精霊王の花嫁(完結)

綾月百花   

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1   春の豊作祭り

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 ブレザン侯爵家の領地であるタン村は、毎年、春になるとその年の豊作を願って、花祭りが行われる。

 馬車に使われる馬は、美しい毛並みの白馬だ。

 花冠を着けた白馬は、花馬車を引く。

 広場に運ばれた花姫は、村人の前で豊作の舞を披露する。

 花に飾られた馬車には、ブレッサ侯爵令嬢が乗ることになっている。

 ブレッサ侯爵家には双子の令嬢がいる。

 一人は白銀の髪に黄金の瞳の光属性であるアルテアお姉様。

 もう一人は、漆黒の髪に、漆黒の瞳の闇属性であるわたし、ミルメルよ。

 二人の顔立ちはとても似ているけれど、見た目に白と黒に分かれている。

 タン村に住む者達に人気があるのは、見た目に純白。光属性であり、既に魔術師として覚醒しているアルテアお姉様で、わたしは、見た目が暗い事と闇属性である事で不吉だと噂されている。しかも魔術師に完全に覚醒できていない、未熟者なのだ。

 ヘルティアーマ王国には、闇属性の者はいないために、教える者がまずいない。

 闇属性についての本は、不吉な物ばかりで、魔術を教える本すらない。

 わたしは偶然発動できた闇魔法を自力で覚えたが、魔術師と呼べるほどの魔法は知らない。

 ヘルティアーマ王国では、貴族の殆どが魔法を使える。

 魔法が使えて、やっと一人前の貴族と名乗れるのに、わたしの魔法はとても未熟で、人様の前で披露できるものではない。


 アルテアお姉様の魔法の師匠は、王族関係者だ。

 王族は光属性の者を多く排出している。

 貴族の赤子は、生後まもなく、属性検査を受け、国に報告する義務がある。

 アルテアお姉様が光属性だと知った王家は、素早く婚約の手配をして、誕生から二日後には、許嫁が決まっていた。

 光属性もそれほど多くはない。

 だが、癒やしの力を持つ光属性は、偉大で、国の平和のためにその属性と血族を大切にしている。

 アルテアお姉様の許嫁は、マクシモム・ヘルティアーマ王子だ。

 彼も光属性で、生まれてくる子も光属性であると推測されている。

 アルテアお姉様とマクシモム・ヘルティアーマ王子とは、4つ歳が離れている。

 生後一週間以内に、王家からアルテアお姉様に乳母と家庭教師が派遣されてきて、10歳の頃には魔術師として覚醒している。

 わたしとアルテアお姉様は、乳母が違うのだ。

 方や、侯爵家から派遣されてきた奥方様で、わたしは我が家で勤めていた平民の使用人でした。

 私の乳母は初産で、育児ノイローゼになり、わたしが10ヶ月頃に我が子を殺してしまい、それ以来、わたしは使用人によって重湯で育てられたという。

 アルテアお姉様は、乳母の子と共に、健やかに5歳まで育てられた。

 生まれた時から、わたしとアルテアお姉様は、扱いが全く違う。

 健康的なアルテアお姉様。

 痩せ細ったわたし。

 一緒に遊ぶこともあまりなかった。

 闇属性は、光属性に悪影響を起こすと言われて、わたしは家族からも阻害されていた。

 アルテアお姉様とマクシモム王太子は、仲がよろしくて、よく二人で光魔法の練習をなさっている。

 そんな時、わたしは一人で身を隠すようにいるのだ。

 普段は王都に住んでいるが、祭りのために領地に戻ってきている。

 田舎に来ても、わたしは家族のお荷物のようだ。

 皆が影で、わたしのことをみそっかすと呼ぶ理由も分かる。

 双子の姉は完璧で、妹は魔法の覚醒どころか、暴走を起こしかねない危険物質なのだ。

 闇属性が暴走を起こすと、辺りを闇に飲み込むだけではなく、人々の心にも闇を落とし、心の病を引き起こすと言われている。

 積極的にわたしに魔法を学ばせないのは、こんな理由もあるからだ。

 わたしの乳母が我が子を殺してしまったのは、わたしの責任になっているそうだ。

 ヘルティアーマ王国では、闇属性は危険とされている。

 その存在は、国に管理されている。

 危険物質として。

 なので、わたしに許嫁はいない。

 成人を迎えたら、修道院に入り、死ぬまでそこで慎ましく過ごすようにと国王陛下からの指示が出ている。

 わたしには、時間がない。

 お父様は、毎年、双子に同じように舞の練習をさせるが、六歳から、花馬車に乗っているのは、アルテアお姉様だ。

 毎年、今年こそはと期待しているわたしは、今年も選ばれずに、そっと席を外した。


「どうして、わたしは黒いのかしら」


 長い黒髪を握って、悲しみを堪える。

 そっと涙を拭って、それ以上泣かないように、何度も深呼吸をする。


「お父様も、毎年、お姉様を選ぶのなら、わたしは舞の練習をする必要などないのに。毎年、上手く舞えた者を選ぶなんて言って、わたしに期待を持たせる。きっと最初からお姉様を選ぶはずだったはずよ」


