《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

文字の大きさ
26 / 71

26   マリアナ、国際裁判所へ

「マリアナ、今日は離婚の手続きの為に、国際裁判所に行く予定でいるが、離婚でいいのだな?」

「はい。早く離婚したいです。わたしはドゥオーモ王国の第一夫人でいることが嫌で仕方がありません。ペリオドス様の妻という座も要りません。執務を行うためのロボットではありません。もう解放して欲しい」


 一緒に部屋でクラクシオン様と食事をした後に、最終確認をされました。

 離婚はずっと望んでいたことです。

 白い。真っ白い結婚なので、ペリオドス様に未練も情もありません。

 まだ蹴られた腹が痛みます。

 痛むたびに、怖い顔のペリオドス様を思い出して、気分が悪くなってしまいます。
 
 主治医のアロージョ医師は、内臓の腫れもあるかもしれないが、精神的な物が大きいだろうと言いました。

 精神的苦痛は五歳の頃から受けてきましたが、もう心が限界値を超えて、涙が零れてしまいます。

 両親の墓参りを済ませてから、わたしは気力を使い果たしてしまったように、ベッドに横になっています。

 清潔なお風呂に入り、美味しい食事をクラクシオン様と取っていますが、それがなければ、わたしは両親を追いかけているかもしれません。

 兄と呼ばれた兄様に顔向けもできません。

 母様は事故だったかもしれませんが、父様は間違いなく、わたしの責任で亡くしてしまったのです。

 わたしは知らぬ間に、殺人犯になったのです。

 その事をクラクシオン様に話したら、それは違うとおっしゃいました。

 父様が行った事は、親心と言うそうです。

 我が子が誘拐されれば、探し出したいと思うのは親心で、助けたいと想う心も親心だと教えてくださいました。

 わたしは何も悪くはないと、何度も言葉に出してくださいます。

 その度に、沈み掛けていく心を引き上げてもらっています。

 兄様も会いに来ないので、それ以上の心労は今の所、ありません。

 わたしを悪く言う人がいないので、その事でも救われています。

 また兄様に、責められたら、やはりわたしは謝ることしかできません。

 わたしの顔を毎日、見に来るのは、クラクシオン様と五人のメイド達、主治医のアロージョ医師だけです。

 宰相様がペリオドス様とジュリアン様のお世話をしているそうです。

 二人とも我が儘なので、きっとご苦労を掛けていると思います。

 食事後、美味しい紅茶を淹れてくださったクラクシオン様は、いったんお部屋を出て行きました。

 その代わりに、メイドが来ます。


「今日はお出かけになるそうですね」

「はい、国際裁判所に行きますの」

「そうですか、国際裁判所は、この宮殿と同じくらい大きな建物なのですよ。どちらの建物も白いですので、地方から来られる方は、間違って宮殿に来てしまう方もいらっしゃいますよ」

「まあ、門番の騎士は大変ね」

「そうですね、でも慣れておりますので、そんな時は、国際裁判所へ案内しております」

「親切だわ」

「国際裁判所は、中立的な裁判所ですから、他国からも来られるのです。いろんな苦しみを抱いて来られる方が殆どですから、皇帝陛下の指示で、親切にするようにとの事です。お嬢様の悩みも直ぐに解決しますわ」

