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4 聖女の誘拐
4 誘拐(4)
しおりを挟む私はアリエーテに呼びかけ続けていた。意識は沈み眠っている。打たれた頬が痛いのと頭が猛烈に痛む。
馬車に寝かされている。背中の下は、布団か何かが敷かれ、毛布が数枚かけられている。
最低限のぬくもりだ。着ているものは旅館の寝間着で、寒い。ガタガタと体が揺れて、馬の嘶きが聞こえる。馬車に乗せられているようだ。
露天風呂ではプリュームと姉妹同士仲良くしていられたのに、襲いかかってきたのは誰だろう。私は音を拾うように耳をそばだてる。
「聖女様にこんな乱暴な真似をして、果たして許してもらえるだろうか?」
「王宮が破滅状態なのだから、ここは清めてもらうより方法が見当たらないという決断だ。何度も議会で話し合われた事だ」
言葉は少なかったが、聖女様に何かお願いしたことがあるようだ。王宮が破滅状態と言うのは、どういった状態なのだろう。
「時間だ。そろそろ薬を飲ませてくれ、目を覚まさせると、我々がやられるか、聖女様を傷つける事になる」
口を開けられると、口の奥の方に慎重に水薬を飲まされた。
飲まされているのは、睡眠薬のようだ。
宮殿に出向いたマルモルは、早朝に訪問したことを謝罪し、アリエーテが誘拐されたことを報告した。聖女は国の宝。我が娘であっても、アリエーテは国のものだ。
「アリエーテはどこに連れて行かれたのだ?」
イグレシアの顔色が変わる。
「昨夜は雪が降っておりました。旅館から馬車の跡を追っていくと南の国境に続いていましたが、国境警備隊の話では、馬車は通っていないと言い張りましたが、馬車の痕跡はありました。銃を出してきたので、追跡はそこで終えるしかありませんでした」
「南の国境。確か王宮でトラブルが起きていると、議会で言われていましたね。父上」
「ペンサミエント公爵家のアルシナシオン殿が言っていたな」
「ここは民間の旅行者を装って国に忍び込んだ方が早いでしょう。父上は旅券をお願いします。僕はアルシナシオン殿に詳しく聞き直してきます。騎士団を招集してください」
「行ってこい。準備はしておく」
イグレシアはマルモルの乗ってきた馬車に乗り込むと、ペンサミエント公爵家に向かった。
アルシナシオンに会いに行くと、アルシナシオンは早朝のランニングに出かけていた。ペンサミエント公爵の家の中で待たせてもらう。30分後くらいにアルシナシオンは戻って来た。
「アリエーテが誘拐された」
南の国境から先へと伸びていた車輪の跡の話をすると、まず、アルシナシオンはプリュームの事を聞いてきた。
「腹を殴られ、倒れて擦り傷はあるが、今は家で休ませている」と言うと、ホッとした顔をする。
「街の居酒屋の情報だから、詳しいことは分かりませんが、宮殿の中に住んでいる国王、王妃、王子、王女達も、鬼が憑依したように性格も変わり、議会も荒れているという程度の情報しかありません」
「今から、民間人を装って、救出に向かうつもりだ。案内に一緒に来てくれるか?」
「畏まりました。すぐに支度をします。支度次第、王宮に向かいます」
「助かる」
「頼む」
イグレシアとマルモルは、アルシナシオンに頭を下げた。
マルモルは、イグレシア殿下を宮殿まで送ると、一端自宅に戻り、旅支度を始めた。
「アリエーテをお願いします」
「必ず、救い出す」
素早く朝食を食べた後、旅行に出かける装いで剣を腰に携えると、コートを纏い、旅行鞄を持ち、準備を整える。出かける前に、アルシナシオンが訪ねてきた。
「プリュームに会わせてください」
「こちらにどうぞ」
ルーメンはプリュームの部屋に案内した。
「プリューム、大丈夫か?」
「アルシナシオン様、とても痛かったです」
「痛みは軽くなったか?」
「はい。でもお姉様をお救いできませんでした。お姉様は頭を壁に打ち付け意識を失ってしまいました」
プリュームはアルシナシオンの顔を見て、逞しい体に手を伸ばした。
「アリエーテを救いに行ってくる。おとなしく待っていろ」
「はい。どうぞご無事に帰って来てください」
逞しい手に手を握られ、プリュームはアルシナシオンに頭を下げる。
「行ってくる」
「待っています」
アルシナシオンは荷物を持つと、部屋を出て行った。
国王陛下は会社の慰安旅行という名目で、横座りの幌馬車を二台出した。アリエーテに何かあってはいけないので、医師と女性看護師も混ざっている。騎士団は精鋭部隊から、少人数でも勝てる人材を集めた。その中に、イグレシアも混ざっている。
一刻も早く助け出しこの腕で抱きしめたい……その想いを胸に。
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