《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

文字の大きさ
52 / 71

52   教会

 午前中に令嬢に処罰を与えたクラクシオン様は、令嬢達が修道院に搬送されるのを見送ってから、わたしを迎えに来た。

 わたしも気になっていたので、令嬢が搬送されるところを見ていたのだ。


「そんなところで隠れて見てなくても」


 クラクシオン様は、わたしを笑ったけれど、クラクシオン様も隠れて見ていたのだから、どちらも同じだと思うのだ。


「お疲れ様でした。クラクシオン様の優しいお言葉が令嬢に届くといいわね」

「どこで聞いていたのだ?」

「宰相様にお隣のお部屋に連れて行ってもらいました」

「また、節介なことをする」

「いいえ、わたしには見る権利がありますわ。昨夜もお手伝いしましたし」

「確かに昨夜は助かった」

「いいえ、わたしは特技を披露しただけですわ」

「そうだな。これからも助けてもらう事はあるかもしれない」

「はい、いつでもお力になりたいと思います」

「だが、俺の前では辛いときは辛いと言ってくれ」

「クラクシオン様が守ってくださったので、辛くはなかったです」

「そうか」


 クラクシオン様は、わたしの手を握ると、外に出ていく。


「教会に行こうか」

「はい」


 クラクシオン様の近衛騎士達は、既に準備をしていたようで、馬車もあり、護衛の騎士が馬を引いていた。

 馬車に乗ると、二人で並んで座った。

 暫くすると、馬車はゆっくり走り出した。


「教会は決まっているのですか?」

「ああ、我が一族が代々世話になっている教会だ」

「まあ、素敵ね。古い教会なのかしら?」

「古いが、この帝国で一番立派だ」

「楽しみね」

「マリアナが洗礼を受けた教会だ。俺も洗礼を受けた。互いに縁深い教会であるな」

「わたしは覚えていないけれど、神様は覚えているわね」

「神だからな?それに、皆がマリアナの無事を祈っていた」

「わたしは幸せ者ですね」

「マリアナ」

「知らないところで、祈られていたなんて。皆様のおかげで、生きて戻って来られたと思えるようになってきました」

「そうか」

「11年も待っていてくださりありがとうございます。記憶がなくて、本当にごめんなさい。でも、これからのことは絶対に忘れません。お側にいさせてください」

「これから、一緒に時を刻んでいこう」

「はい」


 手をしっかり握られ、その手を引かれた。

 自然と体がクラクシオン様にもたれかかってしまう。

 もう片方の手が、わたしの左肩を抱き寄せて、わたしはクラクシオン様に抱きしめられた。

 とても安心できるのです。

 愛が滲み出てくるようで、心が安らかになる。

 馬車が止まると、クラクシオン様の温もりが離れていった。

 それを寂しいと思う。

 扉がノックされ、クラクシオン様は返事をなさった。

 扉が開かれて、エスコートされながら馬車を降りた。

 目の前に、立派な教会がある。

 煉瓦造りの大きな建物の扉は開いている。

 騎士が一人駆けていった。

 教会の中を見ているようだ。

 騎士が戻ってきて、「誰もおりません」と言った。

 近衛騎士の中にクラース殿が戻っていることに安心して、護衛に囲まれながら、教会の中に入っていく。

 クラクシオン様は、扉をノックすると、白い装束の牧師が出てきた。


「これは、クラクシオン皇太子殿下、今日は何かご用ですか?」

「ビュシス牧師、マリアナが無事に戻ってきました」


 わたしは、ビュシス牧師にお辞儀をしました。


「マリアナです。事故に遭い、記憶を失っておりますが、保護されました」

「そうですか?カナール様がお守りになったのでしょう。よく無事に戻って来られた」


 ビュシス牧師は、十字を切って神に祈った。

 わたしは頭を軽く下げた。


「そこで、私はマリアナと結婚したいのです。いつなら式を挙げられそうですか?」

「どんな式を?」

「まずは両親と兄弟を招いた結婚式を、少し友人も来るかもしれません」

「国を挙げてしないのですか?」

「それは改めて行うつもりだ」

「それならば、いつでも行えます」

「では、明日だ」

 え?

 明日?

 わたしも驚いたけれど、クラクシオン様の近衛騎士達も驚いている。

 いいの?明日で。

 皇帝陛下に相談もなく決めていいの?

 警備とか大丈夫なのかしら?


「いいな、マリアナ」

「いいんですか?」

「こちらは、明日でも構いませんが」


 ビュシス牧師は、笑いを堪えているようだ。


「明日だ。では、明日頼む」

「お時間は?」

「10時だ」

「はい、承りました」

「では、頼む」


 クラクシオン様は、わたしの手を繋ぐと、部屋から出た。

 教会から出る前に聖壇の前に寄り、わたしの手を繋いだまま、頭を下げ神に祈っていた。

 わたしも真似て神に祈った。

 今ある幸せが続きますように……と。

 わたしが頭を上げると、クラクシオン様は、わたしに微笑んで、今度こそ教会から出て行った。

 宮殿に戻って、皇帝陛下と皇后様に明日結婚式を挙げると告げると、「なんだと!」と皇帝陛下は声を上げた後に、腹を抱えて笑い出した。

「好きにしろ。弟妹達に伝えて、アルギュロスに伝えなさい」

「では、父上、母上、よろしくお願いします」

 兄様には、簡潔に手紙を書いて届けてもらうようだ。

 シリピリー様もアメリア様も驚きながら、わたしを囲んで、緊急お茶会が始まった。

 王妃様も参加されて、皆さん、笑い転げています。

「クラクシオンは、あれでも、我慢したのでしょう。マリアナ、急にごめんなさいね。ふふふ、でも、これからは幸せになれるわ」

「皆様、これからよろしくお願いします」

「もう、一緒に住んでいるんですもの」

「そうよ、何も変わらないわ」

 シリピリー様もアメリア様も優しく微笑んでくださいました。



感想 115

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【優秀賞受賞】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~【完結】

Tubling
恋愛
無事完結しました^^ 読んでくださった皆様に感謝です! この度、こちらの作品がアルファポリス第19回恋愛小説大賞にて「優秀賞」を受賞いたしました! ありがとうございます!!<(_ _)> ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●近世ヨーロッパ風ですが空想のお話です。史実ではありませんので近世ヨーロッパはこうだというこだわりがある方はブラウザバックをお願いします。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

【奨励賞】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。