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4 聖女の誘拐
3 誘拐(3)
しおりを挟む雪は吹雪になり、馬車の跡が分かりづらくなってきた。
「この道はどこに続く?」
「今は南に向かっています。この道を真っ直ぐに行くと南の国境に出ます」
「父上、まだ跡が見えます」
「馬車は進めるか?」
「馬が嫌がっておりますが、行けるところまで行きましょう。どちらにしてもここで向きを変えることはできません」
馬車は慎重に分岐点ごとに行き先を確かめる。
行き着いたのは、南の国境だった。高く壁ができている。
マルモルは馬車を降りて、国境を警備している警備隊に声をかけた。
「誘拐された娘を追っている。ここを通してくれ」
「駄目だ。旅券はないだろう」
「だから、娘を誘拐した犯人を追っている」
「ここを通った馬車はない」
「父上、馬車の跡が残っています」
「嘘を言うな。雪で何も見えないだろう」
「タクシス、こちらに来なさい」
数人の国境警備隊が銃を持ち、出てきた。
マルモルはこれ以上の追尾は無理だと断念した。
「旅館に戻ってくれ」
マルモルはタクシスと馬車に乗り込む。
旅館の馬車は、今来た道を戻っていった。
旅館に着くと、朝を待たずに自宅へと馬車を走らせた。
プリュームはお腹を押さえて、泣いているし、ルーメンもアリエーテのコートを抱きしめて呆然としている。
マルモルとタクシスは、理不尽な国境警備隊の態度に怒りを覚え、難しい顔をしている。
楽しい旅は、アリエーテを失うことで終わってしまった。自宅に戻ったら、至急、王宮に出向かなければならない。
「父上、今のうちに休んでください。自宅に戻れば、休む時間がなくなります」
「そうだな。タクシスもよく頑張った。自宅に戻るまでやることはない。タクシスも眠りなさい」
「はい、父上」
馬車が止まったのは早朝だった。屋敷から使用人が出てきて、荷物を下ろしていく。
「ルーメン、このまま宮殿行ってくる」
「あなたお願いします」
「ああ」
「父上」
「タクシスは、家を守っていてくれ」
「はい」
タクシスはプリューム背負うと、プリュームの部屋まで連れて行って、モリーとメリーに託した。
「お医者様をお願いします」
「畏まりました」
予定より早い帰宅に、家中が慌ただしく動き出す。
使用人が医者を呼びに行っている間に、ルーメンは娘の部屋を訪ねる。
「タクシス、ありがとう。食事を摂っていらっしゃい」
「はい」
タクシスには、これ以上できることはない。
もっと鍛えなければと、幼い自分がもどかしい。
「奥様、アリエーテ様は?」
「誘拐されてしまったの」
モリーとメリーは一瞬呆然として、目の前の仕事に戻る。
いつもは侍女を寄せ付けないプリュームは、体を動かす度に痛がり、そっとコートを脱がすと、洋服も脱がせていく。
腕や腰には擦り傷ができ、腹部は赤くなっている。医師に診せるためにガウンを着せて、ベッドに寝かせると、着ていた洋服を片付ける。
ルーメンはプリュームの横に寄り、薄紅色の髪を撫でる。
「痛みは引かないの?」
「昨夜より楽にはなりました。それよりもお姉様が心配で」
「陛下と殿下がなんとかしてくれるでしょう」
医師が来て、プリュームを診察した医師は打撲と擦過傷だと言ったが、腹部への殴打は経過観察と言って帰って行った。
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