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第1章
24 ブリッサ王国に出陣(レイン視点)
しおりを挟む指輪を無くしたニナを宮殿に置き去りにして、定例のブリッサ王国に出かける日付が来た。
敵陣の中に行くのは危険であるが、どうしても友好国になり平和条約を交わしたい。
そうすれば、安心してこの地に住める。
ブルーリングス王国の建立も夢ではない。
戦うためではなくて、安全に暮らすために、ブルーリングス王国を安全な国にしておきたい。
永遠に戦うのならば、またブルーリングス王国の血族が減り、減るだけではなく絶滅してしまう。
やっと生き延びて、国をもらえる土地もある。この時期に、和平を結びたい。
俺にも愛する者ができた。
失うわけにはいかない。
生きて帰らなければならない。
俺はニナを抱いた。
まだ清い身だったニナを抱いた責任を果たしてはいない。
指輪を失くして、心が不安定になったニナを置き去りにしてきたのだ。
よい土産が欲しい。
隣国、ブリッサ王国の首都まで、それほど遠くはない。
馬の早駆けで行けば数時間で到着する。
この日は、何か仕組まれていたのか、ブリッサ王国の首都は祭りが行われていた。
王宮のある首都まで、馬で駆ける事ができなかった。
馬を引いて、歩いて行くことにした。
道が通行止めになって、民達が踊り、道が塞がれていた。
王宮に行く道を聞けば、かなり遠回りになる。
祭りは一週間ほど続くのだという。
道には屋台が出て、賑わっている。
仕方なしに、その混雑した道を馬を引いて歩いて行く。
民は酒を飲み、子供は菓子を食べ、お祭り騒ぎを起こしている。
誰かが、俺の馬の尻を叩いた。
驚いた馬は、混雑した道で暴れて、走って行った。
呆然とする俺の横に、アルクがやって来た。
「この日付を指定してきたのは、ブリッサ王国の国王陛下であるぞ。何か企みがあるのではないか?」
それは俺も思っていた。どんな企みかは分からないが、何かあるのかもしれない。
愛馬は、よく躾けてあるから、落ち着けば、合図を送れば戻ってくるだろうが、この祭りの中を歩くのは困難だ。
人混みを避けるために、後退した。
人の気配がない道に出て、王宮へと向かう。
かなり遠回りになるであろうが、仕方がない。
俺は何度か指笛を吹いた。
果たして、愛馬は戻って来た。
馬に乗り、王宮を目指す。この日に行かなければ、文句を言われる可能性がある。
王宮の裏門に到着したのは、いつもの倍の時間だった。
昼を回った時間であるから、『昼時に、迷惑であるぞ』と文句を言われるか、『昼の準備をして待っておった』と文句を言われるか?
考えたが、どちらも文句を言われるのであれば、今でもいいかもしれない。
裏門の門番に、取り次ぎを頼むと、騎士は確認するために、一人が王宮へと入っていった。
待たされた時間は、軽く一時間が過ぎている。
「どうぞ、案内いたします。馬は厩へどうぞ」
「ああ、頼む」
厩の位置は把握している。裏門に近い場所にあるのは知っている。
馬を預け、国王陛下の元に案内してもらう。
王宮の中も、ずいぶん把握できているが、勝手に歩き回るわけにもいかない。
「レイン辺境伯、ごきげんよう」
王宮内を駆けてきたのは、ブリッサ王国の第一王女のエリザベス王女であった。
「エリザベス王女、ごきげんよう。母君の具合は良くなっただろうか?」
「母様は、最近は顔色もよくなってきたわね。座っていることも増えたわ。やはりレイニア草のお陰かしら」
「今日もレイニア草を持ってきている。煎じて飲ませてくれ」
「私がするのではないわ。お世話はメイドがしているもの」
「医師が診ているのではないのか?」
「医師もいるわ」
エリザベス王女は髪も瞳も赤茶色をしている。
身につけているのは、エメラルドのような鮮やかなグリーンのドレスだ。
ネックレスと腕輪も、エメラルドの宝石が使われていて華やかだ。
この王女は、毎回、違う華やかなドレスと宝石を身につけている。
まるで毎日がパーティーでも行われているような装いだ。
ブリッサ王国には、他に王子が二人いるが、二人の王子は母親が違うらしく、あまり仲はよくなさそうだ。
見ているだけで、毒でも盛りそうな険悪な空気が流れている。
王妃派と第二夫人派に分かれている。
エリザベスは王妃の子であるから、自由奔放に過ごしているようだ。
ブリッサ王国の国王陛下が目に入れても痛くないほど、溺愛している姫だ。なので、邪険にするわけにもいかない。
腕にエリザベス王女は腕を絡めて、甘えてくるが、『離れろ』とも言えない。
「ねえ、レイン辺境伯は私のことを好きでしょう?」
「愛らしい姫だとは思っております」
無難な答えで、やり過ごす。
「お父様が、今日は大切なお話があると言っていたわ」
「どんな話しであろうか?」
「私からは話さないわ」
エリザベス王女から、甘い香水の香りがする。
鼻につく香りに、『臭い』と思ってしまう。
ニナからは、いつも花の香りがするが、それはトリートメントの香りだ。
エリザベス王女の髪は、下ろしており、背中の辺りで切りそろえられている。
少し癖があるのか、毛がうねっている。
まるで、髪を結ったニナが、髪を下ろしたときのように、クルクルとしている。
ニナは、そのうねった髪型を見せたがらない。殿方に見せてはならない髪型だと言っていた。どんな姿のニナも美
しいが、ニナは常識を守り、悪い事は悪いと言える子だ。
