【完結】もう我慢できません、貴方とは離縁いたします。その夫は、貴方に差し上げます。その代わり二度と私に関わらないでちょうだい。

綾月百花   

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第1章

25 祭り レイン視点

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 遅めの昼食を頂いて、その日はゆっくり休んで欲しいと言われた。

 夕食は晩餐会が開かれて、二人の皇子達も参加した。

 二日目は朝食を頂いて、第一夫人のお見舞いをした。

 以前より顔色もよくなり、ベッドの上ならば、起きていられるようになったようだ。

 元気な姿を見せてもらえて、レイニア草の力を改めて素晴らしいと感心した。

 昼食後、平民の洋服を支給された。

 この国にいる間は、基本的に国王陛下に逆らったりしない。

 平和条約を結びたい。友好国になりたい。

 その為にブリッサ王国に来ているのだ。

 平民服に着替えた俺とアルク、俺の近衛騎士5人が待機していると、エリザベス王女が迎えに来た。

 エリザベス王女は、いいところの商家の娘のような姿をしている。

 それほど見窄らしくもなく、派手すぎでもない。

 青色のワンピースを着て、平民の服に着替えた護衛を従えている。


「これからお祭りを案内しますね」


 天真爛漫なエリザベス王女は、いきなり俺の手を繋いできた。

 手を振り払おうとしたが、腕にしがみついてきた。

 香水の香りが、濃すぎる。

 うっとしても、我慢するより仕方がない。

 離れようとするたびに、身体を密着させてくる。

 王宮から出て、徒歩で街へと降りていく。

 馬だとあっという間に到着するが、エリザベス王女の歩みに合わせていると時間ばかりが過ぎていく。

 やっと街まで到着したら、もう夕方になっている。

 ここから王宮まで戻ったら、夜になってしまうのではないか?

 そう思っていると、エリザベス王女は街の旅館に入っていった。


「今日は、ここに泊まりましょう」

「我々は観光に来たわけではないのですよ?」

「友好国になるのならば、ブリッサ王国の様子も見ておく必要があるのではないかしら?」


 そう問われて、エリザベス王女の言葉を否定することはできなかった。


「そうであるな。では、ブリッサ王国の首都を案内してもらおう」


 こうなったら、この祭りが終わるまで付き合うより仕方がない。

 祭りは、昼だけではなく、夜も遅くまで続いている。

 屋台が並び、民が踊り明かしている。


「レイン踊りましょう」


 俺はいきなり愛称で呼ばれて、エリザベス王女を睨んだ。


「私のことはエリと呼んでください。大衆の目がありますもの」


 大衆の目が合ったとしても、馴れ馴れしくするつもりは微塵もない。


「断る」

「頭、硬いのね?もっと柔軟に考えたらどうなの?お父様は私と結婚したら、友好国になり条約を結ぶと言っているのよ?レインに奥様がいても、我慢するわ。でも第一夫人の座は譲らないわよ。今の奥さんは第二夫人だわ。それさえ飲めば、直ぐに解決するのに、どんな頑固者かしら?」

「俺はエリザベス王女を愛してはいない」

「まあ、直球ね。この祭りの間、一緒に行動したら、私のことを好きになるわよ」

「それはない」

「ほんと頑固ね」


 今日のエリザベス王女は、いつも以上に化粧が濃い。

 体温が上がってきているのか、香水の香りが強くなっている。


「踊りましょう」

「いや、いい」

「付き合いも悪いのね?よく奥様が貴方を見初めたわね」

「運命の出会いだ」

「ロマンティックな一面もあるのね?」

「勝手に言っていろ」


 エリザベス王女は更に身体を密着させてきた。

 鬱陶しい。


「今の所、お父様の後継者は、第一夫人の私の兄であるビュシス第一王子ね」

 エリザベス王女は、俺だけに聞こえる声で、耳元で話し出した。

「でも、王宮の中で、王妃派と第二夫人派に分かれているの。お母様は難病に罹り、一時、死にかけていて、そんな時にお父様がお母様を思って、レイニア草を求めて、辺境区を攻めたでしょう。

