【完結】安心してください。わたしも貴方を愛していません

綾月百花   

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41   プレゼント(3)

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 朝食前、研究所に傷薬とシップ薬を送って欲しいと手紙を書いた。

 それを宰相様に渡して欲しいとイグに頼んだ。

 頼むことは、他の誰かがいてもできるが、プレゼントは二人の時に渡したい。

 今朝も渡すことができずに、朝食後、机の引き出しに片付けた。

 出掛ける準備をする。

 夏の日差しが強いので、日傘を準備して、お化粧も念入りにしておく。

 今日は平民街のお店と貴族街のお店とエステサロンを見に行く予定だ。

 専属騎士が来たことを確認して、ティランとライアンにお願いする。

 既に馬車は準備されていて、イグが見送ってくれた。

 イグも今から視察だと言っていた。

 どこかで馬車が擦れ違うかもしれないですね。

 少しだけワクワクしながら、馬車に乗り込む。

 まずは平民街のお店に行った。

 突然、わたくしが現れても、動じない所が気に入っている。この店の店員は、平民から選んでいるけれど、元々の平民ではなく、貴族から、平民になった次女や三女のお嬢様を雇っている。

 お化粧にも詳しく、平民のお客様にも店内で教えて差し上げられる腕のいい店員だ。

 わたくしより年上だが、わたくしを見下さない者を選んで採用した。

 あくまで、店長はわたくしなのだ。

 店長さえ敬えない者は、お客様も敬えないと考えた。

 わたくしは、お店の中で、お客の動向を見る。声を掛けたいが、客を困らせることはしたくない。今、流行の商品を確かめ、主任の役を与えた者に、今、流行の商品について尋ねる。困ったことはないか、確認する。

 平民でも試せる格安のエステサロンがあったらいいなという声があるという。

 わたくしは、メモを取る。

 今までは、エリナがしていた仕事もわたくしがしなくはならない。

 他の店員の声も必ず聞いて、困ったことがないか確認する。

 特に困ったことがないようなので、わたくしは、今度は貴族街に出掛ける。

 貴族街では、ランチタイムに混むと聞いていたので、ちょうど、いい時間だ。

 こちらでは、「ごきげんよう」「いらっしゃいませ」とお客様に声もかける。掛けなければ、わたくしは暴君と呼ばれるだろう。

 同じ貴族としての礼儀は怠ってはならない。

 貴族のご婦人達は、わたくしの姿を見ると、話しかけてくる。

 一緒に商品を選んだり、肌の色合わせをしたりして接客もする。

 このお店は貴族のお嬢様や奥様にお店を頼んでいる。

 お嬢様は年齢的に適齢期なので、お嫁に行ったり、若い奥様は妊娠したりと入れ替わりが激しい。

 接客に関しては、平民街の方が安定している。

 常に働き手を募集している。

 誰でもいいわけではなくて、美しく、礼儀正しくなければならないし、売り物について詳しく説明できる者ではならないので、お断りすることもある。

 一度、平民街から連れてきた売り子に制服のドレスを着せて、接客をさせたら、平民街の子の方が上手かったので、この先、平民街のお店で訓練を積んで、貴族街で務めさせるのもありだと考えている。

 この店の主任は、平民街から連れてきた売り子だ。

 二度ほど人を代えたが、わたくしが来なくなると、収支が合わなくなることが何度もあり、平民街から売り子を連れてきて、様子を見てもらった事があり、結果的に主任に上がった子が、権力を使ってお店の品物を持ち帰り、勝手にしていたようだった。

 そのことが分かり、平民街の売り子に主任を任せたのだ。平民と言っても、貴族だった娘なので、顔も広く、社交的だったので、今は、その子に任せている。

 貴族だから偉いとか、平民だから悪いとか、そういう問題ではない。

 扱う物が化粧品だから、化粧品のことに詳しくて、この仕事が好きな人が一番、適任だと思うのだ。

 人の育て方はとても難しく、若いわたくしが、一番苦手としているが、今の方法が正しいのだと思う。

 全員と面談もして、次はエステサロンに向かう。

 ここは、全て予約制なので、予約の状態を確認して、人気のないエステテシャンにエステをしてもらう。

 暫く、来なかったので、わたくしは、空いている時間に、わたくしの名前を書き足して、予約を埋める。

 最終的に全員の腕をみるのだ。


「腕は確かなようだけれど、何かあったのかしら?」

「少し前に、恋人ができたのですが、お付き合いを始めたら、エステで使っている化粧品を持ち出すように脅迫されたのです。すぐにお断りをしたら、フラれました。少し、精神的に落ち込みました。その頃に施術を行った奥様に、施術が乱暴だと指摘をされ、担当の変更を言われたのです。それが始めで、数人の担当のお客様が担当変更を申し出たのです。今は、新規のお客様と初期からのお客様が少し残っております」

「お客様とその男性は繋がっている可能性があるわね。断ってくださってありがとう。エステの化粧品を欲しがるお客様は多いし、他の化粧品会社の者かもしれないので、助かりました。皆さんにもお伝えしましょう」


 人気のなくなったエステテシャンには、何かしらの理由がある事が多い。


「辛かったわね」

「いいえ。私はプロですから、当たり前のことを言っただけですわ」


 わたくしは、皆さんの施術が終わるまで待ち、皆さんに今回あったことを話し、同じことが起きてないか聞き取りを行い、注意を促した。

 わたくしが休んでいる間に、何か問題があれば、王宮に手紙を書くように伝えた。

 問題が起きれば、何があっても駆けつけることを告げた。

 担当変更が起きたエステテシャンには、再び確認をする。

 万が一、商品の流出などあってはならない。

 エステテシャンは戸惑いを見せている。


「今、男性とお付き合いを始めました」と狼狽える。

「騙されている可能性があるから、気をつけてください。化粧品の持ち出しの話が出たら、必ず断ってください」

「もう、別れます」


 彼女はもう心当たりがあったのかもしれない。


「私はプロですし、この仕事を好きです。それに学費を返済することはできません」


 エステテシャンの学校には規則がたくさんある。

 彼女たちは、貴族ではない。

 平民の、貧しい者もいる。

 今年の一年生には貴族もいると言うが、卒業できるかどうかは、まだ分からない。

 学校の費用は、無料だが、途中で問題を起こせば違約金がかかる。

 平民には、払えない額だ。

 新しく加わった約束事には、引き抜きにあった場合についても書かれている。

 約束の期間、5年間、彼女たちは、この店に縛られる。

 その後、貴族の侍女になれるのかどうか、分からない。

 推薦状は書くが、こちらから斡旋はしない。

 平民が貴族の屋敷に住むことは、あまりない事だが、エステテシャンの腕を買われて、招かれるかもしれないし、そのままエステテシャンをするか、結婚をするか、それは彼女たちが決める。

 最低5年は、とにかく縛られるのだ。

 面談を終えると、もう暗くなっている。

 専属騎士には申し訳ないが、これがわたくしの仕事なのだ。


「戻ります」

「お疲れ様でした」

「ありがとうございます」


 馬車にエスコートされ、手を借りて、乗り込む。

 宮殿に戻ると、イグが走ってくる。


「心配していた」

「大袈裟ね。今日は久しぶりだったから、問題もあったのよ」


 手を借りて馬車から降りると、急にお腹が空いてくる。


「お腹が空いたわ。今日は忙しくてお昼を食べ損なったわ」


 ニコリと笑って、専属騎士に頭を下げる。


「暫く通うと思います。またよろしくお願いします。今日はありがとうございます」


 二人は敬礼をした。

 今日はイグと二人で食事をしたのに、プレゼントが手元にない。

 部屋まで送ってもらうと、メリスとネルフが待っている。結局、またプレゼントが渡せなかった。

 手っ取り早く、二人で会いたいと約束をした方が確実かもしれないなと……イグが出て行った扉を見て思う。


「お嬢様、今日は遅いので、素早くお風呂に入って、お休みください」

「そうね」


 手紙を書こうとしたが、先にお風呂に入った方が良さそうだ。

 お風呂に入って、寝る支度をすると、メリスとネルフは「おやすみなさい」と言い、部屋から出て行った。

 一人になり、机に向かう。

 お父様に今エステサロンで起きていることを知らせなくては。

 エステテシャンを誘惑する男性と、化粧品を欲しがる者は誰か突き止めなければならない。


「夜だから仕方がないけれど、暗いわね」


 ろうそくの灯りだけでは暗い。

 クリシス帝国の夜は明るかった。

 キエフシア第二王子を発電大使に任命すればいいのに……。

 陛下は国が発展することを望んでいないのだろうか?

 わたくしなら、皇帝陛下を紹介することができるのに……。

 イグに話してみようかしら。

 手早く手紙を書き終えて、封をすると、ろうそくの灯りを消した。


「月明かりも好きだけれど」


 ベッドに横になり、窓の外を見る。

 満月が近いのか、明るい。

 レースのカーテン越しでも月が美しく見える。いつの間にか眠っていた。


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