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5 北の王国の流行病
11 流行病(11)
しおりを挟むアリエーテは昏睡状態で病院のベッドで深い眠りに落ちていた。
どんなに呼びかけても起きない。
アリエーテの家族にすぐに連絡が行き、家族が面会に来てもアリエーテは身動き一つしない。たくさんのチューブに繋がれたアリエーテの姿を見たプリュームは、泣き出した。タクシスもルーメンも泣いている。父のマルモルだけは、「まだ生きている」と言って、涙は堪えている。
イグレシアは家族に謝罪した。
「無茶な任務をさせてしまった」と……。
任務を命令したのは、国王陛下だが、イグレシアは自分にもっと力があれば、守れたかもしれないと思っている。
流行病は終息した。
モレキュール王国から手紙を持ってきたレヨンも回復し、故郷に帰っていった。
自宅で亡くなっている者もいて、騎士団が一軒ずつ安否を確認しに歩いた。院内感染も祈りの翌日収まり、亡くなった者は火葬された。
寒い冬が過ぎて、アルシナシオンはプリュームに嫁に来いと言ったが、プリュームは、アリエーテが目を覚まさないからと断った。しかし両親に勧められ、結婚式が行われた。
アリエーテが作ってくれたドレスを着て、プリュームは、泣いてばかりいた。
せっかく美しいドレスを着ても、心は沈んでいた。双子の姉は、先に出されたから姉になったに過ぎない。順序が逆ならプリュームが姉になっていたかもしれない。生まれる前から一緒にいたアリエーテがいないと、プリュームは、寂しくて仕方がない。
プリュームは、アルシナシオンと結婚したが、家が近所なので、ほとんど実家に戻り、今までとあまり変わらない生活をしている。変わったとすれば、アリエーテに会いに病院に行くようになったことだ。アリエーテもプリュームも健康だったので、病院とは縁のない生活をしていたのに……。
イグレシアは、アリエーテが救った馬を呼び寄せた。
王宮で大切に飼おうと思った。アリエーテが目覚めたとき、命を助けた馬が近くにいたら喜ぶような気がした。名前はアリエーテに付けてもらおうと思っている。
栗色の毛並みのいい雄の馬だった。凜々しく優しい目をしていた。
王宮の広い庭を走らせる。四頭の馬は、じゃれ合うように走っている。
イグレシアはアリエーテの病室には毎日通い、アリエーテの手を握る。
「そろそろ結婚しよう。春が来たよ」
返事はない。
「アリエーテ、僕は寂しくて仕方がない。早く目覚めてくれ」
近隣の国には、聖女は死んだと噂が広がった。
北の国からは謝罪とお礼の手紙が届いた。
そんな手紙を見ても、イグレシアの心は救われなかった。
両親からは見合いの話が出たが、すべて断った。
手を繋げば温かい。唇を合わせても温かい。目を覚まさないだけで生きている。脳波の異常はないらしいので、眠っているだけだ。いずれ起きてくる。
「イグ、おはよう」と声をかけてくれるような気がする。
そんな日を待っている。
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