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43 卒業と新しいスタート
しおりを挟む翌日。
いつまで経っても起きないティスタ先生を心配して仮眠室へ入ってきた千歳さんに添い寝をしている姿を見られた僕達は、事務所で事情聴取を受けていた。
「私が何に怒っているのかわかるか……?」
神妙な面持ちで僕達へと質問をしてくる所長。僕にだって怒りの理由はわかる。事務所の仮眠室で若い男女で一緒に寝ていれば、あらぬ疑いを掛けられて当然なのだから。
「千歳さん、申し訳ありませんでした。でも、実際には何かあったわけではなく、疲れて一緒に寝てしまっただけなので……」
僕がそう言い訳をすると、千歳さんは「なにィ?」と言いながら般若の形相へと変わった。
「女性に自室に連れ込まれておきながらナニもしなかっただと!? 見ただろう、昨夜のティスタの表情を!! あれは男を誘う女の顔だぞ!!」
「えぇっ!?」
「それをキミというやつは……せっかくのチャンスを……!!」
「……あの、一緒に寝ていたことを怒っているわけではないのですか?」
「いや、それは好きにしなよ。おばさんが口出しすることじゃないし、プライベートの時間だし。私がキレているのは、ティスタの誘惑に気付かなかったトーヤ君の鈍感さだ! なぁ、ティスタ! そうだよなァ!」
千歳さんから物凄い剣幕てそんなことを言われたティスタ先生は、真っ赤になった顔を両手で隠しながら「もう勘弁してください……」と弱々しく呟いた。こんな反応をされたら、こちらまで恥ずかしくなってしまう。
「冗談はこのくらいにして、トーヤ君に例のモノが届いているよ!」
ティスタ先生の様子を見てひとしきりゲラゲラと笑った千歳さんは満足した後、事務所のテーブルの上に置かれた段ボールを指差した。正式な魔術師として認められた者にだけ与えられる特殊な「外套」が遂に届いたらしい。
「せっかくだから、ティスタに外套を羽織った姿を見せてあげなよ」
「はい、わかりました」
まだ少し顔を赤くしていたティスタ先生は、僕が段ボールを開ける様子をじっと見ている。
特注品である魔術師の外套は、専門的な知識が無ければ作成することのできない代物。貴重な素材を使用していることもあって、作れる数にも限りがあるという。
ドキドキとしながら段ボールを開けていくと、そこには丁寧に畳まれたグレーの布地が見えた。しかし、その大きさはハンカチほどしかない。
「……あれ? これだけ……?」
取り出したハンカチサイズの布は、明らかに外套になるような大きさではない。困惑する僕に向けて、さっきまで顔を真っ赤にしていたティスタ先生が気を取り直して、真面目な表情で説明をしてくれた。
「それが正真正銘、キミのために作られた魔術師の外套ですよ。自分の身体に合うサイズをイメージしながら、その布へ魔力を流し込んでみてください」
先生の言う通りにグレーの布へ魔力を流し込んでみると、あっという間に外套と言えるサイズまで布が大きくなった。魔力に反応する繊維は、所有者の魔力に反応してそのサイズを自由に変えるという。
こうした外套のようなサイズから、ハンカチほどの手のひらサイズまで自在に大きさを変えることができる。取り回しを考えると、とても素晴らしい機能だ。
「この外套は魔術師の象徴であるだけではなく、様々な機能があります。主に対魔力防御ができたり、魔力を流し込むことによって防水、防火、防刃、防弾もできます。他には耐熱、耐冷、耐電――様々な環境に適応することのできる魔法のガジェットのひとつです」
「すごいですね……」
「それらの効果は、所有者の魔力に依存します。トーヤ君は魔力の量が多いので、扱い方を覚えればあらゆる場面で役立ちますよ」
魔術師の外套には、僕が想像している以上の機能が満載だった。この外套を作ることができる者が人間国宝と呼ばれるのも納得だ。
「……せっかくなので、羽織ってみてください」
「はい、わかりました」
魔術師としての証、自分の今までの努力の結果のひとつ――これがその外套。フード付きのグレーの外套を羽織って、ティスタ先生にその姿を見せた。
「どうでしょうか」
「えぇ、とてもよく似合っています。本当にここまでよく頑張りましたね。これでキミは私からは卒業ということになります」
「……はい」
「ここから先は、トーヤ君が自分自身で道を決めていくことになります。自分で考え、自分で判断して、自分で結果を出す。キミは今、私の弟子から卒業して、私と肩を並べる魔術師となりました。正直、キミはこの街角の便利屋という場所よりも更に自分の才能を活かせる場所もありますが――」
ティスタ先生の言いたいことはわかる。こうした言葉が出るのは、僕の将来を本気で考えてくれているからだ。でも、僕の意思も、将来のことも心に決めている。
「以前も言いましたが、僕はティスタ先生のために魔術を学んで、身に着けました。これから先は先生のそばでその身に着けた魔術を活かしたいと思っています。だから、ティスタ先生……いいえ、ティセ。どうかこれからもそばにいさせてください」
「…………うん、わかった」
再び顔を真っ赤にしたまま固まってしまったティスタ先生。嬉しいのか、恥ずかしいのか、それとも両方なのか。千歳さんは、そんな先生の様子を見てニヤニヤと笑っている。
「よし、改めて4人で便利屋稼業を頑張るとしよう! トーヤ君の新しいスタートを記念して、みんなで写真でも撮ろうよ! 金井君、準備よろしく!」
千歳さんの提案でみんなで並んで記念写真を撮ることになった。兄弟子の金井さんが立派なカメラを持って事務所へと入ってくる。
「待ってました! さぁ、トーヤさんとティスタさん、真ん中へ!」
兄弟子はカメラ用の三脚まで用意してくれていたようで、手早く撮影準備を完了してタイマーをセットした後、4人で一緒に写真撮影。
事務所に置いてあった写真立ての数がひとつ増えて、便利屋所員で取った写真とティスタ先生のかつての魔術師仲間達の写真が並ぶことになった。
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