転生したら聖女でした。聖女として生きてきます

綾月百花   

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5   北の王国の流行病

2   流行病(2)

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「アリエーテ、身体の調子はどうだ?」
「ええ、もうすっかり良くなりました」

 デザロージュ王国から帰還して、そろそろ一月が経った。アリエーテは教会での治療も休み、休養を取っている。
 心配性の婚約者は、毎日のように訪ねてきて、アリエーテがベッドで眠っているか確かめに来る。

「イグ、そろそろ散歩に出かけたいわ」
「歩けるほど、回復したのか?」
「ずっとベッドで眠っていたら、病気になりそうよ」

 アリエーテは食事を家族揃ってダイニングで摂ってるし、庭にも出られるようになった。イグレシアが来る時間になると、ベッドの中に入る。

「それなら僕が散歩に連れて行こう」

 アリエーテは微笑む。

「連れて行ってくださいな」
「外は冷える。コートを着なさい」
「ええ、分かったわ」

 アリエーテはベッドから出て、コートを身につける。
 もともとワンピースを身につけていたので、すぐに外出の準備はできる。
 手を繋ぎ、階段を降りていくと、プリュームがイグレシアにお辞儀をした。イグレシアの顔が引き攣る。イグレシアはプリュームが苦手だ。声もかけられないほど、身体が緊張する。

「プリューム、お部屋に戻っていなさい」
「いいえ、私は今からアルシナシオン様とデートなの。出かけてきますわ」

 プリュームはスキップをしながら、部屋から出て行った。

「プリュームは毎日、アルシナシオン様とデートをしているのですわ。あの子に慎みはないようで、お父様もお母様も早くお嫁に出したくて、ウズウズしているの。このままでは婚礼の前に子供ができてしまうと……」
「毎日、子作りをしておるのか?」
「なんだかそうみたいですわ。出かける時は、はしゃいで出かけますけれど、帰りはアルシナシオン様に負ぶさって帰ってまいりますわ。眠っていることもありますの。そのうち、この家に戻って来なくなるのではないかと、両親は話していますわ」
「プリュームらしい」
「ええ、もともと奔放な子なので、やりかねないですわね」

 アリエーテはクスクスと笑い、イグレシアの手を握り返す。

「教会まで散歩しても構いませんか?」
「ああ、いいとも」

 玄関の扉を開けると、寒い風が吹き抜ける。

「寒くはないか?」
「コートを着ていますから大丈夫ですわ」

 ペンサミエント公爵家の前を通ると、プリュームが道路でアルシナシオン様と激しくキスをしていた。

「あの子は……せめて家の中に入ってからすればいいのに、お父様が見たら激怒しますわ」
「プリュームは本能のまま生きておるようだな……」
「恥ずかしいですわ」

 アリエーテは早足で通り過ぎる。教会までの道は毎日通っていたので、迷うことはない。散歩コースにちょうどいい。イグレシアと散歩したことはないが、二人で歩くとなんだか新鮮だ。

『アリエーテ、せっかくイグレシア様とデートしているのだから、もっと甘えて歩いたらどうなの?腕を組んでみなさいよ』
『手は繋いでいるわ。私はプリュームと違って、過激なことなんてできないわ。手を繋いで歩くだけでドキドキするのよ』

 心の中で由香が話しかけてきた。

『そうね、アリエーテの胸がドキドキしているわ』
『由香ったら、からかわないで』
『腕を絡めたら、きっと喜んでもらえるわ……』
『……うん』
「アリエーテ、僕は女性経験がない。アリエーテと結ばれることができるだろうか?」
「私も経験はありません。イグは私のために清い体でいて下さったのだから、一緒に夫婦になっていきましょう」

