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42 先生からのご褒美
しおりを挟む僕が見習いから正式な魔術師へ昇格してから3日が過ぎた頃。
昇格の報せを聞いた人達から、いくつかお祝いの贈り物が送られてきた。
短期留学の時にお世話になった魔術学院の同級生達からプレゼントしてもらったのは、何冊かの魔導書。魔術の基礎知識や魔術師界隈で密かに話題になっている噂を纏めた雑誌、他にも色々とある。寝る前に読むには丁度いい。
便利屋の方々もとても喜んでくれて、昇格のお祝いをしようと所長の千歳さんが提案をしてくれた。
「トーヤ君、魔術師昇格おめでとう!」
便利屋事務所に4人では食べきれないほどの御馳走を用意してもらって、ティスタ先生達はクラッカーまで用意していた。僕の肩には、いつの間に「本日の主役」と書かれたタスキが掛かっている。
ちょっと照れ臭かったけれど、こうして仲の良い人たちに祝ってもらえるのは嬉しい。頑張ってきた甲斐があるというものだ。
魔術師として認められたことは嬉しいけれど、もちろんこれで終わりではない。ここからが始まりだ。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」
「トーヤ君は固いですねぇ。もっと喜びましょうよー」
「ティスタ先生、もう飲んでるんですか……」
先生はお祝いを始める前から酔いどれ状態。僕の腕に抱き着きながら、ずっと可愛らしい笑みを浮かべている。今までにないほどご機嫌な状態だ。
「こんなにめでたい時に飲まないわけがないでしょう。キミは見習いから卒業すると同時に、私からも卒業したのです。魔術師として正式に認められたのですから」
「先生のおかげです。ありがとうございます」
「もう私はキミの先生ではありませんよ。だから――」
ティスタ先生は急に黙ったかと思うと、今にも泣きだしてしまいそうな顔で僕を見つめている。
「え? えっ、あの、どうしたんですか先生」
「だっでぇ゛~……」
「おぉ、よしよし……」
困惑しつつも先生の背中を撫でていると、千歳さんと兄弟子の金井さんが苦笑いしながら理由を説明してくれた。
「キミが弟子を卒業したのが嬉しい反面、自分から離れていくのが寂しいんだよ」
兄弟子も「こんなティスタさんは初めてだ」と笑っている。
「トーヤさん、1年と経たずに卒業だもんなぁ。普通は5年以上かかる見習いの過程をすっ飛ばして、飛び級で魔術師になったから」
兄弟子の言う通り、僕は立場こそ変わったけれど学ぶことはまだまだ多い。これからはティスタ先生の弟子としてではなく、ひとりの魔術師として一緒に働きながら色々なことを学びたい。
そんな気持ちを伝える前に、ティスタ先生は号泣し始めてしまった。
「うぅぅ~……」
酔っているからか、情緒が少し不安定な様子。今まで何度もお酒を飲んでいる姿を見てきたけれど、こんな状態になったのを見るのは初めてのことだ。
「先生、僕はこれからもここで働かせてもらうので、これでお別れというわけではないです。まだまだ先生から学びたいことがたくさんあります。だからこれからもよろしくお願いします」
「そ、そうですかぁ? んへへ」
僕の言葉を聞いた途端にフニャっとした笑顔を見せた先生は、僕の腕にしがみついてスキンシップを繰り返す。まるで猫みたいな状態。
「先生、人前なのでそういうことは……」
「人前でなければいいんですねっ?」
「今日は一段と情緒が乱れていますね、先生……」
困惑しているけれど、正直まんざらでもない。今はもう、師匠と弟子という関係だけではない。ひとりの魔術師として先生と接することができる。しかし、今の先生はそれ以上の感情があるようにしか見えない。
……………
お祝いを終えて解散したあと、僕はティスタ先生を事務所の隣にある仮眠室へと連れて行った。さっきからずっと腕にしがみついたまま離れないので、そのまま肩を抱えながら移動する。
「飲み過ぎですよ、先生」
「おめでたい時に飲まない方がどうかしていますよ~」
「……ありがとうございます」
先生は、魔術師になったことを僕よりも喜んでくれている。この気持ちは素直に嬉しい。飲み過ぎで身体を壊してしまわないかだけ心配だけれど。
「さぁ、先生。部屋につきましたよ」
「ベッドまで~」
普段は見れない可愛らしいワガママを聞いて、僕はちょっと嬉しくなってしまった。普段から自分以外を優先することの多いティスタ先生が、こうして僕に甘えてくれている。しかも、相手は好きな女性なのだから。
「はい、どうぞ」
先生をゆっくりとベッドの上に座らせて、僕は部屋から出ようと「おやすみなさい」と挨拶をした。しかし、先生は「こっちにきて」と目線で訴えながらベッドをポンポンと叩いている。
「……いいんですか?」
「えへへ……当然ですよ、キミは特別ですから」
相変わらずフニャフニャの笑顔を浮かべているティスタ先生を見て、心臓が高鳴る。この人は、僕が男だということを忘れているのではないだろうか。
「失礼します」
「はい、どうぞ」
「……えっ」
ベッドに腰掛けたあと、気付いた瞬間には膝の上に寝かされていた。いわゆる膝枕。突然の事ことで困惑している僕に向けて、先生が頭を撫でながら話しかけてくる。
「もう私はキミの先生ではないですからね。気軽に名前で呼んでくれてもいいんですよ?」
「それは、そうですね……慣れたら……そう、します……」
憧れの女性に膝枕をされながら頭を撫でてもらう。先生なりの魔術師になった御褒美ということなのだろうか。先生は膝枕をしたまま僕の頭を撫でながら、ひとつ提案をしてきた。
「昔から親しい者は、私のことを「ティセ」と呼びます。よかったら、プライベートの時はキミもそう呼んでみてください」
初めて聞くティスタ先生の愛称。千歳さんや兄弟子がそう呼んでいないということは、僕しか教えてもらっていないのかもしれない。少し恥ずかしいけれど、思い切って愛称で呼んでみた。
「はい、ティセ」
「……~~~っ……」
天井を見上げながら「最高だ」みたいなリアクションをしている先生を見て、僕は思わず笑みが零れる。
「えへへ、嬉しくなったところで……そろそろ寝ましょうかぁ……」
「はい、おやすみなさ――」
何故か僕までベッドの中へと引きずり込まれてしまった。というか、力が強い。これは魔力を使って肉体を強化しているに違いない。
「ちょ、ちょっと、先生、何をしているんですか!」
「……んぅー……」
「寝てるし……」
僕を抱き枕にしながら、ティスタ先生は夢の世界へと旅立ってしまった。身動きが取れずにいたけれど、今の状況が幸せ過ぎて頭が回らない。
「まぁ、いいか……」
僕もここ数日間、魔導書解読のために夜更かしを繰り返していたから眠気に襲われていた。心地良い温もりを感じながら、大好きな女性に抱きついてもらったまま朝まで眠ってしまった。
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