《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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10   深夜の執務

 ペリオドス様も王妃様も執務を手伝うつもりは微塵もないようだ。

 どうして、こうも仕事が多いのだろう。

 日中、クラクシオン皇太子の案内で、執務ができないので、仕事が溜まっていく。

 どんな理由があろうと、仕事ができていないと、後で叱られる事は経験済みなので、眠る支度が済むと、こうして執務室にこもっている。

 わたしには執務を手伝ってくれる宰相などは付けられていない。

 普通は相談役や簡単な仕事を片付けてくれる方が、補佐に付けられるはずなのに、わたしは、一人で片付けなければならない。

 国王陛下には宰相様が付き添っているが、わたしにはいない。

 最初は、それが普通だと思っていたが、国王陛下が宰相を付けようと手配したが、来なかった。

 後で、王妃様が必要ないと断ったのだと知った。

 王妃様が断ったのに、後日談では、わたしが断った事になっていた。

 どこまでも、わたしの事が嫌いなようだ。

 そんなに嫌いなら、王太子妃などにせずに、王宮から追い出せば済むことなのに、全く、何を考えているのかさっぱり分からない。

 ブツブツ文句を言っても仕事が終わるわけではないので、執務をする。素早く読み、解決策を書き込んでいく。

 ペリオドス様の印のいるものは、別にしておく。

 とにかく、早く終わらなければ、寝る時間が減っていくのだ。

 最近では、執務室の机に突っ伏しているか、執務室のソファーで目覚めている状態だ。

 令嬢であるまじき姿だ。

 お行儀が悪いだけではなく、このままでは、体を壊してしまう。

 扉がノックされて、「はい」と返事だけして、ひたすら仕事をしていると、扉が開いた。

 チラッと視線を向けると、そこには、クラクシオン皇太子殿下がいた。

 え、え、え?

 いったいどうして?


「どうかされましたか?お茶ですか?お水ですか?眠れませんか?」


 わたしはいったい何を話しているのやら。

 話しながらも、手は動かしている。


「こんな時間に仕事をしているのか?」

「はい、期日が迫った物だけは、済ませないと」

「難しい仕事なのか?」

「それほど難しい仕事ではありませんが、見ての通り、数が多いので、できれば、お話は明日にしていただけたら助かります」

「眠れないから、話し相手になってもらおうと思ったのだが」


 ぐぬぬ、こういう場合はどうしたらいいのでしょう?

 時間外ですが、お客様が優先でしょうか?

 それとも仕事が優先でしょうか?


「分かりました。お部屋にどうぞ。でも、この部屋には、お茶を淹れるポットもカップもありません。そうですね。ダイニングに参りましょうか?この時間なら、まだシェフがいるかもしれません」


 わたしは、ペンを置き、立ち上がった。

 早く眠くなるように、ハーブティーなどを淹れてもらえば、眠くなるかもしれない。


「ベルを鳴らしたら使用人が来るのではないか?」

「そんな便利な機能は、我が国にはありません。あったとしても、わたしにはありませんので、もしかしたら、お客様であるクラクシオン皇太子殿下がお部屋で、使用人を呼べば、来てくださるかもしれませんが……ここでは、無理です」

「邪魔をするつもりはない。君が仕事をしている姿を見ていてはいけないか?」

「駄目ではありませんが、面白くはありませんよ」

「さあ、続きをしなさい」


 クラクシオン皇太子殿下は、ソファーに座ると、足を組みわたしを見ている。

 仕方なく、わたしは椅子に座り、仕事を始める。

 紙を捲る音が落ち着くのだろうか?

 クラクシオン皇太子は、目を閉じている。

 眠るなら、ベッドで眠った方が体にもいいと思うのだが、追い出すわけにもいかない。

 それなら、素早く仕事を終わらせるしかないだろう。

 書類を読み、解決策を素早く書き込んでいく。

 山のような資料は、いつもより早く裁けている。

 やれば、もっと早くできたのね。

 我ながら、自分の仕事の速さに驚きながら、仕事に集中する。

 いつもは、明け方までかかる仕事は、暗いうちに終わった。

 クラクシオン皇太子殿下は眠ってしまったのか、起こすのもなんだし、このまま置き去りにするのもいけないので、わたしは机に伏せて寝ようとしたら、クラクシオン皇太子が目を開けた。


「終わったのか?」

「はい」

「なかなか仕事が早い」

「とんでもありません」

「では、部屋まで送ろう」

「いえ、わたしが部屋まで送りますので、お部屋でゆっくりお休みください」


 わたしが立ち上がると、クラクシオン皇太子殿下も立ち上がった。

 電気を消して、暗い廊下に二人で出ると、わたしはクラクシオン皇太子殿下の部屋の前まで送った。


「おやすみなさい」

「私が部屋まで送りたいのだが」

「迷うといけませんので」


 部屋まで送ってもらうと、お部屋が近いことに気づかれてしまいます。

 いちおう、わたしは王太子妃なので、客間に住んでいると知られるのはいけないような気がするのです。


「迷いようがないだろう」


 クラクシオン皇太子は、先に歩いて行ってしまう。

 仕方なく、わたしはクラクシオン皇太子殿下の後を追う。

 もしかして、ご存じなのかしら?

 お部屋が近いことを。

 その疑問は、クラクシオン皇太子殿下がわたしの部屋の前で足を止めた事で、分かってしまった。


「おやすみ。少しでも眠りなさい」

「ありがとうございます。おやすみなさい」


 わたしは、自分の部屋の中に入った。

 扉が閉まるまで、クラクシオン皇太子殿下はわたしの顔を見ていた。

 カチッと扉が閉まると、わたしは、その場に屈み込んだ。

 わたしが客間に住んでいることを知っていた。

 クラクシオン皇太子殿下は、どうして知っていたのだろう。

 きっとこの王宮の誰もが、何も言わないはずだ。

 でも、知られてしまったのなら、もう繕う必要はなくなった。

 わたしが誰からも愛されていない事もきっとご存じなのだろう。

 わたしは諦めて立ち上がると、ドレスを脱いでネグリジェに着替えて、ベッドに横になった。

 クラクシオン皇太子殿下は何をお考えなのだろう。

 同情かしら?

 笑いたいわけではないわよね?

 そうでないことを祈りながら、眠りに落ちていった。


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