愛夫弁当に惚れました ~秘密の同居人~

綾月百花   

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10   料理

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 翌朝、大地君と朝食を食べて、大地君を見送った。
 大地君はわたしにお弁当を作っておいてくれた。
 わたしは前日にシャワーを浴びられなかったので、お風呂でシャワーを浴びて、洗濯をした。スーツも手洗いで、綺麗に洗って縁側に干した。
 スマホで料理を検索すると、いろんなサイトが出てくる。
 冷蔵庫の中を見て材料を確認するけれど、今日の夕食のメニューは思い浮かばない。
 何か1品作ってみたかった。
 お弁当に、大地君はお肉を使うことが多い。
 お昼まで待てずに、お弁当箱を開けてみる。
 今日は唐揚げだ。ポテトサラダに卵焼きアスパラガスの素揚げ。2段目は小判型のおにぎりが二つに、オレンジが半分を櫛形に切ってある。

「敵わないな」

 夕食のご飯は予約されている。
 それならケーキを作ってみようかな?
 棚や襖を開けてみたが、作れる材料も器具もない。
 あまり動きすぎていたら、出血が増えたような気がした。
 安静のための休みだから、トイレに行ってから、布団に横になる。
 布団の中でアプリをダウンロードして、食べ物を見ていく。

「今度、買い物に行ったときに、雑貨売り場に寄ってもらおう」

 美味しいケーキやプリンが作れたら、いいな。
 お料理も覚えたい。
 見ていて、作って見たい物をお気に入りに入れていく。
 そうだカロリー計算していたんだっけ?
 何カロリーか聞いてみよう。
 わたしはうつらうつらと眠ってしまった。
 目を覚ましたら、お昼を回っていた。
 台所に行って、お弁当を食べる。

「美味しい」

 スマホを見ると、何度も着信があったようだ。大地君が心配して連絡してくれたのだろう。

『今まで寝てました。今、お弁当食べてます。とても美味しいです。ありがとう』
『良かった。心配していたんだ。今日は横になっていろよ』
『うん』
『今日は定時で帰るから』
『気をつけてね』
『おう』

 わたしは初めてスタンプを押した。
 頑張ってと書かれた猫のスタンプだ。
 わたしのスタンプは母の手作りの物も入っているが、購入した物もある。
 大地君と会話したら、会いたくなった。
 職場では、決して近づけない相手だけれど、家では一緒にいられる。
 残りのお弁当を、ゆっくり食べる。お昼ご飯後のお薬を飲んで、台所でお弁当箱とマグカップを洗う。
 カゴに伏せて、大地君に言われたように、布団に横になった。
 お腹の痛みは生理痛くらいになっている。
 わたしはスマホにアプリをたくさん入れていった。
 食事の料理になるものや、おやつになるもの、ビールのおつまみになるものを見ている。
 この家にはオーブンはない。トースターがあるから、トースターで作れる物はないかな?
 少量のクッキーくらいなら作れそうだけど、シンプルなものしか焼けそうもない。
 蒸しケーキなら作れそう。なんだかパンみたいだけれど・・・・・・。
 今度はオーブンを検索する。安い物から高額な物まで様々だ。

「置く場所がないよね?」

 わたしはスマホを開いたまま、また寝落ちた。

「ただいま」

 襖が開いたが、わたしは気付かなかった。

「寝ているのか?」

 お味噌汁のいい香りがして目を覚ました。

「大地君」

 わたしは起き出して、台所に向かった。

「おかえり」
「ただいま」
「よく寝ていたね」
「寝落ちちゃった」
「お風呂は入った?」
「まだ」
「先に入っておいで」
「うん」

 わたしは部屋に戻って、着替えを持って、お風呂に入った。しばらくはシャワーしか浴びられないけれど、それでも初日のように体を拭くだけより体を洗いたい。髪も綺麗に洗いタオルでしっかり水気を拭う。顔に化粧水を塗って、お手入れをすると、いったん部屋に戻って、髪のお手入れをする。オイルを塗り、ドライヤーで乾かす。

「やっぱり長すぎるかな?」

 髪のお手入れを済ませると、洗濯物を取り込む。
 お風呂場にタオルを置いて、居間に大地君の洋服と下着を置く。

「そういえば、大地君、スーツの洗濯どうしているの?」
「あー、洗ってない」
「一度も?」
「一度も洗ってない。消臭剤で済ませているかな?」
「それなら、洗おうか?」
「家で洗えるの?」
「スーツ見てみないとなんとも言えないけど、わたしは家で洗っているよ。後で見せて」
「ああ、うん。頼む」

 アイロンが置いてある居間に、スーツを持ってきて、わたしはスーツに当て布をしてアイロンをかけていく。
 纏めて洗ったので、6着ほどアイロンをかけると、アイロンを冷ましながら、ハンカチもまとめてアイロンをかけていく。大地君のハンカチも綺麗にアイロンをかけた。
 スチームアイロンの水を抜くと、水分を蒸発させるように蒸気を出す。
 まだ熱いので、部屋の隅に置くと、自分のスーツを運んでハンガーに掛けた。




