《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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17   歓迎会


「この度は遠路はるばる、ようこそ、おいでくださいました」

「招待、痛み入る。帝国には初めて来たので、いろいろ楽しみにしております」


 ペリオドス王太子は珍しく、まともな言葉を返した。


「帝国には、いろんな店もありますし、遊園地もありますし、温泉もありますので、楽しんでいってください」

「まあ、遊園地があるのですか?」


 今日も派手に着飾った第二夫人が、声を上げた。


「遊園地がお好きですか?ここに来る途中にあったはずですが、お気づきになりませんでしたか?」

「そうなんですか?まったく、気づきませんでした」

「お帰りの際に、寄って行かれるといいですよ。宿泊のホテルもありますので、ゆったり過ごせるかと思います」

「まあ、楽しみね。帰りに寄りますわ」


 影からの情報で、第二夫人は遊園地にはまり、毎日、遊園地に通っていたと報告をされた。

 喜びそうな餌を撒いた。

 早く帰宅したくなるだろう。

 それこそ、第一夫人を置き去りにして、行くに決まっている。

 しかし、そうはいかない。


「帝国の都には、珍しい宝石店や今流行のドレスを売っている店もありますので、ゆっくり見て行かれるといいですよ」


 俺は、第二夫人が好きそうな場所を並べてみせる。

 興味は持ってもらえたようだ。

 第二夫人は、嬉しそうな顔をして、糞王太子に「行きましょう」と声を掛けている。

 この部屋は、客人を招いたときに使う部屋だ。

 食事の準備もできている。

 目に見える場所に飾ってあるのは、珍しい果物等だ。

 飾り切りにして、見栄えよくしてあるが、食用にはしていない。

 ただ見せびらかしているだけだ。

 運ばれてくる物は、第二夫人が喜びそうな物ばかりだ。

 帝国では、あまり食べられない物ばかりで、それこそシェフも作り方を本を見て学んでいたほどだ。

 至急で集めた物は、当然、平民が食べる食べ物達だ。

 宿泊した村まで、買いに行かせて手に入れた物だ。

 さぞかし、喜んでもらえるだろう。

 器だけは、立派な物に並べさせた。

 シェフが料理を運んでくる。

 第二夫人の顔がこわばっている。

 さすがに毎日、魚料理が並べば、早く帰りたくなるはずだ。


「これは……」

「今、帝国で流行っている魚料理ですよ。健康志向で帝国の貴族が喜んで食べている物ですので、手に入れるのも大変な物です」

「……そうですか?」

「嫌よ。また虫がいるみたい」

「こら、声を落とせ」

「虫ですか?虫など入っておりませんが。シェフ確認をしなさい」

「はい、失礼致します」


 白い料理人の姿をしたシェフは、お皿の上を確認して、「虫などありません」と俺に報告した。


「何か都合が悪い物ですか?」


 俺は意地悪く聞く。


「いえ、たいそう、立派な魚が綺麗に焼かれております。野菜の煮物も確かに健康的であると思います」


 俺は大きく頷いた。


「では、召し上がれ」


 第二夫人は、蒼白な顔色になっている。


「リオス、これ、どうにかして」

「今日は残すなよ」

「そんな~」


 二人でこそこそ話をしている。

 昨日の夜の夕食を忠実に再現した物だ。

 さて、食べられるか?

 俺はサラダを食べて、煮物も食べる。具沢山の味噌汁という物を食べて、汁も飲む。

 いつもは、カトラリーが並べられる場所には、箸という物が置かれている。

 糞皇子は綺麗な所作で食事を始めた。

 けれど、第二夫人は箸さえ、綺麗に持てないようだ。

 礼儀作法さえできていない。

 確か男爵家の令嬢を招いたと聞いたな。

 この令嬢のどこが気に入って、結婚したのか、皆目分からない。

 頭も悪そうだ。

 女は目をつむり、サラダを食べている。

 視覚からの影響は強い。

 彼女には、黒胡麻が虫に見えているのなら、口に含んだ物は虫だと思えるだろう。

 咀嚼するたびに、目に涙を浮かべている。

 まだまだ先がある。

 魚は食べられるかな?

 影の話では、王太子が魚をほぐし、それを食べたが、一口、二口で、もう音を上げたと聞く。

 糞王子は、難なく食べていくが、やはり第二夫人はサラダを食べただけで、後は箸を止めている。


「ジュリアン、食べなさい」

「リオス」

「今日は食べろ。飲み込んでもいい」


 内緒話も、よく聞こえる。

 この部屋は、そういう造りになっている。

 俺の横に立つ宰相のラルファは、ずいぶん楽しそうに二人を見ている。

 無表情だが、長い付き合いの俺たちだからこそ、共有できる物がある。

 糞王子は、今日も第二夫人の魚をほぐしてやっている。

 ずいぶん、優しい事をする。

 その優しさの半分でも、マリアナに向けられていたら。

 いや、手を出されていたら大変だった。

 糞王子でよかったのだ。

 第二夫人は、目尻から涙を流しながら、魚を丸呑みして、グラスに注がれた果実酒で飲み込んでいる。

 せっかくの果実酒もそんな飲み方では、味わうどころではないだろう。

 明日からは、水でいいのではないか?

 今日の果実酒は、これも特別に取り寄せた物だ。

 アルコール度数の高い酒だ。

 あんな飲み方をしていたら、そのうち、酔っ払うだろう。

 第二夫人は野菜も嫌いなようだ。

 穀物もコメも苦手のようだ。

 いったい何を食べて過ごしていたのだろうか?

 ドゥオーモ王国の特産はコメだ。そのコメも帝国に輸出している。

 帝国の庶民が主食にしていると聞く。

 宮殿では、あまり食べない物だが、まったく食べない物でもない。

 それにドゥオーモ王国は田舎だ。

 何でも集まってくる帝国とは違う。

 我が儘放題に分不相応な物を欲しがっていたに違いない。

 マリアナにあてられた予算も全て自分の物にして、ドレスも宝石も選び放題だったのだ。

 だが、所詮、ドゥオーモ王国は田舎。

 帝国のドレスを見たら、流行遅れだと気づくだろう。

 せいぜい、悔しがればいい。

 メイドが果実酒を勧めている。

 二人とも、グラスに注がれた果実酒を飲む速度が速い。

 糞王子の目は虚ろで、第二夫人は、泣きながら料理を食べている。

 明日の料理も期待して欲しい。

 朝食から二人のための料理を出して差し上げよう。

 最後の一口を、果実酒で飲み込んだ第二夫人は酔っ払って、椅子から落ちた。

 ドスッと大きな音がしたが、糞皇子も酔っ払っているので、どうやら気づいていないようだ。

 糞王子はとうとうテーブルに突っ伏した。

 俺は、ドゥオーモ王国の近衛騎士を呼びに行かせた。

 この糞王子の近衛騎士は、たった二人だ。

 ずいぶん、弱そうな体躯をしている。


「これは、なんと!」

「どうやら、旨い酒だったらしく、飲み過ぎたようだ」

「申し訳ございません」


 日頃の行いが悪いので、近衛騎士達も糞王子と第二夫人の様子を見ても不思議がることなく、二人を担いであてがわれた部屋に連れ帰った。

 まったく行儀のなっていない夫婦だ。

 似たもの同士というのか。

 真実の愛だったな。

 だが、この王宮内で睦言をさせるつもりはない。

 この先、マリアナを苦しめた報いを払ってもらうつもりだ。


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