 そんなことがあったから、後継者はお兄様だと言われるようになったのですけれど、第二夫人派のリアン王妃が怒り狂ったのよ。

 私こそ正式な王妃だと。だから、後継者は第二夫人の子、レジェルタ第二王子だと主張したの。第二夫人派か分からないけれど、お兄様に誰かが毒を盛ったのよ。

 幸い、お兄様は生きていますけど、一時期は危なかったのよ。王妃は二人もいらないと思ったわ。誰もが一番に愛されたいものね。

 だから、私がレインの元に嫁げば、今の王妃派と第二夫人派のように、いつかいがみあうことがあるかもしれないわね。

 お父様の指示で、レイン辺境伯を誘惑して、この際、結ばれてこいと言われているけれど、私は面倒ごとはウンザリなの。できれば王家から出たいと思っているの。手を組んだことにしてくださらない?」

 俺は間近にいるエリザベス王女を見た。


「それは具体的にどういうことだ?」

 エリザベス王女は、また俺の腕に腕を絡めて、耳元で話しをし出した。


「私と結婚を前提に付き合うことにしてくれたら、お父様は油断をするわ。その間に、友好国になり条約を結んでしまえばいいのよ。私は、それを見届けたら姿を消すわ」

「姿を消すというのは、具体的にどういうことなのだ?」

「好きな人がいるのよ」

「それは何処の誰だ?」

「ブリッサ王国の伯爵令息で、エルビス・オードリーというのよ。彼は次男だから伯爵家を継げなくて、今、この地に来ている歌劇団に入団したのよ。その彼と共に私も付いていこうと思っているの。手を貸してくれないかしら?」

「本気で、王家を出るつもりでいるのか?」

「第二夫人の娘は、私と同い年で、ソフィアと言うわ。お父様は、私とソフィアのどちらかを、貴方の結婚相手にして、国同士を強固な物にするつもりでいるわ。レインの国を支配して、ブリッサ王国の一部にするとおっしゃっていましたわ」


 エリザベス王女は、俺の目をじっと見てから、言葉を続けた。


「お父様はソフィアが可愛いのよ。幼い頃から、ソフィアを抱いていたわ。同い年の私は、いつもお母様と共にいたわね。お母様にも相談したのよ。お母様は、政治の駒として使われるなら、私の生きたいように生きなさいと言ってくれました。お母様のことは心配ですけれど、背中を押してくれたお母様のためにも、この計画を成功させたいのよ」

「具体的に、計画を教えてくれるか?」

「ええ、でも、人に聞かれたら大変なの。旅館の寝室で、それらしく振る舞ってくださいますか?その時、全てお話します」

「寝室以外では駄目なのか?」

「私の護衛騎士は、父と繋がっています。男女の関係になり、相思相愛と思わせたいのです」


 エリザベス王女は、甘えるように俺にもたれかかる。

 この仕組まれた計画に加担すれば、平和条約が結ばれるのか?

 だが、今のこの姿をニナがみたら、誤解を招く。

 思い悩んで、中央都市に戻って行くかもしれない。

「歌劇団が出発するのは、二週間後なの。正確には、今日を含めると11日ね。それまでの影武者でいて欲しいの。それ以外に迷惑はかけないわ。奥様には寂しい想いをさせてしまうけれど、私が責任を持って友好国になり条約を結ぶ手筈をするわ」

「分かった。手助けはする。詳細は後ほど教えてくれ」

「ありがとう」

 頬に、キスが落ちた。


 俺は目を閉じて、1から10まで数えた。

 ツキンと胸に刺さるのは、ニナへの罪悪感だ。


「遠くまで来てしまったわ。旅館に戻りましょう」


 エリザベス王女は、俺の腕から手を離して、今度は手を繋いで早足に戻って行く。

 少なくとも2週間、戻れないことが分かり、置き去りにしてきたニナのことが心配になった。

 どうか待っていてくれ。

 裏切られたと思わないで、俺を信じていてくれ。

 俺は、胸の内で、ニナに語りかけていた。
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