5 / 61
1 聖女の証
4 妹の裏切り(4)
しおりを挟むプリュームは家を出たまま王宮で過ごしている。
アリエーテは、既に諦めていた。アリエーテが寝込んでいるうちに、王子を誑かし、婚約者の乗っ取りをしたのだろうと、私は思った。プリュームは婚約者の交換を申し出ていた。アリエーテが拒んでも、今まで自分の好きなように、アリエーテの物を我が物にしてきたのだから、婚約者を奪うことくらい、きっと容易くしたのだろう。
それにしても、アリエーテは貧乏くじを引きまくりだ。
愛し合っていたイグレシア王子は、一度もアリエーテの前に姿を見せていない。
ただ一通の手紙が、エクスタシス公爵家に届けられた。
アリエーテとイグレシア王子の婚約破棄の書状と、プリュームとイグレシア王子の婚礼の手紙だ。家族は戸惑っていたが、既にプリュームは王宮に住んでいるし、結婚式を迎えるだけになっている。
「アリエーテ、辛かろう。結婚式は欠席しても構わないよ」
父が沈んだ顔のアリエーテに告げる。
「大丈夫よ。妹の結婚式だもの。お祝いしなくては」
異世界転生した先の私は、くじ運が悪い聖女役なのね。
アリエーテはおとなしい性格で、悲しみもうちに抱え込み、ただ一人で悲しんでいる。
アリエーテは私の存在に気付いている。
会話は私とアリエーテの二人で話していた。気付かれてもおかしくはない。
同じ体に違う意識が混じっていることに気付いているアリエーテに、話しかけられた。
『私はアリエーテと申します。胸の薔薇のような痣を見たでしょう。その痣は聖女の証です。聖女は私が知る限り、この世界に私しかいません。私は人の感情を鎮める力があります。心を癒やし、病んだ心を持つ者を治すこともできます。時には不治の病も治します。妹にはその力はございません。私はイグレシア王子と幼いときから結婚の約束をしていました。互いに愛を育んできました。今でもとてもお慕いしています。妹に迫られても、彼なら突っぱねてくれると信じていましたが、妹の方が上手だったのでしょう。妹は私が持っている物を欲しがる癖がありました。今までは持ち物やドレス等でしたが、今回は私の愛するイグレシア王子を奪われてしまいました。私は、もう何もかも嫌になりました。私は心を閉じて、体の底に沈めましょう。どうぞあなたが私の体をお使いください。性格が変わろうと、今の状態なら誰も気にしないでしょう。最後にあなたの名前を教えてください』
『日本から来た、飯田由香といいます』
『異国の方なのですね。飯田由香として生きてください』
そしてアリエーテの意識が静かに沈んでいった。
斯くして、私はアリエーテと生きて行くとになった。
私はアリエーテの私物を見て歩いた。とても質素だ。ドレスを見て、その数の少なさに驚いた。クローゼットにかけたれたドレスは古い物がたった2着、幼い頃に仕立てた物だろう。露出が少なく、丈も短く感じる。ワンピースは白い物が3着あるだけだ。
プリュームの部屋では使用人が荷物を片付け、王宮へと運ぶ準備をしていた。何気なく、部屋に入りクローゼットの中を見て、ドレスやワンピースの数の違いに驚く。
新しく仕立てた物は、プリュームが持っていったのだろう。装飾品も派手やかで持ち物も多い。
片付けの邪魔になるので、私は部屋から出て、両親の部屋の扉をノックした。
「お父様、お母様。お願いがあるの」
「なんだい?」
父親が入り口に立っている私を部屋に招いてくれた。
部屋にあるソファーには母が座っていた。その横に座るように父に言われた。母の手が私の手を握る。両親には愛されているのだろう。
「プリュームの結婚式に着ていくドレスがないの。作ってくださいますか?」
「いいですとも。いつもアリエーテはプリュームにドレスをあげてしまうから、確かにドレスはないわね。明日にでもお店に行きましょう」
「ありがとう」
「話はそれだけか?」
「はい、お父様。夜分にお邪魔しました」
私は素早くソファーから立ち上がると、部屋から出て行った。
「アリエーテお姉様」
廊下に出ると、弟のタクシスが声をかけてきた。
「どうしたの?タクシス」
タクシスは言いづらそうにしている。
部屋に招いて、ベッドに並んで座った。
この部屋には、ソファーもドレッサーもない。
「プリュームお姉様の包帯の下を見たことがあるんだ」
私は頷き、その先を促す。
「包帯の下に、薔薇の絵が描かれていたんだ。昔はなかったのに、旅行に出かけた後から、手首に薔薇の絵が描かれていた。お姉様の聖女の印は見たことはないけれど、真似をしたんじゃないかな?今回の戦いもお姉様に付き添って戦場に行き、プリュームお姉様は力を使ったと、皆に言いふらしていたから……」
タクシスは一気に話して、肩を落とした。
私を気遣ってくれているのが、よく分かる。
「ありがとう、タクシス。嘘をついて王宮に潜り込んだのなら、きっとこの先、苦労するわ」
「アリエーテお姉様は優しすぎます。いくら双子だからとプリュームお姉様に、色々差し上げて、婚約者まで奪われてしまうなんて」
「……そうね。これからは何も奪われないように気をつけるわ」
姉想いの優しい弟の頭を撫でて、そっと背中を押す」
「もう遅いわ、休みなさい」
「おやすみなさい、アリエーテお姉様」
タクシスは私の頬にキスをして、部屋を出て行った。
王家は聖女を迎えたかったのだろう。どこまで嘘が見破られずに続くだろう?
アリエーテの悲しみを思うと、王子様を取り戻してあげたい気持ちもあるが、そうなったら私の意識はどこに行くのだろう?
元の世界に戻れるのなら戻りたいが、アリエーテの心が沈んでしまった今は、アリエーテとして生きなければいけない。
3
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳
どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。
一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。
聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。
居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。
左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。
かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。
今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。
彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。
怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて
ムーライトノベルでも先行掲載しています。
前半はあまりイチャイチャはありません。
イラストは青ちょびれさんに依頼しました
118話完結です。
ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる