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薬を飲み始めて、生理が来ると言われた日に、初めて生理が来た。
看護師が教えてくれた生理用品を準備していたが、本当に血が出るとは思わなかった。
『生理が来たら、診察に来るように』と言われていたので、響介が病院まで連れて行ってくれた。
まだ排卵はないだろうが、そのうち排卵も起きるだろうと言われた。
新しい薬を出された。
まだ実感はない。
「奈都が女の子になった」と響介は大喜びだ。
亜稀は奈都の生理用品を珍しそうに見ている。
「亜稀のエッチ。見ないで」
「奈都、制服女の子のにしなよ。トイレ困るだろう?」
男子の制服を着て、女子トイレには入れない。
「でも、今更、女子の制服着たら、みんなに何か言われそう」
「実は女の子ですって言えばいいだろう。なんか文句言ってくる奴がいたら、俺が殴ってやる」
亜稀は拳を作る。
「亜稀、手加減知らないから、怪我させるよ」
奈都の言葉を聞いて、亜稀は拳を緩めた。
「暴力はもうしない。文句言ってやる。言葉でも俺は負けない」
「亜稀、ありがとう」
奈都が入院している間に、家は改築されていた。
キッチンは最新のシステムキッチンが入り、畳だった床はフローリングにされていた。
テーブルも椅子のあるダイニングテーブルだ。
家中から段差が消えていた。普段使っている部屋はすべて洋室だ。
襖から扉に変わり、寝具もベッドに変わった。
外見は日本家屋なのに、家の中は洋風だ。
壁紙も新しい。ベースは白い壁紙なのに、家中に白い上品な花が舞っている。
奈都の心と体を労った造りだ。
家具は最小限だ。ダイニングテーブル以外ない。
部屋の中が殺風景に見える。
家具は一緒に選ぼうと二人に言われた。
響介が熱々の赤飯をダイニングテーブルに載せた。
食事は豪華だ。響介がホテルからケータリングしたものだ。出張してきた料理人が鯛をさばいている。
「奈都、おいで。プレゼントだよ」
紙でできた白い衣装ケースだ。箱の右端にピンクのリボンがつけられている。
「開けてごらん」
「うん」
箱を開けると、白色に、淡いピンクの繊細な刺繍がされている。取り出すと、ワンピースだった。長さは膝丈くらいだろうか。刺繍は襟元だけでなくスカートの途中から裾にもされていて、スカートが違う長さで二重に重なっている。
「かわいい」
白なのに、淡いピンクが透けて見えている。
「長袖のワンピースは持ってないだろう。もうすぐ寒くなるからカーディガンも揃えておいたよ」
箱の中には淡いピンクのカーディガンも入っている。
落ち着いた色の、チェックのスカートとカットソーにセーターも入っていた。
「着替えておいで」
「恥ずかしいよ」
「僕らが見たいんだ」
「そうだよ、奈都、着替えて来いよ」
亜稀が奈都の手をそっと掴んで立たせてくれる。
奈都が退院してから、亜稀は奈都に触れるときは力加減を、気をつけてくれる。
「うん」
奈都が立ち上がると、響介がワンピースを持って手を引いてくれる。
「着替えてくる」
自室に入って、だぼっとしたトレーナーからワンピースに着替える。
女の子の服は、砂糖菓子みたいだ。ふわりと柔らかくて軽い。
胸元で小さなボタンをはめると、その可愛らしさが嬉しくて、ゆっくり体を一周回した。
本当はターンをしてみたかったが、まだできない。
ゆっくり回っても、スカートの裾は広がった。
「本当にかわいい」
刺繍も繊細で、柔らかい。
嬉しい。
「奈都、着替えられる?」
響介の声がした。
「着替えたよ」
奈都は部屋の扉を開いた。開いた扉の前に響介が立っていた。
「似合うよ」
「ありがとう」
響介の手が奈都の手を握る。
柔らかな生地も綺麗な色も幸せをくれる。
ダイニングに出て行くと、亜稀が嬉しそうに拍手してくれる。
「秋の服、もっと買ってあげないといけないね」
「奈都はどんな服も着こなせるよ。スタイルいいし、可愛い」
亜稀が奈都を褒める。
「寒くない?」
「うん」
目を見て、奈都が恥ずかしそうに微笑み返してくる。
入院中は怖いと思えるほど厳しかった響介は、奈都が退院してからは、以前よりも優しくなった。いつも奈都の体を労ることは忘れない。
あのとき厳しくしなければ、奈都は回復しなかった。
目を覚ました奈都は、主治医に『死にたいから治療はしないで』と呂律の回らない声で訴えていた。病室の外でその言葉を聞いたとき、響介は胸が苦しくなった。
自分の足で歩くことも、食事を自分で食べることも諦め、この家でまた三人で暮らすことも望んでなかった奈都は、いつも響介や亜稀から離れていくことを考えていた。
何を話しかけても無表情で、言葉を返さない奈都は、あからさまに響介を拒絶していた。
だから敢えて悪役になろうと思った。そうすることでしか愛する人を救えないと思った。
治療を拒む奈都を叱り、泣かせることもあった。生きる気持ちを取り戻させるためには、厳しく接するしかなかった。名前はずっと呼んでもらえなかった。どうしても呼ばなければならないときは『お兄さん』と響介のことを呼んだ。その言葉も滅多になかった。
疲れ果てて奈都が眠った後、響介は奈都の手を握りながら、奈都に謝り続けていた。
本当はもっと優しくしたい。抱きしめたいし、キスもしたい。痛がる奈都を慰めたい。
その一切の感情を抑え込んで、奈都には常に厳しく接した。
回復したとき、奈都は響介を恋人として受け入れてくれないかもしれないと覚悟をした。
だから、今、奈都の笑顔を見ると、涙が出そうになるほど嬉しい。どんな我が儘も聞いてやりたい。
「お写真撮りましょうか?」
料理人が声をかけてくる。
「お願いします」
響介はデジカメとスマホをわたした。
「俺のも」
亜稀もスマホをわたす。
「奈都は?」
「あとで送ってくれればいいよ」
奈都ははにかむ。
何枚か写真を撮ってもらって、おいしい料理を食べる。
食事を終えて、奈都はワンピースを脱いで、いつものトレーナーとショートパンツに着替える。
まだ少し足を引きずる奈都の手から、亜稀がワンピースを受け取り仏間に飾る。
仏間にはワンピースが二着になった。
可愛い二着のワンピースを見て、奈都が嬉しそうに微笑む。
生きていてくれてありがとうと心の中で思いながら、眩しく愛らしい奈都の微笑みを見て、亜稀も嬉しくて微笑む。
「親父たちも悦んでるよ」
「そうかな?」
「奈都を連れていかなかっただろう?」
「うん」
奈都は仏間に入ろうとする。
その部屋だけ以前のままだ。だから少し段差があって、奈都の体が不安定に揺れる。
「俺に掴まれよ」
亜稀の手が奈都の手を掴む。
「亜稀、ありがとう」
「もっと頼って。それしかできない」
「責任感じなくていいから。最初に怪我したのは、ずっと昔だよ。亜稀は小さかったから知らなくても仕方ないよ」
亜稀は首を左右に振る。
「女の子に手を上げたり暴力を振るったりする男になりたくない」
奈都は微笑んだ。
「僕は男であり女でもあるんだけどね」
そんな二人を見守りながら、響介はそっと背後から近づいて奈都の体を抱き上げた。
「響ちゃん、びっくりした」
「亜稀、奈都を連れていくよ。眠る前に手と足のリハビリをしたいから」
「奈都を治してやって」
「もちろんそのつもりだ」
響介は奈都を抱きながら、お風呂場に連れて行く。
シャワーは一人で浴びられるようになったが、お風呂にはまだ一人で入れない。
響介に手伝ってもらいながら、お風呂に入る。お風呂の中で指先のマッサージをされる。
体にも触れられるが、嫌ではない。
足のマッサージの途中で抱かれることもあるが、奈都は自分の気持ちを素直に打ち明けていた。
「響ちゃんが好き」
純粋に愛している。
「僕も奈都を好きだ」
響介も奈都を愛している。
お風呂のマッサージの後、響介の部屋に連れて行かれる。
寝室はずっと響介の部屋だ。
奈都の入院中に、響介の部屋は、もう一枚襖を外して、3部屋を使って大きな部屋に変えた。
響介の仕事部屋も大きな机が置かれ、椅子も置かれている。
部屋の真ん中には大きなベッドが置かれて、反対側には奈都のスペースになっている。
家具はまだ入っていないが、奈都の部屋はふたつになった。クローゼットも二つだ。
響介は奈都の全身をマッサージして、一緒に眠る。
抱き合う日もあるし、そのまま一緒に眠る日もある。
退院してから、また奈都の膣の中に響介の精液が入れられるようになった。
直接の時もあれば、シリンジの日もある。
奈都の体調を見ながら、響介が決めている。
「響ちゃん、本当に響ちゃんの赤ちゃんできちゃいそう」
「作るつもりだから、構わないだろう」
響介は奈都を抱きしめ、奈都は響介に頬を寄せて目を閉じる。
寝顔は穏やかだ。夢を見ているのか、奈都の顔には微笑みが浮かんでいる。
響介は、その寝顔を見ながら、「帰ってきてくれて、ありがとう」と唇を寄せる。
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