《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

文字の大きさ
25 / 71

25   ドレスの爆買いに驚き

しおりを挟む
「ふふん、ふふん、リオス、ねえ、綺麗ね。似合うかしら?」


 昼飯も食べずに、ドレス屋に何時間もいた。

 美のカリスマと呼ばれる人気デザイナーのテスタという男に、ジュリアンはオンリーワンのドレスの絵を何枚も描いてもらった。

 俺は途中で飽きて、眠りこけていたが、それが間違いだった。
 
 ジュリアンは大喜びでドレスの下書きから、何枚も選んで、制作依頼をした上に、店内のドレスを選んでいた。

 俺が目を覚ましたら、請求書が手渡された。

 どうするんだ?

 マリアナの来年度の予算とジュリアンの予算を合わせても足りない。

 父上から、帝国で何かあるといけないからと金貨を革袋一杯分持たされたが、その大半を使ってしまった。

 ドレスを購入するためにだ。

 今は夏だが、冬のドレスも当然、欲しがるだろう。

 こうなったら、冬が来ても、夏のドレスを着てもらわないと困る。

 帝国に招待された身だから、宮殿から追い出されることはないだろうが、追い出されないようにしなくては、寝る場所も食べることもできなくなってしまう。

 そうして明日は、宝石を見に行くと宰相と話している。

 明日は寝ないように、しっかりジュリアンを監視しておかなくては、一文無しになってしまう。

 ジュリアンにドレスと宝石は鬼門だ。

 どうして、そんなにキラキラ輝きたいんだか。

 確かに、ジュリアンは可愛いけれど、これほど着飾らなくても可愛い。

 宰相と宝石店の次は、流行の化粧品を紹介します……等と。

 ああっ!

 もう止めてくれ。

 これ以上の浪費は、帰りに旅館にも泊まれなくなる。

 一泊もせずに、一気に戻る事になりそうだ。

 早く帰りたい。

 外出していると、胃がキリキリと痛くなってくる。

 可愛いはずのジュリアンが、煩わしくなってくるから、いったいどうした、俺?

 なにかの魔法にでもかかってしまったのだろうか? 

 助けてくれ、マリアナ。

 どんな罵声でもいいから、ジュリアンを止めるための言葉を告げてくれ。

 このままジュリアンを放置すると、財政破綻してしまいそうだ。

 俺、一人では、調子に乗ったジュリアンを制止できそうもない。

 ここは、マリアナの冷静な言葉が必要なのだ。

 肝心なときに、近くにいないのだな。

 まったく、役立たず者だ。


「リオス、まだ金貨あるんでしょう?明日の宝石店は楽しみね」

「ジュリアン、この金貨は、帰りの宿賃とか遊園地で遊ぶために残しておきたいんだよ」

「遊園地は、帰ってからでもいいわ」

「帝国の遊園地は、もっと立派なメリーゴーランドがあると思うんだけど」

「帝国のメリーゴーランドね。それも楽しみね。宮殿に戻ったら、計算してみましょう。明日の資金は幾らくらいになるか?」

「全部使うつもりなのか?」

「だって、国王陛下が遊んでいらっしゃいと言ってくださったのでしょう?」

「そうではない。何か問題が起きたときに、使えるように持って行きなさいと言われたのだ」

「問題なんて、起きないわ」

「ジュリアンが腹痛を起こしたら、医者にもかかれないのだぞ」

「それくらいは、帝国が医師を斡旋致します」

 ああああ!

 宰相、黙っとけ!

 今は、ジュリアンを止めるために、必死なのだ。


「さすが帝国ですわね。医師の斡旋をしてくださるなんて」


 宰相はにっこりと微笑む。

 背が高く、洗練した風情の宰相の顔を見て、ジュリアンは頬を染めている。


「宰相はいい男ね、それに引き換え、今日のリオスはお金の心配ばかりよ。少しもドレスを褒めてもくれないわ」


 宰相を流し目で見ながら、ジュリアンは俺に文句を言う。

 今、ジュリアンは宰相と俺を比較したな。

 こんな事、一度もなかったのに、宰相に色目を使い、俺への裏切りではないのか?


「もう帰るぞ」

「リオス」

「腹が減った。風呂にも入りたい。暑いだろう?」

「そうね、暑いわね。仕方がないわ。今日は帰りましょう。宰相、また明日お願いね」

「ええ、明日は宝石店ですね。楽しみにしておいでください」


 宰相は美しく礼をして、ジュリアンの手を取った。

 ジュリアンは宰相にエスコートされ、馬車が止められているエリアに向かっていく。

 取り残された俺は、ジュリアンを取り戻そうと走る。

 その目の前を仔猫が通り、踏みそうになって、すっ転んだ。

 振り向いたジュリアンが、笑った。


「まったく、ドジね」


 俺を見たジュリアンの視線は、初めて見る物だった。

 軽視?

 侮蔑?

 蔑視?

 ジュリアンは俺を見下している?

 可愛げもない視線は、初めてだった。

 俺はこんな女に夢中になっていたのか?

 見目よい男に、手を握られただけで、こんなにも人が変わる物なのか?

 真実の愛はどこへ?

 俺は立ち上がると、宰相からジュリアンを奪い返すために、ジュリアンの手を取った。


「リオス、今は宰相がエスコートしてくださっているのよ。手を離してください」

「ジュリアンは俺の妻だ!」

「それは、失礼致しました」


 宰相は、ジュリアンから手を離すと、俺に一礼した。


「もう、心が狭いわ。帝国のイケメンに手を引かれて、気分がよかったのに、リオスは気が利かないわね」

「なんだと?」


 俺は握ったジュリアンの手を振り払った。


「勝手にしろ」


 先に馬車に乗り、ジュリアンを置き去りにした」


「困った殿方ですね」


 宰相はまたジュリアンの手を取ったようだ。


「リオスは子供っぽいところがありますもの。仕方がないわ」


 なにが子供っぽい所があるだ。

 それは自分の事だろう。

 魚料理すら自分一人で食べられない癖に。

 ジュリアンは、宰相にエスコートされて、馬車に乗り込んだ。

 俺の隣に座るから、俺は直ぐに立ち上がって、ジュリアンと反対側に座った。

 無性に腹が立った。

 宮殿に戻ると、すぐに食事の時間になった。

 その夜も、焼き魚がメインの料理ばかりだった。

 縋るような目で見てくるジュリアンの皿の魚を食べやすく分けてやってから、後は飲み込めと命令した。

 残す事は許されない。

 果実酒で飲み込んで食べていくと、ジュリアンは酔い潰れて椅子から落ちた。

 俺はジュリアンを部下に運んでもらい、部屋のベッドで眠りに落ちた。

 汗が張り付き、気分が悪い。

 風呂は案内されなかった。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」 婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。 「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」 リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。 二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。 四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。 そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。 両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。 「第二王子と結婚せよ」 十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。 好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。 そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。 冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。 腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。 せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。 自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。 シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。 真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。 というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。 捨てられた者同士。傷ついたもの同士。 いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。 傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。 だから。 わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

処理中です...