが念波を送ってきた。
「リオンまで、、」
渋い顔のまま視線を逸らすシエラに、クウが笑って手を伸ばした。
「じゃあ決まりだね」
「決まってねぇって!」
ギルが二人の肩を抱いた。
「行くぞ。――せーの!」
「おいおいおい、マジで行く気か!? って、うわぁぁぁぁあああああ!!」
三人の叫び声が風に飲み込まれた。
砂の壁の中へと吸い込まれた瞬間、世界がぐるりと裏返るように揺れる。
足元がなくなり、体が宙に浮かび、視界は渦の中心へと引きずり込まれた。
「くっ、なんだこの風圧――!」
「……やっぱり、ただの風じゃない!」クウの声が震える。
「風が……笑ってやがる……」とギルが低く唸った。
耳の奥で、不気味な囁きが響いた。
《ようこそ……“風の檻”へ……》
「えっ? 今のリオン? じゃねぇよな、誰だ!」
その声は、まるで風そのものが話しているように聞こえた。
砂が弾け、光が歪み、すべてが白に飲まれていく。
――次の瞬間、三人の姿は、どこか別の場所へと放り出された。
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