《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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11   クラクシオン皇太子帰還

 緊張からか、早朝に目覚めて支度も調えることができた。

 クラクシオン皇太子殿下一行は、今日、帰る予定になっている。

 馬車ではなく、馬でやって来た一行は、そのまま帝国に戻るそうだ。

 わたしは早めにダイニングルームに向かった。

 護衛の騎士達は、炊き出しをしているそうだ。

 本当は、護衛の騎士達にも食事を振る舞うべきだろうが、最初に「お構いなく」と言われたので、食事を提供するのは、クラクシオン皇太子殿下と宰相様、後は、クラクシオン皇太子殿下の近衛騎士様達のみだ。近衛騎士は毒味も兼ねているのだろう。

 食事の時に、代表の一人が最初に食事に手を付けている。

 その様子を見てから、食事を始められる。

 今朝もいつも同じ並びでお迎えした。


「たいへん、勉強になりました。いいダムもできておりましたし、堤防も安全にできていました。帝国でも、参考にしたいと思います」


 クラクシオン皇太子殿下は、食事の合間に、お話しになりました。


「参考になれば、何よりです」


 国王陛下は、ホッとした顔をなさった。

 わたしも任務を完了したような気分になりました。


「お礼に帝国にお迎えしたいと思います。国に戻りましたら、正式に皇帝陛下より使いの者を出させていただきます」

「お気になさらず」


 ペリオドス王太子殿下はにこやかに辞退したが、国王陛下は「ありがとうございます」と言い換えた。

 ペリオドス王太子殿下の言葉は、裏を返すと『迷惑だ』と言っているのも同然なので、国王陛下がすばやく言い直してくださり、ホッとしました。

 今日も王妃様をはじめ、ジュリアン様も朝から気合いの入ったドレスを身につけ、美しい宝石で飾られています。

 ジュリアン様の隣に座っているわたしは、地味です。

 相変わらず、目の下に隈を作り、古いドレスを身につけております。

 本当に、どちらが第一夫人か分かりません。

 実際、夫婦としては名ばかりの夫婦なので、悔しさなどはありませんし、わたしはペリオドス王太子殿下の事を微塵も好いていませんので、心が痛むこともありませんが、ただただ恥ずかしく感じます。

 食事の後、クラクシオン皇太子殿下は帰国の準備を始めました。

 来たときと同じ乗馬服を身につけ、馬に跨がりました。

 護衛の騎士達が、配置について、隊列が組まれていきます。

 クラクシオン皇太子殿下は、わたしに手を振ってくださいました。


「また会おう、マリアナ王太子妃」

「はい」


 わたしは深くお辞儀をしました。

 馬が走り出しました。あっという間に、王宮の敷地内から、隊列が出ていきました。


「まあ、はしたないわね。お客様に媚びを売って、ドゥオーモ王国の恥ですわ」


 王妃様は、クラクシオン皇太子殿下がわたしに声をかけて、手を振ってくださった事を責めているのだ。

 これはクラクシオン皇太子殿下なりの挨拶だと思うので、わたしは「すみません」と頭を下げるだけで、他には何も口出しはしなかった。


「王妃よ。マリアナが帝国との関係を取り持ってくれたのだぞ。案内したのもマリアナだ。この国の後継者であるペリオドスは、何もせずに、第二夫人とイチャイチャと節度なく振る舞っていたのを、マリアナがクラクシオン皇太子殿下の話し相手になり、ダムと堤防の案内もしたのだ。その資料を作ったのもマリアナだ。この国の文官、宰相は何をしておる。きちんと仕事をせぬ者は、税金泥棒と同じだ。人員整理もした方がいいのか?」


 見送りに出てきていた文官や宰相が顔色を変える。

 せいぜい、叱られたらいいわ。

 わたしに仕事を全て回していることは、仕事をしているわたしが一番知っているのよ。

 わたしが早死にしたら、この国は回るのかしら?

 こんな仕事をしていたら、若いわたしだって病気になるかもしれないわ。

 王妃様のことだから、病気になっても仕事しろと命令されるでしょうね。そうしたら、わたしは若くても死が訪れるわ。

 母様のように馬車の事故で亡くなるかもしれないわ。

 鮮明に思い出せる。

 母様の赤い血が流れていくところを。

 全てが赤に染まって、わたしは意識を手放したわ。

 あの事故は、偶然だったのかしら?

 今だから思える。

 不自然な事故。

 馬車の車輪はそんなに簡単に外れたりはしないはずだ。

 早く馬車が走ることも、そんなにない事だ。

 馬車は、馬で走るより、ずっとゆっくり走る。

 それも町外れという場所であったが、人の通る街道での事故であった。

 もしかしたら、不倫をしていた父が殺した?

 父の顔すら、思い出せないけれど、父だったあの人が母様を殺したのかもしれない。

 極秘資料を読み、わたしの断片的な記憶と母様が亡くなった後に訪れた親子。

 全てを並べたら、父が怪しいと思えてならない。

 だからといって、今更証拠は一つも出てこないだろう。

 わたしを王家に売ってから、顔すら見ていない父の顔も覚えてはいない。

 擦れ違っても、分からないと思うのだ。

 母様、犯人を捜すことができなくて、ごめんなさい。

 母様のように賢くなくて、申し訳がない。

 わたしは、王家の中に捕らわれている鳥と同じなの。

 声を出して鳴くことも許されてはいない。

 羽ばたける羽も毟られたようでないみたいですの。


「ペリオドス、今日こそは執務をしなさい。いいね」

「はい、父上」


 珍しく素直に返事をしたわね。

 本当にペリオドス様は来るかしら?


「では、戻ろう」


 国王陛下の声で、お見送りは終わった。

 わたしは執務をするために王宮内に入っていこうとした。

 その後ろで、ジュリアン様がペリオドス様に、街に買い物に行きたいと強請っている。

 どうぞ、街でもどこへでも行けばいいわ。

 わたしは、さっさと仕事を片付けるために王宮内に入った。

 その日、やはりペリオドス様は来なかった。
 

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