《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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22   両親の面影

 クラクシオン様に手を引かれて、部屋を出た。

 クラクシオン様は元来た先に戻らず、別の場所に歩いて行く。

 どこに行くのだろう。

 扉を開けると、その部屋に入っていく。

 誰かいるのだろうか?

 緊張していると、「誰もいない」とクラクシオン様が言った。


「両親の絵姿を見たいと言っていただろう?」

「ここにあるの?」

「この部屋には、いつもある。見たくなったら、いつでも見られる」

「わたしも見られるの?」

「見ても構わない」

「ありがとうございます」

「ソファーに座って」

「はい」


 その部屋はサロンかもしれない。

 ドゥオーモ王国のサロンより豪華だけれど、豪華なソファーがあり、ピアノがあり、ダンスでも踊るのか、広い場所もある。

 お洒落なシャンデリアが、綺麗に輝いている。

 わたしは末席になる場所のソファーに座った。

 クラクシオン様が部屋の奥に入っていき、分厚い物を何冊か持ってきた。

「これは、写真を保存しておくアルバムと言うんだ。写真は、絵よりも鮮明に姿を瞬時に写す物だよ。今度、二人の写真も撮ってもらおう」


 クラクシオン様はテーブルにアルバムを置くと、それを捲り始めた。


「ここには、俺も皇子達も皇女達も写っているが、幼いマリアナも写っている。マリアナの両親もね。もし、気分が悪くなったら、無理に見ないで欲しい。俺は記憶を失くしたマリアナも愛する自信がある」


 わたしは頷いて、アルバムを捲っていく。

 楽しそうな様子の写真が一杯に並んでいる。それを一枚ずつ見て行く。


「これは幼いマリアナだよ。アメリアと遊んでいるだろう」

「本当に幼いわ」

「3歳くらいかな」


 またページを捲っていく。


「これは、マリアナのご両親だよ」


 わたしは、その写真をじっと見る。


「母様は分かるわ。でも父様はやっぱり覚えていないわ。親不孝ね。兄様が怒るのも仕方ないわ」

「アルは、アルギュロスは、母を亡くし、父上がマリアナを探しに出ていた間、一人で留守番をして邸を護っていた。使用人も俺らも一緒にいるようにしたが、寂しかったと思う。だから、責めるような言葉になってしまったんだ。マリアナを救出すると伝えたときは、喜んでいた」


 わたしは、頷いた。

 きっと、どの言葉も真実なのだろう。


「他にも写真があると思うよ」

「はい」


 わたしはページを捲る。


「これは、俺とマリアナだ。とても仲がよかったんだよ」


 その写真は、とても幸せそうに笑っている。

 仲がよかったのは、きっと本当のことだろう。


「わたしがいなくなった時、悲しかったですか?」

「ああ、半身をもぎ取られたような気がした。でも、生きている予感もしていた。マリアナの父君に王宮にいるようだと聞いた後、救出方法を皆で相談した。父君が生きているうちに会わせたかったが、間に合わなかった」

「父様に申し訳ないわ。11年よ。死んでいてもおかしくはないわ。ここで生きていた時間よりドゥオーモ王国で過ごした時間の方が長いんですもの」


 わたしはゆっくりページを捲っていく。

 時々、クラクシオン様が説明してくれる。

 でも、何も思い出せない。

 最後に、わたしが5歳の頃の写真を見せてもらった。

 一緒に写っていたのは、クラクシオン様だった。

 仲良く顔を寄せて、何かを話している様子だった。


「この写真は、出掛ける前に写したんだ。お土産を買ってくるからって、マリアナが言っていた」


 11年は長すぎた。


「婚約は解消になったのでしょう?」


 クラクシオン様はその答えに、何も答えなかった。

 それが答えだ。

 クラクシオン様に甘えていたらいけない。


「婚約者候補はたくさんいるが、決まった相手はいない。保留という形になっている」

「わたしは、どうにか生きて行くわ。ちゃんとした令嬢と婚約した方がいいわ。わたしは白い結婚だけれど、ペリオドス様の第一夫人ですもの」

「帝国には、国際裁判所がある。今回の事を裁判にかけて、マリアナに婚姻関係がなかったと証明させるつもりでいる。正式に離婚できたら、正式に婚約を結び直そう」


 わたしは、アルバムを閉じた。


「婚約はともかく離婚はしたいわ。父様を殺したドゥオーモ王国の国王陛下もわたしを虐め続けた王妃様も憎い。仕事も何もせずに、真実の愛か何かしらないけれど、わたしを侮辱し続けたペリオドス王太子もジュリアン様も憎い。でも、国民は護りたいの」

