54 / 71
53 次への備え
しおりを挟む半日に及ぶ治癒魔術の甲斐があって、5人の生存者は命の危機を脱することができた。これほど長時間の魔術行使は初めての経験だったこともあって、頭がクラクラとする。
しかし、まだやることが残っている。休んでいる暇は無い。
「先生、次は亡くなった生徒達のところへ連れて行ってください」
「……無理をしないで、少し休んでからにしましょう」
「いいえ、少しでも早い方がいいので……」
亡くなった生徒達の肉体の損傷を治す作業は、命を失ってから一分一秒でも早い方がいい。せめて、彼等の家族が最後のお別れをちゃんと出来るようにしてあげたい。
いわゆるエンバーミングというもので、ご遺体の衛生保全と損傷した肉体の修復。治癒魔術の応用をすれば可能なことだ。
「今はもう、これくらいしか出来ることがないから」
少しでも身体を動かして、自分の心が悲しみに暮れる暇も与えたくない。そんな一心で、今できることに全力で取り掛かる。
そんな僕の様子を、ティスタ先生はずっと心配そうにして見ている。心情を察してくれているようで、ほとんど何も言わず僕と一緒に行動をしてくれた。
……………
今やれることを全てを終えて、僕とティスタ先生は事務所へと戻った。
「おかえり、トーヤ君」
疲れ切った表情で帰ってきた僕を出迎えてくれたのは、所長の千歳さん。僕達の様子を見て、何も言わずにコーヒーを淹れて出してくれた。
「すみません、ありがとうございます……」
「あぁ、今日はゆっくり休んでくれ。本当に疲れただろう」
千歳さんは僕の心情を察して、先日のガーユスとの戦った時のことを聞き出そうとはしてこない。
「……お気遣いありがとうございます。でも、皆さんと共有しておきたいことがあるので、今のうちに話させてください」
あの日、リリさんと共にガーユスを撃退したこと、ガーユスが半魔族であること、目的が僕であったこと、赤魔氏族はガーユス本人が滅ぼしたということ――あの日に知った全てを話すと、ティスタ先生は僕を労るように背中を優しく撫でてくれた。
「……なるほど。ガーユスが強大な魔力を持っている理由は、半魔族だからだったのですね。人間を毛嫌いするのも納得です。赤魔氏族の滅亡の理由も、今になってわかるなんて……」
「魔術師や魔族のみの世界を作りたいとも言っていました。人間を根絶やしにする気なんでしょうか」
あの男の狂気があれば、本当に人間を絶滅させてしまうのではないか。そう思わせるような強さと行動力がガーユスにはある。
「僕からひとつ、提案があります」
ガーユスを野放しにしておくわけにはいかない。しかし、ひとりで勝てるはずもない。あらゆる手段を、あらゆる人脈を使ってでも、彼を止めなくてはいけない。同じ半魔族として、これ以上の凶行を許すわけにはいかない。
ティスタ先生達に向けて、ガーユスと戦った経験がある僕の提案を聞いてもらうことにした。
「古代のエルフの遺した魔導書にあった封印魔術を使います。彼を生きたまま、その身だけを封じます」
ガーユスは自分の死をトリガーに起爆する爆弾を街中に仕掛けるといった姑息な手を使っていた。追い詰められた彼が自殺も出来ないように、生きたままその身を封印するという手段が最も安全だ。
僕の提案を聞いたティスタ先生と千歳さんは、目を丸くしながら驚いている。
「え、あの、あんまり良い手ではありませんか? それなら、却下でも――」
不安になった僕が苦笑いをしながらそう言うと、ティスタ先生は今日初めて笑顔を見せてくれた。
「いいえ、違うんです。私達がどうやってガーユスと戦おうかと考えている時に、キミは勝つことを前提に話を進めてくれたので……」
相手は歴戦の魔術師であり、魔術師殺し。それを実際に相手にした後に「勝算がある」と言っている僕を見て、希望が湧いてきたとのこと。
「キミの師としてではなく、ひとりの魔術師として可能な限りのお手伝いをします。何か出来ることがあるなら、私に言ってください」
ティスタ先生は僕の手を握りながら頷く。千歳さんも同様に頷いて、パンと手を叩いて立ち上がった。
「ウチの事務所の大切な所員を病院送りにされたんだ。こっちも借りを返さないとな」
じっとしている暇は無い。次のガーユスの襲撃に備えて可能な限りの準備をしておかなくてはいけない。
……………
ティスタ先生と千歳さんは警察や魔術師に協力を仰いで、街に監視の目を増やして厳戒態勢を敷くとのこと。
その間、僕は自分の足で情報を集めることにした。赤魔氏族の扱う熱と炎の魔術は、赤魔氏族そのものが滅んでしまっているので情報がとても少ない。
ガーユスは一族を皆殺しにしたと言っていたけれど、遠縁でも同じ魔術を扱う者がひとりでも生き残っていれば何か特徴や弱点を聞き出すことができるのではないか。
(とはいえ、どうしたものか……)
魔族や魔術師が多く住む日本でも、いるかもわからない赤魔氏族の生き残りを探すのは効率が悪い。
熱と炎の魔術は、その破壊力と危険性の高さから文献がほとんど残っていないとティスタ先生が言っていた。唯一現存していた熱と炎の魔術の扱いが記された魔導書も、先日の魔術学院の襲撃時に灰になってしまったらしい。
相伝の魔術故に、その魔導書の内容は殆ど解読できていなかったらしいけれど――
(逆に考えるなら、そうまでする理由があるということだ)
僕が思っている以上に、ガーユスは自分の弱点を隠したいと思っているのかもしれない。魔術師として最高峰の実力を持ちながら、用心深さも人一倍。話に聞いていた通りだ。
これからどうしようかと考えていると、スマートフォンに連絡が来た。入院中の兄弟子からだ。
「もしもし、兄弟子。お身体はもう大丈夫ですか」
『ありがとう。もう大丈夫だよ。トーヤさんが傷を上手く塞いでくれたおかげで輸血をするだけで済んだんだ』
ガーユスに深々と腹を刺された兄弟子だったけれど、検査と短い入院で済んだとのこと。既に退院の手続きも終わらせたらしい。不幸中の幸いだ。
『それと、トーヤさんが治してあげた魔術学院の子、ひとり目を覚ましたらしいですよ。なんかトーヤさんに会いたいって、ずっと看護師に言っているらしくて』
「わかりました。病院へ向かいます」
5人のうち、4人は未だに意識を取り戻していない。目を覚ましたのは、おそらく一番症状が軽かった女生徒だろう。
兄弟子が車を回してくれるとのことで、情報集めの効率と行動範囲が広がる。一刻も早く堅実な対策を立てるためにも、急がなくてはいけない。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる