【完結】安心してください。わたしも貴方を愛していません

綾月百花   

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番外編   クリマ・オペラシオン子爵令嬢   私は華よ

6

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 朝食は使用人が迎えに来ました。

 ダイニングに入ると、テーブルに食事が並べられておりました。

 どうやら、当主様は食事をもう終えたようです。

 お茶だけ、飲んでおりました。


「よく眠れましたか?」

「はい」


 私は朝食を戴きながら、笑顔で答えました。

 当主様は、私の所作を見ているようだった。

 礼儀作法は学校でしっかり学んでいるので、間違いはないと思います。

 美味しい食事です。

 昨夜の食事も美味しかったけれど、朝食も美味しい。

 食後のお茶を飲み終えると、当主様が、私に「お茶を淹れてくれるかな?」と言いました。


「はい」


 私は席を立つと、キッチンに入っていきました。

 キッチンの中には、シェフや使用人がたくさんいます。


「お茶を戴きます」


 実は私は自分で紅茶を淹れた事がありません。


「すみません、お客様。すぐにお持ちします」

「いいえ、ここで戴くわ」

「はい」


 できた使用人だ。

 なんの疑いもなく、お茶を淹れてくれる。

 カップに注ごうとしたときに、私は声を掛けた。


「カップならありますので、そちらを戴きます」

「そうですか?お手数をおかけ致します」


 使用人はティーポットをくださった。

 私はそれを持ってダイニングに戻った。


「お待たせ致しました」


 そのお茶を当主様のカップに注いだ。

 きっちり一杯分のお茶がカップに入った。

 完璧!

 当主様は、そのお茶を飲んだ。


「うん、旨い。我が家の使用人と遜色はない」


 それは当然だろう。

 そのお茶を淹れたのは、この邸の使用人なのだから。

 私は微笑む。


「ありがとうございます」


 お店仕込みのお辞儀をすると、当主様は満足したように頷いた。


「礼儀も良さそうだ」


 当主様は、テストをしたのだろう。

 でも、とっても甘いテストね。


「エステの学校を見に行くか?」

「はい」


 私はすぐに返事をした。

 当主様と邸の外に出て、裏手に行くと木造の建物が建っていた。

 その中に入っていく。

 メイドの洋服を着た女性が数人居た。


「見学者だ」

「ようこそ」


 メイド長なのか、年配のメイドが私に挨拶した。


「クリマ・オペラシオン子爵令嬢です。お邪魔致します」


 私は礼儀正しくお辞儀をした。


「あら、貴族の令嬢様ですか?それなら、マッサージを受けたことはありますね?」

「ええ」


 子爵邸にもメイドはいる。

 けれど、私は三女だ。

 お母様やお姉様は、お手入れして戴いていたようだけれど、私までは手が足りなくて、してもらったことは、ほんの数回くらいかしら?

 それに、私は、ずっと実家にも帰っていない。


「可愛らしいお顔をなさっているから、きっとお手入れもされているのね?」


 特に何もしてないけれど、私は「はい」と答えました。


「ちょうどいいわ、生徒がお手入れをするところなのよ。あなた、やってもらいなさい」

「いいのですか?」

「どうぞ」


 私は、生徒だという女性に、肌のお手入れをしていただいた。

 なかなか気持ちがいいわね。

 お顔だけではなくて、体をほぐしていくのね。

 頭のマッサージも気持ちがいいわね。

 約一時間をかけて磨かれ、最後に飲んだこともないお茶を戴いた。

 とても美味しくて、正直、ビックリした。


「あなたもしてみますか?」

「ええ、教えてくださいますか?」


 今、施術を行った女の子がベッドに横になっている。


「いいですわ」


 メイド長が答えた。

 メイド長は、丁寧に教えてくださった。

 それこそ、手取り足取り。

 けっこう力仕事ですわ。

 手のマッサージの時に、「気持ちがいいわ」と横になった女の子が呟いた。


「センスがあるかもしれませんね」


 メイド長が答えた。

 私は笑顔で「ありがとうございます」と答えた。

 私の取り柄は、取り敢えず元気なことだ。

 施術を終えると、当主様が「楽しかったか?」と聞かれた。

 この場合、「はい」と答えるのが正解だろう。

 私は、笑顔で返事をした。


「この子は紅茶も上手に淹れられた。施術のセンスもある。どうだ?マリアーノの侍女になれると思うか?」


 当主様はメイド長に聞いた。


「そうですわね。センスはあると思いますわ。当主様が決められたのなら、その様に致すのがいいと思いますわ。マリアーノ様も喜びますわ」

「マリアーノは侍女がいなくて、困っていた。年齢も近い。気が合うといいが」


 当主様はお嬢様のマリアーノ様の事が大切なのだろう。

 マリアーノ様の事を案じてばかりだ。

 我が子が可愛いのだろう。

 離れて暮らしているから尚更ね。

 私の両親とは真逆ね。

 私の両親は、私が実家に帰るといい顔をしないから、ずっと帰っていないわよ。

 帰って顔を合わせたら、爵位取り消しの話をされるかもしれないものね。

 学校入学をした後は、卒業式の後に、一度邸に戻って、王都で過ごすための準備をして、すぐに旅立った。それ以来、帰ってないわ。

 結婚はどうなった?と手紙が来たとき、クリスは亡くなったと手紙を書いたのが最後ね。手紙さえ来ないわ。

 愛されている娘は、どんなお顔をしているのかしら?

 益々、興味が湧いたわ。

 話を聞いているだけで楽しみね。

 当主様は、メイド長とお話に夢中だわ。


『私が間違えてしまったから、マリアーノを不幸にしてしまった。どうにか、幸せにしたいのだ』としきりに話している。


 白い結婚詐欺事件の事を言っているのだろう。

 あの事件は、有名すぎて、きっとこの国で知らぬ者がいないほど騒がれた。

 当主様は、ずっと間違えてしまった縁談のことを悔やんでいるのだと思えた。

 どうせなら、もう一つ、間違えて。

 私を侍女に推薦すればいいわ。

 うふふ。

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