花姫だという私は青龍様と結婚します

綾月百花   

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5   転生転生

2   116年ぶり邂逅

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「唯ちゃん、16歳のお誕生日、おめでとう」

「ありがとう、お母さん」

「唯、お誕生日おめでとう」

「ありがとう、お父さん」


 この家にいられる時間は2時間だ。

 やりたいことは、両親にお世話になった挨拶と、母が作ってくれた手作りの料理を食べることだ。

 持っていく荷物もいらない。嘆くこともない。

 唯が望んだ2時間は、両親と共に過ごすことだ。

 手作りの料理をたっぷり一緒に食べて、誕生日ケーキも残さず一緒に食べることだ。


「今までお世話になりました」


 以前は言えなかった言葉も、今回はちゃんと言えた。


「約束の2時間が過ぎました。唯様、そろそろ行きますよ」


 迎えに来たのは、御嵩家から派遣された、唯の付き人と名乗った篠宮達樹だった。


「持ち物は持って行かれないのですか?」

「はい。どうせ消えてしまうのでしょう?」

「唯様、記憶があるのですか?」


 その質問には答えず、唯は両親に丁寧に頭を下げる。

 唯は学校から帰ったままの制服姿だ。


「お帰りなさいませ、唯様」


 御嵩家から寄越された高級車の扉を開けられて、運転手が頭を下げてきた。


「よろしくお願いします」


 唯は丁寧に頭を下げて、自分で車に乗り込んだ。


「唯様、荷物はいらないのですか?」


 達樹は再度、唯に尋ねた。

 以前の唯は荷物を持ってきた。

 他の花姫たちもたくさんの荷物を持ってくる。

 何も持ってこない花姫は、今まで一人もいなかった。


「いりません。最低限の物しか置いていなかったので、持っていきたい物は思い出だけです」

「そうですか?」


 達樹は車に乗り込む。

 唯は両親に手を振った。


「さようなら。また育ててもらえて嬉しかった」

「唯様」


 両親が涙を流している。

 唯は一生懸命に手を振った。


「扉を閉めます」


 運転手が言って、扉が閉められた。

 車が走り出しても、唯は後ろを向いて手を振り続ける。

 姿が見えなくなって、唯は黙って座ると、シートベルトをして、目を閉じた。


「失礼します」


 目の前に手を翳されて、眠らされる。


……
…………
………………



 耳元でパンと手を叩かれて、目を覚ます。

 御嵩家へと続く道だ。

 森には花は咲いてない。


(私には以前のような花姫の力はないのね)


 唯は景色を見て気落ちした。


「もうすぐ屋敷に着きます」

「……はい」


 昔から道は変わってなかった。見えてきた屋敷も以前のままだ。

 大きな湖がありその畔に屋敷がある。

 古い日本家屋だ。今では教科書に載っている珍しい建物だ。それでも懐かしい建物でもある。

 扉が開けられて、達樹が先に出て、唯に手を差し出す。


「唯様、どうぞ」


 唯はその手を取った。


「ありがとう」


 車から降りると、赤い絨毯が敷かれていた。両脇にたくさんの人たちが立ち、「お帰りなさいませ」と声を上げた。


「ただいま」


 唯は頭を下げると、達樹に連れられて、赤い絨毯の上を歩いて重厚な玄関の中に入っていった。

 花姫の屋敷は昔と同じ部屋だった。部屋の前にみのりが跪いていた。


「こちらは、わたくしの妹のみのりと申します。わたくしのことは達樹とお呼びください。みのりのことは、みのりとお呼びください」

「みのりと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 唯は丁寧に頭を下げる。


(二人とも少しも姿が変わっていない。歳を取らない種族なのね)


 部屋に入ると達樹は襖に結界を張った。以前と同じだ。

 新しいい草の香りがする。

 今時、天然記念物だ。神社仏閣くらいでしか見なくなった。


「こちらへおかけになってください」


 促されたのは、実家にはあったが他の家にはなかった座布団だ。

 新しく仕立てられた座布団に、静かに座る。

 みのりがお茶の準備をしている。

 達樹は、唯の斜め前に座ると、唯の顔をじっと見た。


「確認させていただきます。唯様、前世の記憶をお持ちですね?」

「記憶なのかな?夢で見ました。達樹を見て夢ではないと確信しました。龍之介様と龍磨様の戦いは鮮明に覚えています。達樹にみのり、また会えてとても嬉しい。けれど、今回の私には、以前のような力はないみたい。屋敷にも山にも花は咲いてない」

