30 / 61
4 聖女の誘拐
8 誘拐(8)
しおりを挟む馬車が止まったのは、立派な屋敷だった。馬車から降りてきたのは、騎士だった。その腕には、意識を失ったアリエーテが運ばれていた。アリエーテは屋敷の中に運ばれていく。屋敷の主人なのか、男性が一人、素早く走り扉を開けている。
馬車は3人を下ろすと、素早く片付けられた。騎手も屋敷に入っていく。
馬車を追っていた5人の騎士は、屋敷の前に移動した。
「ミエンブロ公爵家に滞在されている。殿下に報せる。後は、見張りを頼む」
騎士は仲間の騎士を4人残し、宿に向かった。残された騎士は、馬から下りると、馬を離れた場所に繋いで見張りを始めた。
アリエーテは意識を失い、ベッドに寝かされた。
由香はアリエーテの中で、部屋の様子を窺っている。何かされないか、心配で少しでも気配があれば、耳を凝らす。
屋敷の者は、アリエーテが気を失ったのだと思い、着替えもさせずにベッドに寝かせている。浄化の力は、アリエーテの生命を削ぐ勢いで体力も気力も奪う。しばらくは目を覚まさないだろう。
「王宮を訪ねてくれるか?国王陛下のご様子を見てきて欲しい」
家主が騎士に頼んでいる。
「畏まりました」
扉が開き誰かが出て行った。きっと騎士が出て行ったのだろう。
宿に着いたイグレシアは、使いの騎士が戻るのを待っていた。すぐにアリエーテを救いに行けるように馬車の準備も騎士達が始めている。荷物を積み込み、宿の支払いも済ませておく。
待ち望んだ騎士が戻って来た。
「アリエーテ様の居場所が分かりました。すぐに出発を」
イグレシアが立ち上がった。
「行くぞ」
「はっ!」
素早く馬車に乗り込むと騎士が騎手を務めて、アリエーテが攫われている屋敷に向かった。
ミエンブロ公爵家の前には、アリエーテを救出しに来ていた者が集まっている。
アルシナシオンがミエンブロ公爵家のベルを鳴らした。使用人が出てきたところで、騎士たちが突入した。
「聖女様をお返し願いたい」
アルシナシオンが大声で叫んだ。先ほど、家の扉を開けた男性が、部屋から飛び出してきた。
その部屋に向かって、数人の騎士が向かう。
「私は、エスパルダ王国の王子、イグレシアだ。我が国の聖女を奪い返しに来た」
騎士の一人が、部屋の中にいた子供を捕らえ、剣を構える。居間にいる騎士は、身近な者を捕まえて、剣を向ける。一瞬に緊張状態に変わった。
「父上、助けて下さい」
幼子が泣き出した。
「聖女様は、こちらにおいでだ。息子を助けてくれ」
幼子を抱えた騎士は剣を鞘に収めるが、幼子を抱き上げたまま、二階へと上がっていく。
イグレシアも二階の部屋に向かった。
扉を大きく開くと、ベッドの上にアリエーテが眠っていた。
「我が王国から、聖女を誘拐したのは、おぬしか?」
「左様でございます」
イグレシアは腰に携えていた剣を抜くと、真っ直ぐ剣を男へと向ける。
「ここで首を落とされても文句を言えぬ事をしたと分かっての事か?」
「はい。申し訳ございません。我が国の国王一家、国民の為に聖女様のお力が必要だったのでございます」
「国を通して申請はなかったはずだ。この国は聖女を奪うつもりで、このような乱暴な事を行ったと解釈しても構わぬのか?」
「我々も冷静な判断ができなくなっておりました。先に、聖女様に清められ、やっと我が家は先に正常な判断ができるようになりました」
家主は、跪き頭を深く下げている。
「エスパルダ王国へ申請を出し、聖女様をお迎えすべきでございました。やっと正常な判断を下せるようになったのは、聖女様のお陰でございます。指導者の私の責任、息子の命をどうぞお助けください」
「ミエンブロ公爵、この国で何が起きて、聖女の力が必要だったのか答えられるか?」
「……はい」
ウルメスは事の成り行きを詳しく話した。
イグレシアは、子供の解放を言い渡した。子供は泣きながら母の元に走って行った。
「今、我が家の騎士が王宮を見に行きました。国王様々方が元通りに戻っていれば、聖女様の祈りが届いたと思われます」
「翌日にならねば、結果は分からぬぞ」
「そうでございますか?」
「このまま我が国の聖女は連れ戻す。聖女への依頼は国を通してするように」
イグレシアは剣を鞘にしまう。
「許していただけるのですか?」
「聖女が救った命だ。奪うわけにいかぬ」
「ありがとうございます」
ウルメスは床に額を付けるほど、頭を下げた。
「ただし、二度目はない」
「……はい」
イグレシアはアリエーテの元に駆けつけた。
アリエーテが助けた命ならば、ここで殺してはならない。本当は斬り殺すだけでは済まされないが、後でアリエーテが嘆く姿を見たくはない。
イグレシアがアリエーテを抱き上げると、騎士達が、イグレシアとアリエーテを守るようにつきそう。玄関を開けられ、馬車へと向かう。馬車の足元に布団が敷かれている。
「頼む」
「畏まりました」
屈強な騎士が、アリエーテを抱き上げ、馬車に乗せると、女性看護師がアリエーテをコートで包み、そっと寝かせる。
「撤退だ!」
アルシナシオンが大声を上げると、家の中で、人質を取っていた騎士達が馬車の元に戻ってくる。
二台の馬車にすべて乗り込み、自国へと戻る。
「アリエーテ」
イグレシアと父のマルモルがアリエーテの頬に触れる。
「殿下、聖女様を診察いたします」
「ああ、頼む」
医師が狭い馬車で移動してきて、アリエーテの診察を始める。聴診器で胸の音を聞き、身体に触れていく。骨折の有無を調べ、頭の診察を始めると、看護師が電灯をつけて、頭に近づける。
「頭に傷跡がありますが、きちんと処置はなされています。他に異常は今のところ見当たりません」
「そうか」
イグレシアとマルモルは、ホッとする。
看護師が毛布を二枚かけて、アリエーテが寒くないように、処置をした。
「殿下、娘をお救い下さりありがとうございます」
「アリエーテは私の妻になる身だ。当然のことをしたに過ぎない」
マルモルは深く頭を下げる。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※小説内容にはAI不使用です。
※「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」様にも掲載しております。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる
もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。
継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。
植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。
転機は突然訪れる。
「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。
【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。
豆丸
恋愛
竜神都市アーガストに三人の聖女が召喚されました。バツイチ社会人が竜神のお手当てをしてさっくり日本に帰るつもりだったのに、竜の神官二人に溺愛されて帰れなくなっちゃう話。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる