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4 聖女の誘拐
9 誘拐(9)
しおりを挟むアリエーテの中で、由香はイグレシア王子の声を聞いた。
『迎えが来たわ。アリエーテ、起きて』
呼びかけるが、アリエーテは深く眠りに落ちている。身体を動かそうとしても、力が入らない。祈りの消耗は激しいようだ。
由香はおとなしく、アリエーテの中で、凜々しいイグレシア様の声を聞いていた。
アリエーテの婚約者は立派な指導者だ。ベッドから大切に抱きかかえられて、階段をゆっくり降りていく。扉が開かれ、空気が変わった。
「頼む」
イグレシア王子の腕から別の誰かの腕に移されて、身体が高く上がる感じがすると、温かな物に包まれ、寝かされた。
床の硬い感じは、馬車の中だろう。助け出されたのだとホッとした。
「撤退だ!」と威勢のある声がして、馬車の中に人の気配がする。
すぐに馬車は走り出した。スピードはかなり出されているようだ。
医師だろうか、身体を診察されている。
頭は、まだ痛む。
アリエーテの父の声もする。もう安全だ。
由香はホッとして、緊張感から解放され、アリエーテと一緒に眠りに落ちた。
(魂だけでも、疲れるのね……)
眠る寸前に、ふと思った。
目が覚めたのは、自宅のベッドの上だった。傍らには、イグレシアが椅子に座って眠っていた。アリエーテは寝返りをうち、そっと手を伸ばす。無造作に膝に載せられている手を握った。そっと開かれる緑の瞳を見て、アリエーテは微笑んだ。
「イグ、ありがとう」
「アリエーテ、どこにも行かないでくれ。僕は君がいないと寂しくて仕方がないんだ」
「とても凜々しい王子様でしたわ。何度でもイグを好きになります」
イグレシアはアリエーテを抱きしめ、優しくキスをする。
「ミエンブロ公爵から使いの者が来た。国王一家様々、国中から凶暴化が収まったらしい。国王陛下からお礼の手紙も届いた」
「よかったわ」
「祈りを捧げた後、1週間も目を覚まさなかった。もしや祈りを捧げる度に命を削っているのではあるまいな?」
「私にも分かりません。ただ祈りを捧げることができるだけの、ただの人であると思います」
「これからは聖女の力を使わないでくれ」
「でも、これは私の使命ではありませんか?」
「誰がそう決めたのだ?」
「……私です」
アリエーテは甘えるようにイグレシアの手を抱きしめた。
「それなら僕が決めよう。聖女の祈りは、これっきりだ。使ってはダメだ。命を削れば、僕と一緒にいられる時間が減ってしまう。僕はアリエーテを失いたくはない」
「……分かりました」
「約束してくれるね?」
「はい」
「身体が回復したら、結婚しよう」
アリエーテは嬉しそうに微笑んだ。
「返事を聞かせてくれないのか?」
「イグのお嫁さんにしてください」
「その願い、必ず叶えよう」
イグレシアは手を握ったままのアリエーテの手に手を重ねた。
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