「力など、どうでもいいのです。今度こそ、わたしどもが唯様をお守りします」

「お願いします」


 唯は深く頭を下げた。


「あれから何年経ったのでしょう?」

「116年になります」

「100年目に花姫の生る木に生ったんですね」

「青龍様は唯様を亡くされて、嘆き悲しみ。それでも唯様に再び会いたくて、花姫の生る木に祈りづけておりました。唯様が生ったことを、誰にも秘密にされています。わたくしどもには唯様が誕生日を迎える前日に、教えてくださいました」

「唯様のお力は、青龍様が封印しておいでです。なので、お力がないのです」


 達樹とみのりが説明してくれた。


「花姫の力を封印されているの?」

「唯様に酷い仕打ちをなさった龍磨様はまだ発見されておりませんので」

「生きていたんだ?」

「100年の眠りについて、目覚めてから、花姫を襲っております」

「私を食べたから、鬼になってしまったのかしら」


 二人は頷いた。


「日本中の龍神たちが探しておりますが、見つかっておりません」


 唯は下腹部に触れる。


「赤ちゃんは無事だった?」

「亡くなってしまいました」

「そっか」


 唯は涙を浮かべて、項垂れてしまった。

 痛みまで伝わってきた夢は、壮絶だった。

 絶望と喪失と真っ赤に染まった青龍様の姿。

 夢を見た翌日は、熱を出して学校を休んでしまったほどだ。


「唯様、まずはお茶をどうぞ」

「ありがとう、みのり」


 久しぶりに飲むみのりの淹れたお茶は美味しかった。

 唯の前にいきなり人が立って、唯はのけぞり、達樹とみのりが唯を守るように、刀を取り出した。


「俺だ」

「青龍様」


 二人は刀をしまうと、跪く。


「しばらく唯と二人にしてくれるか?」

「畏まりました」


 二人は瞬間移動で姿を消した。


……
…………
………………


「唯、記憶があるとは本当か?」

「お久しぶりです、龍之介様」

「ああ、唯、会いたかったぞ」


 龍之介は唯を抱きしめて、触れるだけのキスをする。


「あれから116年も経ったのですね。もうお目にかかれないかと思っておりました」

「俺は諦めなかったぞ」


 唯は微笑んだ。

 幼い唯の顔が更に幼く見える。

「唯を」と願ってくださったのですね。

 龍之介ははっと気付く。99年目に願ったとき、「妻を」とは願わず「唯を」と願った。

 もっと早く「唯を」と願えば、唯に会えたかもしれないのに、龍之介はそのことに気付けなかった。


「遅くなって、すまなかった」

「記憶は誕生日が近づいてきたときに夢に見ました。きっと全部ではないと思いますが。それが真実なのか夢なのかわかりませんでした。今日、達樹が迎えに来て、夢ではないと確信しました。まだ戸惑っています」

「そうか」


 龍之介は唯を腕に抱いたまま、ずっと抱きしめている。


「私の力を封印しているのですか?」

「そうだ。花姫の力はない。花姫の中では過ごすのが辛いだろうが、力がない花姫は龍磨には狙われないだろう。早めに婚礼ができるようにするつもりだ。その服も可愛らしいが花姫の正装に着替えて地下神殿に来て欲しい。待っておる」
 

 唯の体を抱え上げ、座布団に座らせる。


「達樹、みのり」

「はい」

「はい」


 二人が姿を見せる。

「唯を着替えさせ、地下神殿に連れてきてくれ」

「畏まりました」


 二人は深く頭を下げた。

 龍之介の姿は煙のように消えてなくなった。


「わあ、すごい」


 唯は子供らしい声を上げた。


「みのり、私、全部を覚えているわけはないの。夢で死に際の夢をみたの。達樹が来るまで夢か現実かあやふやだったの。だから、いろいろ教えてください」

「はい」


 みのりは年齢相応の声と顔をした唯に微笑んで答えた。


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