「花菜ちゃん、体、平気?」
「ずいぶん楽になってきた。最近、疲れ気味だったから、疲れも取れてきた」
「良かった。またお腹を抱えていたらと思うと、心配で」
「ありがとう。もう生理痛くらいの痛みになってきた」
「生理痛がわかんないけど、良かったよ」

 大地君は本当に心配していたようで、ホッとしている。
 優しい人だ。

「お料理のレシピを見ていたの。わたしにも作れるものがあるかな?と思って」
「料理は俺の当番だぜ」
「うん、でも、ご飯も作れない女子って、ダメダメでしょう?わたしに教えてくれる?」
「覚えたいのか?」
「うん」
「それなら教えてもいい。ただし、俺が料理当番だからな?ここにいられなくなる」
「そうだね。お手伝いだけでもいいから、教えて」

 そうか、大地君は料理を作る事で、ここの家賃を払っている。
 その役目は奪ってはいけない。
 テーブルに並べられたのは、お肉の焼いた物だった。レタスに添えられている。トマトとキュウリとわかめの酢の物が別の椀に添えられていた。

「ご飯はわたしがつけるね」

 お茶碗に、ご飯をよそう。わたしは少なめで、大地君は大盛りだ。
 保温を消して、テーブルに並べる。
 大地君が箸を並べてくれる。
 向かい合っていただきますを言って食べ始める。

「美味しい」

 大地君が微笑む。

「花菜ちゃんはご飯の量が少なすぎる。ダイエットしているの?」
「違うよ。昔から、これくれいがちょうどいいの」
「俺の一口分だよ」

 わたしは「そうかも」と笑った。
 大地君がゲホゲホと珍しくむせている。
 急いでマグカップを出すと、お茶を入れる。

「大地君、大丈夫?」

 急いで背中をさする。

「・・・・・・大丈夫だって」

 思いがけず大きな声だったので、慌ててさするのを止めて、自分の席に戻った。

「ごめんなさい。触れられるのは嫌だったよね。これから気をつけます」
「そうじゃなくって、俺もゴメン。大きな声出して」

 失敗した。
 4年も他の男と同棲していて堕胎した女なんて、気持ちが悪いかもしれない。
 これから、気をつけよう。
 食事が終わった後、わたしは、スーツの洗濯の話をした。

「洗ってくれるなら頼んでいい?」
「うん。スーツを見せてくれる?洗濯表示を見たいの」
「むさ苦しい物だけど」

 そう言って、大地君は部屋にわたしを入れてくれた。
 初めて入る大地君の部屋は、几帳面に整理整頓されていて、スーツはハンガーに掛かっていた。3着を着回しているようだ。
 表示を見ると、ポリエステルだった。
 3着1万円かな?

「明日までに乾くよ。洗おうか?」
「ほんとに?」
「うん」
「ポケットの中身だけ、抜いてくれる?」
「分かった」
「いつも匂うかな?って気になっていたんだ」
「柔軟剤、違うのを買って来ようか?」
「いつものでいいよ」
「いいならいいけど・・・・・・」

 女性の影を気にかける取り巻きが増えそうな気がする。
 預かったスーツを一応、手洗いして脱水にかけたら、もうほとんど乾いている感じだった。
 ハンガーにかけて、乾かす。スーツを洗っている間に、他の洗濯物もできあがって、それも干してしまう。寝る前に、ズボンにアイロンをかけよう。くたびれたスーツから、生まれ変わるだろう。



「花菜ちゃん、このスーツ、本当に俺の?」
「洗ってアイロンかけただけだよ」
「新品みたいだ」
「裾が破れかけていたから、そろそろ寿命かも?」
「マジで?」
「スーツ選び、手伝おうか?」
「あんまりお金使いたくないんだ」
「でも、スーツって、ビジネスマンの戦闘服でしょう?」
「3着1万円はさすがにみっともないか?」

 やはり3着1万円だったんだ。

「高級品じゃなくても、品のある物に替えるだけで変わると思う。1着買ってみない?」
「1着でいいのか?」
「うん」
「それなら今度の休みに付き合ってくれる?」
「うん」
「あ、仕事に遅れる」
「はい」

 わたしはハンガーから外して、スーツを手渡した。

「ありがとう」

 大地君は急いで部屋に入っていった。
 すぐに着替えて出てきた。

「定期、スマホ、社員証、ハンカチ」
「ある」

 ニッと大地君が笑った。

「いってらっしゃい」
「行ってきます」

 手を振って、わたしは大地君を見送った。
 大地君も振り返りながら、手を振ってくれる。
 いいな、こういうの・・・・・・。
 今まで体験したことがなかったシチュエーションだ。
 なんだか玄関を閉めるのが、惜しい気がする。
 空が青い。いい天気だ。
 家の中に戻ると、わたしは台所の片付けを始めた。
 今日もお弁当箱がある。
 またカロリーを聞くのを忘れた。
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