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11 四神獣の誕生と花姫の解放
5 すれ違い
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龍之介は初めて息子の胸ぐらを掴んだ。
「おまえは唯がただの花姫ではないと理解できなかったのか?三神獣たちが行った高祖花姫の儀式を見ていなかったのか?」
「すみません、父上。目の前で見ていました」
「神の身でありながら母の心を見ることができないのか?唯が怯えていたのも気付かず外に連れ出そうとした。心を見ていればわかるだろう。どうして唯を傷つける言葉を無神経に言うのだ?母上、母上と言いながら、どうして育ての親同然の千鶴の元に身を寄せた?」
「すみません」
「唯に親はお前ではないと伝えたかったのか?」
「違います」
「唯はお前を助けるために囮になった。その結果が死だ。俺はおまえを恨んだことはない。唯はおまえを助けて欲しいと望んでいたからな。だが、俺から唯を奪う行為は許せん。どれほど唯の転生を望んだか、おまえも知っているだろう?知らないか?おまえが生まれる前に116年待った。出会うために116年だ。やっと出会えたのに、また失った。おまえを守るためだ。二度目の転生に65年待った。それなのに、やっと出会えた唯をおまえは傷つける」
「俺も母の転生を待っていました」
「それなら何故、傷つけることばかりする?」
唯は部屋にこもってしまった。
心を覗くが、見えるのは真っ暗な心の中に、寂しさと孤独だった。
呼びかけても、何も答えない。
呼びかけるたびに、心を閉ざしていく。
今では暗闇しか見えなくなってしまった。
寄せ付けるのは、みのりだけだ。
「高祖花姫の守護神が四神獣だと見ていてわからなかったのか?」
龍之介は唯に刻まれた花の刻印を龍星に見せる。
「俺は三神獣たちに許されて、唯にやっと選んでもらえたのに、このまま別れなくてはならないのか?もうどんなに待っても転生はしてこない。もう二度と会うことも許されなくなる。おまえが無神経だからだ」
「俺が何も考えない子供だったから」
「そうだ。お前は見た目より心は幼い。周りに甘やかされて育ったからだろう。どんなに武道を習ったところで、本質の心が子供では、何も守れない」
龍之介は龍星の体を突き飛ばした。
床に転がった龍星は龍之介に土下座した。
「三神獣たちとうまくやっていきます」
「三神獣たちが許すかはわからん」
龍之介は龍星を置き去りにして、唯の部屋に向かった。
少しでも様子が知りたかった。
「みのり、唯の様子はどうだ?」
「お部屋に閉じこもっております。お言葉はありません。ただぼんやり外の景色を見ていらっしゃいます」
「話を取り次いではもらえぬか?」
「一人にしてほしいと言われております」
屋敷の中がざわめきだした。
「三神獣様がおいでになりました」
龍之介は背筋を伸ばす。無意識に顔が緊張する。
「青龍殿、高祖花姫様の心が暗く陰っておるが、何をした」
目の前に玄武と朱雀、白虎が並ぶ。三人とも不機嫌な顔を隠そうともしていない。
「俺が母上を傷つけました」
龍之介の前に龍星が走り込み、目の前で土下座をした。
「高祖花姫様のお子か。何をした?」
「無神経な言動と行動をしました」
「せっかく高祖花姫様が救ったお子が、高祖花姫様を傷つけておるのか?」
朱雀が龍星の長い髪を掴み、頭を上げさせる。
「母上、母上と甘えているように見えていたが、高祖花姫様のお心をここまで暗くさせるとは許しがたい。一度死んでみるか?」
白虎が咆哮する。鋭い牙が龍星の喉に触れた。牙が喉に食い込む寸前に唯の部屋の扉が開いた。
「駄目よ。殺したら」
唯が扉の前に出てきた。
以前より美しい顔立ちに、声は透き通るように綺麗だ。
「この子を殺したら、一生仲間だと認めない」
