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第5章 白熱!アコンダリアトーナメント

第102話 魔法!アトランカ帝国からの刺客

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「やっぱり、最初は突撃して来たか」
「何っ。動きを読まれている……!?」
「君の動きはブレイク君とソックリだ。彼と戦っていると考えれば、君は容易に倒すことができる」

 ソーマは素早く動き、タクマの攻撃を全て杖で防ぐ。その度に、キン、キンと無機質な音が鳴り響く。
 確かに今無意識に出していた攻撃は、右からのなぎ払い、左からのなぎ払い、そして回転斬り。あの時ブレイクの使っていたコンボ技だった。彼と知り合い、そして帝国の幹部的存在。この動きを知ってようが知ってまいが、容易に防ぐ事など可能だ。

「君の剣の動きは大体理解した。遅い。それだけだ」
「何を……ぐはぁっ!」

 攻撃する事に気を取られていたタクマは、回転斬りをした後に生じる隙を突かれ、杖で殴られてしまった。そして、ソーマは一旦後ろへ引く。
 タクマも、地面の石で切った頬から垂れる血を親指で拭き、次の攻撃に備えた。

「イテテ。今度は何だ?」
「では見せてもらおうか。君の特別な力とやらを!」
「成る程、次は魔法合戦と言う訳か!」

 ソーマは身構えるタクマに向け、手始めに《フレア》を放った。気弾の大きさ的に普通のフレアだろう。
 タクマはすぐに飛び出したフレアをコピーし、左へ避けた先で《コピー・フレア》を放った。
 しかし、次に来る動きを読んでいたように、ソーマは素早くタクマのフレアに《ウォーター》を当て、打ち消した。

「やはり同じ技しか出せないようだな」
「いや、うーん。マジでそうだから何も返せない……」
「ならば、これもいけるのかな?」

 するとソーマは、連続で二撃、光と闇の魔法を放った。タクマはそれをギリギリで避けながら、二つの魔法をコピーした。
 そして、後ろの方で気弾が爆発したと同時に、《コピー・ドゥンケル》をソーマに向けて放ち、剣に光の魔力を与える。
 すると、その剣は黄金の輝きのような物を発した。

「魔封剣か、これはまた珍しいね。だが……」

 だが、ソーマの反射神経も凄かった。ソーマはタクマの放った《コピー・ドゥンケル》を《ライトニング》でかき消し、更に闇の魔力を集めた杖でタクマの剣を受け止めた。
 そして、光と闇がぶつかり合い、そのまま力は失われてしまった。

「だが、君が真正面から突っ込んできてくれた事で、避けられずに済む」
「なっ……」

 その瞬間、タクマは気付いた。もう既に、ソーマが何かの魔力を溜めていた事を。まずい、すぐに離れなければ攻撃を食らってしまう。
 しかし、不思議なことにタクマの身体がソーマに攻撃したこの状態から、1ミリも動かす事が出来なくなっていた。何度動けと体に訴えかけても、体はその命令を聞かなかった。
 
「《メガ・リーフィ》!」
「ゔっ……」

 その瞬間、腹部に強い痛みが走った。まるで鳩尾を殴られたような……いや、それ以上の痛みが腹部を襲い、一瞬呼吸できなくなる。
 タクマは痛々しい咳をし、2度吐血した。体がフラフラする。立っているのがやっとなくらい、体が重い。剣も、軽いはずなのに、今はなぜか重く感じる。
 そう言えば、今撃ったのって、メガシリーズだよな。無印の方じゃない。て事は、最初から彼は、俺を試すためにあえて普通の魔法を使っていたのか……
 タクマは薄くなりつつある意識の中、彼の計画的な動きに気付いた。そして、思考が一瞬壊れた機械のように強制シャットダウンされそうになった時、何かが体を通り過ぎた。

(なん……だ?)

 するとその瞬間、動かなかった筈の体が急に動くようになった。全てが軽い、剣も、体も、まるで自分にだけ重力が効かないような、そんな感覚がやって来た。
 あの時、ノブナガと共に大和に襲撃して来た骸骨兵士を退けた時と同じ感覚だ。タクマはそこから、自分なりの反撃を開始した。
 ブレイクの動きを参考にしながら、出来るだけ隙を生まない動きを即興で作り上げていく。右下から左上へ、右上から左下へ、縦、横、思いつく攻撃方法を何度も試した。
 
「これは予想外だ。最後のあがきにしては動きが早い。そして、隙が少ない!」

 ソーマはタクマの攻撃を杖で防御しながら、反撃を狙える所を探した。
 その間、タクマも何か攻撃を与えられるチャンスを探した。何度攻撃したって、杖を破壊するのは不可能に近い。そう判断しての行動だ。
 だが、そう考えていた時、体が強風に吹かれ、吹き飛ばされてしまった。

「動きが軽い。それつまり、体も軽くなっている。《メガ・ウィンド》なら、簡単に吹き飛ばせる」
「そうなのか……やっぱり体が軽く……」
「自覚すらしていないとはな。その調子だと、君はいつか後悔する事になるぞ?」
「後悔?」
「今の君に、その答えは出ないよ。《トライ・ドラゴニック》!」

 胸を押さえ、痛みに耐えているタクマに向け、ソーマは3種の魔法を放った。
 それは炎、土、光の魔力を持った三つ首の龍の姿をしていた。顔の大きさからして、多分メガシリーズの魔法だろう。

「よく分かんないけど、《コピー》!」

 タクマはその後悔の事を考えるのはやめ、今目の前に居る龍をコピーした。初めて見る技だが、避けられなくても同じ技で相殺すればまだ勝機はあるかもしれない。
 その事に賭け、タクマは襲いかかってくる龍に向けてコピーした魔法を放とうとした。

「《コピー・メガ・ドラゴニック・ラランディオ》!……えっ!?」
「この技はこれで一つではないよ。」

 タクマは何故か一つの龍しか出ない事に驚く。何とかその龍のお陰で首を一つ奪う事はできたが、他二つの首に襲われてしまった。そこでタクマは、咄嗟に指を2度鳴らす。だが、何も起きないまま、地面に叩きつけられる。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「遊びは終わりにしよう。さらばだ。」

 ソーマはタクマの倒れている場所に、最後の一撃であろう木属性の力を溜め込んだ。一気に決着を付けるつもりなのだろう。
 タクマはだんだんと大きくなっていく緑色の弾を睨みながら、剣を構えた。だが、ダメージが蓄積していたせいで、少し気を抜いただけで気を失いそうになる。

「《メガ・リーフィ》!」
「まだだ!《コピー・メガ・ドラゴニック・フレア》!」
「何っ!?」

 タクマはコピーした火龍の力を、迫り寄ってくる気弾へと解き放った。
 そして、タクマの右手から現れた龍は、エサに食いつく魚のように天へと飛び立ち、木の力を宿した気弾を食らい、そのまま太陽の方向へと去って行く。

「貴様まさか、あの時……」
「あぁ。備あれば憂いなし、どうせ最後ならそれくらいやらないと!」

 そう言いながら、タクマは剣に大地の魔力を注いだ。すると、その剣が急激に重くなった。
 成る程、大地の剣は重い分、重さで強力な攻撃を仕掛ける剣!タクマはすぐに理解した。ならば、横へのなぎ払いよりは……

「無意味だ!」
「〈閃の剣・仙石剣〉!」

 タクマは体を一回転させ、その勢いでソーマに攻撃を仕掛けた。ソーマはその攻撃を、硬さが自慢の杖で防いだ。

(この硬さはそこらの剣では斬ることのできない特殊な黒曜石製、大地剣の力がどれ程だろうと、無意味。)

 しかし、その杖はポキリと呆気ない音を立てながら、真っ二つに折れてしまった。
 そしてその瞬間、何が起きたのか、ソーマは察した。
 閃の剣、アレはブレイクが勝手に生み出した、鎧砕きの技。武器や装備、魔物の弱点的な部位に当て、何もかも切り刻む技。
 そして、ソーマの武器には、タクマが反撃をして来た時に受けた傷が、微かではあるが付いてしまった。
 
「成る程。〈閃の剣〉だけでは斬れない杖を、大地の重さでカバーしたと言う訳か。天晴……なり……」

 そう言い残し、ソーマは倒れてしまった。そして、タクマの勝利を祝うゴングが鳴り響く。

『勝者、タクマ選手!何とも素晴らしい逆転劇!これはまさしく、タナカトスもビックリする事でしょう!皆様、彼に惜しみない拍手を!!』
「第二予選も突破完了。けどこの時点でこの強さか、なかなか手強いな……」

 タクマは背中の鞘に剣をしまい、服に付いた砂を叩き落とした。パンパンと叩くたびに、地面の砂埃が落ちてくる。
 そして、タクマはぐいっと体を伸ばした。するとその時、右肩の辺りでゴキッと、気持ちのいいような痛々しい音が鳴った。

「痛っ!剣使うのに無茶し過ぎたか……」


………
【ノアの方舟 食事部屋】
『素晴らしい戦いだったよ、オニキス君』
「何がだ。あんなナルシスト野郎、最強でも何でもない、ただの腑抜けだ。」

 オニキスはテーブルに置いてあるワインを瓶ごと飲みながら、完璧な円形をしたパンケーキにかじりつく。
 お世辞にも上品な食べ方とは言えないが、彼なりに美味しそうに食べている。

「オニキス君、君は女の子みたいな艶やかな髪をしているからこういう時はお淑やかだと思ったんですがネ……」
「最強に近付いたはいいが、腹が減って仕方ねぇんだよ。文句言うな」
『やはり、まだ力に慣れていないみたいだね。それより、私特製のパンケーキは美味しいかい?』

 αは月明かりが差す扉の近くに置かれた花瓶にシクラメンの花を挿し、蝋燭の小さな灯りが不気味に照らす部屋でパンケーキを食べる二人に訊く。
 すると、Zはその問いに対し「こんなに美味なもの、食べた事はありません。最高でス」と、大袈裟に答えた。

『ありがとう。失敗してないか心配でね、そう言ってくれて安心したよ。』
「まぁ、スシって奴よりは負けてるがな」

 オニキスは嫌味を言うように、αの質問に答える。それを聞き、Zはαを馬鹿にされたと腹を立て、机を力強く叩いた。

「貴様、あのα様が私達の為に食事を提供してくれたのだゾ!それを君ハ……」
『まぁまぁ、その辺にしておきたまえ。これもただ、私が私である事を忘れない為にやった事だからね』
「も、申し訳ありませんでしタ……」
「ったく、お前も部屋の影でコソコソしてる鼠みたいな生活してると思ってたが、人の事言えないな」

 オニキスはすぐに腹を立てるZをわざと怒らせるつもりなのか、わざと嫌味を言い、ワインを豪快に飲む。

『オニキス君も、あまりDr.Zに意地悪しちゃあ駄目だぞ?』

 αは、そんなオニキスに対し、悪ガキを優しく叱るように言った。

「それでは、私は研究の方へと参りまス。御馳走様でしタ」
『あぁ、お粗末様』

 席を立ったZは、αに対して一礼し、部屋を後にした。
 するとαは、彼が部屋から出たていった事を確認し、オニキスの隣に座った。

「何だ?」

 顔を赤くしたオニキスは、ワイン瓶の最後の一滴を飲み干して訊く。
 するとαは、そこで黒いガントレットに包まれた腕を組み、『一つ教えて欲しいことがある』と答えた。

『君は、何故賞金首になったんだい?』
「何でって、そりゃあ俺が色んなところで最強を伸してきたからに決まってんだろうが」
『いいや違うね。本当は……』

 しかし、そう訊こうとした時、オニキスはため息を吐き、机を叩いた。
 そして、最後の一切れを口に入れてから、オニキスはαの首に剣を突きつける。

「これだけは警告しておく。俺の過去や目的についてだけは、質問するな」
『気に障ってしまったみたいだね。ごめんごめん』

 αは剣を突きつけられた事に驚きもせず、まるで怖がる演技をするように両手を上げた。やはりこうしても戦ってはくれない、か。

「俺はもう行く。じゃあな」

 オニキスは何をしたいのかまったく掴めないαにため息を吐き、部屋を出て行こうとした。
 だがその時、『オニキス君』と呼び止められた。

『君は、神や正義、仏様と言うものを信じているかい?』
「……」

 その質問に、オニキスは一瞬黙る。
 だが、オニキスはその数秒後、ニヤリと笑い「俺みたいなハグレ者が、そんなの信じるかよ」と答え、部屋の外へ出ていってしまった。

『……やはり、彼も。』

 αはもう一度シクラメンを花瓶から取り出し、そう言いながら……
 そのシクラメンを握り潰した。
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