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46 兄との関係
パーティーが終わり、わたしはクラクシオン様にエスコートされながら、わたしの部屋に移動しております。
わたしのお部屋は、裁判が終わった後に、皇室の者が住まいにしているエリアに移りました。
宮殿の中でも、そのエリアは騎士が立ち、年中24時間体制で守られております。
わたしの生存が確認されてから部屋を改築されたとか、わたしの部屋は、クラクシオン様のお部屋のお隣になっております。
所謂、夫婦のお部屋が作られ、その部屋は、クラクシオン様が既にお使いになり、その隣の部屋にわたしの部屋があります。
まだ結婚をしておりませんので、夫婦の部屋へ行く扉は施錠されています。
わたしの部屋には、ベッドが入れられ、広い、クロークルームもあります。
家具もお洒落な物が入っています。
書き物をするための机、ソファーセット、ベッド、三面鏡になったドレッサー、飾り棚。
お部屋が広いので、家具もゆったり置かれています。
お部屋にお風呂があるのは、嬉しいです。
シャワーも付いています。
ドゥオーモ王国では、わたしはずっと王妃様に嫌がらせを受けておりましたが、帝国に来てからは、皆様によくして戴いております。
メイドも、最初に配置された五人が代わる代わる来てくださいます。
肌つやもよくなり、激やせしていた体は、健康体になりました。
目の下に隈が出ることはありません。
毎日、執務をしていたので、やることが極端になくなり、時間の使い方が分かりませんが、暇ではありません。
皇后様と家庭教師によるお妃教育が行われます。
わたしは帝国のことは、全く知りません。
国の成り立ちから、貴族間の派閥、産業、他国との遣り取りなど、一から教えられています。
記憶がもしあったとしても、11年という歳月は、大昔過ぎるのです。
記憶があってもなくても、勉強はすることになったと思います。
ドゥオーモ王国にいた頃のように、明け方まで仕事に追われることはありません。
朝ご飯もお昼ご飯も夕ご飯も、クラクシオン様と宮殿に残っている者達と食べます。
皇后様や皇女様達とお茶会もします。
わたしは紅茶を淹れた事がありませんので、淑女としてのマナーを、そちらで教わっております。
「最近のお茶のお味は、安定して参りましたわね。とても美味しいですわ」
「皇后様のお陰ですわ」
「他の礼儀作法やお言葉は、さすが、王太子妃をしていただけあります。堂々とした振る舞いは、これからもなさいね」
「はい」
「お勉強の方も順調に進んでおりますので、一度、ご実家に戻ってみますか?邸には、カナールとファベルの肖像画も飾られておりますよ」
「肖像画は拝見させて戴きたいのですが、わたし、兄様に嫌われておりますの」
皇后様は、小さく溜息をつきました。
兄様は、わたしの婚約パーティーも欠席しておりました。
「まだ仲直りしていないの?」
「悪いのはわたしですもの」
「寂しいわね」
シリピリー様が心配してくださいます。
優しいお言葉ですが、わたしはあまり寂しくはないのです。
兄様の存在自体、記憶になかったので、いない者だと思ってしまえば、それまでなのです。
兄様との関係は、血の繋がった他人のようです。
わたしは、これほど自分が冷淡だとは知りませんでした。
その事をクラクシオン様に知られるのが怖いのです。
薄情者ともし言われたら、わたしを動かしている主軸が崩れるような気がします。
今のわたしを動かしているのは、クラクシオン様の無償の愛のお陰です。
クラクシオン様に見限られたら、生きている意味さえ分からなくなりそうです。
「ええ」と答えて、ティーカップを両手で持って、美しいカップに視線を落とす。
裁判の最終日は、一緒に傍聴できたのに、仲良くなりかけていたわたし達ですが、今は兄様が完全にわたしを見限っています。
どうして、兄様と不仲になったのか。
ドゥオーモ王国の国王陛下が処刑された時、わたしが泣いている姿をご覧になったそうです。
『母上を殺した相手が処刑されれば、憎さが勝って、怒りで体が震えることはあっても、悲しくて涙が出るはずはない。それなのに泣いただと?母上が可哀想だ。この裏切り者め!』と兄様に罵倒されました。
国王陛下が遺骨になるまで見守った兄様は、夕方、わたしを訪ねてきて、この言葉を残して帰って行きました。
兄様の言うことは、正しい。
正しいけれど……。
あの日、わたしは確かに、国王陛下が死んでしまうことを悲しく思いました。
母様を殺した犯人だと分かっていても、父親と慕い国王陛下と過ごした時間は11年もありました。
記憶を無くしていたわたしには、国王陛下は父親代わりだったのです。
冷静になった今も、悲しくなったことは、何ら不思議な事でもないと思うのです。
母様を殺した犯人であると、分かっていても、一緒に過ごした11年は消えません。
ただ、お墓参りには行っていません。
遺骨は集団墓地に入れられたと聞きましたが、そこには、きっと永遠に行かないと思います。それは、母殺しを許した事になります。
わたしは、母殺しは許してはいません。
揺れ動く感情は、兄様に理解できないと思います。
きっと誰にも理解できないと思います。
説明を求められても、うまく答える自信もありません。
わたしと兄様は、もう仲良くなれないかもしれません。
母様や父様に、顔向けできませんね。
婚約披露パーティーが遅れた理由は、兄様とのこんな遣り取りがあり、わたしの精神が不安定になってしまったからです。
気力を失い、ベッドから起き上がる事もできなくなってしまったのです。
アロージョ医師は兄様との面会を禁止して、わたしは安静にするように言われました。
目を閉じれば、まだドゥオーモ王国の田園の風景が脳裏に浮かびます。
その事に、また涙が零れてしまって、感情のコントロールを失ってしまったのです。
わたしは捕らわれていたドゥオーモ王国から解放されましたが、心の中はきっと永遠に捕らわれ続けるのです。
故郷という名のように。
ドゥオーモ王国はドゥオーモ地区となり、第三皇子のメルーリオ様が、領地の一部として継承されたそうです。
クラクシオン様は、自分が継承すると皇帝陛下にお願いしたそうですが、クラクシオン様は、次期皇帝になるので、全てを統べる事が仕事であると言われたそうです。
クラクシオン様は、メルーリオ様にドゥオーモ地区をお願いしたと、わたしに詫びてくださいました。
詫びることなど、少しもないのに。
本当に優しいお方です。
わたしを元気づけようと、ドゥオーモ地区の話をしてくださいました。
ドゥオーモ王宮に勤めていた者は、一度、全員解雇されたようです。
王宮内のいろんな資料などを、念入りに再確認するようにと皇帝陛下から指示が出ているとも言っておられました。
もっと詳しいいろんな事が分かる日が来るかもしれません。
ペリオドス様の第二夫人は、娼館に売られたそうで、帝国からはジュリアン様を助けるつもりはないとのことです。
真実の愛と言っていたのに、ペリオドス様を裏切り、ペリオドス様の近衛騎士達と不倫していたらしいです。
なんと愚かなことをしたのでしょう。
あれほど愛されていたのに。
わたしにはジュリアン様の気持ちは理解できそうもありません。
ペリオドス様が怒るのは分かります。
裏切ったジュリアン様を見限ったとしても、その様なことをしたのはジュリアン様なので、同情の余地などございません。
夫であるペリオドス様が最後にした仕事だったと皇帝陛下がおっしゃいました。
最後の最後に、王太子らしいいい仕事をした……と皇帝陛下は、ペリオドス様の行動を褒めておいででした。
わたしは少しずつ、またベッドから起きて、皆さんと交流をしなければならないと思えるようになってきました。
わたしの気力が戻るのに、時間がかかり、婚約披露パーティーが遅れたのです。
「マリアナ、私からアルギュロスに話しましょうか?婚礼までに仲良くできるようにさせたい」
「皇后様、いいえ、いいのです。兄様のお心のままで。どうか、力で従わせようとなさらないでください」
「ですが、折角、再び出会えた兄妹ではありませんか?」
「わたしには兄様の記憶はありません。薄情者に思えるかもしれませんが、寂しくはないのです。兄様の心が、昔と変わったわたしを認められるまで、待ってください。一生、認められなくても、わたしは落胆したり致しません」
「また、寂しいことを言う」
「でも、仕方がない事です」
わたしは手に持った紅茶を飲んだ。
もうすっかり冷めてしまった。
