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5 北の王国の流行病
8 流行病 エスパルダ王国(8)
しおりを挟む「感染の状況を報告してくれ」
イグレシアはアリエーテと約束したので、精力的にこの国を守ろうと動いている。
各場所に派遣した騎士に報告させる。
「北の宿屋の感染は、完全に収束しました。肺炎を起こしていた者も完治したそうです。北の国境での聖女の祈りが届いたようです」
「北から王都へ続く、道にある宿屋で感染した者は、宿屋に集まり、これ以上の感染者が出ないように隔離しております。新たな感染者は出ておりますが、具合の悪い者は、家でおとなしくしているように伝えております。感染者が何人に増えたのかは不明です」
「王都近くの宿屋では、感染の封仕込みはできているようです。北から来たレヨン殿が肺を患って重傷になっておりますが、後の者は発熱程度で堪えているようです。こちらに来た女将とシグロ殿は感染していないそうです」
シグロの父がホッと息をつく。
「2番目の宿屋の封じ込めに失敗したので、王都でも感染者が出ているそうです。王立病院に患者が殺到して、王立病院内で院内感染が起きています。重傷の患者が10人亡くなっています。医師も看護師も感染して、病院が閉鎖になっております」
「王宮を守るために、王宮に入る者は手洗いうがいを徹底してくれ」
「はい」
集まった議員が返事をする。
「王都でも感染者が増えてきましたので、議会を一端休息にして、聖女様のお帰りを待った方がいいかと思いますが」
ペンサミエント公爵が発言した。
黙っていた国王が、立ち上がった。
「いったん休息にして、このまま様子を見よう。聖女様の祈りで終息することが北の宿屋の様子で分かった。王宮にこの病気を入れてはならぬ。各自体調に気をつけて、自宅で様子をみるように。後は聖女様の到着を待とう」
議会は解散になった。
イグレシアは力なく椅子に座った。
(どいつもこいつも聖女様の祈りに頼ってばかりだ)
アリエーテは一度聖女の祈りを行うと軽く1週間は眠りに落ちる。回復するのに、1ヶ月前後はかかるのに、それを今回は、一度ではなく、既に二度行っている。休息もなしで三度も聖女の祈りを行う力が残っているのだろうか?
イグレシアはアリエーテが心配だった。
「プリューム、いい加減にこのくさいにおいをどうにかしろ!」
父のマルモルは、家に入ると香水のにおいで充満している家の中で大声を上げた。
「あなた、まず、手洗いうがいよ」
「分かっておる」
マルモルは洗面所に向かうと石けんで手を良く洗い、コップに水を汲みうがいをする。
「一体どうなっているのだ?プリュームは……?」
「アリエーテが早く帰ってくるように、香水を付けているそうよ。適量は教えたのですけれど、こんな香りじゃ、お姉様まで届かないと言って、大量に付けているのよ。あの子なりにアリエーテを心配しているのよ」
「……そうか、それならそれほど叱ってはならぬな」
マルモルは香水のにおいが充満した部屋を通って、自室に戻る。
スーツを脱いで風呂に入る。家の外には病原菌がいそうで、清潔に保っている。家族に病気を移してはならない。帰って来たアリエーテが心配するような状態で娘を迎えたくはない。マルモルはスーツも洗濯に出した。
アリエーテが帰ってくるまで、議会は中止になった。外出することもないだろう。
家には備蓄もある。誰も外に出なくても一月くらいは暮らせる。
風呂から上がると、居間に行った。プリュームはお行儀良く椅子に座り、パズルをしていた。いつもはアリエーテと仲良く二人でしているゲームだが、アリエーテの姿がないと寂しく思う。
「お姉様がいないと、分からないわ」
「プリュームお姉様、僕と一緒に遊びますか?」
「タクシスに負けるのは屈辱よ。もう止めるわ」
プリュームは、パズルを片付けて、今度は刺繍を始めた。花嫁修業の一環で、ルーメンが教えている。
「お母様、ここの場所は、この縫い方でいいのですか?」
「そうね、もう少し丁寧に細かく縫った方が仕上がりは綺麗よ」
「私、お裁縫は好きではないわ。針は指に刺さって痛いし、目も疲れるわ」
「根気よくなれますよ」
「私は飽きっぽいもの。どうしても覚えなくていけないの?」
「結婚してから恥をかきますよ」
プリュームは、大きなため息をついた。
「お姉様、早く帰って来ないかしら。喧嘩する相手もいないと退屈だわ」
プリュームは、根気よく刺繍を始めた。
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