銀杖のティスタ

マー

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52 救える命のために

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 次に気が付いた時には、僕は病院のベッドの上だった。

(なんか、前にも同じことがあったなぁ……)

 何か大きな出来事がある度に病院に運ばれている気がする。今回は、死にそうな目に合いながらも何とか生還することができた。

 ガーユスとの戦いの後、僕は気を失って――

「そうだ、あいつ……!」

 魔術師殺しのガーユスと戦いが終わってすぐ、僕は気を失ってしまった。あれからどれほどの時間が経ったのかわからない。ティスタ先生は、みんなは無事だろうか。

 鉛のように重い身体を強引に起こして、周囲の状況を確認する。

「……トーヤ、君……?」

 ちょうど病室の扉を開けて入ってきたティスタ先生は、手に持っていた荷物を床に落として僕の方へと近付いてくる。少し顔色が悪いけれど、怪我などはしていない様子。本当に安心した。

「先生、ご無事で何よりです……」

「それはこちらのセリフですよ……本当に、よく無事で……!」

 ティスタ先生はベッドまで駆け寄って、涙を流しながら僕を抱き締める。

 先生によると、僕はあれから丸1日も眠り続けていたらしい。

 ガーユスとの闘いの中で今までにないほど魔力を消耗したことが原因だそうで、失った魔力を少しでも多く回復しようと肉体が一時的に休眠状態になっていたのだとか。魔族の血が流れる者はこうしたことがあるそうだ。

「兄弟子は無事でしょうか?」

「えぇ、キミの処置が早かったおかげで無事です。入院中ですが、すぐに退院できると」

「あぁ、本当によかった……」

 腹をナイフで刺されて出血が多かったのが心配だったけれど、傷の治癒よりも止血を優先しておいたのは正解だったようだ。

「……トーヤ君。早速で申し訳ありませんが、今の状況を説明しなくてはいけません。あのガーユスとやり合った以上、キミも今回の件に無関係ではないので」

「はい、お願いします」

 僕が寝ていた1日の間に、良くも悪くも世間の状況が変わったらしい。



 ……………



「まず、ガーユスについて。この国のお偉い方は、今回の件でガーユスへの認識を改めました。魔術師がいても止められないかもしれない脅威であると世間に知れ渡りましたから」

「協力してくれる人が増えたということですね」

「はい。今後、大規模な魔術犯罪、またはその予兆があった場合、警察や特殊部隊、自衛隊などと連携をして事に当たると約束をしてくれました。先日のガーユスとキミの戦いを見て、平和ボケした政府の老人達も重い腰をあげたようです」

「よかった……」

 前回、ガーユスとの闘いの際に周囲に集まった一般市民が巻き込まれてしまったことを考えると、避難誘導は絶対に必要、最優先にするべきことだ。

「今回のガーユスの襲撃時はキミのおかげで死傷者ゼロでしたが、おそらくこんな奇跡は二度とありません。ガーユスは、平気な顔をして市民を盾にして襲い掛かってくる……そういう男ですから」

「はい、僕もそう感じます」

 ここまでは良い報せ。そして、ここからが悪い報せ。

 ティスタ先生は、僕が目覚めた時に事実を伝えるべきかどうか、最後まで迷ったらしい。

「……ガーユス襲撃の日、私達が慌てて出て行った時。あれは、緊急の招集が掛かったからでした」

「まさか、先生達の方にもガーユスが現れたんですか?」

「いいえ、私達が到着する頃にはガーユスはいませんでした。もう襲撃された後だったんです。場所は……魔術学院の日本分校」

「……え?」

 僕が1週間の短期留学をした魔術学院だ。嫌な汗が頬を伝う。

「学院のみんなは、無事なんでしょうか」

「…………」

「先生……」

 ティスタ先生は、顔を伏せながら黙り込んでしまった。本当は言いたくない――そんな感情が、彼女の表情からは滲み出ているかのように見える。

「先生、事実を教えてください。僕も正式な魔術師として、知っておく必要があります」

「……魔術学院の生徒30名のうち、25名が死亡。5名は重度の熱傷で寝たきりの状態です。生き残った子達も、危険な状態が続いています」

 Ⅲ度熱傷、専門施設での治療が必要なレベルの全身火傷。ガーユスの扱う熱と炎の魔術によるもの。今はティスタ先生とリリさんが出来る限りの治癒魔術と冷気と氷の魔術、そして現代医学による生命維持によって命を繋がれている状態。

 僕とティスタ先生達を引き離すためだったのか、あるいは他の目的があったのか、ガーユスは学院周囲にある大規模な結界魔術を強引に破って、襲撃をしたらしい。

 それを聞いて、絶望するよりも先に身体が動いた。まだ救える命がある。そして、僕にはその命を救える力がある。

「先生、生き残った方々のところへ案内してください。すぐに向かいます」

 ベッドから起きて着替えを済ませた後、魔術師の象徴であるグレーの外套を羽織る。生きているなら、間に合うかもしれない。僕の治癒の魔術は、きっとこういう時のためにあるのだから。



 ……………



 それから、ティスタ先生と一緒に5人の生き残りがいる特別病棟へと向かった。

 集中治療室のガラス窓の向こうに、いくつものチューブに繋がれた状態の患者がいるのが見えた。そのうちのひとりは、僕が留学してすぐに話しかけてきてくれた男子生徒。その隣には、ティスタ先生との特別授業の際に火球を放っていた女子生徒。

 見知った者達の変わり果てた姿を見て、心が握り潰されるような気分になる。

「……ティスタ先生、彼等を一か所の病室に集めることはできますか」

「わかりました、すぐに作業に取り掛からせます」

 ティスタ先生は、僕の言葉に一切の疑問を持つ事無く行動を開始してくれた。彼女は、本気で僕を信じてくれている。

 その後、病院の看護師達が細心の注意を払いながら患者達を大きな病室へと運び込んでくれた。ベッドに寝ている5名の魔術学院の生徒達、まだ救える命が目の前にある。

「これから、半日を掛けて彼等の火傷の治癒をします」

 急激な速度での治癒は、全身火傷で弱っている彼等には肉体の負担になる。ゆっくりと、徐々に、丁寧に細胞を再生させていく必要がある。

 幸い、ティスタ先生達の応急処置が適切だったおかげで希望はある。火傷跡を完全に消し去るには時間が掛かるけれど、命の危険を脱するところまではきっと間に合う。

「先生、お願いします」

「わかりました。長丁場になりますが、どうか彼等をお願いします」

 僕は治癒魔術、ティスタ先生は生来持っている膨大な量の魔力を僕に譲渡し続けることによって、長時間の治癒魔術を実現できる。僕達でなければできない芸当だ。

 僕の背中に手を当てたティスタ先生が少しずつ魔力を送り込んでくるのを確認して、生き残った5人の生徒達の治癒を開始した。
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