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8 日常に戻りたい
5 日常に戻りたい(5)
しおりを挟むお風呂から出て、アリエーテはガウンを着せられて、夫婦のベッドに横たわっている。少しのぼせてしまった。
イグレシアは元気だ。久しぶりに普段着に着替えている。
「アリエーテ大丈夫か?」
「大丈夫よ。少しのぼせただけですもの」
「部屋まで送ろう」
すっと抱き上げられ、アリエーテの部屋の前で下ろされた。
「着替えておいで、ダイニングで食事を摂ったら、少し出かけよう」
「どこにお出かけするの?」
「友人が街で個展を開いているんだ。今日が最終日だから、観に行こう。帰りはホテルに泊まって、気分を変えよう」
「お泊まりの準備も必要ですね」
「ああ、1泊だけだが、プールを貸し切りにしてもらった」
「水着を持っていませんわ」
「ホテルで調達しよう」
「分かりましたわ」
「着替えと準備が終わったら、僕の部屋に来てくれ」
「はい」
イグレシアはアリエーテの部屋の扉をノックすると、扉を開けた。
「さあ、行きなさい」
「はい」
アリエーテが部屋に入ると、イグレシアは自分の部屋に戻っていく。
「奥様、お体は大丈夫ですか?」
「殿下は分かってくれたようです」
髪をずっと綺麗に洗っていなかったので、またお風呂に入って、髪を洗ってもらう。
「ずいぶん、寵愛されておいでで、心配しておりました」
「あと1週間、休暇があるそうです。今日は久しぶりにお出かけですわ」
「それは楽しみでございますね」
「ええ」
モリーが髪を洗い、メリーが身体を洗ってくれる。
身体はイグレシアが洗ってくれたが、その後に抱き合って汗をかいたので、いい香りのするボディソープで洗ってもらった。愛された痕が残った身体を晒すのは恥ずかしいが、拒んでいたら、モリーとメリーが恥ずかしいことではないと言ってくれた。
シャワーで流し、身体を拭われる。
髪を乾かしてもらっているうちに、モリーがお茶を淹れてくれた。
「お泊まりの準備をお願いします。1泊だそうです」
「畏まりました。お洋服はどれにしますか?」
「あまり嵩張らない方がいいわ」
「どれがよろしいでしょか?」
モリーが数着持ってきた。
「黄緑とピンクのワンピースは同じ髪飾りが付けられますよ」
由香が漂白した黄緑のワンピースは懐かしい。
「今日は黄緑のワンピースにして、明日はピンクのワンピースを着ます。プールに入るそうなので、下着は多めに入れてください」
「畏まりました」
久しぶりに温かい紅茶を飲んで、ホッと一息する。
髪は久しぶりに結い上げられて、髪飾りで留められる。
「髪を結うためのゴムは、櫛に巻いておきますね」
「お願いします」
宝石箱から、この洋服に合わせて揃えてくれた黄緑色のネックレスを出すと、メリーが後ろで留めてくれる。
香水をわずかに付けて、お出かけの準備はできた。
由香がいた頃と同じ姿だ。今頃、どうしているだろう?会いたいなと思う。
小さな旅行バックと普通の小さなバックを用意してもらった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
廊下に出ずに、内扉からイグレシアの部屋に向かう。
ノックをすると、扉を開けてくれた。
「綺麗にしてもらってきたね。綺麗なアクセサリーを持っていたんだね」
「あまりたくさんは持っていませんが、少しだけ自分で買ったのです」
「僕からも贈ろうと思っていたんだ。途中で見ていこう」
「質素でいいのよ」
「僕の妃が地味でどうする。王子の華になるんだ」
「それなら、イグにお任せしますわ」
「さあ、行こうか」
イグレシアは麻の上着を着ると、小さな旅行鞄を持っていた。
ダイニングに降りると、ダイニングのテーブルには誰もいなかった。
「シェフ、昼食はできているか?」
「はい、準備できています」
椅子に座ると、料理が運ばれてくる。
メインはお魚を酸っぱく味付けした物で、スープとパンが添えられた。
少し物足りなさも感じるが、外出するなら、どこかのお店に入るのかもしれない。
「パンケーキが美味しいお店を教えてもらった。あまり食べ過ぎるなよ」
「ええ、パンケーキですか?」
「嫌いだったか?」
「パンケーキに蜂蜜がかかっているのが好物よ。たっぷりかかっていると嬉しいわ」
「それでは行くか?」
「はい」
鞄を持つと、イグレシアが旅行鞄を持ってくれる。
馬車の馬は、北の寄宿舎で助けた馬が引いてくれる。まだ若く毛並みがいい。
馬車に乗り街に出かける。大きな建物の前で馬車は止まった。街で一番大きなホテルだ。
泊まったことはないが、パーティーには来たことがある。
「さあ、降りるぞ」
旅行鞄を持ったまま馬車から降りると、馬車が帰って行った。
「ホテルに荷物を預けてこよう」
「はい」
旅行鞄だけ預け、ホテルの外に出て行く。
イグレシアの手が、アリエーテの手を繋ぐ。まるでデートのようで楽しい。
しばらく歩いて、小さなビルに入って行った。
「ここだ」
「個展ですか?」
「そうだ。腕はいいが口が悪いから絵が売れないんだ」
「あら……」
小さなお店のような場所に入っていく。
「招待状はあるのか?」
突然、低い声がした。
「そんな招き方では客も逃げて行くぞ、シグロ」
「ああ、王子様か。わざわざ来てくれたのか?」
「おまえが来て欲しいと言ったのだろう?」
「どうせ来るなら初日に来てくれよ。王子が観に来たと宣伝できただろう?」
「宣伝したところで、追い出すだけだろうが?」
「おい、王子、そこにいるべっぴんは誰だ?」
「僕の妻だ」
「初めまして、アリエーテと申します」
アリエーテは丁寧にお辞儀をした。
「妻だと?王子が結婚した話題などなかったと思うが」
「極秘結婚だ」
「妊ませたのか?」
「まあ、そんな所だ」
アリエーテの頬が熱くなる。
(妊ませたことを否定しないの?)
「妊婦を描いてみたいんだ、脱いでくれないか?」
「お断りします」
間髪入れずに断ると、シグロと呼ばれた男は大笑いをした。
「それにしてもべっぴんだな。脱がなくていいから描かせてくれるか?」
「王妃の絵を依頼したい。手は出すなよ」
「依頼か?絵は持ち帰れないのか?」
「当然だ」
イグレシアは呆れた顔をする。
「それでどうする?」
「仕事は受けるぜ、だが、せっかくなら美しいドレス姿で描かせてくれ」
「ドレスは着せよう」
シグロは舐めるようにアリエーテを見て、「よし」と答えた。
確かに変わった人のようだ。
くたびれたスーツを着ているが、イグレシアの友人らしい。
絵を見てみると、腕は確かなようだ。どれも写真のように美しい。
「こいつは腕がいいが、モデルを気に入らないと描かないんだ。しかも口が悪くて、手も早い」
「後半の評価は酷いもんだ」
「絶対に手を出すなよ。手を出したら公開処刑にしてやる」
シグロも口が悪いが、イグレシアも相当悪い。
「手が空く時期を王宮に伝えてくれ」
「ああ、わかった。美しいドレスを着せろよ」
「任せておけ。それじゃあ頼む。アリエーテ、帰るぞ」
「絵を観ていかないのか?」
「美しい絵でした」
「当然だ!」
凄んだ男の声に驚いて、頭を下げる。
「すみません」
「シグロ、アリエーテに手も口も出すな」
シグロが声を出して笑った。
「分かったぜ、旦那」
「ではな」
イグレシアはアリエーテと手を繋ぐと、扉を出て行った。
「どういった知り合いですか?」
「あれで、王立学校の同級生で、家は公爵家の三男だ。絵だけは上手かった。僕の絵もあいつに描いてもらったからお揃いがいいだろう」
「私も描かれるのですね、緊張しますわ」
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家柄を重視される。
13歳から18歳まで通う。アリエーテは聖女の仕事があったので、籍はおいていたが、一度も通ってはいない。その代わりに家庭教師が付けられた。プリュームも、アリエーテが行かないなら行かないとアリエーテと家庭教師を付けられて一緒に勉強した。
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