「高祖花姫様、すみません。少し脅かすつもりだっただけです」
「脅かすのもなしよ」
美しく澄んだ声が、三神獣たちを叱る。
「母上、俺がまだ幼すぎた。何も考えずに行動していました。どうか許してください」
「何も怒っていないわ」
唯はそう言い残すと、また部屋の中に入って行こうとする。
「唯、結婚してほしい」
「もう少し考えたいの」
唯が扉を閉める寸前に、龍星が割り込んできた。
「母上に教えていただきたいことがあります」
「なに?」
「俺を産んだ事を悔やんでいますか?」
「すごく嬉しかった。この子を命をかけて守りたいと思った」
「命をかけて守ってくださったのですね?」
「鬼を目の前にして、怖かったけど、龍星を守るためならなんでもできた。殺される瞬間、龍星を龍之介様と育てたかったと思ったくらいかな?私の未練は。だからショックだったの。千鶴さんにはたくさんお子さんがいるのに、私には結局誰もいなかったと感じてしまって」
「母上、俺は母上の子です」
「産んだだけよ。たった二ヶ月母乳を与えただけ。こんなに大きくて、立派なお医者様になった龍星は、私の子ではないわ。花姫の生る木で生って、親鳥に育てられた私と同じ。母のいない子よ。でも龍星には育ての母がいた。一人でなくてよかったわ。ここでなくて千鶴さんのおうちに帰りなさい。ちょうどクリスマスの時期でしょう。母の手作りの料理を食べてケーキを焼いてもらいなさい」
俯いた唯は部屋の中に入っていこうとした。
「唯、待ちなさい。俺たちは家庭を作るんだろう?家族になるんだろう?」
龍之介が唯の手を握る。
「無理よ。自信がない。こんなに大きな、私より年上の子供が我が子?きっと千鶴さんの方が立派な母よ」
「唯が龍星を産んだ瞬間を俺は見ていた。名付けは唯だ」
「あの頃は幸せだった」
唯がポロリと涙をこぼした。
「母上、俺、ちゃんと三神獣様とうまくやっていきます。どうか離れていこうと考えないでください」
「無理強いはしたくないの。龍星は嫌で家を出て行っていたんでしょ?後から来たのは私の方、出て行くなら私だと思うの」
心の中を覗かなくてもわかるほど、唯は深く傷ついていた。心から血が流れている様子が唯の目を見ているだけでもわかる。
15歳の少女の心は、壊れかけている。何かあと一つ、きっかけがあれば、完全に壊れてしまうだろう。
「我が儘をしていただけです。玄武様、朱雀様、白虎様お許しください。そして若輩者ですがよろしくお願いします」
龍星は三神獣たちに頭を下げて、最後に唯に抱きついた。
「母上、どこにも行かないでください」
唯よりずっと大きな龍星に抱きしめられ、唯は龍星の顔を見上げる。
「15歳の母なんて止めておけばいいのに。私は何もしてあげられないのよ」
唯は龍星の背中に戸惑いながら腕を回した。
三神獣たちは、唯の様子を見て屋敷から出て行った。
「三人で話し合おう」
龍之介は唯と龍星を抱きながら、部屋に入っていった。
窓辺には折れたラケットと水桶が置かれ、濡れたタオルが落ちていた。
「母上、父上の上から飛び降りましたね。足を見せてください」
「大丈夫よ。ちょっと痛かっただけだから」
「父上、母上を押さえつけてください」
「いや、触らないで」
唯は暴れたが、龍之介に抱き上げられて、捕まってしまった。
「母上、足が腫れているではありませんか。痛むはずですが?」
「最初の痛みほどじゃないわ」
「せっかくついた骨が折れています」
唯はため息をついた。
「ちょっと折れたくらいなら、一ヶ月もしたら治るでしょう」
「母上は俺の患者です。母上の足は必ず治します」
結局眠らされ、接合処置を行われた。
唯の足に麻酔をかけた龍之介は床に落ちていた折れたラケットを拾うと、魔術でラケットを元の状態に復元した。唯の心の支えだ。トロフィーは御嵩家にお召し上げになった時に消えている。
