《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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16   影からの報告



「昨夜のことです」

 マリアナを護るために警護に就けていた、俺の影が、俺の執務室の中で片膝を付けて、語り始めた。

 部屋には宰相のラルファ、医師のアロージョ、近衛騎士団長のクラースがいる。


「お風呂に最初に入ったのがマリアナだったから、第二夫人が怒ったってことかな?」

「珍しく、マリアナ様が一番風呂を譲って欲しいと言わなかったので、空いていた風呂に入っただけだとおっしゃって。第二夫人は怒って、一度目に頬を打ったのです。お風呂が汚染されたと怒った第二夫人が、旦那様であるペリオドス様に抱かれたことすらないのに、よくその口が言いますわね。私は毎日、寵愛を受けている身ですのよ。どちらが愛されているのか、順序を付けるなら、私の方が一番ですわ。愛されてもいないのに、生意気ですわ。恥を知りなさいと、頬を打ったのです」

「マリアナは綺麗な身だと立証できる言葉だな」

「そんな事より、二度も打たれたのに、反撃はしなかったのか?」


 ラルファは不思議な顔をした。


「逃げ出されました。愛されていない身だと身にしみたのだと思います」

「それにしても、影よ、よく言葉を覚えておるな」


 医師のアロージョが笑いを堪えている。

 影は忠実に言葉を真似ている。

 そうしろと俺が命じている。

 俺はアロージョを睨んで、影に先を促す。


「王太子と第二夫人の部屋とマリアナ様の部屋は隣同士でした。その日の夜、激しく、王太子と第二夫人が抱き合っておりまして、お隣のマリアナ様のお部屋に筒抜けの状態でした。第二夫人は涙ながらにマリアナ様の悪口を並べ、王太子は『俺が愛しているのは、ジュリアンだけだ。あの女は形だけの王太子妃だ。気にするな。真実の愛は、俺とジュリアンの元にある』と何度も言っておりました。マリアナ様の心情を察すれば、悲しみに暮れていたのではないかと。夜は眠れるはずもなく、窓辺で空を見ておいででした。眠れぬ夜を過ごし、早朝に騎士達と朝食を食べて、部屋に戻るときに部屋から出てきた王太子に、暴力を振るわれたのです。グーですよ。女性をグーで殴りますか?危うく任務も忘れそうになって飛び出してしまいそうになりました」

「そこは、飛び出せ。おまえが楯になれ。そのために残してきた護衛だろう」

「そんなぁ~」

「クラクシオン、影が我慢したから、王太子と第二夫人を連れてこられたのだろうが」

「だがな、ラルファ。傷ついたマリアナを見るのは辛い」

「幸い怪我はたいしたことはない」と医師のアロージョが言う。

「安静って言っておったではないか」

「クラクシオン、安静で済んでよかったではないか。斬り殺されていたら、助けようもなかった」

「それはそうだが、大切なマリアナに剣を向けてみろ、ドゥオーモ王国など、我が領地の一部にしてしまうぞ」と俺は、怒りに目をギラギラさせる。

「そんなことをしたら、マリアナが悲しむではないか?」と、ラルファは宥めに走るが、その瞳は、俺同様、怒りが滲み出ている。

「とにかくだ。王太子と第二夫人をもてなして、美味しい種を撒こうではないか」


 俺は、悪い笑みを浮かべた。


「クラクシオン様、第二夫人は魚が苦手なようでした。特に焼き魚は嫌いなようでした。サラダに入っている黒胡麻は虫に見えるそうです」

 影はいいことを思い出して、主人である俺に言う。


「そうか、では、魚三昧で準備をしようではないか」

「では、行こうぞ」と、俺は立ち上がった。

「アロージョは、マリアナを頼む」

「任せておけ」


 白衣を纏ったアロージョは、俺とは違う方向に歩き出した。


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