花姫だという私は青龍様と結婚します

綾月百花   

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7   龍之介様と結婚します

4   お見送り

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 一度上がれた階段は、次の日も上れた。

 外は怖くないとわかれば、活動的な唯はじっとしていられない。

 桜が描かれた美しい着物を着て、唯は婚礼のお見送りに出てきていた。

 飾り帯で結ばれ、髪は龍之介からもらったかんざしを挿している。


「お幸せになってください」


 小花は花嫁衣装を着ていた。頭には綿帽子を被り、とても美しい。


「唯様、お見送りありがとうございます」


 一番年長だった小花に『様』づけで呼ばれるのは抵抗があるが、この神社の生き神様の青龍様の妻になったのだから、その自覚を唯は持たなくてはいけない。


 ほとんど面識のなかった、小春と琴美にも同じように挨拶をして、唯は三人が牛車に乗り込むのを見守った。

 ゆっくり牛車が目の前を歩き出す。


(どうかお幸せに)


 牛車が見えなくなるまで見送って、唯は御嵩家の庭のほうへ回って神社がある湖の方へと向かって行く。

 途中の神社で参拝して、唯は後ろを振り向く。

 広くて大きな湖が広がっている。


「唯様、お部屋に戻りますか?」

「今日は散歩をしてみようと思うの。途中までしか行けないかもしれないけど、行けるところまで行ってみます」

「では日傘を」


 みのりはどこからか、大きな傘を取り出して差した。


「手品みたいね」

「兄様は、今からここでお茶会をしたいと言ったら、すぐに準備できますよ」


 後ろからついてくる達樹のことをみのりは褒める。


「こんな遊歩道でお茶会を開いたら、通行人の邪魔になります」


 素っ気ない言い方だが、達樹とみのりは二人とも優しい。いつも唯を思いやってくれる。

 ピヨピヨと鳴きながら、小鳥が飛んでくる。

 地下神殿から出てきたのだろう。リベルテは名前の意味の通り自由に生きている。

 基本的に唯のそばを離れようとはしないが、昼間は自分で餌を捕りに山へと戻っていく。


「ここも結界が張ってあるんですよね?」

「御嵩家と屋敷のある神域すべてに結界が張ってあります」

「青龍様の結界は破れません」


 達樹が重ねるように唯に言う。


「今は参拝者も、心にやましい物を抱いた者は、この神社に入ることもできません」

「参拝者も選んでいるの?」

「それほど強い結界が張ってあると、安心していただけましたか?」

「達樹。ありがとう」


 唯の前世の記憶は、二つの指輪をはめてから、徐々に思い出し始めて、今ではすべてを鮮明に思い出している。


「ねえ、結界が破られる瞬間もわかるの?」

「攻撃されている段階でわかります」


 唯は頷いた。


「何かの気配があったら、すぐに神殿にお連れします」

「……わかった」


 記憶を取り戻すと、幸せだった時間も思い出すが、怖かったあの時の記憶も鮮明に思い出してしまう。

 時々下腹部が痛むほど、唯の心は不安定になったが、少しずつ落ち着きも取り戻してきた。

 カサッと足下で、音がして唯は足を止めた。

 リベルテがピヨピヨと鳴きながら、唯の周りを飛んでいる。


「何かいるのかしら?」


 唯は屈んで、草むらを見つめる。

 その隣に達樹も屈み込んだ。


「子猫ね。可愛い」


 真白な子猫は、か弱く鳴いている。

 抱き上げると、お腹から血が流れていた。


「怪我をしているのね、かわいそう」


 掌に載るほどの小さな子猫を、片手に載せて、傷を撫でる。


「近くに大きな獣がいるのかしら?」


 達樹とみのりは周りの気配を探る。

 その隙に、治癒の力をすぐに使った。

 掌が熱くなり、体も熱くなる。


『唯!』


 龍之介の声がすると、すぐ目の前に龍之介の姿が立った。

 唯は龍之介を見上げて、にっこり微笑むと、ぱたりと倒れた。


「青龍様!唯様っ!」


 達樹とみのりが気付いたときには、唯は猫を抱いたまま倒れていた。


「すみません、青龍様」

「今のは唯が、おまえたちの気を他に散らせて、気付かれずに治癒の力を使った。おまえたちは悪くない。唯の悪知恵だ」


 龍之介は唯が抱えている子猫を地面に下ろすと、唯を抱き上げ、瞬間移動で洞窟の寝室に飛んだ。

 ベッドに唯を寝かせた。

 唯の霊気は半分ほどまで落ちている。

 霊力の減り方から子猫は瀕死だったのだろう。唯が助けなければ、数刻もせずに死んだはずだ。それを見捨てることができなかったのだろう。


「治癒の力は使ってはならぬと言ったであろう」


 意識を失っている唯に、龍之介は声を上げるが、本人には聞こえない。

 寝耳に水。暖簾に腕押しだ。


「まったく困った妻だ」


 龍之介の口づけで目覚めるだろうが、罰として、数日、寝かせておこうか?

 このままでも死ぬことはない。

 ゆっくり療養させれば、自力で霊力を溜めていくだろう。

 けれど、唯の声が聞こえない洞窟は、龍之介自身が耐えられない。

 死んだ唯を抱きしめて、泣き続けたあの時間を思い出してしまう。


「唯、俺も唯を亡くして辛かったのだぞ」


 龍之介は唯に唇を合わせると、霊気を注ぎ込む。

 達樹とみのりが跪き、頭をたれている。

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