転生したら聖女でした。聖女として生きてきます

綾月百花   

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1   聖女の証

4   妹の裏切り(4)

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 プリュームは家を出たまま王宮で過ごしている。
 アリエーテは、既に諦めていた。アリエーテが寝込んでいるうちに、王子を誑かし、婚約者の乗っ取りをしたのだろうと、私は思った。プリュームは婚約者の交換を申し出ていた。アリエーテが拒んでも、今まで自分の好きなように、アリエーテの物を我が物にしてきたのだから、婚約者を奪うことくらい、きっと容易くしたのだろう。
 それにしても、アリエーテは貧乏くじを引きまくりだ。
 愛し合っていたイグレシア王子は、一度もアリエーテの前に姿を見せていない。
 ただ一通の手紙が、エクスタシス公爵家に届けられた。
 アリエーテとイグレシア王子の婚約破棄の書状と、プリュームとイグレシア王子の婚礼の手紙だ。家族は戸惑っていたが、既にプリュームは王宮に住んでいるし、結婚式を迎えるだけになっている。

「アリエーテ、辛かろう。結婚式は欠席しても構わないよ」
 父が沈んだ顔のアリエーテに告げる。
「大丈夫よ。妹の結婚式だもの。お祝いしなくては」

 異世界転生した先の私は、くじ運が悪い聖女役なのね。
 アリエーテはおとなしい性格で、悲しみもうちに抱え込み、ただ一人で悲しんでいる。
 アリエーテは私の存在に気付いている。
 会話は私とアリエーテの二人で話していた。気付かれてもおかしくはない。
 同じ体に違う意識が混じっていることに気付いているアリエーテに、話しかけられた。

『私はアリエーテと申します。胸の薔薇のような痣を見たでしょう。その痣は聖女の証です。聖女は私が知る限り、この世界に私しかいません。私は人の感情を鎮める力があります。心を癒やし、病んだ心を持つ者を治すこともできます。時には不治の病も治します。妹にはその力はございません。私はイグレシア王子と幼いときから結婚の約束をしていました。互いに愛を育んできました。今でもとてもお慕いしています。妹に迫られても、彼なら突っぱねてくれると信じていましたが、妹の方が上手だったのでしょう。妹は私が持っている物を欲しがる癖がありました。今までは持ち物やドレス等でしたが、今回は私の愛するイグレシア王子を奪われてしまいました。私は、もう何もかも嫌になりました。私は心を閉じて、体の底に沈めましょう。どうぞあなたが私の体をお使いください。性格が変わろうと、今の状態なら誰も気にしないでしょう。最後にあなたの名前を教えてください』

『日本から来た、飯田由香といいます』

『異国の方なのですね。飯田由香として生きてください』

 そしてアリエーテの意識が静かに沈んでいった。
 斯くして、私はアリエーテと生きて行くとになった。


 私はアリエーテの私物を見て歩いた。とても質素だ。ドレスを見て、その数の少なさに驚いた。クローゼットにかけたれたドレスは古い物がたった2着、幼い頃に仕立てた物だろう。露出が少なく、丈も短く感じる。ワンピースは白い物が3着あるだけだ。
 プリュームの部屋では使用人が荷物を片付け、王宮へと運ぶ準備をしていた。何気なく、部屋に入りクローゼットの中を見て、ドレスやワンピースの数の違いに驚く。
 新しく仕立てた物は、プリュームが持っていったのだろう。装飾品も派手やかで持ち物も多い。
 片付けの邪魔になるので、私は部屋から出て、両親の部屋の扉をノックした。

「お父様、お母様。お願いがあるの」
「なんだい?」

 父親が入り口に立っている私を部屋に招いてくれた。
 部屋にあるソファーには母が座っていた。その横に座るように父に言われた。母の手が私の手を握る。両親には愛されているのだろう。

「プリュームの結婚式に着ていくドレスがないの。作ってくださいますか?」
「いいですとも。いつもアリエーテはプリュームにドレスをあげてしまうから、確かにドレスはないわね。明日にでもお店に行きましょう」
「ありがとう」
「話はそれだけか?」
「はい、お父様。夜分にお邪魔しました」

 私は素早くソファーから立ち上がると、部屋から出て行った。

「アリエーテお姉様」
 廊下に出ると、弟のタクシスが声をかけてきた。
「どうしたの?タクシス」
 タクシスは言いづらそうにしている。
 部屋に招いて、ベッドに並んで座った。
 この部屋には、ソファーもドレッサーもない。
「プリュームお姉様の包帯の下を見たことがあるんだ」
 私は頷き、その先を促す。
「包帯の下に、薔薇の絵が描かれていたんだ。昔はなかったのに、旅行に出かけた後から、手首に薔薇の絵が描かれていた。お姉様の聖女の印は見たことはないけれど、真似をしたんじゃないかな?今回の戦いもお姉様に付き添って戦場に行き、プリュームお姉様は力を使ったと、皆に言いふらしていたから……」
 タクシスは一気に話して、肩を落とした。
 私を気遣ってくれているのが、よく分かる。
「ありがとう、タクシス。嘘をついて王宮に潜り込んだのなら、きっとこの先、苦労するわ」
「アリエーテお姉様は優しすぎます。いくら双子だからとプリュームお姉様に、色々差し上げて、婚約者まで奪われてしまうなんて」
「……そうね。これからは何も奪われないように気をつけるわ」
 姉想いの優しい弟の頭を撫でて、そっと背中を押す」
「もう遅いわ、休みなさい」
「おやすみなさい、アリエーテお姉様」
 タクシスは私の頬にキスをして、部屋を出て行った。

 王家は聖女を迎えたかったのだろう。どこまで嘘が見破られずに続くだろう?
 アリエーテの悲しみを思うと、王子様を取り戻してあげたい気持ちもあるが、そうなったら私の意識はどこに行くのだろう?
 元の世界に戻れるのなら戻りたいが、アリエーテの心が沈んでしまった今は、アリエーテとして生きなければいけない。


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