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11   四神獣の誕生と花姫の解放

7   披露宴

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 大晦日の披露宴に、御嵩家は大騒ぎになった。

 お正月の準備をしていた料理人は、正月用の食材を使って披露宴の料理を作り始めた。

 海老や鯛は揃っていたので、披露宴の食材には困らない。酒もお供え用の酒がたくさん寄付されていたので、たんまりとある。

 買い出しに走った使用人もいるようで、御嵩家にある車がすべて出払っている。


「父上、思い切ったことをしますね」

「初詣の願い事はどうするつもりだ?」

 辰巳が呆れたように言ったが、その顔は喜んでいる。

「願い事は宮殿に溜まっていくだろう。後で少しずつ叶えていけばよい。一度に大勢来ても、どうせ聞き取れないからな」


 毎年、龍之介は地下神殿にいるが元日当日に願いを叶えることはない。
 
人が多すぎて、誰の願いかわからなくなる。名を名乗り願い事言っていく者にだけ、あとで願いを叶えるようにしているが、誰だかわかない者には、祈願だけをしていく。


「なんなら辰巳と龍星が神殿にいてくれてもいいが」

「断る」

 付き合いの長い辰巳はすぐに断った。

「俺も母上の披露宴を見たい」

 龍星が地団駄を踏む。

「青龍様、唯様の準備ができました」

「今、迎えに行く」

 達樹に声をかけられ、龍之介は部屋に戻っていく。

 三神獣には、御嵩家から連絡が行くだろう。


……
…………
………………


「唯様、美しいですよ」

「髪が長すぎて、収まりきらないですね」

「大丈夫ですよ。綺麗に纏めました」


 長い髪を編んで綺麗に纏めて綿帽子を被らせる。


「白無垢は二度目ですね」

「転生してからは初めてですよ」

「……そうね」


 唯は照れくさそうに笑って、頬を染める。


「まだ子供だから似合わない?」

「そんなことはありません。とても綺麗ですよ」
 
 鏡の中の唯は、照れくさそうだ。

 白い打ち掛けに綿帽子を被っている。


「今回は身内だけの披露宴なので、お料理を召し上がってもいいですよ」

「でも、汚さないかな?」

「わたくしがそばについております」


 唯はみのりの手を取る。


「いつも一緒にいてくれてありがとう。結婚してもそばにいてくれる?」

「唯様が望まれるなら」


 部屋には美しいウエディングドレスが掛けられている。


「今日はテーブルと椅子が並んでいますから、足に負担もかかりません」

「うん、ありがとう」

「お礼は青龍様におっしゃってください」


 扉がノックされて、龍之介が部屋に入ってきた。


「唯、なんて美しいのだ」

「龍之介様もとても素敵です」
 

 いつもより豪華な蒼い着物を着ていた。


「花嫁は連れて行ってもいいかな?」

「はい、準備はできています」

「唯、おいで」


 手を引かれると思っていたら、龍之介は唯を抱き上げた。


「きゃ、龍之介様、頭の綿帽子が取れてしまいます」

「押さえておれ」

 みのりは嬉しそうな二人を見て、今度こそ幸せになってほしいと願っていた。


……
…………
………………


 龍之介に抱きかかえられて、会場に入ると拍手に出迎えられた。

 三神獣たちが、盛大な拍手をしている。

 天上ではいつも四神獣に囲まれていたが、彼らたちは唯を誘惑しなかった。

 四神獣と唯は一つのチームで、世界を見守っていた。

 唯も地上に降りるまで恋愛感情というものを知らなかった。

 教えてくれたのは龍之介だ。
 
内輪だけの披露宴は、三神獣と御嵩家の従者と屋敷で暇をしている花姫たちだけだった。

 唯はまず、三神獣に頭を下げて笑顔を向けた。三神獣も頷き拍手がもっと湧き上がる。

 次に辰巳に頭を下げた。

 過去の記憶では親友で護衛だと言っていた。きっと今でもその関係は変わっていないだろう。

 指輪を作ってくれた息子の龍星にも頭を下げた。

 御嵩家の従者にも丁寧に頭を下げ、最後に初めて見る花姫たちに頭を下げる。

 花姫たちは面倒くさそうに拍手をしているだけだが、その気持ちもわかる。

「誰?」と彼女たちは、互いに誰何している。

 龍之介は唯を椅子に座らせると、みのりが乱れた白無垢を直してくれる。

「俺の花嫁だ。祝ってくれ」

 ご機嫌な龍之介が声を上げると、料理や酒が振る舞われていく。

 龍之介が酒の入った杯を飲み干すと、龍之介は酒の入った杯を唯の前にそっと持ってくる。

「祝いの酒だ」

「いただきます」

 昔を思い出し、杯を受け取り口にした。

 お酒の量は加減してくれたのか、わずかだった。

「龍之介様、お注ぎいたしましょうか?」

「たっぷり頼む」

 唯から杯を受け取ると、龍之介は唯からのお酒を注がれ、にこやかにしている。

 料理が運ばれてくる。

 三神獣は酒と肴にご機嫌だ。

 玄武も朱雀も白虎も歌を歌い楽しそうだ。

 唯は彼らの歌に手拍子をつけていた。

 料理が半分くらい来たところで「お召し替えの時間です」とみのりが唯の手を握って立たせると、そのまま瞬間移動した。

「突然消えたりして大丈夫なの?」

「足に負担をかけさせるなとのことです」

「龍之介様が?」

「はい」

 みのりは素早く白無垢を脱がしていく。

 足がすべて隠れてしまうような白いウエディングドレスを着ると、みのりは唯の編んだ髪を解いた。

「ねえ、靴はどうするの?」

「素足でも見えないデザインになっております」

「なるほど。包帯も見えないわね」

「ご安心ください」

 ウエーブのかかった長い髪に生花の髪飾りを着けると、また唯の手をそっと取った。

 パッと披露宴で消えた場所に立っていた。

「美しい」

 龍之介が拍手すると、三神獣も大きな拍手をする。

「なんと美しい」

 唯の髪に飾られた花飾りから花が湧き、小さな飾りが大きな飾りになっていた。

 次から次へと花が咲き、散ってもすぐに花を咲かせる。

 花姫たちの目がじっと唯の髪に刺さった花を見ている。

「不思議ね」

「手品かしら?」

「仕掛けが見てみたいわ」

 十人近くいる花姫が、ずっと唯を見ている。

「花姫たちよ。俺は青龍。この神社の生き神だ。俺の妻は高祖花姫、唯だ。天上から降りてきた花姫の中で一番偉いお方だ。我が妻のように、清楚で清らかでいなさい。学べるところは学びなさい。清らかな花姫には、良い嫁ぎ先を早めに探してやろう」

「はい」

 花姫の声が揃って、深く頭を下げた。

「私、偉くないよ。清楚でも清らかでもないよ。普通の女の子だよ」

 唯は龍之介の耳元で、急いで訂正した。



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