エリザベス王女はうねった髪型が美しいと思っているのか堂々と見せびらかしている。
俺はニナの髪型に慣れてしまったので、エリザベス王女の髪型は、常識外れのように見えてくる。
「ねえ、レイン辺境伯、今日は指輪をはめているのね?」
目敏く、俺の指輪に気づいたようだ。
「綺麗ね、レイン辺境伯の瞳と同じ色をしているのね」
「ああ、俺は結婚をしたのだ」
「何ですって!」
大袈裟にエリザベス王女が大声をあげた。
全く落ち着きのない王女だ。
これで、ニナと同い年だという。
やっと国王陛下の執務室に到着した。
護衛の騎士が、国王陛下の元に俺の到着を知らせに行くと、直ぐに扉が開いた。
「どうぞ、お入りください。国王陛下がお待ちになっております」
俺は騎士に一礼して、扉の中に入った。
「よく来られた、今日は祭りの日であるから、ここまで来るのは大変だったであろう?」
「国王陛下、約束の時間に遅れたことをお詫びいたします。祭りの輪に阻まれて、遠回りをして、こうして参りました」
「我が国は、春の祝いの祭りが毎年行われる。屋台が出て、人も多くなる。この祭りは10日ほど続けられる」
「大規模な祭りですね」
「豊作の舞いも舞われる。国の行事になっておるので、地方からも首都に人が集まる」
「国が栄えることは、よいことです」
「そうであるな」
やっと椅子を勧められて、国王陛下と共にソファーに座る。
アルクを始めに、俺の近衛騎士も俺の背後に立つ。
「エリザベス、茶を淹れろ」
「はい、お父様」
王女が自らお茶を淹れている。
その所作は、丁寧だ。
部屋に紅茶の香りが立つ。
王女自ら、カップをテーブルに並べてくれた。
俺は、軽く頭を下げる。
「エリザベスは、どうだ?」と、国王陛下が聞いた。
「私がこの宮殿に初めて来たときは、まだ幼かったが、美しい王女に育ったと思います」
「そうであるな。エリザベスも、もう20才になった」
「時間が経つのは、早いですね」
「レイン辺境伯は、確か独身であったな?」
「最近、結婚をしました」
「なんだと?」
「私は、今は亡きブルーリングス王国の王族の血を受け継いでおります。妻も、王族の血を継ぐ者として育てられてきました。ニクス王国の国王陛下から、あの辺境区を頂きまして、ブルーリングス王国の再建を目指しております」
俺は初めて、ブリッサ王国の国王陛下にブルーリングス王国の名前を告げた。
「できれば、友好国になり平和条約を結びたいと思っております」
「友好国か?」
「大陸では、平和条約が結ばれております。結ばれているのに、いざこざが起きている国は我々の国だけです。レイニア草は、約束通りに定期的に販売しています。王妃様の具合も良くなってきたと、先ほどエリザベス王女が言っておりました。そろそろ無益な戦いは止めて友好国になり平和条約を結んでもよい頃合いだと思います」
「そうであるな。友好国になり平和条約を結ぶにあたって、考えておった事が一つあった。エリザベスがレイン辺境伯に恋をしておるのだ。二人が結婚することで、友好国になり平和条約を結ぶ事を考えておった」
「私は、既に結婚をしております」
「離縁をしてはどうだ?エリザベスと結婚をすれば、両国は親と子の間柄。約束をせずとも友好国になるであろう」
「離婚はしません。妻は正当なブルーリングス王国の血族。どこの血も混ざることなく、育てられた正当な後継者です」
ブリッサ王国の国王陛下は、膝をポンと打つと立ち上がり窓辺に寄った。
ブリッサ王国の国王陛下は、エリザベス王女と結婚させて、辺境区を無傷で自国にするつもりだったのだろうか?
美味しい餌をぶら下げて、領地を奪う算段をしていたのだろう。
そうはさせない。
「ブルーリングス王国は、大昔に絶滅した国であるぞ。それを今更、復活させるのか?」
「時期を待っていたのです。ブルーリングス王国とニクス王国は友好国でした。逃げ出したブルーリングス王国の王家の関係者は、ニクス王国に保護されておりました」
「復活させたとしても、小国。ニクス王国の片鱗ではないか?小国同士を合併させれば、ニクス王国と変わらぬ領土ができるではないか?」
「領土の大きさは考えておりません。国を復活させ、もう一度、大陸の地図にブルーリングス王国の名を刻むのを楽しみにしておりました」
「我が娘、エリザベスも貴殿と結婚をするつもりでいたのだぞ。娘の心はどういたす?」
「エリザベス王女のお心に沿うつもりはありません。私には愛する妻がおります」
「では、その妻を第二夫人にしてはどうだ?」
「私は妻だけを愛することを神に誓っております」
「子が生まれなければ、ブルーリングス王国の血は途切れる」
背を向けて話をするブリッサ王国の国王陛下が、どんな顔をして話しているのか分からない。
ニナを攻撃するつもりなのか?
ニナのことはハルマとビストリに頼んできた。
王宮の外には出すなと言ってきている。決して、ニナに危害を加えられる事はないはずだ。
「そうであるな。祭りの期間は動きが取れぬ。その間に、この王宮に留まり、どうするのが正しい道なのかよく考えることだ」
ブリッサ王国の国王陛下は、やっと振り向いた。
その表情は、普段と変わらなかった。
「エリザベス、せっかくだ。レイン辺境伯を祭りに連れて行きなさい」
「お任せください」
エリザベス王女は目を輝かせる。
猛禽類の瞳のように見えて、身体に緊張が走った。
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