「その様にできるように、父とも話し合おう」

「お願いします」

「あとは、お墓参りだったね。疲れていたら、別の日にするけど」

「連れて行ってもらえますか?母様に命を助けてもらったお礼をしたいし、父様が行方を捜してくださったお陰で、今、保護されたことのお礼をしたいの」

「では、行こうか」

「はい」


 クラクシオン様は、アルバムを片付けた。

 それから、わたしの手を握った。


「この手を二度と離したくはない」

「クラクシオン様、ありがとうございます」

「ありがとうでいいんだよ。敬語はいらない」

「はい、少しずつ慣れていきます。ドゥオーモ王国でも、誰にでも敬語で話さないと虐められていたから、これは、もう習慣なの」

「俺は、ドゥオーモ王国を帝国の一部にしたらいいと思っている。それは駄目なのか?」

「戦争をしないなら、嫌ではないわ。信じていた国王陛下の指示でわたしが捕らわれていたのなら、父様の敵。同情はできない」


 信じていたのに、とても悲しい。


「ドゥオーモ王国の王太子がいるから、滞在中に、裁判に巻き込めるように手配をしよう」

「お願いします」


 廊下を並んで歩いて行く。

 今度は、外への階段を降りていく。

 外には馬車が止まっていた。


「墓地まで、少しある。移動は馬車で行こう」

「はい」


 クラクシオン様がエスコートしてくれる。


「馬車に乗るときも、誰もエスコートはしてくれなかったの。握手も実はクラクシオン様が訪ねられたときに握手をしてくださったのが初めてです。凄くドキドキしました」

「酷い扱われようだ」

「そうね」

「よく我慢した」

「はい」


 わたしもそう思う。

 墓地は郊外にあった。馬車から降りると、いつの間にか、護衛の騎士達がいた。


「彼らは、俺の近衛騎士達だ。腕が立つ。信じていい相手だ」


 わたしは、頭を下げた。


「ほら、行こう」

「はい」


 両親の墓は並んであった。

 母様に祈りを捧げて、その後で、父様に祈りを捧げた。

 母に命を救われて、父にも命を救われた。

 ドゥオーモ王国にいたら、わたしの命はそれほど長くはなかったはずだ。

 いつまでも祈りを捧げていると、クラクシオン様が、「今日は終いだ」と、わたしを立たせた。


「また来よう。今は、まだ体調がよくないはずだ。無理はいけない」

「はい」

「少し、昼を過ぎたな。戻ろう」

「はい」

「もう少し回復したら、街に出て、ドレスを買おう。街で食事もしよう」


 わたしは頷いた。

 少し疲れていた。

 今日はいろいろありすぎて、精神がすり減ってしまったようだ。


「顔色が悪い。大丈夫か?」

「大丈夫」

「倒れるんじゃないか?」とクラクシオン様は、わたしを横抱きに抱き上げた。

「きゃっ!」

「落ちるといけないから、掴まっていてくれるか」

「はい」


 わたしは遠慮気味にクラクシオン様に掴まったが、どうやらお気に召さなかったようだ。


「違う、首に腕を回せ」

「……はい」


 顔が熱くなる。

 腕を回して掴まると、満足したように、歩き出した。

 甘えていいのだと教えてくれているようだ。

 そのまま馬車に乗り、クラクシオン様はわたしを抱きしめていた。

 わたしもクラクシオン様の胸に頬を寄せていた。

 離れがたくて、一緒にいたいと思っていた。

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