《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

文字の大きさ
53 / 71

53   突然の結婚式

 約束の10時に間に合うように、わたしは美しいウエディングドレスを身につけ、綺麗にお化粧をして戴きました。

 そうして、クラクシオン様と手を繋いで馬車に乗って教会に行きました。

 クラクシオン様も白いお召し物を着て、お揃いです。

 わたしの髪に飾られた赤いアネモネの花を、クラクシオン様は胸のポケットに入れています。

 参列者は皇帝陛下と皇后様、皇子達とシリピリー様とアメリア様、宰相のラルファ様、医師のアロージョ様、人気デザイナーのテスタ様。

 兄様はおいでにならなかった。

 期待はしていなかったので、失望はない。

 皆様はもう着席されております。

 祭壇の前には、牧師がいる。

 拍手に包まれながら、わたしはクラクシオン様と腕を組み、ゆっくりバージンロードを歩いて行く。

 護衛の騎士は、急遽、全員に招集がかかり、近衛騎士も宮殿を守る騎士も配置されている。

 そんな厳戒態勢の状態で、教会の中だけは、穏やかな空気に包まれている。

 クラクシオン様は、ずっと笑顔だ。

 待合室で、「この日を待ちわびていた」と、緊張しているわたしに告げた。


「だから、この日を楽しもう」と、わたしの両手を掴んで、「大丈夫」と何度も言ってくれた。


 緊張しているけど、わたしは、クラクシオン様の笑顔で、わたしも笑顔でいられる。

 これからの時間、クラクシオン様と一緒に時を刻むのだ。その時間は、きっとわたしの記憶に残る。

 もう消えたりしない。

 忘れたりしない。

 この結婚式も思い出になる。

 そう思うと、楽しい結婚式の思い出が欲しくなった。

 初めて着るウエディングドレスは、とても嬉しくて、とても綺麗で、ヴェールで微かに隠されたバージンロードも、輝いて見える。

 本来はバージンロードは、父様と歩くそうです。

 でも、父様はもうこの世にいません。

 クラクシオン様に日記帳というバトンを渡されて、儚くなりました。

 父様はもうこの世にいませんので、クラクシオン様は父様の代わりもしているのです。

 皇帝陛下が代わりに歩くと言った言葉を、「断る」と一刀両断されました。

 牧師の前まで歩くと、皆さんが立ち上がり、賛美歌が歌われました。

 オルガンの音が響いて、とても幻想的です。

 ステンドガラスから差し込む日差しもいろんな色彩が混ざって美しい。


「愛には偽りがあってはなりません。

 悪を忌み嫌い、善から離れてはなりません。

 互いに兄弟愛をもって心から愛し、競い合って尊敬し合いなさい。

 熱心で怠らず、心を燃やし、主に仕え、希望をもって喜び、苦難を耐え忍び、

 弛まず祈りに励みなさい。

 聖なる人々の貧しさを自分のものと考えて力を貸し、手厚く人をもてなしなさい。

 あなたがたを迫害する者の上に祝福を願いなさい。

 祝福を願うのであって、呪いを求めてはなりません。

 喜ぶ者とともに喜び、泣く者とともに泣きなさい。

 互いに思いを一つにし、高ぶらず、身分の低い人々の仲間となりなさい。

 自分は賢い者だとうぬぼれてはなりません。

 誰に対しても悪に悪で返さず、すべての人の前で善いことを行うように心がけなさい。

 できることなら、あなた方の力の及ぶかぎり、すべての人と平和に暮らしなさい」



 牧師が聖書の一節を読み上げた。

 わたし達が歩む道しるべのようなお言葉に、わたしは皇太子妃としての自覚を持ちました。

 わたしはこの結婚式を終えたら、正式に皇太子妃となります。

 王太子妃であった時より、より自覚をするのは、神聖な結婚式をしているからでしょうか?

 ドゥオーモ王国でも、わたしは全力で王太子妃の勤めを果たしてきましたが、わたしは誰からも愛されていなかった。

 だから、仕事だけしていればいいと、仕事に逃げていた。

 逃げるしか生きる術はなかったのだけれど。

 今は違う。

 まず、愛がある。

 執務はまだ一つも任されてはいない。

 ゆったりと愛を育んで、やっとわたしに覚悟ができた。

 この帝国には、愛してくれる人がたくさんいる。

 わたし一人で走らなくても、皆が支えてくれる。

 わたしは牧師の問いかけに、全て「誓います」と答えた。

 指輪の交換は、ドゥオーモ王国ではなかった。

 なので、指輪をはめるのも初めてだ。

 クラクシオン様がわたしの指に指輪をはめてくれた。

 次にわたしがクラクシオン様の指に指輪をはめる。

 シンプルだが、瞳と同じ色の宝石があしらわれている。

 これはタンザナイトだろうか?

 本でしか見たことのない石だが、きっとそうだ。

 ヴェールが捲られ、直接、クラクシオン様のお顔がはっきり見える。

 微笑んだクラクシオン様が、体をかがめて唇に触れるだけのキスをした。


「神の名のもとに二人の結婚をしたことを宣言します」


 粛々と牧師の言葉で、式が進んで行く。

 わたし達は結婚証明書に互いの名前を書き記した。

 これで結婚したことになる。

 互いに顔を見合わせ、微笑み合う。

 帝国では、この証明書を役所に提出する決まりになっている。

 教会で結婚式を挙げた者は、牧師が責任を持って役所に提出することになっているという。

 ドゥオーモ王国でも、結婚証明書に署名した覚えがある。

 それだけで結婚式と言えるだろうか?と思った事が遭った。

 簡略的で義務的な結婚だったので、仕方がない。

 愛がなかったのだから当然だったのだろう。

 でも、今は違う。

 愛され、愛して、こうしてクラクシオン様と一緒に署名をした。

 なんて、幸せだろう。

 わたしは、生きている限りクラクシオン様を信じて、愛していこうと神に誓った。


「これにて、二人の結婚が成立しました」


 牧師の言葉の後、大きな拍手に包まれ、わたし達は皆様にお辞儀をして拍手の中、クラクシオン様と腕を組み、微笑んでバージンロードを歩いて退場する。

 教会の扉が、騎士の手で開けられ、クラクシオン様の近衛騎士達がわたし達を囲み、馬車まで誘導する。

 教会の前には、たくさんの馬車が並んでいた。

 街の人々が、何事が起きているのかと足を止めるが、騎士に促されて、静止を禁じられているようだった。

 素早く乗り込んだ馬車は、直ぐに走り出す。

 馬車の周りには、クラクシオン様の近衛騎士が付いている。

 きっと後続から、続々と皇族の者達が宮殿を目指しているだろう。


「アナ、やっと結婚をした」

「クラクシオン様」

「シオンと呼んではくれないのか?」

「シオン」

「そうだ。今日から夫婦だ。きちんとシオンと呼んでくれ。この日を俺は楽しみにしてきた」

「はい」

「畏まるなよ。俺は聖書を読まないが、今日、牧師が言っていた言葉はいい言葉だった」

「ええ」

「互いに想い合いたい」

「わたしも」


 シオンがわたしにキスをしてくる。

 何度も重なって、口の中に舌が入ってきて、驚いた。

 驚いて逃げると、シオンが悪戯っぽく笑った。


「これから、キスもたくさんしよう」

「え?」


 わたしは恥ずかしくて、シオンの胸に顔を埋めた。

 しがみついているわたしを引き剥がさずに、背中に手を回して抱きしめてくれる。


「逃げているのか?甘えているのか?どっちかな?」

「意地悪はしないでね」


 シオンはクスクス笑っている。

 でも、無理強いはしなかった。

 わたしは今日からクラクシオン様をシオンと呼ぶことにした。

 5歳の頃、呼び合っていた愛称で、名前を呼び合う。

 結婚をする前に、クラクシオン様が望んでいた事だ。

 記憶はないけれど、わたしはアナと確かに呼ばれていたようだ。

 日記を読んだり、子供の頃に書いた手紙を読んだりして、わたしは新たな記憶を刻んでいる。


「アナ、愛している」

 優しいささやき。


「わたしも愛しているわ」


 シオンの手が、わたしの背中を撫でている。

 照れくさいけれど、嬉しい気持ちが勝っていた。

感想 115

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【優秀賞受賞】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~【完結】

Tubling
恋愛
無事完結しました^^ 読んでくださった皆様に感謝です! この度、こちらの作品がアルファポリス第19回恋愛小説大賞にて「優秀賞」を受賞いたしました! ありがとうございます!!<(_ _)> ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●近世ヨーロッパ風ですが空想のお話です。史実ではありませんので近世ヨーロッパはこうだというこだわりがある方はブラウザバックをお願いします。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

【奨励賞】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。