精霊王の花嫁(完結)

綾月百花   

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11   魔力の交換

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 魔力の交換練習を始めて三ヶ月になる。

 やっと魔力の吸い方を覚えて、返すことができるようになってきた。

 ただ、その方法はキスによってだけだ。

 まだ手を握ってはできない。

 この三ヶ月、どれくらいのキスを交わしたか分からない。

「ミルメル、吸って返せ」

「はい」

 アクセレラシオン様の肩に手を置き、わたしを見つめるアクセレラシオン様の視線を遮断するように、目を閉じると、そっと唇を合わせて、勇気を出して舌をアクセレラシオン様の口の中に入れて、舌を絡める。

 アクセレラシオン様はわたしを抱きしめている。

 この行為をすることは、とても恥ずかしくて、でも、受け身でいたら、アクセレラシオン様は相手をしてくれない。

 練習をするためには、わたしからアクセレラシオン様にキスをしなくては始まらない。

 舌を絡めながら、アクセレラシオン様の温かな魔力を絡め取る。

 アクセレラシオン様の魔力をわたしの中に溜めて、それから、わたしの魔力と混ざった魔力をアクセレラシオン様にお返しするのだ。

 理屈では、とても簡単だけれど、実際にやってみると魔力を吸うのは難しい。

 今の所、アクセレラシオン様の魔力をいっぱいに吸ってからしか、自分の魔力を出せない。

 目標はわたしの魔力をアクセレラシオン様に先に送れるようにすることだ。

 それにしても、アクセレラシオン様の魔力は、とても甘いのだ。

 キスに酔いしれているのか、魔力に酔いしれているのか、今の所、わたしには分からない。

 アクセレラシオン様の魔力を体内に入れると、力が湧いて、体が熱くなる。

 きっとそれほど、アクセレラシオン様の魔力は強いのだ。

 妖精達がわたし達の側にたくさんいる。

 魔力の交換の練習を見ているのだ。

 妖精達は、ただ黙って、どこかに座ったり、浮かんだりして、わたし達を見ている。

 茶化されたりしたら、恥ずかしくて、きっとできなくなる。

 妖精達が黙っていてくれて助かる。

 キスの合間の呼吸も覚えた。

 10回魔力の交換を終えたら、休憩だ。

 もう少しのところで、アクセレラシオン様の魔力が遠くなる。

 たぶん、アクセレラシオン様は吸いやすいように、魔力を手前に出してくれているのだ。

 この距離に慣れてくると、アクセレラシオン様の魔力がだんだん遠くなっていく。

 そうなると、魔力を吸うのがとても難しくなる。

 あと少しで届きそうなのに、あと少しが届かない。

 魔力がある場所は分かるようになったけれど、吸うのが難しい。

 苦戦していると、少しだけ近くなる。

 きっと、たぶん、キスでの練習にしたのは、微調整がしやすいのだと思う。

 でも、かなり恥ずかしい。

 魔力を自在に動かしたり、出したり、引っ込めたりすることができなければ、魔力が使えないらしい。

 わたしは、基礎の基礎で躓いているのだ。

 なんとか10回目の魔力を返すと、息切れと目眩で、アクセレラシオン様に抱きついて、息を整える。

「ずいぶん上手になったが、まだ届かないみたいだな」

「はい、ごめんなさい」

「謝らなくてもいいけど、魔力酔いはしてないか?」

「魔力酔い?」

「気分は悪くない?」

「アクセレラシオン様とのキスは甘くて、とても気持ちがいいの。それも魔力酔いかしら?」

「それは違うだろう?」

 アクセレラシオン様は優しく背中を撫でてくれる。

 そうすると、呼吸も楽になってくる。

 普通の呼吸に戻ると、アクセレラシオン様は次の課題を始める。

「ミルメルの魔力を俺にいっぱい入れてくれるね」

「はい」

 これは最終目標だ。

 今まで成功したことはない。

 けれど、アクセレラシオン様の魔力が溜まっている今なら、できる可能性はあるのだ。

 わたしは、もう一度、アクセレラシオン様の肩に掴まって、アクセレラシオン様の熱い視線を遮るように、目を閉じて唇を合わす。

 そっと舌を唇の合間に入れて、舌を絡める。

 アクセレラシオン様の舌が、絡み合う。

 ただ、わたしの魔力をアクセレラシオン様に移すだけなのに、それができない。

 これができなければ、魔力を放つことはできない。

 アクセレラシオン様は、わたしに攻撃魔法も教えるつもりでいる。

 その為に必要なことだ。

 自分の魔法の気を溜めると舌に絡めて、アクセレラシオン様に渡そうとするけれど、するりと落ちてしまう。

 アクセレラシオン様がわたしを引き寄せる。

 落ちてしまうわたしの魔力を拾おうとしてくれているのだけれど、拾えない。

「もっと押し出してみろ」

 わたしは頷いて、魔力を押し出す。

 わたしの魔力の粘度が弱いのか、上手くいかない。

「ぶつけてみろ」

 口の中で魔力をぶつけたら危ないと思うけれど……。

 ぐっと、また体を引き寄せられて、わたしはもう一度、魔力の気を溜めて、今度はぶつけるようにアクセレラシオ
ン様の舌めがけて気を放った。

「よし、来たぞ。今の調子だ」

「痛くないの?」

「ミルメルの魔力は、まだ弱い。投げつけられても甘みが増す程度だ」

 顔が熱くなる。

 甘い。

 わたしの魔力が甘い。

 キスが甘い?

 でも、成功した。

「やったぞ、もう一度、やってみろ。今の具合を忘れるな」

「はい」

 もう一度、唇を合わせると、アクセレラシオン様が口の中に舌を入れてきた。

 舌を絡ませ、わたしをリードしていく。

 その合間に、わたしは魔力の気を溜める。

 ぐっとアクセレラシオン様の肩を掴んだ。その瞬間、確かに魔力が発動した感覚がした。

 アクセレラシオン様がわたしの肩を押して、ソファーに倒れた。

 真上から、アクセレラシオン様がわたしを見ている。

「魔術の練習を始められるぞ」

「ありがとうございます」

「名残惜しいな。一日中、キスをしていられなくなる」

 顔が熱くなる。

 本当に、一日中、キスをしていたのだから、今更、恥ずかしくなる。

「今ならできるかもしれない。俺の魔力を奪ってみろ」

 アクセレラシオン様はわたしに貪るようなキスをしてきた。

 ソファーに横たえられてするキスは、初めてで、とても緊張する。

 魔力を奪う。

 闇を吸うイメージで、アクセレラシオン様の魔力を吸い込む。

 体の中に、アクセレラシオン様の魔力が溜まっていくと体が熱くなる。

 熱にうなされたように、ぼんやりしてくる。

「こら、吸い過ぎだ」

 唇を離した、アクセレラシオン様は、真上から魔力酔いを起こしている、わたしを見て笑いながら、頬を撫でている。

「いい生徒だ」

「アクセレラシオン様、好きです」

「このまま抱いてしまいたい」

「いいわよ」

「馬鹿を言うな、婚礼を早めよう」

 わたしはふにゃりと笑った。

 なんだか幸せだった。

「魔力を抜くぞ」

 わたしは頷いた。

 唇が合わさり、舌が絡み合う。

 すっと熱が引いていく。

 わたしは目を閉じた。

 気持ちいい疲れが押し寄せてくる。

 優しい腕に抱かれて、眠りに落ちていく。

 この授業は好きだったわ。

 いつも寝落ちだったけれど……。


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