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30 王宮で
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「カスカータ侯爵、今日のお茶会で其方の令嬢が、礼儀知らずに、イグレッシア王子の婚約者に失礼極まりないことを口にして、追い詰めた」
「我が娘が、とんでもないことをして、申し訳ないことを致しました」
「其方の謝罪だけではすまされない」
謁見の間には、国王陛下と王妃殿下が揃って並んでいる。
王妃殿下の表情は、怒りを通り越して、鬼のような形相をしている。話している陛下も、今まで見たこともない程の怒りを込めている。
「イグレッシアの婚約者は、王妃が幼い頃から大切に思い目を掛けていた乙女だ。早くに母親を亡くし、王妃も心を痛めていた。やっと息子の婚約者にすることができたと言うのに、其方の娘が、我が子のように大切な息子の婚約者を精神的に痛めつけたのだ」
「申し訳ございません」
「どんな教育をしておるのだ?其方の娘は貴族学校を出たはずであるな?」
「はい、勿論、正式に入学して、正しく卒業致しました」
「其方は、事情があって、貴族学校に入学ができなかった令嬢を侮辱するような娘に育てたのか?」
「いいえ、どこの家庭にも事情がありますので、その様なことはございません」
「だが、其方の娘は、其方の娘と同じ年齢で既に起業をして、自活している令嬢を侮辱して、貴族学校に入れなかったことを責めたと言う」
「私の教育の仕方が悪かったと思います」
「その上、其方の娘は、イグレッシアの婚約者が稼ぐ金を王家が当てにしていると言ったのであるぞ。王家は貧乏だと言ったも同然。これは、王家を侮辱し国家を揺るがす噂を広めた事を意味する。極刑に値する」
「娘がとんでもないことを……申し訳ございません」
俺は跪き、頭を床に擦りつける。
「其方の令嬢は、侯爵令嬢であるぞ?恥ずかしくはないか?」
「恥ずかしく思います」
「婚約者はおるのか?」
「今の所、おりません」
「どこの邸でも断られるであろう」
陛下は言いたいことだけ言うと、「もう下がれ」と命令した。
「ああ、そうだ、其方の娘が侮辱した令嬢は、今、王都で流行の『マリア』という化粧品店とエステサロンを経営しておる女主人だ。其方の娘は、散々侮辱したマリアの商品を使ってはいないだろうね?」
「さあ、化粧品など、私は興味がありませんので」
「本来なら、其方には管理不行き届きで爵位剥奪。娘には不敬罪に侮辱罪では軽すぎる故、極刑を申しつける所だが、王妃からの罰で、マリアの製品を使うことを禁止する。だが、次はないぞ!」
「陛下、王妃殿下、減刑くださりありがとうございます。この身は王家の為に捧げます」
跪いている俺は、頭を床に擦りつけた。
冷や汗が背中を伝う。
爵位剥奪!
とんでもない。
代々続く侯爵家を俺の代で潰すわけにはいかない。
メアリーのやつ、いい加減しろ!
我が娘だが、このままでは、侯爵家の存続が危ない。
謁見の間から、王妃が出て行き、その後を国王陛下が出て行った。
「お帰りは、こちらでございます」
国王陛下の近衛騎士の一人が、カスカータ侯爵を出口に連れて行き、さっさと出て行けという目で見ている。
+
邸に戻り、娘の部屋に向かう。
扉をノックすると、娘に付けた侍女が扉を開けた。
娘は我が儘で、あの侍女が気に入らない。この侍女も気に入らないと、何人も侍女を雇い、多いときは五人もいたが、今は四人の侍女が付いている。
「旦那様がおいでになりました」
「お父様、もうお帰りになったの?」
娘は、ドレッサーの前に座り、侍女に爪を磨いてもらっていた。
なんと気楽な有様だろうか?
お茶会で王妃殿下を激怒させて、国王陛下まで怒らせたと言うのに。
爵位剥奪とまで言われたのだ。
「メアリー、今日はお茶会で何をしてきた?」
「お茶を飲んで、世間話をしただけよ」
「そこで、王妃様に何か申したのか?」
「ええ、少し、思うことがありまして。あのお茶会は無礼講と王妃様が昔、おっしゃっておりましたもの。何か申しても、怒られたことはないわ」
「無礼講というのは、建前であるぞ?きちんと侯爵令嬢としての自覚を持って話をしたのか?」
「間違っていると思っていることを、申し上げただけよ」
一本ずつ指の爪を磨かれて、徐々に指先に艶が増していく。
「メアリーは、マリアという化粧品店を利用しておるのか?」
「まあ、私は、美容のセンスがありますから、王都で流行っているお店の品は、大概、試しているわ」
「王妃様のお告げで、マリアの製品を使うことを禁止されたぞ」
「何ですって!」
メアリーは、綺麗になった指先で、俺にしがみついてきた。
まったく子供のようだ。
その体を押しのけた。
メアリーは床に転がった。
「痛いわ。お父様」
「黙れ!考えなしのおまえのせいで、爵位剥奪されるところであった」
「爵位剥奪?そんな事、あり得ないわ」
「嘘ではない、今回は許されたが、次はないぞ」
床に転がっていたメリーは、床に座った。
呆然としている。
「爵位剥奪なんて、嘘よ。あり得ないわ。大袈裟だわ」とメアリーは呟いている。
「マリアの製品を全て集めよ」
侍女達に申しつけると、彼女たちは、「はい」と返事をして、四人があちらこちらに散って、マリアの製品を集めてくる。
けっこうたくさん集まった。
「いや、お父様、それをどうするおつもりですか?」
「国王陛下からの命令だ。全て、父が預かろう」
「そんな……」
「他の物を使いなさい」
「どうして、そんな意地悪なことをされるのでしょう?」
「意地悪ではない、慈悲を戴いたのだ」
メアリーは泣き出したが、この泣き方は嘘泣きだ。
幼い頃は、純真で天使かと思えたが、この頃のメアリーは狡猾で、泣き真似で、人の心を動かそうとする。
早めに嫁に出さねば、本当に貰い手がいなくなりそうだ。
婚約者は今の所いないが、メアリーが、遠い親戚のライアンを慕っているのは知っている。
ライアンは殿下に信頼されている。
チャンスさえあれば、近衛騎士にもなれるだろう。
打診してみるか?
「泣き真似は止めなさい。本来なら、極刑を申しつけられたのだぞ」
「そんなことあり得ないわ」
「今回は、父が頭を下げるだけで済んだが、もっと物事を考えてから、言葉にしなさい」
「……」
「メアリー、返事は?」
「分かりました」
メアリーは不服そうに言葉に出した。
「その化粧品やいろんな物は、倉庫に片付けておきなさい」
「畏まりました」
メアリーの四人の侍女は、たくさんの商品を持って部屋を出て行った。
「酷いわ」
持ち出された化粧品を見ながら、メアリーは大きなため息を漏らした。
その翌日、メアリーの肌が乾燥し、痒みが出てきたようで、掻くので、肌が赤く、血が滲むほどになってきた。
「メアリー、その肌はどうした?」
「痒いのよ」
「そうね、メアリーは乾燥肌で、湿疹と痒みが出やすかったわね」と妻が言った。
「最近、治ったと思ったら、何か新しい化粧品でも始めたの?」
妻がメアリーに聞いている。
「違うわ。マリアの化粧品をお父様が持っていってしまったから。だから、また痒くなってしまったのよ」
「あなた、化粧品を奪うなんて、返してあげてはいけないの?」
「陛下からの命令だ。この先、メアリーは、マリアの化粧品を使ってはならないと、ね」
「陛下も酷いわね」
仕方なく、俺は王宮でのあれこれを妻に話した。
「お医者様に診てもらいましょう。ここまで皮膚が荒れてしまったら、普通の化粧品では治らないでしょう」
「そうね」
まったく、面倒ごとばかりだ。
食事を終えて、医師がメアリーの肌を診察して、器に入った軟膏とクリームを処方した。
「これは、最近、肌荒れ用に販売された医薬品のクリームです。化粧品のマリアから出された新商品なのです。痒みを伴う敏感肌によく効く薬です」
「ここでも、マリアなのか?」
「マリアは一般化粧品から美白化粧品まで、幅広く商品を作っていますが、研究所がありまして、医薬品の研究もなされています。ここの製品を使っていれば、お嬢様の肌にも潤いが戻るでしょう。ですが、今は湿疹を伴った状態ですので、軟膏とクリームを処方します」
「別の物はありませんか?」
「お父様!」
「あなた!」
メアリーと妻が悲鳴を上げた。
「お嬢様の肌には、今、この薬が一番合うと思われます」
メアリーは看護師が出した薬を、必死に掴んだ。
仕方なく、薬を受け取り、精算をする。
結構な金額だ。
「まだ塗るな」
「どうして、お父様!」
「国王陛下の許可が出てからだ」
仕方なく、メアリーを連れて、王宮に向かった。
陛下は忙しいと言い、謁見の間で、待たされる。
朝出掛けて、陛下と王妃様が現れたのは、夕方になった頃だった。
メアリーは顔が痒いと、掻きむしるので、血が出て酷い顔になっている。
「何の用であるか?」
「陛下、王妃殿下、突然、申し訳ございません。マリアの化粧品を使う許可を戴きたいのです。娘は乾燥肌で、湿疹と痒みが出やすい体質で、マリアの化粧品を止めた途端、こんな有様です」
メアリーに顔を上げさせる。
「これは、醜い」
「血だらけですわね」
陛下と王妃は、すっと目を逸らした。
「医者に診せましたが、処方された薬もマリアの製品でした。どうか、お願いいたします」
「マリアーノ・クリュシタ伯爵令嬢に謝罪させてください」
メアリーは、頭を下げた。
「マリアーノ嬢は、心を病んで、療養に出掛けた」
「心を病んで?私の責任ですか?」
「それ以外、考えられるのか?」
陛下に尋ねられ、メアリーは項垂れる。
「次にマリアーノを侮辱することがあれば、不敬罪に侮辱罪では生ぬるい極刑とする」
「き、極刑……肝に銘じます」
メアリーは慌てて、頭を下げる。
「では、処方された薬を使いなさい。化粧品も使って宜しい」
「陛下、寛大なお心で対応してくださり、誠にありがとうございます」
「陛下、王妃様、お許しくださりありがとうございます」
俺とメアリーは、跪き頭を下げた。
忠誠の印だ。
「あら、許したわけではないわ。メアリー嬢、マリアーノが帰宅したら、マリアーノに謝罪しなさい」
「はい、お許しいただけるまで、謝罪いたします」
メアリーは、再び、頭を下げる。
「では、帰るがいい」
陛下と王妃様は謁見の間から出て行った。
まったく、化粧品ごときで、頭を何度下げたか。
メアリーは流した涙が、肌にしみて、更に痒みが出て、掻き毟っている。
醜くなった娘を隠すように、馬車を止めてある場所まで連れて行く。
途中で、ライアンに会わないように気を遣いながら、さっさと出て行く。
このように醜くなった娘の顔を、これから婚約を申し込む相手には見せられない。
「我が娘が、とんでもないことをして、申し訳ないことを致しました」
「其方の謝罪だけではすまされない」
謁見の間には、国王陛下と王妃殿下が揃って並んでいる。
王妃殿下の表情は、怒りを通り越して、鬼のような形相をしている。話している陛下も、今まで見たこともない程の怒りを込めている。
「イグレッシアの婚約者は、王妃が幼い頃から大切に思い目を掛けていた乙女だ。早くに母親を亡くし、王妃も心を痛めていた。やっと息子の婚約者にすることができたと言うのに、其方の娘が、我が子のように大切な息子の婚約者を精神的に痛めつけたのだ」
「申し訳ございません」
「どんな教育をしておるのだ?其方の娘は貴族学校を出たはずであるな?」
「はい、勿論、正式に入学して、正しく卒業致しました」
「其方は、事情があって、貴族学校に入学ができなかった令嬢を侮辱するような娘に育てたのか?」
「いいえ、どこの家庭にも事情がありますので、その様なことはございません」
「だが、其方の娘は、其方の娘と同じ年齢で既に起業をして、自活している令嬢を侮辱して、貴族学校に入れなかったことを責めたと言う」
「私の教育の仕方が悪かったと思います」
「その上、其方の娘は、イグレッシアの婚約者が稼ぐ金を王家が当てにしていると言ったのであるぞ。王家は貧乏だと言ったも同然。これは、王家を侮辱し国家を揺るがす噂を広めた事を意味する。極刑に値する」
「娘がとんでもないことを……申し訳ございません」
俺は跪き、頭を床に擦りつける。
「其方の令嬢は、侯爵令嬢であるぞ?恥ずかしくはないか?」
「恥ずかしく思います」
「婚約者はおるのか?」
「今の所、おりません」
「どこの邸でも断られるであろう」
陛下は言いたいことだけ言うと、「もう下がれ」と命令した。
「ああ、そうだ、其方の娘が侮辱した令嬢は、今、王都で流行の『マリア』という化粧品店とエステサロンを経営しておる女主人だ。其方の娘は、散々侮辱したマリアの商品を使ってはいないだろうね?」
「さあ、化粧品など、私は興味がありませんので」
「本来なら、其方には管理不行き届きで爵位剥奪。娘には不敬罪に侮辱罪では軽すぎる故、極刑を申しつける所だが、王妃からの罰で、マリアの製品を使うことを禁止する。だが、次はないぞ!」
「陛下、王妃殿下、減刑くださりありがとうございます。この身は王家の為に捧げます」
跪いている俺は、頭を床に擦りつけた。
冷や汗が背中を伝う。
爵位剥奪!
とんでもない。
代々続く侯爵家を俺の代で潰すわけにはいかない。
メアリーのやつ、いい加減しろ!
我が娘だが、このままでは、侯爵家の存続が危ない。
謁見の間から、王妃が出て行き、その後を国王陛下が出て行った。
「お帰りは、こちらでございます」
国王陛下の近衛騎士の一人が、カスカータ侯爵を出口に連れて行き、さっさと出て行けという目で見ている。
+
邸に戻り、娘の部屋に向かう。
扉をノックすると、娘に付けた侍女が扉を開けた。
娘は我が儘で、あの侍女が気に入らない。この侍女も気に入らないと、何人も侍女を雇い、多いときは五人もいたが、今は四人の侍女が付いている。
「旦那様がおいでになりました」
「お父様、もうお帰りになったの?」
娘は、ドレッサーの前に座り、侍女に爪を磨いてもらっていた。
なんと気楽な有様だろうか?
お茶会で王妃殿下を激怒させて、国王陛下まで怒らせたと言うのに。
爵位剥奪とまで言われたのだ。
「メアリー、今日はお茶会で何をしてきた?」
「お茶を飲んで、世間話をしただけよ」
「そこで、王妃様に何か申したのか?」
「ええ、少し、思うことがありまして。あのお茶会は無礼講と王妃様が昔、おっしゃっておりましたもの。何か申しても、怒られたことはないわ」
「無礼講というのは、建前であるぞ?きちんと侯爵令嬢としての自覚を持って話をしたのか?」
「間違っていると思っていることを、申し上げただけよ」
一本ずつ指の爪を磨かれて、徐々に指先に艶が増していく。
「メアリーは、マリアという化粧品店を利用しておるのか?」
「まあ、私は、美容のセンスがありますから、王都で流行っているお店の品は、大概、試しているわ」
「王妃様のお告げで、マリアの製品を使うことを禁止されたぞ」
「何ですって!」
メアリーは、綺麗になった指先で、俺にしがみついてきた。
まったく子供のようだ。
その体を押しのけた。
メアリーは床に転がった。
「痛いわ。お父様」
「黙れ!考えなしのおまえのせいで、爵位剥奪されるところであった」
「爵位剥奪?そんな事、あり得ないわ」
「嘘ではない、今回は許されたが、次はないぞ」
床に転がっていたメリーは、床に座った。
呆然としている。
「爵位剥奪なんて、嘘よ。あり得ないわ。大袈裟だわ」とメアリーは呟いている。
「マリアの製品を全て集めよ」
侍女達に申しつけると、彼女たちは、「はい」と返事をして、四人があちらこちらに散って、マリアの製品を集めてくる。
けっこうたくさん集まった。
「いや、お父様、それをどうするおつもりですか?」
「国王陛下からの命令だ。全て、父が預かろう」
「そんな……」
「他の物を使いなさい」
「どうして、そんな意地悪なことをされるのでしょう?」
「意地悪ではない、慈悲を戴いたのだ」
メアリーは泣き出したが、この泣き方は嘘泣きだ。
幼い頃は、純真で天使かと思えたが、この頃のメアリーは狡猾で、泣き真似で、人の心を動かそうとする。
早めに嫁に出さねば、本当に貰い手がいなくなりそうだ。
婚約者は今の所いないが、メアリーが、遠い親戚のライアンを慕っているのは知っている。
ライアンは殿下に信頼されている。
チャンスさえあれば、近衛騎士にもなれるだろう。
打診してみるか?
「泣き真似は止めなさい。本来なら、極刑を申しつけられたのだぞ」
「そんなことあり得ないわ」
「今回は、父が頭を下げるだけで済んだが、もっと物事を考えてから、言葉にしなさい」
「……」
「メアリー、返事は?」
「分かりました」
メアリーは不服そうに言葉に出した。
「その化粧品やいろんな物は、倉庫に片付けておきなさい」
「畏まりました」
メアリーの四人の侍女は、たくさんの商品を持って部屋を出て行った。
「酷いわ」
持ち出された化粧品を見ながら、メアリーは大きなため息を漏らした。
その翌日、メアリーの肌が乾燥し、痒みが出てきたようで、掻くので、肌が赤く、血が滲むほどになってきた。
「メアリー、その肌はどうした?」
「痒いのよ」
「そうね、メアリーは乾燥肌で、湿疹と痒みが出やすかったわね」と妻が言った。
「最近、治ったと思ったら、何か新しい化粧品でも始めたの?」
妻がメアリーに聞いている。
「違うわ。マリアの化粧品をお父様が持っていってしまったから。だから、また痒くなってしまったのよ」
「あなた、化粧品を奪うなんて、返してあげてはいけないの?」
「陛下からの命令だ。この先、メアリーは、マリアの化粧品を使ってはならないと、ね」
「陛下も酷いわね」
仕方なく、俺は王宮でのあれこれを妻に話した。
「お医者様に診てもらいましょう。ここまで皮膚が荒れてしまったら、普通の化粧品では治らないでしょう」
「そうね」
まったく、面倒ごとばかりだ。
食事を終えて、医師がメアリーの肌を診察して、器に入った軟膏とクリームを処方した。
「これは、最近、肌荒れ用に販売された医薬品のクリームです。化粧品のマリアから出された新商品なのです。痒みを伴う敏感肌によく効く薬です」
「ここでも、マリアなのか?」
「マリアは一般化粧品から美白化粧品まで、幅広く商品を作っていますが、研究所がありまして、医薬品の研究もなされています。ここの製品を使っていれば、お嬢様の肌にも潤いが戻るでしょう。ですが、今は湿疹を伴った状態ですので、軟膏とクリームを処方します」
「別の物はありませんか?」
「お父様!」
「あなた!」
メアリーと妻が悲鳴を上げた。
「お嬢様の肌には、今、この薬が一番合うと思われます」
メアリーは看護師が出した薬を、必死に掴んだ。
仕方なく、薬を受け取り、精算をする。
結構な金額だ。
「まだ塗るな」
「どうして、お父様!」
「国王陛下の許可が出てからだ」
仕方なく、メアリーを連れて、王宮に向かった。
陛下は忙しいと言い、謁見の間で、待たされる。
朝出掛けて、陛下と王妃様が現れたのは、夕方になった頃だった。
メアリーは顔が痒いと、掻きむしるので、血が出て酷い顔になっている。
「何の用であるか?」
「陛下、王妃殿下、突然、申し訳ございません。マリアの化粧品を使う許可を戴きたいのです。娘は乾燥肌で、湿疹と痒みが出やすい体質で、マリアの化粧品を止めた途端、こんな有様です」
メアリーに顔を上げさせる。
「これは、醜い」
「血だらけですわね」
陛下と王妃は、すっと目を逸らした。
「医者に診せましたが、処方された薬もマリアの製品でした。どうか、お願いいたします」
「マリアーノ・クリュシタ伯爵令嬢に謝罪させてください」
メアリーは、頭を下げた。
「マリアーノ嬢は、心を病んで、療養に出掛けた」
「心を病んで?私の責任ですか?」
「それ以外、考えられるのか?」
陛下に尋ねられ、メアリーは項垂れる。
「次にマリアーノを侮辱することがあれば、不敬罪に侮辱罪では生ぬるい極刑とする」
「き、極刑……肝に銘じます」
メアリーは慌てて、頭を下げる。
「では、処方された薬を使いなさい。化粧品も使って宜しい」
「陛下、寛大なお心で対応してくださり、誠にありがとうございます」
「陛下、王妃様、お許しくださりありがとうございます」
俺とメアリーは、跪き頭を下げた。
忠誠の印だ。
「あら、許したわけではないわ。メアリー嬢、マリアーノが帰宅したら、マリアーノに謝罪しなさい」
「はい、お許しいただけるまで、謝罪いたします」
メアリーは、再び、頭を下げる。
「では、帰るがいい」
陛下と王妃様は謁見の間から出て行った。
まったく、化粧品ごときで、頭を何度下げたか。
メアリーは流した涙が、肌にしみて、更に痒みが出て、掻き毟っている。
醜くなった娘を隠すように、馬車を止めてある場所まで連れて行く。
途中で、ライアンに会わないように気を遣いながら、さっさと出て行く。
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(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
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