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4 聖女の誘拐
7 誘拐(7)
しおりを挟む医師が来て、アリエーテの頭の処置が終わった。やっと抜糸が終わり、あと一日我慢すれば、お風呂にも入れるようになる。体力も戻って来て、起きていられるようになった。
世話になっている公爵家には、子供もいて、居間になっている応接室は賑やかだ。アリエーテが借りている客間にも、楽しそうな笑い声が聞こえる。
用意されたワンピースは、白でシンプルな形だ。どんな体型でも着られるように、ゆったりと作られた物で、痩せたアリエーテには大きめだ。
由香はその洋服を見て、アリエーテには似合わないと文句を言ったが、アリエーテは出された物を黙って受け取った。
食事は部屋に届けられる。やっと普通食が食べられるほどになった。部屋の前には騎士がいて、逃げられないようになっている。
自由のようで自由ではない。
明日、お風呂に入って身体を清めてから、アリエーテは試しに祈りの儀式をしてみようと思っている。
凶暴になる病気を考えていたアリエーテは、精神病の一つに凶暴化する病気を思い出した。何かストレスになる物があるのかもしれない。ストレスは感染するように広がることもある。
誘拐されて七日目の朝、朝食を摂った後、久しぶりにお風呂に入り、身体を清めた。侍女がお風呂の手伝いにやって来たが手伝いは断り、一人で入浴をした。
アリエーテが迷っている。
果たして祈りで収まるだろうか?と……。
祈りで収まった後は、国に戻してもらえるかと心配していた。
他国に聖女が生まれたという噂は流れてこない。どの国でも聖女の存在を欲しがり、聖女を巡って戦いも起きたことがある。
由香は、アリエーテに話しかけた。
『誘拐されて、7日目よ。両親が国に戻り、アリエーテの居場所を探しているはずよ』
アリエーテは、そのことに、今気付いたように顔を上げた。
『既にこの国に来ている可能性が高いのではないかしら?』
『そうね、そうよね。目立つ場所で聖女の祈りをしたら、気付いて貰えるかもしれないわ』
アリエーテの沈んだ心が明るくなる。
湯船に浸かっていたアリエーテは、タオルで身体を拭い、用意された衣服を身につけていく。今度のワンピースは、アリエーテの身体にぴったり合うような上品なワンピースだった。
アリエーテは扉を開き、「儀式を行います」と騎士に伝えた。
「できるだけ、広い場所に連れて行ってください」
「しばらく、お待ち下さい」
騎士は頭を下げると、家主の元に向かった。
馬車に乗せられ、連れて行かれたのは、王宮の庭園だった。
高台にあり国が一望できる。確かに広い場所ではあるけれど、ここでは誰もが入れる場所ではない。少し落胆したが、まずは片付けてしまおう。
浄化の祈りを始めると、空いっぱいに虹色が広がる。清浄な光が降り注ぎ、王宮から人々が出てきて、美しい光を浴びている。人々が光に魅せられて光を浴びる。
イグレシアはアリエーテの清浄な光を見つけて、外に出た。
騎士達も気づき、外に出た。
「イグレシア様、馬を借りました」
アルシナシオンと騎士が馬を連れてやって来た。
「急げ!」
「どこにいるのか、分かるか?」
「デザロージュ王宮の方だと思います」
アルシナシオンがイグレシアの横に並び、答える。
「こちらでございます」
アルシナシオンが先導する。
清浄な光が消えていく。
アリエーテは力を使い果たし、膝をつく。
デザロージュ王宮の庭園では、人々が倒れている。
上手くいったのだろうか?
屋敷で世話になっていたウルメスさんが、「大丈夫でございますか?」と近づいてきた。
先に浄化した彼には、今の浄化の力の影響は無かったようだ。
『気を失ってはダメよ。アリエーテ。助けが来るまで気をしっかり持って』
『ええ、分かっているけれど。力が出ないわ』
アリエーテの意識が遠くなっていく。
『アリエーテ、気を失ってはダメよ』
由香はアリエーテに何度も声をかけたが、アリエーテのどんどん意識が遠くなっていく。
「聖女様を我が家へお連れして下さい」
騎士の立派な腕が、華奢な身体を抱き上げている。
清浄の光を浴びて、倒れていた者が家へと戻っていく。
倒れていた者は屋敷に戻り、ベッドで眠る。その動きは無意識で、声をかけても反応はない。国中の国民も道に倒れ、起き上がり、寝床に戻って行く。
アリエーテは馬車に乗せられ、馬車が動き出した。馬車とイグレシア達の馬がすれ違った。
アルシナシオンが、騎馬隊の半分に馬車を追うように指示を出して、王宮の庭園に到着したが、その場には、アリエーテの姿は既に消えていた。
「……アリエーテ」
イグレシアは悔しそうに、すれ違った馬車を追いかける。
「殿下、騎士の半分は、馬車を追っております。我々は宿で報告を待ちましょう」
「アリエーテは浄化の儀式を行った後は、数日、寝込む。身体は無事だろうか?」
イグレシアはアリエーテを案じた。
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