《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

文字の大きさ
57 / 71

57   アメリアの決意

「ねえ、まだ起きてこないのね。兄様、もしかして絶倫なのかしら?」

「起きてこないわね。絶倫かもしれないわね」

 私は初夜を覗きに行ったら、お兄様の近衛騎士に行く手を阻まれて、部屋の近くにも近づけなかった。

 昨夜の深夜に一度と、今朝早くに。

 どんな行為をしているのか、覗いてみたかったのよ。

 シェック・シェイン公爵令息と婚約をしたけれど、私は行為に興味がありすぎて、自分で処女喪失しそうなの。


「マリアナは、国際裁判所で処女と認められたのよね?」

「当然でしょう、認められたから兄様と結婚を許されたんですもの」

「ねえ、シリピリーお姉様は、もう結ばれているのかしら」

「アメリア、聞いていいことと悪い事があるわ」

「それで、どっちですの?」

「未遂ですわ。完全には結ばれていませんわ。皇帝の皇女が、結婚前に処女喪失なんて、お父様に知られたら、勘当物ですわ」

「未遂って事は、互いに触れあっていらっしゃるの?」

「ええ、まあ。学生時代にね、真似事はしているわ。だから、お父様が、婚礼を早めるように、ラーメ王国の国王陛下にお話をしてくださったのよ」

「そうですのね」

「それって、ゴルド様がお相手だから、するの?」

「当然でしょう」

「お姉様は、ご自身では触れたりなさいますの?」

「しません」

「本当に?」

「時々、思い出して、触れたりすることはあるわ。だって、寂しいんですもの」

「ふーん」


 やっぱりそうよね。

 好きなお方がいるなら、どんな抱かれ方をするのか想像くらいしますわ。


「ゴルド様とはどんなことをなさるの?」

「アメリアには刺激が強すぎますから、内緒ですわ」

「私も婚約したのよ。近い未来にある事だわ」

「そうね、キスはよくするわ」

「それは知ってるわよ。学校でも人目をはばからずしていたもの。それ以上の事を知りたいのよ」

「秘密よ。恥ずかしいわ」

「愛されるのが恥ずかしいのですか?」

「話すのが、恥ずかしいのよ。アメリアと違って、私は王家に嫁ぎますのよ。夜の情事を誰かに知られることは、例え妹であっても、危険になることですもの」

「何よ、危険って、私が王家に嫁がないことは、恥なの?」

「そうとは言っていないわよ」

「言ったわよ。私が他人に話して、ラーメ王国が危険に晒される事があるかもしれないから話せないって、事なんでしょう」

「そうよ。アメリアは妹だけど、私はこの帝国を出て、ラーメ王国の王太子妃になるの。近い未来に、王妃になるのよ。そこら辺の貴族と結婚するアメリアとは、一緒にはならないわ。私はラーメ王国の未来の王妃ですもの」


 お姉様は、初めて、私を侮辱しました。


「寝ているところを襲われたら、大変ですもの」

「私は誰にも話さないわ」

「そんなことは分からないわ。未来の王妃の座を揺るがす者は、妹であっても油断はできないわ。ラーメ王国の王妃様も、きっとそう言われるわ」


 お姉様は、もう他人のようです。


「お姉様は、私が貴族の殿方と結婚することを、笑っていらっしゃいますのね?お姉様は、次期王妃になり、私は貴族の一員です」


 やっとクラースの事を諦めて、ファベル殿との婚礼を考え始めたというのに、お姉様は、王妃になられる。そして、私は公爵家であるけれど、ただの貴族に落ちる。

 とても屈辱的です。


「いいじゃない。近くにお父様もお母様もいらっしゃるわ。貴族の一員になっても、大切にしていただけますわ。そうね、最近まで騒いでいたお兄様の近衛騎士団長のクラース殿よりマシかもね。ただ、愛が芽生えるのかは、私は分からないわ。ゴルドとは、一目会った時から、惹かれ合いましたもの。この人こそ、運命の相手だと感じましたわ。アメリアは、その貴族のお方と出会って、運命の相手だと感じましたか?」


 どうして、お姉様は、こんな残酷な事を聞くのでしょう。

 運命の相手だと感じたのは、クラース殿ですわ。

 必死で、忘れようとしている相手の事を蒸し返して、とても意地悪ですわ。

 私は返す言葉が見つからず、テーブルを両手で叩いた。


「どうぞ、お幸せに」


 お姉様は、席を立ち、サロンから出て行った。


「真実の愛は」


 そこまで口にして、黙った。

 誰にも知られてはならない。

 今日は、シェック殿が迎えに来る約束になっている。

 そろそろ、準備をした方がいい時間である事は確かだ。

 私も席を立った。

 私専属のメイドが、扉を開け、私専属の騎士が、私の背後に付く。

 心に想っても、言葉に出していいことと出してはいけないことがあるのは、この皇帝の皇女として生まれてきて、生きてきた中で学んでいる。

 一瞬で惹かれ合う愛もあれば、育っていく愛もあるとお父様は言っておいでだった。

 私はお父様に宥められ、シェック殿の婚約の約束をした。

 正式には、まだ婚約はしていない。

 今は、愛を育む時なのだ。

 けれど、お姉様が口にしたあれこれが、腹立たしい。

 私も異国に嫁いだら、王妃になれるかしら?