「アリエーテ、僕は今すぐにでも宮殿に招きたい」
「この寒い冬が過ぎたら、私はイグのためにウエディングドレスを着ます」
「待ち遠しいな、早く春が来るといい」

 イグレシアは嬉しそうな顔をした。
 教会の見える土手まで来ると、その場から、アリエーテは神にお祈りをすると、「さあ、帰りましょう」とまた、イグレシアの手を繋ぐ。

「もういいのか?」
「はい、今はお休みをしているので、ここからで構いません」

 今来た道を、また戻っていく。

「イグは、散歩は退屈ですか?」
「いや、アリエーテと一緒にいられるなら、どこにいても退屈などと思わない」
「良かったわ」
「アリエーテはもう完治しているのかな?」
「ええ、実は、もうすっかり元気ですわ。イグが心配するからおとなしく自宅にいましたけれど、体調もとてもいいのですよ」

 イグレシアはアリエーテを抱きしめた。

「ずっと心配していたんだ」
「イグは心配性ですもの。でも、イグに甘やかされているのも、嬉しかったのよ」
「もっと甘えてくれていいのだ。アリエーテに嫌われないように、僕はいつもドキドキしているんだ」
「イグを嫌いにならないわ」

 アリエーテはイグレシアの腕に腕を絡め、少しもたれかかる。腕と腕が絡まり温かい。

「こうしていると暖かいな」
「イグの温もりが私を暖めてくれています」
「寒い冬も、こうしていると楽しいな」
「私も楽しいです」

 二人で寄り添い歩いて行くと、すぐに家に着いてしまった。
 家に入ると、部屋に招き、手を洗い、うがいをする。イグレシアが不思議そうにその様子を見ている。

「感染症予防ですわ。イグもどうぞ」
「ああ……」
「石けんで手を洗って、うがいをするのです。コップを使って下さい」
「わかったぞ」

 イグレシアも手を洗い、コップに水を汲むとうがいをした。

「石けんで手を洗い、うがいをすると感染症予防になるのか?」
「ええ、風邪予防ですね」
「実は北のモレキュール王国で致死率の高い感染症が流行している。モレキュールの国民の中でも感染が起きて、国から逃げだそうとしたモレキュールの国民が国境に押し寄せ蔓延が始まった。我が国にも感染のリスクが増えてきた。北の町からの移動を規制することになった」
「この国でも感染が始まったのですか?」
「まだ報告はされてはいないが、時間の問題かもしれない」
「私を北の国境に連れて行って下さい。祈りを捧げてみます」
「アリエーテ約束を忘れたのか?」
「でも、この国で感染症が流行ってからでは遅いです。イグや家族に何かあってからでは遅いのです。私の祈りで収まるのなら、私は身を捧げます」
「アリエーテに話すべきではなかった。手洗いうがいは国民に伝えよう」
「イグ、手遅れになる前にお願いします」
「ダメだ」
「イグが連れて行ってくれないなら、自分で行きます」
「アリエーテ、アリエーテに何かあったら僕は生きていけない」

 イグレシアがアリエーテを抱きしめて、そのまま口づけをしてきた。
 何度も触れて、唇の隙間から、イグレシアの舌が入ってきて、アリエーテの舌に絡みつく。アリエーテはイグレシアにしがみつく。身体が押されて、ベッドに押し倒された。

「アリエーテを失いたくはないのだ」
「私は聖女よ」
「僕の愛する女性だ」

 イグレシアの手が胸に触れる。

「アリエーテのすべてを奪いたいほど、愛しているんだ」

 舌を絡めながら、胸を揉まれる。
 アリエーテは抵抗するのを止めた。このまま抱かれてもいい。
 乱れたワンピースの裾から、イグレシアの手が入ってきて、手が胸を包みこむ。
 胸に触れた手が動きを止めた。

「……イグ」
「すまない。こんな乱暴な抱き方はしたくはなかったのだ。婚礼が終わるまで、触れてはいけない」
「イグ、いいのよ。イグが私を抱きたいのなら、今だって、いつだって」
「いや、我が国の掟だ。婚礼の日に初めて結ばれる……」
「……わかったわ」

 イグレシアは乱れたワンピースを綺麗に直し、私を起こしてくれる。

「今日は帰るよ」
「イグ、行かないで」
「このままでは、アリエーテを襲ってしまう」

 イグレシアはコートを持って、部屋を出て行った。



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