《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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25   ドレスの爆買いに驚き

「ふふん、ふふん、リオス、ねえ、綺麗ね。似合うかしら?」


 昼飯も食べずに、ドレス屋に何時間もいた。

 美のカリスマと呼ばれる人気デザイナーのテスタという男に、ジュリアンはオンリーワンのドレスの絵を何枚も描いてもらった。

 俺は途中で飽きて、眠りこけていたが、それが間違いだった。
 
 ジュリアンは大喜びでドレスの下書きから、何枚も選んで、制作依頼をした上に、店内のドレスを選んでいた。

 俺が目を覚ましたら、請求書が手渡された。

 どうするんだ?

 マリアナの来年度の予算とジュリアンの予算を合わせても足りない。

 父上から、帝国で何かあるといけないからと金貨を革袋一杯分持たされたが、その大半を使ってしまった。

 ドレスを購入するためにだ。

 今は夏だが、冬のドレスも当然、欲しがるだろう。

 こうなったら、冬が来ても、夏のドレスを着てもらわないと困る。

 帝国に招待された身だから、宮殿から追い出されることはないだろうが、追い出されないようにしなくては、寝る場所も食べることもできなくなってしまう。

 そうして明日は、宝石を見に行くと宰相と話している。

 明日は寝ないように、しっかりジュリアンを監視しておかなくては、一文無しになってしまう。

 ジュリアンにドレスと宝石は鬼門だ。

 どうして、そんなにキラキラ輝きたいんだか。

 確かに、ジュリアンは可愛いけれど、これほど着飾らなくても可愛い。

 宰相と宝石店の次は、流行の化粧品を紹介します……等と。

 ああっ!

 もう止めてくれ。

 これ以上の浪費は、帰りに旅館にも泊まれなくなる。

 一泊もせずに、一気に戻る事になりそうだ。

 早く帰りたい。

 外出していると、胃がキリキリと痛くなってくる。

 可愛いはずのジュリアンが、煩わしくなってくるから、いったいどうした、俺?

 なにかの魔法にでもかかってしまったのだろうか? 

 助けてくれ、マリアナ。

 どんな罵声でもいいから、ジュリアンを止めるための言葉を告げてくれ。

 このままジュリアンを放置すると、財政破綻してしまいそうだ。

 俺、一人では、調子に乗ったジュリアンを制止できそうもない。

 ここは、マリアナの冷静な言葉が必要なのだ。

 肝心なときに、近くにいないのだな。

 まったく、役立たず者だ。


「リオス、まだ金貨あるんでしょう?明日の宝石店は楽しみね」

「ジュリアン、この金貨は、帰りの宿賃とか遊園地で遊ぶために残しておきたいんだよ」

「遊園地は、帰ってからでもいいわ」

「帝国の遊園地は、もっと立派なメリーゴーランドがあると思うんだけど」

「帝国のメリーゴーランドね。それも楽しみね。宮殿に戻ったら、計算してみましょう。明日の資金は幾らくらいになるか?」

「全部使うつもりなのか?」

「だって、国王陛下が遊んでいらっしゃいと言ってくださったのでしょう?」

「そうではない。何か問題が起きたときに、使えるように持って行きなさいと言われたのだ」

「問題なんて、起きないわ」

「ジュリアンが腹痛を起こしたら、医者にもかかれないのだぞ」

「それくらいは、帝国が医師を斡旋致します」

 ああああ!

 宰相、黙っとけ!

 今は、ジュリアンを止めるために、必死なのだ。


「さすが帝国ですわね。医師の斡旋をしてくださるなんて」


 宰相はにっこりと微笑む。

 背が高く、洗練した風情の宰相の顔を見て、ジュリアンは頬を染めている。


「宰相はいい男ね、それに引き換え、今日のリオスはお金の心配ばかりよ。少しもドレスを褒めてもくれないわ」


 宰相を流し目で見ながら、ジュリアンは俺に文句を言う。

 今、ジュリアンは宰相と俺を比較したな。

 こんな事、一度もなかったのに、宰相に色目を使い、俺への裏切りではないのか?


「もう帰るぞ」

「リオス」

「腹が減った。風呂にも入りたい。暑いだろう?」

「そうね、暑いわね。仕方がないわ。今日は帰りましょう。宰相、また明日お願いね」

「ええ、明日は宝石店ですね。楽しみにしておいでください」


 宰相は美しく礼をして、ジュリアンの手を取った。

 ジュリアンは宰相にエスコートされ、馬車が止められているエリアに向かっていく。

 取り残された俺は、ジュリアンを取り戻そうと走る。

 その目の前を仔猫が通り、踏みそうになって、すっ転んだ。

 振り向いたジュリアンが、笑った。


「まったく、ドジね」


 俺を見たジュリアンの視線は、初めて見る物だった。

 軽視?

 侮蔑?

 蔑視?

 ジュリアンは俺を見下している?

 可愛げもない視線は、初めてだった。

 俺はこんな女に夢中になっていたのか?

 見目よい男に、手を握られただけで、こんなにも人が変わる物なのか?

 真実の愛はどこへ?

 俺は立ち上がると、宰相からジュリアンを奪い返すために、ジュリアンの手を取った。


「リオス、今は宰相がエスコートしてくださっているのよ。手を離してください」

「ジュリアンは俺の妻だ!」

「それは、失礼致しました」


 宰相は、ジュリアンから手を離すと、俺に一礼した。


「もう、心が狭いわ。帝国のイケメンに手を引かれて、気分がよかったのに、リオスは気が利かないわね」

「なんだと?」


 俺は握ったジュリアンの手を振り払った。


「勝手にしろ」


 先に馬車に乗り、ジュリアンを置き去りにした」


「困った殿方ですね」


 宰相はまたジュリアンの手を取ったようだ。


「リオスは子供っぽいところがありますもの。仕方がないわ」


 なにが子供っぽい所があるだ。

 それは自分の事だろう。

 魚料理すら自分一人で食べられない癖に。

 ジュリアンは、宰相にエスコートされて、馬車に乗り込んだ。

 俺の隣に座るから、俺は直ぐに立ち上がって、ジュリアンと反対側に座った。

 無性に腹が立った。

 宮殿に戻ると、すぐに食事の時間になった。

 その夜も、焼き魚がメインの料理ばかりだった。

 縋るような目で見てくるジュリアンの皿の魚を食べやすく分けてやってから、後は飲み込めと命令した。

 残す事は許されない。

 果実酒で飲み込んで食べていくと、ジュリアンは酔い潰れて椅子から落ちた。

 俺はジュリアンを部下に運んでもらい、部屋のベッドで眠りに落ちた。

 汗が張り付き、気分が悪い。

 風呂は案内されなかった。
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