《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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37   距離 

 今日もまた魚料理だった。

 外出をするのを止めたら、三食、宮殿で魚料理を食べなくてはならないが、俺は外出する気分になれずに、最近、宮殿に留まっている。

 ジュリアンは、癇癪を起こしているが、聞き流している。

 まだ化粧品を見に行ってないと駄々をこねるが、そこに連れていけば、また「買って」「買って」とうるさくされるのであれば、行かなければいい。


「化粧品は諦めるから、遊園地に連れて行って」

「この暑い中、人混みに出掛けるのが面倒だ」


 今は夏真っ盛りだ。

 わざわざ、暑い場所に行く必要があるのか?

 ジュリアンはメリーゴーランドの木馬に乗るのが楽しいらしいが、俺はそんな子供のような物に乗りたいとは思わない。

 ただジュリアンが乗っている姿を見ているだけなら、その時間は、俺にとって無駄な時間なのだ。

 そうして、ジュリアンを置き去りにして、涼やかな東屋に行き、庭園を見ている。

 その方が有意義なのだ。

 ジュリアンに振り回されるよりも、自分自身を見つめられる。

 今までの愚かな自分を振り返る事ができる。

 国に戻ったら、父上に話そう。

 これからは、真っ当な大人になり、王太子としての任務をきちんとする誓いをしようと思う。

 マリアナが、新しい産業を考えられるように、執務は俺がしよう。

 母上は、マリアナを虐めているが、今度は俺が母上からマリアナを守ってあげよう。

 母上は、もう仕事をしてないのだから、もう口出しはさせない。

 今日も反省と決意をして、夕食を戴く。

 相変わらず、同じ食事が並ぶ。

 ジュリアンは、もう諦めたのか、叫ぶこともなくなったが、やはり果実酒で飲み込んでいる。

 魚は俺がほぐさなくては、食べられないのが、情けない。

 もう手を貸すのも面倒だが、汚く食べられるよりは、心証はよくなるだろう。

 国の為だと思い、ジュリアンの世話を焼く。

 毎日、食後は椅子から落ちているので、最近のジュリアンの額や頬は腫れている。

 首が折れないのが不思議だ。

 無防備に毎日、落ちているのに頭が落ちることはない。

 人の体は、強いのだなと、ふと思う。

 この頃は、床に落ちたジュリアンを抱えるのは、俺の近衛騎士の一人だ。

 王太子の俺が運ぶ必要があるのか?と考えた末の命令だ。

 日中も、俺の代わりを頼んでいる。

 ジュリアンが我が儘を起こさないように、見張ってもらっている。

 真実の愛は、マリアナにあったのだ。

 マリアナに会いたい。

 宿場町の暴力を謝罪したい。

 ノックの音がして、扉を開けると、宰相が立っていた。


「今日も寝てしまわれましたか?」

「宰相、見ての通りベッドは第二夫人に占領されております」

「では、ペリオドス王太子はどこで休まれていらっしゃるのですか?」

「ソファーで眠っている」

「それは、気づかずに申し訳ございません」


 宰相は、今日も綺麗なお辞儀を披露する。


「では、別のお部屋を手配しましょうか?」

「ソファーでも別にいい」

「それはいけません。ドゥオーモ王国の王太子をソファーで休ませるなど、帝国の恥でございます。直ぐに手配致します。その間に、お風呂にでも行かれてはどうでしょう?」

「では、そうさせていただきます」


 俺は宰相を真似て、綺麗なお辞儀をしてみた。

 今までいい加減だった何もかもが、何事もきちんとしなくてはと思えてならない。

 微笑を浮かべた宰相に「では」と声を掛けて、俺は風呂に向かった。

 風呂から戻ると、部屋の前に宰相が立っていた。


「お待たせ致しました」


 俺は頭を下げた。


「では、お部屋に案内致します」


 案内された部屋は、隣の部屋だった。

 室内の様子は同じようだ。


「今日からはベッドで眠れそうです」

「ごゆっくりおやすみください」


 宰相は綺麗なお辞儀をして、部屋から去って行った。

 俺はジュリアンが眠っている部屋に戻ると、自分の荷物を隣の部屋に移した。

 それから、ベッドに横になった。

 狭いソファーで眠っていたので、体が伸びる。

 窓から、涼しい風が入ってきた。