皇后様は、わたしを見て、また小さく溜息を漏らした。
わたしのお部屋は、裁判が終わった後に、皇室の者が住まいにしているエリアに移りました。
宮殿の中でも、そのエリアは騎士が立ち、年中24時間体制で守られております。
わたしの生存が確認されてから部屋を改築されたとか、わたしの部屋は、クラクシオン様のお部屋のお隣になっております。
所謂、夫婦のお部屋が作られ、その部屋は、クラクシオン様が既にお使いになり、その隣の部屋にわたしの部屋があります。
まだ結婚をしておりませんので、夫婦の部屋へ行く扉は施錠されています。
わたしの部屋には、ベッドが入れられ、広い、クロークルームもあります。
家具もお洒落な物が入っています。
書き物をするための机、ソファーセット、ベッド、三面鏡になったドレッサー、飾り棚。
お部屋が広いので、家具もゆったり置かれています。
お部屋にお風呂があるのは、嬉しいです。
シャワーも付いています。
ドゥオーモ王国では、わたしはずっと王妃様に嫌がらせを受けておりましたが、帝国に来てからは、皆様によくして戴いております。
メイドも、最初に配置された五人が代わる代わる来てくださいます。
肌つやもよくなり、激やせしていた体は、健康体になりました。
目の下に隈が出ることはありません。
毎日、執務をしていたので、やることが極端になくなり、時間の使い方が分かりませんが、暇ではありません。
皇后様と家庭教師によるお妃教育が行われます。
わたしは帝国のことは、全く知りません。
国の成り立ちから、貴族間の派閥、産業、他国との遣り取りなど、一から教えられています。
記憶がもしあったとしても、11年という歳月は、大昔過ぎるのです。
記憶があってもなくても、勉強はすることになったと思います。
ドゥオーモ王国にいた頃のように、明け方まで仕事に追われることはありません。
朝ご飯もお昼ご飯も夕ご飯も、クラクシオン様と宮殿に残っている者達と食べます。
皇后様や皇女様達とお茶会もします。
わたしは紅茶を淹れた事がありませんので、淑女としてのマナーを、そちらで教わっております。
「最近のお茶のお味は、安定して参りましたわね。とても美味しいですわ」
「皇后様のお陰ですわ」
「他の礼儀作法やお言葉は、さすが、王太子妃をしていただけあります。堂々とした振る舞いは、これからもなさいね」
「はい」
「お勉強の方も順調に進んでおりますので、一度、ご実家に戻ってみますか?邸には、カナールとファベルの肖像画も飾られておりますよ」
「肖像画は拝見させて戴きたいのですが、わたし、兄様に嫌われておりますの」
皇后様は、小さく溜息をつきました。
兄様は、わたしの婚約パーティーも欠席しておりました。
「まだ仲直りしていないの?」
「悪いのはわたしですもの」
「寂しいわね」
シリピリー様が心配してくださいます。
優しいお言葉ですが、わたしはあまり寂しくはないのです。
兄様の存在自体、記憶になかったので、いない者だと思ってしまえば、それまでなのです。
兄様との関係は、血の繋がった他人のようです。
わたしは、これほど自分が冷淡だとは知りませんでした。
その事をクラクシオン様に知られるのが怖いのです。
薄情者ともし言われたら、わたしを動かしている主軸が崩れるような気がします。
今のわたしを動かしているのは、クラクシオン様の無償の愛のお陰です。
クラクシオン様に見限られたら、生きている意味さえ分からなくなりそうです。
「ええ」と答えて、ティーカップを両手で持って、美しいカップに視線を落とす。
裁判の最終日は、一緒に傍聴できたのに、仲良くなりかけていたわたし達ですが、今は兄様が完全にわたしを見限っています。
どうして、兄様と不仲になったのか。
ドゥオーモ王国の国王陛下が処刑された時、わたしが泣いている姿をご覧になったそうです。
『母上を殺した相手が処刑されれば、憎さが勝って、怒りで体が震えることはあっても、悲しくて涙が出るはずはない。それなのに泣いただと?母上が可哀想だ。この裏切り者め!』と兄様に罵倒されました。
国王陛下が遺骨になるまで見守った兄様は、夕方、わたしを訪ねてきて、この言葉を残して帰って行きました。
兄様の言うことは、正しい。
正しいけれど……。
