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しおりを挟む篤志は実家に寄らずに、そのまま寺に行った。
工場のみんなの顔は見たいが、それ以外にやることはない。
篤志の両親に圧を掛けそうなので、篤志の計画に従った。
手土産は篤志が既に用意していて、俺が買っていたら余っていたところだった。
俺は菜都美が成長していって、どうしてパパだけなのか聞かれたときに、どんな答えをしたらいいのか相談した。
この件は、二人とも同じ答えを言わなければ、成長した菜都美が混乱する。
「普通に事故で亡くなったと言えばいいんじゃないか?実際に事故で亡くなったんだし」
「分かった。誰かに聞かれたら、そう答える」
「そんな切羽詰まった状態なのか?」
「昼に散歩に出かけると、挨拶とかして、擦れ違ったりするんだ。菜都美が歩けるようになったら、公園デビューだろう?人見知りの俺には苦行だが、ママ友と話をまったくしないと、菜都美に友達ができなくなりそうで、一応、親だし。心配だろう」
「それなら俺も誰かに聞かれたら、事故っていうけど、そういえば事故にも色々あるな?」
「うん」
「ここは、ノーマルに交通事故でいこう」
「交通事故だね」
両親、兄夫婦を殺した煽り運転の加害者は、五年の懲役刑を命じられた。
謝罪もない。
損害賠償は、亡くなった遺族や怪我をした者が集まって、弁護士に依頼した。
最初に煽られていた軽自動車に付いていたドライブレコーダーの映像を俺は、コピーしてもらった。
その映像を見て、すごく腹が立った。
軽自動車に乗っていた被害者の遺族が、俺に一緒に戦いましょうと連絡をくれたのだ。
俺は便乗させてもらった感じだ。
お盆の時期に、連絡が入ったのは、未練を残して亡くなったうちの両親や兄ちゃんや菜々美さんが加害者に恨みをもったのかもしれないと思った。
10人殺して、たった5年、刑務所に入るだけで許されるのかと思うと、かなり辛い。
知らされたとき、俺は菜都美を抱いて、大泣きした。
篤志がいてくれなかったら、俺は無気力になるところだった。
最初の事故の原因を起こしたのは、その人だったけれど、父ちゃん達が乗っていた車を高速道路外に落としたトラックの運転手からも、謝罪を受けていない。
トラックの運転手は事故後、精神疾患に罹って、引きこもりになったらしい。
謝ってもらっても、死んだ者達は戻って来ない。
けれど、菜都美には謝って欲しい。
母の温もりを知らずに生きている。
当然にもらえるものだったのに。
俺はチャイルドシートで眠る菜都美の頭を撫でてやった。
「いい子、いい子、まだ寝ていていいよ」
「んぱ、くぅ」
起きそうになって、トントンして寝かしていく。
お寺に到着すると、チャイルドシートのロックを外すと菜都美は起きた。
「おはよう」
「んぱ、おー」
起きたついでにおしめを替えて、ミルクを与える。
「あっちゃん、菜都美を抱っこしていて。片付ける」
「菜都美、おいで。あっちゃんだよ」
「あー、あー、あー」
篤志は外に出て、抱っこしてくれている。
哺乳瓶は、いくつか持ってきた。
洗う場所はないと思ったから。
おしめは使ったら、ビニール袋に入れて縛っておく。
使った物を鞄の中に入れておく。
数珠を持って、手持ちのリュックの中に入れておく。
リュックを背負って、俺も外に出る。
少しヒンヤリしている。
俺はカーディガンを取って、扉を閉めた。
「あっちゃん、菜都美寒がってない?」
「俺は寒くないけれど」
「あっちゃんじゃなくて、菜都美の方。肌が冷えていたら、カーディガン羽織らせて。あと車のロックお願い」
「ちょっと冷えてるかな?」
「赤ちゃんは直ぐに冷えるから」
俺は走って、菜都美に近づいて、カーディガンを羽織らせる。
お寺に三人で入っていく。
住職は、菜都美が大きくなったと、菜都美の頭を撫でた。
お経を上げてもらい、墓参りをする。
掛ける言葉はたくさんあったはずだけれど、墓前に来たら、全部忘れてしまった。
菜都美は俺が幸せにする。
と、それだけ伝えた。
「あっちゃん、ありがとう」
俺は篤志から菜都美をもらう。
篤志も、墓に参ってくれた。
「んぱんぱんぱんぱ」
「どうした?」
菜都美は自分の頭をポンポンする。
「可愛いね、いい子だね」と言って、頭を撫でてやると、菜都美は満足したのかご機嫌になった。
最後に墓前に菜都美を連れて行き、菜都美の姿を見せた。
「あっちゃん帰ろうか」
「もういいのか?」
「ここに来なくても、みんな菜都美を守ってくれているよ」
「それもそうだな」
空には虹が出ていた。
「菜都美、虹だ。見てごらん」
菜都美は空を見た。
「叔父さんと叔母さん、菜都美の本当のパパとママが見せてくれたんだな」
「そうだね、あっちゃん。連れてきてくれてありがとう」
「当然だ。俺も菜都美のパパだからな」
「うん」
俺達は菜都美と虹が消えるまで、空を見ていた。
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