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7 婚礼
3 引っ越し(3)
しおりを挟むモリーとメリーがアリエーテのドレスをドレスカバーに入れて、箱に詰めていく。アリエーテは机やドレッサーの中を片付け箱に詰めていく。由香が整理したドレッサーの中は、区別わけされて、分かりやすい。宝石箱も綺麗に片付けられていた。由香の几帳面さが、部屋のすべてから伝わってくる。
父親に相談したら、モリーとメリーもアリエーテと一緒に王宮に来てくれる事になった。
「プリュームも嫁に行ったからアリエーテが望むのであれば、連れて行ってもいい」と言った。モリーとメリーも、「ご一緒させてください」とすっかりその気になった。
王宮から自宅までも、それほど遠くはない。実家に帰ることも可能だろう。
両親が用意してくれた新品のネグリジェやガウンを入れても洋服の入った箱が三つに、持ち物は一箱に収まった。それを事前に、王宮に運ぶ。モリーとメリーを連れて、荷物は王宮に勤める使用人に運んでもらった。
クローゼットの中はモリーとメリーに片付けてもらい、ドレッサーに化粧品や髪飾りを並べて片付ける。宝石箱はドレッサーの上に置いた。
飾り棚の中には、リボンの付けられた香水の瓶を飾った。文房具やレターセット、ノートは飾り棚の横にある引き出しに片付けた。すぐに片付けは終わってしまった。
モリーとメリーを連れて、すぐに帰って行った。
「あとは結婚式を待つだけでございますね」
「そうね」
自宅に戻ると、プリュームがパズルをしていた。アリエーテは部屋には戻らずに、一人パズルをしているプリュームの元に歩いて行った。
「ずいぶん進んだわね」
「お帰りなさい、お姉様。王宮はどうでしたか?」
「そうね、とても広くて、落ち着かないわ」
「私も王宮では寂しかったわ。誰も相手になってくれなくて。意地でいたけれど、すぐに帰れば良かったわ。お姉様、色々ごめんなさい」
「もう忘れなさい」
アリエーテはプリュームの前に座ると、ピースを並べる。
「お姉様は、いつも次に並べるピースを近くに置いてくださるから、早く並べられるのね。今日、この家に来たときも、分かりやすく並べてあったわ」
「嫌だったかしら?」
「いいえ、自分で並べることが容易くできて、とても楽しいですわ。お姉様がお嫁に行ってしまったら、このパズルは完成するのかしら?」
「プリュームは、以前より根気強くなったから、完成できると思うわ」
アリエーテはピースを並べていく。
「お姉様がお嫁に行くまでに完成させたいの」
「ゆっくり作ればいいわ。プリュームが家に来てくれるから、お母様も嬉しそうよ」
「……私……アルシナシオン様の義母様に、嫌味を言われるの。ずっと実家に戻って少しも家のことをしない嫁だと……。だったら、お手伝いをしようとしたのですけれど、お手伝いしても、邪魔だと言われるの。……何をしても気に入ってもらえないの。殿下を襲いふしだらで恥ずかしい嫁だから家から出るなとも言われますの。……アルシナシオン様にも言えなくて、実家に避難しているの。自業自得なことだけど、お姑さんに言われ続けるのも苦痛で。心が病んでしまいそうなの」
「苦労、しているのね?」
「……そうね」
「アルシナシオン様に相談してみたらどうなの?」
「アルシナシオン様のお母様ですもの。自分の母親の事を言われて、気分を悪くされるわ」
「祈りを捧げましょうか?仲良くできるように」
「ダメよ、お姉様、結婚式前よ。今は体調を整えて……」
「それなら、結婚式を終えたら、祈りを捧げるわ。プリュームに幸せになってほしいの」
プリュームは、涙を流して、手で涙を拭っている。
「元はと言えば、私が全部悪いの。家の恥になる事をしたのだから」
「プリューム、泣かないで」
バックからハンカチを出して、プリュームの涙を拭う。
「お姉様、私、このままやっていけるのかしら?アルシナシオン様はお仕事が忙しくて、帰って来ない日もあるの。やっと帰って来ても、議会に出られて忙しそうで、お話もあまりできないの。何のためにお嫁に行ったのかしら?最近、よく分からなくなってきたのですわ」
「結婚前のプリュームは、アルシナシオン様ととても仲良くしていたわ。好きだったのでしょう?」
プリュームは、ピースを持ったまま、動きを止めた。
「……今は、よく思い出せないの」
アリエーテは椅子から立つと、プリュームを抱きしめた。
聖女の証が熱くなる。
プリュームは、心を病んでいる。アリエーテは治療を行った。
プリュームの手からパズルのピースが床に落ちた。
「今日はここに泊まりなさいね。すぐに眠くなるわ」
「……お姉様」
「勝手にごめんなさい。治療を行ったわ。プリュームは、いつも元気で明るい子だわ」
アリエーテはプリュームを連れて、ダイニングに入っていった。
「プリュームにお腹が膨れる物を食べさせてください」
「畏まりました。プリュームお嬢様、たまには実家のお食事も召し上がってくださいね」
「……ありがとう」
プリュームが涙を流している。
食事を終えたプリュームを連れて、アリエーテはプリュームの部屋に連れて行った。
「モリーとメリー、プリュームをお風呂に入れてくださいますか?今夜は泊まっていきます」
「畏まりました」
「綺麗に洗ってもらいなさい。ゆっくりお風呂に入って、眠ってしまいなさい」
「お姉様、ありがとう」
アリエーテは部屋から出ると、母の部屋をノックした。
「お母様、少しお話があるの」
「……どうしたの?」
「お母様、泣いていらしたの?」
「……なんでもないのよ」
「プリュームの事でしょうか?」
「……知っているの?」
「プリュームの悩みを聞きました。心を病んでいるようでしたので、勝手に治療を行いました。今夜は我が家へ泊まらせてあげてください」
「そうね。アルシナシオン様のお母様が近所にプリュームの悪口を言って歩いているの。プリュームが可哀想で」
「……少し出かけてきます」
「どこへ行くの?」
「アルシナシオン様にお会いしてきます」
「アリエーテ、余計な事は言ってはダメよ」
「今日は実家に泊まると知らせてきます」
「それ以上は言ってはダメよ」
「はい」
アリエーテはアルシナシオンを訪ねた。
彼はランニングをしてちょうど戻って来た。
「お話がありますの」
「聖女様がなんの用だろうか?」
アリエーテはアルシナシオンを誘い、散歩に出かけた。
「プリュームが心を病んでいたので、治療を行いましたの。今夜は我が家で休ませます」
「プリュームが、心を病んでいたのか?どうしたのだ?朝はいつもと変わらない顔をしていたが?」
「やはり気付かれていないご様子。……アルシナシオン様のお母様がプリュームを虐めているようなのです。母も泣いておりました。近所でプリュームの悪口を言いふらしていると……」
「俺の前ではそんなそぶりは見せないが」
「プリュームが殿下にちょっかいを出した事がありましたでしょう?」
「ああ」
「ふしだらで恥ずかしい嫁だからと家から出るなと言われるそうです。実家に戻れば、ずっと実家に戻っていると責められ、お母様のお手伝いをすると邪魔だと言われるとか……。アルシナシオン様の愛情も届かないほど病んでいますわ。アルシナシオン様はプリュームの事を愛していらっしゃいますか?」
「ああ、プリュームは、特別な相手だ。愛しているし、手放すつもりはない」
「その言葉を聞いて安心いたしました」
教会の前まで歩いて、神に祈りを捧げると、今来た道を戻っていく。
「まさか、母が、プリュームの事を悪く言っているとは、初めて知った」
「アルシナシオン様との関係も危なくなっております」
「それは困る」
「アルシナシオン様のお宅で祈っても構いませんか?」
「是非、頼みたい」
「ありがとうございます。家ごと清めます」
「頼む」
アリエーテはアルシナシオンの家の玄関に入ると、祈りの体勢に入った。
天井が虹色に染まり、天空から光が降り注ぐ。
アルシナシオン様のお母様が急に何かが始まりだした玄関に来た。ちょうどいい。
光が消えると、アルシナシオンのお母様がパタリと倒れた。規模の小さな祈りなので、身体は平気だ。
「お部屋で休ませてあげてください」
「ありがとう、アリエーテ」
「いいえ、妹のためですわ」
アリエーテは頭を下げると、玄関から出て行った。
アリエーテはお風呂に入り、夕食を終えると、プリュームが広げているパズルの前に座り、プリュームが落としたパズルのピースを拾うと、ピースを並べていく。難しい同色の重なった部分を埋めていく。後はそんなに難しくはないだろう。明日、目覚めたプリュームがピースをはめられるように、ピースを並べておく。
「アリエーテ、そろそろ眠りなさい」
「……はい、お父様」
アリエーテは寝室に戻った。すっきりと何もなくなった部屋に入ると、寂しく思う。灯りを消してベッドに入ると、疲れも手伝ってすぐに眠った。
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