唯の存在は、親友の心の中からも綺麗に消えている。15年間、人間界で過ごした痕跡は微塵も残らない。唯には教えていないが、いずれ知ることになるだろう。賢い唯なら気付いているかもしれないが。
「おまえは唯がただの花姫ではないと理解できなかったのか?三神獣たちが行った高祖花姫の儀式を見ていなかったのか?」
「すみません、父上。目の前で見ていました」
「神の身でありながら母の心を見ることができないのか?唯が怯えていたのも気付かず外に連れ出そうとした。心を見ていればわかるだろう。どうして唯を傷つける言葉を無神経に言うのだ?母上、母上と言いながら、どうして育ての親同然の千鶴の元に身を寄せた?」
「すみません」
「唯に親はお前ではないと伝えたかったのか?」
「違います」
「唯はお前を助けるために囮になった。その結果が死だ。俺はおまえを恨んだことはない。唯はおまえを助けて欲しいと望んでいたからな。だが、俺から唯を奪う行為は許せん。どれほど唯の転生を望んだか、おまえも知っているだろう?知らないか?おまえが生まれる前に116年待った。出会うために116年だ。やっと出会えたのに、また失った。おまえを守るためだ。二度目の転生に65年待った。それなのに、やっと出会えた唯をおまえは傷つける」
「俺も母の転生を待っていました」
「それなら何故、傷つけることばかりする?」
唯は部屋にこもってしまった。
心を覗くが、見えるのは真っ暗な心の中に、寂しさと孤独だった。
呼びかけても、何も答えない。
呼びかけるたびに、心を閉ざしていく。
今では暗闇しか見えなくなってしまった。
寄せ付けるのは、みのりだけだ。
「高祖花姫の守護神が四神獣だと見ていてわからなかったのか?」
龍之介は唯に刻まれた花の刻印を龍星に見せる。
「俺は三神獣たちに許されて、唯にやっと選んでもらえたのに、このまま別れなくてはならないのか?もうどんなに待っても転生はしてこない。もう二度と会うことも許されなくなる。おまえが無神経だからだ」
「俺が何も考えない子供だったから」
「そうだ。お前は見た目より心は幼い。周りに甘やかされて育ったからだろう。どんなに武道を習ったところで、本質の心が子供では、何も守れない」
龍之介は龍星の体を突き飛ばした。
床に転がった龍星は龍之介に土下座した。
「三神獣たちとうまくやっていきます」
「三神獣たちが許すかはわからん」
龍之介は龍星を置き去りにして、唯の部屋に向かった。
少しでも様子が知りたかった。
「みのり、唯の様子はどうだ?」
「お部屋に閉じこもっております。お言葉はありません。ただぼんやり外の景色を見ていらっしゃいます」
「話を取り次いではもらえぬか?」
「一人にしてほしいと言われております」
屋敷の中がざわめきだした。
「三神獣様がおいでになりました」
龍之介は背筋を伸ばす。無意識に顔が緊張する。
「青龍殿、高祖花姫様の心が暗く陰っておるが、何をした」
目の前に玄武と朱雀、白虎が並ぶ。三人とも不機嫌な顔を隠そうともしていない。
「俺が母上を傷つけました」
龍之介の前に龍星が走り込み、目の前で土下座をした。
「高祖花姫様のお子か。何をした?」
「無神経な言動と行動をしました」
「せっかく高祖花姫様が救ったお子が、高祖花姫様を傷つけておるのか?」
朱雀が龍星の長い髪を掴み、頭を上げさせる。
「母上、母上と甘えているように見えていたが、高祖花姫様のお心をここまで暗くさせるとは許しがたい。一度死んでみるか?」
白虎が咆哮する。鋭い牙が龍星の喉に触れた。牙が喉に食い込む寸前に唯の部屋の扉が開いた。
「駄目よ。殺したら」
唯が扉の前に出てきた。
以前より美しい顔立ちに、声は透き通るように綺麗だ。
「この子を殺したら、一生仲間だと認めない」
「高祖花姫様、すみません。少し脅かすつもりだっただけです」
「脅かすのもなしよ」
美しく澄んだ声が、三神獣たちを叱る。
「母上、俺がまだ幼すぎた。何も考えずに行動していました。どうか許してください」
「何も怒っていないわ」