あの日、わたしは確かに、国王陛下が死んでしまうことを悲しく思いました。
母様を殺した犯人だと分かっていても、父親と慕い国王陛下と過ごした時間は11年もありました。
記憶を無くしていたわたしには、国王陛下は父親代わりだったのです。
冷静になった今も、悲しくなったことは、何ら不思議な事でもないと思うのです。
母様を殺した犯人であると、分かっていても、一緒に過ごした11年は消えません。
ただ、お墓参りには行っていません。
遺骨は集団墓地に入れられたと聞きましたが、そこには、きっと永遠に行かないと思います。それは、母殺しを許した事になります。
わたしは、母殺しは許してはいません。
揺れ動く感情は、兄様に理解できないと思います。
きっと誰にも理解できないと思います。
説明を求められても、うまく答える自信もありません。
わたしと兄様は、もう仲良くなれないかもしれません。
母様や父様に、顔向けできませんね。
婚約披露パーティーが遅れた理由は、兄様とのこんな遣り取りがあり、わたしの精神が不安定になってしまったからです。
気力を失い、ベッドから起き上がる事もできなくなってしまったのです。
アロージョ医師は兄様との面会を禁止して、わたしは安静にするように言われました。
目を閉じれば、まだドゥオーモ王国の田園の風景が脳裏に浮かびます。
その事に、また涙が零れてしまって、感情のコントロールを失ってしまったのです。
わたしは捕らわれていたドゥオーモ王国から解放されましたが、心の中はきっと永遠に捕らわれ続けるのです。
故郷という名のように。
ドゥオーモ王国はドゥオーモ地区となり、第三皇子のメルーリオ様が、領地の一部として継承されたそうです。
クラクシオン様は、自分が継承すると皇帝陛下にお願いしたそうですが、クラクシオン様は、次期皇帝になるので、全てを統べる事が仕事であると言われたそうです。
クラクシオン様は、メルーリオ様にドゥオーモ地区をお願いしたと、わたしに詫びてくださいました。
詫びることなど、少しもないのに。
本当に優しいお方です。
わたしを元気づけようと、ドゥオーモ地区の話をしてくださいました。
ドゥオーモ王宮に勤めていた者は、一度、全員解雇されたようです。
王宮内のいろんな資料などを、念入りに再確認するようにと皇帝陛下から指示が出ているとも言っておられました。
もっと詳しいいろんな事が分かる日が来るかもしれません。
ペリオドス様の第二夫人は、娼館に売られたそうで、帝国からはジュリアン様を助けるつもりはないとのことです。
真実の愛と言っていたのに、ペリオドス様を裏切り、ペリオドス様の近衛騎士達と不倫していたらしいです。
なんと愚かなことをしたのでしょう。
あれほど愛されていたのに。
わたしにはジュリアン様の気持ちは理解できそうもありません。
ペリオドス様が怒るのは分かります。
裏切ったジュリアン様を見限ったとしても、その様なことをしたのはジュリアン様なので、同情の余地などございません。
夫であるペリオドス様が最後にした仕事だったと皇帝陛下がおっしゃいました。
最後の最後に、王太子らしいいい仕事をした……と皇帝陛下は、ペリオドス様の行動を褒めておいででした。
わたしは少しずつ、またベッドから起きて、皆さんと交流をしなければならないと思えるようになってきました。
わたしの気力が戻るのに、時間がかかり、婚約披露パーティーが遅れたのです。
「マリアナ、私からアルギュロスに話しましょうか?婚礼までに仲良くできるようにさせたい」
「皇后様、いいえ、いいのです。兄様のお心のままで。どうか、力で従わせようとなさらないでください」
「ですが、折角、再び出会えた兄妹ではありませんか?」
「わたしには兄様の記憶はありません。薄情者に思えるかもしれませんが、寂しくはないのです。兄様の心が、昔と変わったわたしを認められるまで、待ってください。一生、認められなくても、わたしは落胆したり致しません」
「また、寂しいことを言う」
「でも、仕方がない事です」
わたしは手に持った紅茶を飲んだ。
もうすっかり冷めてしまった。
皇后様は、わたしを見て、また小さく溜息を漏らした。
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