「ありがとう」

「いいえ」


 わたしはベッドに横になっていないときは、窓辺に置かれたカウチに座っております。

 もともとカウチはなかったのですが、クラクシオン様がお部屋に置いてくださいました。

 部屋からの景色が、素晴らしくよくて、風も入ってくるので暑く感じることもありません。

 この部屋は、とても過ごしやすいお部屋です。

 カウチは大きめなので、うっかりお昼寝をしても寝られるようになっています。

 五人のメイドは、時々交代をして、わたしが眠るまで、側にいてくださいます。

 この宮殿に来て、一人になった事はありません。

 いつも孤独で、寂しかった心も落ち着いております。

 本当によくしていただいて、申し訳ないと思うのですが、心遣いに救われていることも確かなのです。

 ドゥオーモ王国では、いつも一人でいたので、話し相手がいることがこんなに嬉しいことだと、初めて知りました。

 ノックの音がして、メイドが扉を開けに行きました。


「マリアナ、そろそろ行くよ」

「はい」


 クラクシオン様の声が聞こえて、嬉しく思います。

 素早く返事を返すと、クラクシオン様はわたしを見て微笑んでくれます。

 胸が温かくなるような優しい微笑みです。

 わたしは普段着の地味なドレスを着ています。

 使い古したドレスなので、色も褪せてきていますが、クラクシオン様はもう少し、体調が落ち着いたらドレスを買いに行こうと誘ってくださいました。

 今の所、わたしが持っているドレスは、殆ど同じほど傷んでいるので、どれを着てもそれほど変わりません。

 そっとクラクシオン様の手が、わたしの手を繋ぎます。

 それを見てから、メイドは深く頭を下げます。


「行ってらっしゃいませ」

「行ってきます」


 わたしも会釈をしてから部屋を出ます。

 単なる挨拶ですが、挨拶をされたことのないわたしは、この遣り取りがとても好きになりました。

 想い想われなければ、この言葉は出てきません。

 メイドの心遣いが、とても優しいのです。

 本当に、皆さん、優しくしてくださいます。

 ゆっくり廊下を歩き、階段を降りていきます。

 初めは気づかなかったのですが、客間の方の階段は使っていないようです。

 うっかりペリオドス様達と出会わないように工夫されたお部屋に道順のようです。

 この階段は、正面玄関前に出ます。

 扉の前の騎士が、扉を開けてくださいます。


「行ってらっしゃいませ」

「行ってきます」


 わたしは騎士の言葉に返事をします。

 騎士は微笑んでくれます。

 わたしも自然に微笑み返します。

 そのわたしの顔を見て、クラクシオン様も微笑みます。

 本当に優しい空気に包まれております。

 外には、もう馬車が止まっていました。

 クラクシオン様の近衛騎士達が馬の手綱を持ち待っています。

 皆さん、クラクシオン様がおいでになると、頭を下げておいでです。

 忠誠心の確かなお方のようです。

 ペリオドス様の近衛騎士は、たった二人です。

 我が儘なお方なので、国王陛下が推薦してくださっても、気に入らなければ、勝手にクビにしてしまいます。

 上に立つ者としての覚悟も自覚もありません。

 国王陛下が心配して、護衛の騎士を多く出しておりますが、正式な近衛騎士はたった二人なのです。

 残り物には福があると申しますが、近衛騎士に関しては、去って行かれた方々の方がマトモでした。

 馬車に乗ると、馬車は静かに走り出しました。


「緊張しているの?」

「はい、とても」

「国際裁判所は、公平に判断してくれる場所だから、怖くない。むしろ、マリアナの味方になってくれる。信頼してもいい」

「はい」

「一緒にいるから、怖くないよ」

「ありがとうございます」


 肩を抱かれて、ドキドキしてきた。

 クラクシオン様はスキンシップが激しめだ。

 手を繋いで、肩を抱かれて、時々、抱き上げられる。

 慣れていないので、ドキドキと胸が騒ぐのです。

 でも、嫌なわけではありません。

 クラクシオン様の優しさなのだと思うのです。

 心地よい優しさに包まれて、白く大きな建物の前に止まった。

 本当に宮殿のように美しい白い建物です。


「さあ、到着した。行こうか?」

「……はい」

「離婚したいのだろう?」

「それは、はい」

「ならば、今日は離婚したい気持ちを伝えなさい。怖がっていたら、離婚できないよ」

「離婚します」


 わたしは自分の決意を口にしました。

 クラクシオン様は大きく頷きました。


「では、行こう」

「はい」


 意気地なしのわたしに、力をくださったのだと思う。

 今日は頑張ろう。

 必ず、離婚してみせる。

 父様の為でもあるが、何より自分の為に。

 この因縁を断ち切りたい。


感想 115

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【優秀賞受賞】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~【完結】

Tubling
恋愛
無事完結しました^^ 読んでくださった皆様に感謝です! この度、こちらの作品がアルファポリス第19回恋愛小説大賞にて「優秀賞」を受賞いたしました! ありがとうございます!!<(_ _)> ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●近世ヨーロッパ風ですが空想のお話です。史実ではありませんので近世ヨーロッパはこうだというこだわりがある方はブラウザバックをお願いします。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

【奨励賞】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。