幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 朝霧さんが髪を伸ばし始めたきっかけは、前島さんがしつこいストーカーに遭っていたからだと教えてもらった。

 大学時代、勘違いを起こして自分を好きになっていると思い込んでいた女性は、毎日、しつこく前島さんに話しかけ、いつも一緒にいた朝霧さんに、前島さんが迷惑と思っているのだから、前島さんから離れてくださいと朝霧さんにも文句を言う女性だった。

 朝霧さんと前島さんは、大学時代から同棲をして、研究も二人でしていたという。

 ストーカーの女性は、経済学部で、当然、卒論のレベルも違うし、在学年数も違う。

 ストーカーの女性に声を掛けられ、勘違いで、自分達は付き合っていると思い込んでいるから、卒業をしたら結婚をしましょうと自分勝手に話を進めている。

 キス一つしてないのに、周りの人達に、生理が来ないと心配顔で言い出す始末。

 さすがの朝霧さんも腹を立てて、前島さんと喧嘩をしたそうだが、互いに愛し合っているから、朝霧さんは女装をして、ストーカー女性の前で、前島さんとキスをして見せたそうだ。

 ストーカーの女性は悲鳴を上げて、前島さんを罵倒して、手に持っていたペンで朝霧さんに刺そうとした。

 咄嗟に避けたが、足下が悪かったせいで、倒れた朝霧さんに馬乗りになって、ペン先で刺されそうになったところを、一緒にいた前島さんがストーカーの女性の手首をひねって、朝霧さんの上から退けたそうだ。

 ストーカーの女性はどうして邪魔をするのと泣き出し、状況を見ていた生徒が先生達を呼びに行って、ストーカーの女性は退学になったらしい。

 その後、何度か大学に来たらしいが、門番をしている警備員に見付かり、学内へは入れなくなったという。

 二人で研究をしていた朝霧さんは、それから髪を伸ばし始め、女のフリをするようになったという。


「とにかく勘違いストーカーは、周りが見えてない。自分の都合のいいように考えて、人殺しも悪い事だとは思わなくなる。滝川君には真君だけじゃなくまだ赤ん坊の菜都美ちゃんがいるから、ストーカーは早めに排除した方がいい」

 朝霧さんは自分の経験も話して、篤志にキツく忠告をした。

 朝霧さんから『円城寺弁護士事務所、円城寺勝』と書かれた名刺を受け取った。

 事務所は近所だ。住所は丸の内と書かれていた。


「事情は話しておく。直ぐに行ってきなさい」と言い、朝霧さんはそこで電話をしている。

「菜都美ちゃんは、俺が預かるよ」と安井さんが申し出てくれた。


 二人で「お願いします」と頭を下げて、出かける準備をした。


「離乳食とミルクを飲んだので、そろそろ眠くなってくると思います」

「任せて」

「はい、お願いします」


 二人でお辞儀をして、家を出た。

 朝霧さんと前島さんも一緒だ。


「茶菓子は要りますか?」

「今日は相談だから、無料だしいいだろ。勝とは大学時代の友人だ。気さくな奴だから緊張しなくてもいい」

「はい」と二人で返事をする。

 朝霧さんと前島さんは「このビルの最上階だよ。行ってらっしゃい」と手を振る。

 二人は何気なく事務所まで案内してくれたようだ。

 仲がよくて、親切で二人の関係は好きだなと思う。

 ビルの最上階に上がると、直ぐに事務所があった。

 扉の外にはインターフォンはない。


「開けていいのか?」

「開けてみよう」


 篤志が扉を開けると、もう一つ扉があった。そこにはインターフォンがあった。

 二人で扉の中に入って、篤志がインターフォンを鳴らした。


「どちら様ですか?」

「朝霧さんに紹介された滝川篤志です。円城寺勝さんにお目にかかりたく来ました」

「あっちゃん、日本語変だよ?」

「めっちゃ緊張しているんだ」

「あっちゃんが緊張?『さん』じゃなくて、ここは『先生』って呼ぶんじゃないかな?」

「真、側にいてくれ」

「いるじゃん」


 俺は篤志を見て笑ってしまった。

 いつもオレオレな態度はどこに行ったの?

 でも、篤志、最近、疲れた顔をしていたから、叔父さんや叔母さんにけっこう酷く言われているのかもしれない。

 精神的に疲れているのだろう。

 扉が開けられて、「どうぞ」と招かれた。

 扉の近くに部屋があって、そこに案内された。

 二人で並んで座った。

 元はと言えば、家族が全員亡くなったあの日から始まった。

 最初は俺から話そう。

 男性が二人入ってきた。

 名刺を出されて、受け取った。


「朝霧から、話は聞いているけれど、君たちからも聞きたい」

「まず、俺から話します」


 俺は7ヶ月前に起きた事故の話をした。

 工場を大塚電気の下請けになるって、口約束をしたこと。

 7ヶ月も放置された挙げ句に、突然人が派遣されてきたこと。

 最近は不法侵入されていること。その後に、篤志が話を被していった。

 毎日、朝食と夕食を取ることを強制された。断ると、真を赤子と共に追い出すと脅された。

 社長のお嬢さんと結婚をするようにと命令された。

 断ると、真と赤ん坊、菜都美と言います。追い出すと言われた。

 朝食と夕食を共にすれば、育児休暇を一ヶ月から三ヶ月にしてもいいと言われた。

 真の為に我慢していましたが、真が家出をして実家に戻ったので、俺も追いかけました。

 真の実家の工場は、大塚電気の子会社になると言われていたのに放置されていました。約束を守らない会社を信じられなくなり、真が会社を辞めると決心したので、俺も辞めることにしました。

 大学に再就職の相談に行って、今の会社を紹介されました。

 真は月一で実家の会社の経理やら出勤簿の確認に行かなくてはならなくて、実家に帰って、俺は親孝行のつもりで菜都美を両親に会わせていましたが、両親は血の繋がりのない子を見せられても嬉しくないと言うので、真はもう俺の両親に会わせることはしなくなりました。菜都美は赤ん坊ですが、悪意のこもった言葉は分かるようで、両親が俺を責めたときに、大泣きしたので。

 その後から、社長のお嬢さんが俺の実家に住み込んでいるようです。二人はなんの関係もないのですが、結婚の約束をしていると両親に言っています。二人は抱き合った仲であると両親に言っているようです。事実無根です。俺は真と結婚をしています。女性を見ても欲情はしません。この間、真の家に行ったときは、父親が俺を連れに来ました。家に戻ると、いつまで彼女を放置しておくつもりだと怒鳴られました。両親には真と結婚していることは言ってあります。真と別れろと言われて、両親と喧嘩もしています。両親は彼女と結婚させて、俺がいつか社長になることを望んでいます。社長も実家に出入りしているようです。

 彼女といても話す事もないのですが、両親が真のところに帰してくれなくて。この間は、真から電話をもらって、逃げるように家を出てきました。その後ろを彼女は追いかけてきて、車を走らせた時に助手席の扉を開けて、急ブレーキをかけた隙に、車に乗り込みました。ストーカーとして警察に届けると言ったら、引き下がってくれましたが、その後、社長とお嬢さんは、真の家の工場に侵入しています。真の会社の社員が、工場の中が変だと気づいて、カメラを付けてくれたのです。そこに写っていました」


「ストーカーは大塚電気の社長とそのお嬢さんだね?」

「はい」

「俺達は正式に退職の手続きをして、退職金ももらって辞めています。ただ、俺はプログラミングに精通していたので、会社の中枢を触っていました。ですが、俺は二年間カナダ工場に行っていましたので、日本の中枢は触っていません。中枢のプログラムを触れる者はまだ少ないと思います。ドクターまで取って、学会でも幾つも賞を取れる人材は、そんなに多くはいないですから。そこまで努力して、やっとプログラミングのプロフェッショナルと呼ばれるようになるんです。俺も真もプロフェッショナルと呼ばれる貴重な人材です。結婚で縛って、仕事をさせるなんてご免です。退職した者を追いかけて、社長としても尊敬もできませんし。お嬢さんも物ではないのですから」

「分かりました。先ずは警察にストーカー被害に遭っていることを話してください。ご両親がどこまで洗脳されているか分かりませんが、場合によっては会わない選択をしなくてはならないかもしれません。こちらでは、ストーカー被害の賠償金の請求の申請を行っていきます。その事で何か動きがあれば、直ぐに連絡してください」

「お願いします」


 俺と篤志はお辞儀をして、事務所を出た。その足で警察に行って、ストーカー被害に遭っていると申請をして、同じような話をして、書類を書いて帰ってきた。

 菜都美は昼寝も起きて、安井さんと遊んでいた。


「安井さん、ありがとうございます」

「俺も楽しんでいるから、気にしないで。ちゃんと手続きできた?」

「はい。弁護士事務所と警察に行ってきました」

「んぱんぱんぱんぱ」と菜都美が嬉しそうな顔をする。

「ちょっと待ってね。手を洗ってくるよ」


 俺は急いで手を洗って、うがいもする。

 それから、菜都美を抱きしめた。


「何して遊んだんだ?」

「ばー」

「そうか」


 菜都美の頭をいい子いい子して、安井さんに頭を下げた。


「いつでも子守するから言っていいよ。またね、菜都美」

「はーい」


 いつの間にか、返事ができていることに驚く。


「菜都美、返事覚えたのか?」

「はーい」


 安井さんは笑顔を見せて、帰って行った。


「あっちゃん、疲れた?手洗いとうがいしておいでよ。風邪引いたら菜都美に移るよ」

「ん、そうだな」と言って、篤志はどこか元気なく洗面所に入っていった。


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