転生したら聖女でした。聖女として生きてきます

綾月百花   

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4   聖女の誘拐

8   誘拐(8)

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 馬車が止まったのは、立派な屋敷だった。馬車から降りてきたのは、騎士だった。その腕には、意識を失ったアリエーテが運ばれていた。アリエーテは屋敷の中に運ばれていく。屋敷の主人なのか、男性が一人、素早く走り扉を開けている。
 馬車は3人を下ろすと、素早く片付けられた。騎手も屋敷に入っていく。
 馬車を追っていた5人の騎士は、屋敷の前に移動した。

「ミエンブロ公爵家に滞在されている。殿下に報せる。後は、見張りを頼む」

 騎士は仲間の騎士を4人残し、宿に向かった。残された騎士は、馬から下りると、馬を離れた場所に繋いで見張りを始めた。




 アリエーテは意識を失い、ベッドに寝かされた。
 由香はアリエーテの中で、部屋の様子を窺っている。何かされないか、心配で少しでも気配があれば、耳を凝らす。
 屋敷の者は、アリエーテが気を失ったのだと思い、着替えもさせずにベッドに寝かせている。浄化の力は、アリエーテの生命を削ぐ勢いで体力も気力も奪う。しばらくは目を覚まさないだろう。

「王宮を訪ねてくれるか?国王陛下のご様子を見てきて欲しい」

 家主が騎士に頼んでいる。

「畏まりました」

 扉が開き誰かが出て行った。きっと騎士が出て行ったのだろう。






 宿に着いたイグレシアは、使いの騎士が戻るのを待っていた。すぐにアリエーテを救いに行けるように馬車の準備も騎士達が始めている。荷物を積み込み、宿の支払いも済ませておく。
 待ち望んだ騎士が戻って来た。

「アリエーテ様の居場所が分かりました。すぐに出発を」

 イグレシアが立ち上がった。

「行くぞ」
「はっ!」

 素早く馬車に乗り込むと騎士が騎手を務めて、アリエーテが攫われている屋敷に向かった。






 ミエンブロ公爵家の前には、アリエーテを救出しに来ていた者が集まっている。
 アルシナシオンがミエンブロ公爵家のベルを鳴らした。使用人が出てきたところで、騎士たちが突入した。

「聖女様をお返し願いたい」

 アルシナシオンが大声で叫んだ。先ほど、家の扉を開けた男性が、部屋から飛び出してきた。
 その部屋に向かって、数人の騎士が向かう。

「私は、エスパルダ王国の王子、イグレシアだ。我が国の聖女を奪い返しに来た」

 騎士の一人が、部屋の中にいた子供を捕らえ、剣を構える。居間にいる騎士は、身近な者を捕まえて、剣を向ける。一瞬に緊張状態に変わった。

「父上、助けて下さい」

 幼子が泣き出した。

「聖女様は、こちらにおいでだ。息子を助けてくれ」

 幼子を抱えた騎士は剣を鞘に収めるが、幼子を抱き上げたまま、二階へと上がっていく。
 イグレシアも二階の部屋に向かった。
 扉を大きく開くと、ベッドの上にアリエーテが眠っていた。

「我が王国から、聖女を誘拐したのは、おぬしか?」
「左様でございます」

 イグレシアは腰に携えていた剣を抜くと、真っ直ぐ剣を男へと向ける。

「ここで首を落とされても文句を言えぬ事をしたと分かっての事か?」
「はい。申し訳ございません。我が国の国王一家、国民の為に聖女様のお力が必要だったのでございます」
「国を通して申請はなかったはずだ。この国は聖女を奪うつもりで、このような乱暴な事を行ったと解釈しても構わぬのか?」
「我々も冷静な判断ができなくなっておりました。先に、聖女様に清められ、やっと我が家は先に正常な判断ができるようになりました」

 家主は、跪き頭を深く下げている。

「エスパルダ王国へ申請を出し、聖女様をお迎えすべきでございました。やっと正常な判断を下せるようになったのは、聖女様のお陰でございます。指導者の私の責任、息子の命をどうぞお助けください」
「ミエンブロ公爵、この国で何が起きて、聖女の力が必要だったのか答えられるか?」
「……はい」

 ウルメスは事の成り行きを詳しく話した。
 イグレシアは、子供の解放を言い渡した。子供は泣きながら母の元に走って行った。

「今、我が家の騎士が王宮を見に行きました。国王様々方が元通りに戻っていれば、聖女様の祈りが届いたと思われます」
「翌日にならねば、結果は分からぬぞ」
「そうでございますか?」
「このまま我が国の聖女は連れ戻す。聖女への依頼は国を通してするように」

 イグレシアは剣を鞘にしまう。

「許していただけるのですか?」
「聖女が救った命だ。奪うわけにいかぬ」
「ありがとうございます」

 ウルメスは床に額を付けるほど、頭を下げた。

「ただし、二度目はない」
「……はい」
 
 イグレシアはアリエーテの元に駆けつけた。
 アリエーテが助けた命ならば、ここで殺してはならない。本当は斬り殺すだけでは済まされないが、後でアリエーテが嘆く姿を見たくはない。
 イグレシアがアリエーテを抱き上げると、騎士達が、イグレシアとアリエーテを守るようにつきそう。玄関を開けられ、馬車へと向かう。馬車の足元に布団が敷かれている。

「頼む」
「畏まりました」

 屈強な騎士が、アリエーテを抱き上げ、馬車に乗せると、女性看護師がアリエーテをコートで包み、そっと寝かせる。

「撤退だ!」

 アルシナシオンが大声を上げると、家の中で、人質を取っていた騎士達が馬車の元に戻ってくる。
 二台の馬車にすべて乗り込み、自国へと戻る。

「アリエーテ」

 イグレシアと父のマルモルがアリエーテの頬に触れる。

「殿下、聖女様を診察いたします」
「ああ、頼む」

 医師が狭い馬車で移動してきて、アリエーテの診察を始める。聴診器で胸の音を聞き、身体に触れていく。骨折の有無を調べ、頭の診察を始めると、看護師が電灯をつけて、頭に近づける。

「頭に傷跡がありますが、きちんと処置はなされています。他に異常は今のところ見当たりません」
「そうか」

 イグレシアとマルモルは、ホッとする。
 看護師が毛布を二枚かけて、アリエーテが寒くないように、処置をした。

「殿下、娘をお救い下さりありがとうございます」
「アリエーテは私の妻になる身だ。当然のことをしたに過ぎない」

 マルモルは深く頭を下げる。


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