 なかなか涼しい部屋で、最初の部屋より快適そうだ。

 俺は広いベッドでゆったりと眠った。

 朝起きると、シャワーを浴びて、散歩をするのが習慣になった。

 それから、ジュリアンの部屋に行くと、ジュリアンはまた腹までボタンを外した状態で大の字で眠っている。

「グゥー、クワァー」とイビキをかいて、今日も喧しいし、臭い。

 汗の匂いと生臭い匂い。酒の匂い。

 耐えられない。

 メイドを呼び、ジュリアンを起こし、綺麗にするように指示を出す。

 部屋の匂いが取れるまで、俺はまた散歩に出掛ける。

 東屋に座っていると、宰相が近づいてきた。


「この頃は出掛けないようですが、今日はどちらかに案内致しましょうか?帝国は店以外にも観光地もございます」

「あの我が儘な第二夫人を連れていかなければならないかと思うと、どこにも行きたくなくなるのです」


 黙っていようかと思ったが、とうとう宰相に話してしまった。


「できれば、マリアナに会いたいのですが。会って謝罪したいのです」

「マリアナ様はお会いにならないでしょう」

「聞いてもいないのに、どうして決める?」

「マリアナ様から、聞いておりますので。会うつもりはないかと思います」

「まだ、体の具合が悪いのか?」

「体調はずいぶんよくなりましたが、まだ安静が必要なようです」

「国で無理をさせたからでしょうか?殴った傷はもう治っているはずです」

「心の傷は簡単には治らないのです」

「……でも、会いたい」

「真実の愛で結ばれたジュリアン様がおいでになるのに、仮面夫婦のマリアナ様に会いたいなど、勝手な言い草ですね」

「今は、まず謝罪したい」

「マリアナ様にお伝えしておきます」


 宰相は綺麗なお辞儀をして、去って行った。

 それから、ジュリアンの部屋に戻ると、ジュリアンはシャワーを浴びて、帝国で買ったばかりのドレスを着ていた。

 美しいドレスに綺麗に化粧されて、見た目だけは可愛く見えるが、近くに寄ると、やはり匂う。臭い匂いがするのだ。

 歯磨きはしたのか?

 口は濯いだのか?

 ひょっとすると食べ物を噛まずに飲み込んでいるので、胃の腑が傷んでいるのかもしれないが、この匂いは気分が悪くなる。

 とてもじゃないが、同じ馬車に乗ろうとも思えない。


「リオス、似合う?私、かわいい?今日はどこかに行きましょう」

「いや、気分が乗らない」

「そんなぁ~」

「ジュリアンがベッドを占領するから、俺はずっとソファーで眠っていたのだ。昨夜から、隣の部屋を借りられた。夜は、俺はそちらで寝ることにしたから」

「ごめんなさい。ソファーで眠らせていたなんて」

「そのせいで、疲れているんだ」

「……」

「了解してくれるね。夜は別部屋だ。ジュリアンの寝相が悪すぎて、一緒には眠れない」

「ごめんなさい」

「いいさ、部屋は借りられた。もうソファーで眠ることもなくなった」

「……」

 ジュリアンは俯いた。

「出掛けないのなら、エッチしましょう?」

「体調が悪いと言っているだろう」

「……」

「そろそろ朝食の時間だ。準備はできているな?」

「はい」

 ジュリアンはソファーから立ち上がると、俺の腕に腕を絡めた。

 エスコートするのも嫌だが、仕方がない。

 食事が並べられる部屋に移動すると、宰相が扉から出てきた。

「今、お呼びに向かうところでした」

「手間を掛けては悪いと思い来ましたが、ちょうどお時間でしたか。よかった」

 俺は愛想よく微笑む。

「では、お部屋にどうぞ」

 宰相は扉を開けた。

 中に入ると、今日も焼き魚が並んでいる。

「では、ごゆっくり」

 宰相は、部屋を出て行った。

 この食事は、この国を去るまで続くのだろう。

「どうして、毎日、毎食、同じ食事なの?」

「黙って食べろ」

 俺は、ジュリアンの口を手で押さえると、「黙れ」と再度告げた。

 ジュリアンの瞳に涙が溜まっていく。

 手を退けて、俺は椅子に座った。

 ジュリアンのお膳を寄せて、最初に焼き魚をほぐす。

 諦めたのか、ジュリアンは椅子に座った。

「私、魚が一番嫌い」


 俺はジュリアンの顔を睨んだ。


「黙って食べろ。丸呑みでも、なんでも、出された物は全部腹の中に入れろ」

 小さな声で、命令して、俺は自分のお膳の物を食べ出した。

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