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桜の奇跡 ~赤い糸の絆~
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しおりを挟む『主任っ、オレ、主任に人目惚れしたんです』
原も彼に人目惚れしていた。彼がいれば何倍も頑張れたし、毎日が楽しくて心から幸せになれた。
彼と暮らせたら、今より幸せになれる気がした。
彼と暮らしたくて、新しくマンションも買った。
それなのに、彼は自分とは違う相手の手を掴んだ。
ナースは天職だと思っていた原に、ナースの限界を感じさせた出来事が起きた。処置の仕方も使う薬もわかっているのに、医療行為はドクターの指示がなければできないのだ。
大切な彼を腕に抱きながら、一番手渡したくない相手に委ねなければならなかった。
その時、はじめてナースという職業を選んでしまったことを悔やんだ。
医者になっていたら、彼には出会えなかったかもしれない。
けれど、あの時の悔しさを味わうことはなかったかもしれない。
どっちが正しくてどっちが間違っていたのか、分からないことだけど、二度と同じ悔しさを味わいたくなくて、ナースをやめて、医師の道に戻ってきてしまった。
そうして、再び幼馴染と並んで歩く道を選んでしまった。
煙草をふかしながら、加納は記録を続ける原を見つめる。
「どうせ医局で寝るつもりだろう。とにかくさ、俺は定時であがるから、迎えに行く」
「僕を過労死させる気ですか」
視線は合わない。言葉に言葉が返ってくるだけだ。
「病院で暮らしている奴がよく言うよ。自分がワーカーホリックって気づいてるか?」
「救命救急医は経験ですから、少しでも多い症例と経験が必要なんです」
「やだね、そういう仕事漬け」
原を否定したくない。したくないけれど、加納の手を離れ、救命救急センターに籍を移してからは、原の働き方は自分を傷つけるような無茶な働き方をしている。特に最近の働き方は、自棄を起こしたように、院内に住み込んで家にも帰らず、ずっとセンターに入り浸っている。いつ寝ているのかと噂に上がるほどだ。
「僕はそれでいいと思っていますから」
「今日も仮眠したら現場に出るつもりなんだろう?」
「さあ?人手が足りなきゃ呼ばれます」
「とにかくだ、今日は俺に付き合え」
「指導医様の命令ですか?」
「そうだ命令だ。今日は俺と飲みに行く」
命令なんてしたくないのに、原は強引に誘わなければ、センターの医局から帰ろうとはしない。
「一杯だけですからね」
「わかったよ」
二人は内視鏡室から出て、原は救命救急センターに戻り、加納は7階病棟へと上がっていった。
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