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6 奇跡
3 奇跡(3)
しおりを挟む「アリエーテ、目を覚ましてくれ。僕は寂しくてたまらない。早く、アリエーテを抱きしめたい」
「そんなに強く手を握ったら、痛いわ」
「アリエーテ、目を覚ましたんだね?」
「おはよう、イグ」
「おはよう、アリエーテ」
イグレシアが身体を抱きしめてきた。
アリエーテは微笑んで抱きしめ返した。
「痩せてしまったね」
「美味しい物を食べさせてくださいな」
「いいとも」
イグレシアの唇が、唇に触れた。
「もう春だよ。早く結婚しよう」
「私を起こしてくれる?王子様」
「ああ、いいとも」
背中を持ち上げられて、背中の後ろに手を添えられて、やっと起き上がれた。
(目の前がクラクラする。まだ起きるのは早かったかしら?)
「久しぶりに起きられたわ」
「起きても平気なのか?」
「やっぱり寝かせてくれますか?王子様。目が回るわ」
そっと大切に寝かされて、髪を撫でられる。
「ゆっくり起きる練習をしよう」
「……はい」
医師が呼ばれ、診察を受けた。
「身体の異常はありません。目覚められて良かったです。少しずつ食事を摂って、体力を付けていきましょう。食べられるようになったら、退院できますが、ご自宅で療養されるのであれば、ご自宅に戻っても構いません」
「家族と相談します」
アリエーテはしっかりとした言葉で、医師に答えた。
家族が呼ばれて、両親もタクシスも、お嫁に行ったはずのプリュームまですぐに駆けつけてくれた。
「アリエーテはどうしたいのだ?」
「おうちに戻りたいわ。お父様、お母様、お願いできますか?」
「大丈夫なのか?」
「心臓も一時止まりましたが、それ以来、症状は出ていません。おそらく過労だと思います。胸が苦しくなるようであれば、またいらして下さい」
心配そうな家族に、医師は丁寧に言葉を発した。
「今は苦しくはないわ」
「分かった、うちへ帰ろう」
「お父様、ありがとうございます」
アリエーテは病人を送るための馬車を借りて、横になったまま家まで運ばれた。イグレシアが付きそいで馬車に乗ってくれている。
「イグ、毎日、来ていてくれたの?」
「ああ、毎日、毎日、アリエーテが倒れた時から一緒にいた」
「嬉しいわ。ありがとう、イグ」
「当然だ。僕はアリエーテが好きすぎて、他は目に入らない」
馬車はすぐに家に着いた。使用人達が扉を全開にして、待っていた。
「アリエーテを運ぶよ」
イグレシアがアリエーテを抱き上げて、馬車から降ろすときは、エクスタシス公爵家が雇っている騎士がアリエーテを抱き上げた。イグレシアは急いで馬車から降りると、騎士からアリエーテを受け取る。
アリエーテは痩せて、体重も軽くなっていた。
「アリエーテ、軽すぎるぞ」
「ウエディングドレスが合わなくなってしまうわ」
「たくさん食べて、早く元気になってくれ」
「わかったわ」
アリエーテはイグレシアに抱きつくようにしがみついた。イグレシアが二階への階段を上がっていく。
部屋の前にはモリーとメリーが扉を開けて、立っていた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
ベッドまで運ばれて、イグレシアはいったん外に出る。
「アリエーテの着替えを頼む」
「畏まりました」
イグレシアが部屋から出てくると家主が深く頭を下げた。
「殿下自ら、ありがとうございます」
「僕の妻になる身だ。一生大切にしたい」
「光栄でございます」
「報道では聖女様は亡くなった事になっているが、僕はこのまま亡くなった事にしたい。政治にアリエーテの力を利用されたくはないのだ。特に国外には知られたくはない」
「心遣い感謝します」
「アリエーテが回復したら、身内だけでこっそり結婚式を行おうと考えている。大々的に結婚式を挙げれば、アリエーテの存在を他国に知られてしまう。地味な結婚式になるだろうが、許して貰えるだろうか?」
「アリエーテの今後を考えると、イグレシア殿下の心遣いはありがたいです。結婚式は地味でも構いません」
「では、そのように準備をします」
イグレシアは、丁寧に頭を下げた。
(すぐ近い未来に父になるお方だ。アリエーテと同じに大切にしなくては)
扉が開き、モリーが出てきた。
「お着替え、終わりました」
「……アリエーテ」
イグレシアに椅子を勧め、家族がアリエーテのベッドを囲んだ。
「良かったわ、アリエーテ。ずっと起きないのかと心配していたの」
「お母様、ご心配をかけました」
「お姉様が元気なられて、嬉しいです」
「タクシス、しばらく見ないうちに大きくなったわね」
「僕は逞しくなりたくて、アルシナシオン様にお願いして、トレーニングを始めたのです」
「アルシナシオン様ならトレーニングの鬼ね。しっかり頑張りなさい」
「はい。アリエーテお姉様」
「お姉様が眠っているうちに、結婚式を挙げてしまったわ。ドレス姿を見て欲しかったの。お姉様が作ってくださったドレスですもの。アルシナシオン様に頼んで、もう一度、式を挙げてもらうわ」
「こら、プリューム、結婚式は一度で十分だ。ドレス姿だけなら、見せられるだろう」
「違うのよ、ドレス姿も見て欲しいけれど、私達の結婚式を見て欲しいのよ」
「我が儘を言うではない。ペンサミエント公爵家に迷惑をかけるだろうが……」
「アルシナシオン様なら、きっとプリュームのお願いを聞いてくださるわ」
「いい加減にしなさい、プリューム」
父がプリュームを叱っている。
いつもの光景を見て、嬉しく思う。
(ああ、幸せだ……)
由香もきっと今頃、私と同じように幸せを実感しているだろう。
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