 お姉様と同列になれますわ。

 欲望は止めどもなく増していきます。

 私は自室ではなく、お父様の執務室に向かっていました。

 ノックをすると、扉を自分で開けました。

 そこには、クラース殿がいました。


「クラース、また後ほどだ。報告助かった」

「いいえ、失礼致します」


 クラースはお父様に一礼して、戻る途中に私にも一礼して、部屋から出て行った。


「お父様、相談がありますの」

「どうした?言ってごらん」

「どうして、お姉様は他国にお嫁に行くのに、私は、この国の貴族と結婚して、位を落とさなくてはならないのですか?」


 お父様は大きな溜息を漏らした。

 きっとまだ婚約者のことが気に入らず、文句を言いに来たと思っているに決まっている。


「父も母も、アメリアを遠くに嫁に出すのが寂しいのだよ。シリピリーは、学校でラーメ王国のゴルド殿と恋に落ちて、このまま放置していたら、嫁入り前に子供ができる可能性がある。ラーメ王国の国王陛下と相談して、結婚の時期を早めた。シリピリーが他国に嫁に行くのも予想外だった。我が国の貴族と結婚させて、なんの苦労もさせず、寂しい想いもさせずに、手元において置きたかったのだ。アメリアまで他国に行きたいと言うのか?どこだ?どこの王子だ?」

「何処でもありません。知り合いの王子もおりません。ただ、シリピリーお姉様が、いずれ王妃になることを自慢気に話しておいでになりました。私は貴族落ちです。その事を笑われたのです」

「そうか、我が帝国は、娘を人質に出さなければならないほど、弱くはない。できれば、父や母の側に置きたい。お茶会も開けば、フライも喜ぶ。アメリアに子が授かれば、見てやれる。可愛いアメリアの子を抱くこともできる。父や母の想いだ。貴族落ちなど恥でもない。皇女に生まれた者ならば、歴代、貴族に嫁いでおる。まだ不安か?不満があるか?」

「ありません」

 お父様のお言葉には、愛がありました。

 私を想って縁談を考えてくださっている。

 お姉様は、親不孝をして、この帝国を出て行くのだ。

 お父様は人質と言っていた。

 人質と言えば、マリアナがその代表です。

 11年もドゥオーモ王国に捕らわれて、やっと自由になったばかりです。

 心に傷をたくさん作って、最初は言葉も話せないほど、心を病んでいた。

 誰とも言葉を話すこともなく、触れる者もいなかったと聞く。

 お姉様は、ゴルド殿と愛し合っているから、孤独ではないかもしれないけれど、ゴルド殿以外は、見知らぬ他人だ。

 苦労はするかもしれない。

 マリアナのように、国を治めていかなくてはならない。

 初めて、マリアナと出会った時のマリアナのドレスは、とてもみすぼらしかった。

 ドレスを買うお金がなかったのだとしても、第一夫人の姿ではなかった。

 ゴルド殿が、万が一、第二夫人を召し上げられたら、お姉様は、孤独になってしまう可能性が高い。

 その事は、きっとお父様もお母様も、話をしたはずだ。

 それでも、帝国を出て行くと言ったのは、お姉様なのだ。

 きっと苦労をするのであろうと思うと、怒りが収まってきた。


「お父様、忙しい時間にお邪魔をして、申し訳ありません」


 私は礼儀正しくお辞儀をすると、お父様の執務室から出て行った。

『愛を育む』と、心に言い聞かせる。

 私はシェック殿と結婚するのが、両親の望みであると、心に刻む。

 初恋はクラースであっても、その想いも持ったままで構わないと、言ってくれたシェック殿は、心は広い。

 きっと愛される。

 結婚時期は急がなくてもいいと言われたが、この際、思い切って結婚してしまった方が、初恋の想いに苦しむこともなくなるかもしれない。

 今度は自室に戻っていく。

 美しく着飾って、少しでも愛される努力をしたいと思うほどには、シェック殿に好感は持っている。

 部屋に戻ると、専属騎士は部屋の前に立ち、メイドは、他のメイドと合流する。


「シャワーを浴びるわ」

「畏まりました」


 メイド達がそれぞれ動き始めた。

 マリアナが結婚式を挙げた翌日、私は正式に婚約をしようと決意した。


感想 115

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

愛を知った私は、もう二度と跪きません

阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。 家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。 「呪われた男にでも喰われてこい」 そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。 彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。 その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。 「エカテリーナ様、どうかお助けを!」 かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【優秀賞受賞】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~【完結】

Tubling
恋愛
無事完結しました^^ 読んでくださった皆様に感謝です! この度、こちらの作品がアルファポリス第19回恋愛小説大賞にて「優秀賞」を受賞いたしました! ありがとうございます!!<(_ _)> ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●近世ヨーロッパ風ですが空想のお話です。史実ではありませんので近世ヨーロッパはこうだというこだわりがある方はブラウザバックをお願いします。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

【奨励賞】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。