 アルテアお姉様は、六歳から花馬車に乗って、広場で豊作の舞を披露している。

 特別に飾られたドレスを身につけて舞う姿は、毎年、とても美しく、見惚れていた。

 アルテアお姉様が舞を始めて、今年で10年目になる。

 今年の衣装は、10年記念たからと、特別に新調された物だった。

 今日は16歳の誕生日。

 わたしは、そのドレスを身につけたかった。

 だから、アルテアお姉様より、たくさん舞の練習をしていた。

 アルテアお姉様は、毎年舞っているから、それほど練習をしているわけでもなく、練習の時間に一度舞うか、舞の練習にも来ない日もあった。

 それなのに、アルテアお姉様より多く練習をしても選んでもらえなかった。

 よくよく考えてみる。

 ドレスの採寸の時に、体の寸法を測ったのは、わたしではなくアルテアお姉様だった。

 その時点で勝者は決まっていたのだ。

 なんて愚かだろうと、わたしは肩を落とす。

 そんな簡単なことにも気づかなかったのだから。

 アルテアお姉様は最初から、誰が舞を披露するか知っていたのだ。

 一生懸命に舞の練習をするわたしを見て、影で笑っていたかもしれない。

 そんな姿を晒していたと思うと恥ずかしいし情けない。

 わたしはとても孤独だった。

 わたしの家族は、両親と兄のアルバ、そうして、双子の姫だ。わたしは末っ子だ。

 ブレザン一族は、わたし以外に黒髪の子はいない。

 父のレヨンは白銀の髪をして、瞳の色は澄んだ青色だった。

 母のルスは淡いブラウンの髪に、瞳の色は薄いブラウンだ。

 アルバは母似の髪に、父似の瞳の色をしている。

 親戚も、皆、美しい髪色に瞳の色をしている。

 どうして、漆黒の髪に漆黒の瞳の子が生まれたのか、皆目分からない。

 邸の中は、使用人が忙しく動いていて、わたしには、居場所がない。


「ミルメル様、邪魔です」

「お外に出て、遊んでいてください」

「もう、本当に、幾つになっても手の掛かる」


 使用人達は徐に溜息をつきます。

 仕方なく外に出てきたが、外でも皆が忙しそうで、居場所がない。


「ミルメル」


 アルテアお姉様が声をかけてきた。


「どうかなさいましたか?」

「別に何でもないわ」

「そう」


 アルテアお姉様は、美しいドレスを身につけている。

 アルテアお姉様をエスコートしているのは、マクシモム王太子だ。

 今年は、ヘルティアーマ王国の王子であるマクシモム王太子が見学に来ている。

 わたしは王子に、お辞儀をした。

 王子はお辞儀を返した。

 王子はわたしに話しかけたりしない。

 だから、仲良くはない。

 わたしにとってどうでもいい相手であっても、相手は王族なので、侯爵家の令嬢として恥ずかしくない振る舞いだけはしなくてはならない。

 わたしとアルテアお姉様は、仲のよい姉妹ではない。

 普段から会話もない。

 幼い頃は時々、遊んだ事もあったが、アルテアお姉様は幼い頃から聡明で、歳を追うごとに、わたしを見る目が変わっていった。

 鈍いわたしでも、アルテアお姉様がわたしを異物を見るような目で見ていることに気づいている。

 それ以来、あまり近くにいたくなくなった。

 姉妹なのに、会話もない。

 最後に一緒に遊んだのも、いつだったのかも忘れた。

 王族の許嫁であり、できのいいアルテアお姉様は、ブレザン侯爵家の自慢の娘だ。その反面、わたしは国の危険物質なのだ。侯爵家の恥と言われている。

 両親がどちらを愛しているかは、考えるまでもない。

 今夜は誕生祝いが行われる。

 ヘルティアーマ王国では16歳で成人となる。

 成人となったわたしは、今夜、修道院に入るように言われるような気がする。

 わたしは、アルテアお姉様から視線を逸らした。

 アルテアお姉様が馬車に乗ると、お祭りの始まりだ。

 うららかな春の日にお祭りが始まった。

 広場には屋台も出ているだろう。

 邸から、大勢、使用人が広場に手伝いに行っている。

 ブレザン侯爵家からは、炊き出しや猪の丸焼きが振る舞われる事になっている。

 他にも珍しい果物や野菜の市場もできているはずだ。

 毎年、やることは決まっている。

 タン村の中を花馬車は、ゆっくり進んでいる。

 マクシモム王太子は、馬車の後を馬に乗ってゆっくり進んでいる。

 子供達や村人が、その馬車を追いかけている。

 それほどゆっくり馬車は進んで行く。

 わたしは、やはりアルテアお姉様が羨ましくて、皆が出発してから、そっと祭りの輪から離れていった。

 アルテアお姉様が身につけているドレスは、花で飾られた美しい物だった。

 それに、アルテアお姉様の舞は、もう見るまでもなく、素晴らしいことは知っている。

 わたしは森のような緑のドレスを身につけている。もう何年か前に作ってもらった古い物だ。黒い髪をドレスと同色のストールで隠した。

 それから、一人で森の中に入っていった。
 
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