唯はそう言い残すと、また部屋の中に入って行こうとする。
「唯、結婚してほしい」
「もう少し考えたいの」
唯が扉を閉める寸前に、龍星が割り込んできた。
「母上に教えていただきたいことがあります」
「なに?」
「俺を産んだ事を悔やんでいますか?」
「すごく嬉しかった。この子を命をかけて守りたいと思った」
「命をかけて守ってくださったのですね?」
「鬼を目の前にして、怖かったけど、龍星を守るためならなんでもできた。殺される瞬間、龍星を龍之介様と育てたかったと思ったくらいかな?私の未練は。だからショックだったの。千鶴さんにはたくさんお子さんがいるのに、私には結局誰もいなかったと感じてしまって」
「母上、俺は母上の子です」
「産んだだけよ。たった二ヶ月母乳を与えただけ。こんなに大きくて、立派なお医者様になった龍星は、私の子ではないわ。花姫の生る木で生って、親鳥に育てられた私と同じ。母のいない子よ。でも龍星には育ての母がいた。一人でなくてよかったわ。ここでなくて千鶴さんのおうちに帰りなさい。ちょうどクリスマスの時期でしょう。母の手作りの料理を食べてケーキを焼いてもらいなさい」
俯いた唯は部屋の中に入っていこうとした。
「唯、待ちなさい。俺たちは家庭を作るんだろう?家族になるんだろう?」
龍之介が唯の手を握る。
「無理よ。自信がない。こんなに大きな、私より年上の子供が我が子?きっと千鶴さんの方が立派な母よ」
「唯が龍星を産んだ瞬間を俺は見ていた。名付けは唯だ」
「あの頃は幸せだった」
唯がポロリと涙をこぼした。
「母上、俺、ちゃんと三神獣様とうまくやっていきます。どうか離れていこうと考えないでください」
「無理強いはしたくないの。龍星は嫌で家を出て行っていたんでしょ?後から来たのは私の方、出て行くなら私だと思うの」
心の中を覗かなくてもわかるほど、唯は深く傷ついていた。心から血が流れている様子が唯の目を見ているだけでもわかる。
15歳の少女の心は、壊れかけている。何かあと一つ、きっかけがあれば、完全に壊れてしまうだろう。
「我が儘をしていただけです。玄武様、朱雀様、白虎様お許しください。そして若輩者ですがよろしくお願いします」
龍星は三神獣たちに頭を下げて、最後に唯に抱きついた。
「母上、どこにも行かないでください」
唯よりずっと大きな龍星に抱きしめられ、唯は龍星の顔を見上げる。
「15歳の母なんて止めておけばいいのに。私は何もしてあげられないのよ」
唯は龍星の背中に戸惑いながら腕を回した。
三神獣たちは、唯の様子を見て屋敷から出て行った。
「三人で話し合おう」
龍之介は唯と龍星を抱きながら、部屋に入っていった。
窓辺には折れたラケットと水桶が置かれ、濡れたタオルが落ちていた。
「母上、父上の上から飛び降りましたね。足を見せてください」
「大丈夫よ。ちょっと痛かっただけだから」
「父上、母上を押さえつけてください」
「いや、触らないで」
唯は暴れたが、龍之介に抱き上げられて、捕まってしまった。
「母上、足が腫れているではありませんか。痛むはずですが?」
「最初の痛みほどじゃないわ」
「せっかくついた骨が折れています」
唯はため息をついた。
「ちょっと折れたくらいなら、一ヶ月もしたら治るでしょう」
「母上は俺の患者です。母上の足は必ず治します」
結局眠らされ、接合処置を行われた。
唯の足に麻酔をかけた龍之介は床に落ちていた折れたラケットを拾うと、魔術でラケットを元の状態に復元した。唯の心の支えだ。トロフィーは御嵩家にお召し上げになった時に消えている。
唯の存在は、親友の心の中からも綺麗に消えている。15年間、人間界で過ごした痕跡は微塵も残らない。唯には教えていないが、いずれ知ることになるだろう。賢い唯なら気付いているかもしれないが。
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