2 / 71
1 魔術師との出会い
しおりを挟むこれは僕が生まれる前の話。
昔々、大きな戦争があった。
かつての人間と魔族は、種族の存亡を掛けた大きな戦いをしたという話を聞いたことがある。魔族は人間世界に侵略戦争を仕掛け、人間の決死の反撃で滅ぼされたという。
戦争で使われた人類の兵器で環境が汚染された魔界から逃れるため、人間の住む世界に逃れてきた魔族の中には、人間と結ばれて子を成した者もいた。
人間と魔族の間に生まれた者は「半魔族」と呼ばれていて、現代では人間から蔑まれている。
僕は、その差別の対象である「半魔族」だった。
「ぁぐっ!?……う、うぅ……」
殴られた腹を抑えながら、地面に膝をついて無様に震える。
派手な髪色をした3人の不良達に囲まれた僕は、人気のない河原の橋の下でカツアゲされている最中だった。
「ほら、早く出せって。小遣いなくて困ってるんだよー」
「ぐぅっ……」
脇腹を蹴られて土下座をするようにうずくまった僕を、不良達が見下ろす。
こうして理不尽な暴力を振るわれるのは、もう何度目だったか覚えていない。
彼等のような普通の人間にとって、半魔族の存在は生活の中の異物でしかない。
白い肌、色素の薄い茶髪、翡翠に輝く瞳――僕の容姿は、ひと目見ただけで純粋な人間でないとわかるくらいに目立つ。それが原因でこうしたトラブルに巻き込まれることが多い。
こんな事は日常茶飯事だけど、皮肉なことに性根にこびりついてしまった負け犬根性のおかげか、僕は多少の暴力には慣れてしまっていた。
ポケットから取り出した財布から何枚かの千円札を震える手で取り出して、いつものように不良に差し出す。こうやって素直にお金を渡しておけば、暴力は続かないから。
「へへ、相変わらず物分かりがいいじゃねーの。ありがたくもらってや――」
お金を取られた瞬間、僕の目の前を一筋の白い光が横切った。
「うわっ!! なんだ、今のっ!?」
僕と一緒に3人の不良学生が腰を抜かす。先ほどの光がなんだったのかを考える間もなく、再び白い光が飛んでくるのを視界の端に捉える。
「ぎゃっ!!」
不良学生3人のうちの1人は、情けない声をあげながら膝をついて、脇腹を手で抑えながら悶絶している。
今度はしっかりと見えた。
銀に輝く礫が、不良の脇腹に当たったのだ。
半分とはいえ魔族の血が流れている僕は、飛来した銀の礫が魔術によって精製されたものであると本能で理解できた。
周囲を見回すと、夕陽に照らされた穏やかな流れの川、その水面に平然と立っている人影が視界に入る。
フード付きの白い外套に身を包んだ小柄な人物は、水面を歩きながら僕達のもとに近付いてきた。それを見た不良達の表情が強張っていく。
「なんだ、あいつ」
不良学生の1人が震える声で呟く。
彼等が恐怖を感じるのも無理はない。
白い外套を羽織った人物は、明らかに普通ではない異様な雰囲気がある。
彼らがこの場から逃げようと背を向けた瞬間、周囲に銀に輝く魔力の光球が浮かび上がり、それら全てが不良達へ向けて飛んでいった。
「い、痛い! 痛い痛い! やめろ、やめてくれ!」
「うわあああっ!?」
土下座するように身体を丸めながら泣き叫ぶ3人の不良学生の背中に向けて、大量の銀の礫が容赦なく襲い掛かる。礫の豪雨は、砂煙で不良達の姿が見えなくなるまで続いた。
魔術を行使した人物は、痛みに嗚咽を漏らしながら倒れている不良達の手から、何枚かの千円札を乱暴に奪い取った。
呆然とする僕のもとへ、白い外套に身を包んだ人物が近付いてくる。
「まったく……最近はこんな馬鹿者ばかりですね……」
聞こえてきたのは、鈴を鳴らすような可愛らしい声。
不思議と惹き付けられる心地の良い声色だった。
「キミのお金でしょう。お返しします。キミは魔族……いえ、半魔族ですか」
僕にお金を返しながら、女性はジッとこちらの顔を伺ってくる。人間に疎まれている半魔族の僕を恐れることもなく話しかけてくるあたり、魔族や魔術といったものに詳しい方に違いない。
「……どうして助けてくれたんですか?」
「キミの瞳、どう見ても人間ではありませんからね。そういった者達を助ける仕事をしているのです。今の世の中は、魔族にとっては過酷でしょうから」
彼女の言う通り、僕は生まれ付き変わった瞳の色をしていた。
暗闇だとぼんやりと光ったり、魔力の流れが見えたり、時には見たくもないものが見えることもある翡翠の瞳。周囲の人間から気味悪がられることも多い。
そんな僕の瞳を見ても、彼女は何も気にする様子もない。
「でも、僕は――」
魔族でもない、人間でもない、半魔族なのに。
そう聞く前に、彼女は僕に優しく語りかけてくる。
「我慢をするのは立派です。しかし、人間は反撃されないと判断すると増長する生き物です。少しは仕返しをした方がいいですよ。死なない程度にね」
「いや、そうではなくてっ……」
どうして半魔族の僕を助けてくれたのかを聞きたかった。
僕が質問する前に、彼女は白い外套のフードを少し捲って素顔を見せてくれた。
肩口で切り揃えた美しい銀髪。
雪のように真っ白な肌。
宝石のように美しい碧い瞳。
思わず見惚れてしまうほどの美少女だった。
人間離れした美しい容姿。
神秘的な容姿に呆然としていると、彼女は優しく笑ってくれた。
「この通り、私も目立つ見た目をしていますからね。キミと同じ経験をしたことは何度もあります。いじめられないように、少し鍛えた方がいいですよ」
少女はそう言ったあと、何事もなかったかのように去っていく。
これが後に僕の師匠となってくれる魔術師、ティスタ・ラブラドライトとの出会いだった。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる