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第20話:極秘任務
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翌日、リーダーはアデリーナさんに付き添いでお休み。
午前中の巡回はバルドと組む。
デルフィーノさんはサビーナちゃんと。
がっかり。
けど、デルフィーノさんとのデート、じゃなくて巡回という楽しみは午後に取っておく。
美味しくない食べ物は先に食べて、美味しいのは後に残すと。
お前、バルドに失礼だろって? うーん、確かにひどい。すんまへん。
巡回中、無言でズンズンと先を歩くバルド。
デカいから歩幅が広い。
あたしは走って、バルドについていく。
「ちょっと待ってよ~、私はチビなんだから~」
「あ、ごめん」
バルドはようやく気づいたのか、ゆっくりと歩く。
けど、これで分かった。
バルドに彼女はいない。
シーフの勘よ。
何で、分かるのかって?
恋人がいる男性は、女性に合わしてゆっくりと歩くもんよ。
通常、女性のほうが背が低いからね。
お前を女と思っていないだけなんじゃないのかって? うるさいわい!
だいたい、仕事中だろって? そうでしたね。すんまへん。
それにしても、バルドっていつもむっつりして、何考えてるのか分からんとこあるなあ。
ちょっと、聞いてみるか。
「バルドって趣味は何?」
「……ジグソーパズルと貯金」
地味……。
まあ、ギャンブル依存症のあたしよりは健全か。
巡回から戻ると、セルジョ小隊長から大隊長室へ行けと言われた。
「何の件でしょうか」
「私も聞かされてない。とにかく行ってくれ」
何だろう、赤ひげのおっさん、あたしの日頃のいい加減な勤務態度についに切れたか。
説教されるんだろうか。
それともぶん殴られるのだろうか。
怖いよー!
大隊長室へ行く。
誰もいない。
仕方がないから、来客用ソファに座って待っている。
なかなか来ない。
ヒマだ。
ヒマなんで、失礼ながら大隊長の机を物色。
え? また泥棒かよって? いやあ、これは習慣ですので。
意外にもきれいな両袖机。
広い机。
未決裁箱に少し書類があるだけ。
右の一番上の引き出しを開ける。ここに小銭を置いている人が多い。おお、すごいきれいだ。鉛筆も全てきれいに削られている。他のペンと一緒にペン先が全部同じ方向に揃って置いてあるぞ。それ以外の文房具もきっちりと整理されている。うーん、赤ひげのおっさん、見かけによらず、繊細な人なのかな。お、コイン入れ発見。百エン硬貨を一枚ちょろまかす。後で、チョコレートでも買おうっと。他の引き出しはどうかな。ファイルがきれいにピシっと入っている。中身を見ても小難しい内容。つまらんな。しかし、赤ひげのおっさん、全然やる気無しで、ただ毎日、ぼーっと大隊長室の椅子に座ってるだけだと思ってた。目も死んでたし。意外にも真面目に仕事してたんね。
と思ったら、左の一番下の引き出しが妙に大きい。開けてみると、おお、お酒がどっさりあるぞ。ウォッカ、ウイスキー、ワイン、ブランデー、ジン、ラム、リキュール、テキーラ、ビール、梅酒、焼酎、泡盛、紹興酒など。大小、さまざま何でもある。これは仕事中にも飲んでるぞ。もはやアル中ですな。ウイスキーのミニチュアボトルをいただき。ポケットに入れる。寮に帰ったら、飲むつもり。
さて、他には目ぼしいものはないなと思ったら、机の下、足元にドラゴンのデザインのマットが敷いてある。
ひえ! とんでもない物を見てしまった。
まさか、赤ひげのおっさん、ドラゴン秘儀団の仲間?
えー! レッドドラゴンにひどい目にあったのに。
それとも、あの時点ですでにドラゴン秘儀団の仲間だったのか。だからさっさと逃げたふりしたのか。いや、軍から追放されたんで復讐のために入団したのか。そもそも、ドラゴン秘儀団については知らなかったから、騙されて入っちゃったのか。
そして、ドラゴンキラーと思われてる、あたしを消そうとしているのか?
怖いよー!
と思ったけど、この前、賭博場の用心棒から助けてくれたっけ。
うーん、分からん。とにかく、要監視対象だ。
おっ、大隊長がやってくる気配。
サッと部屋の壁際に立つ。
赤ひげのおっさんが入ってくる。
「大隊長殿! お疲れ様です!」
敬礼して挨拶したけど、全く、無視。
こりゃ、すごい嫌われてるなあ。まあ、しょうがない。あたし、いい加減だもん。仕事も机もメチャクチャだし。何も言ってくれないので、勝手にソファに座る。
勝手に座っても、何も言われない。何だか、おっさんは机に座って下向いて書類に目を通しているぞ。
呼んどいて、これだけ無視するとは、酷すぎる。
いや、まさか、あたしを殺す機会を狙っているのだろうか、ドラゴン秘儀団残党かもしれない赤ひげのおっさん。
緊張する。
袖の中のナイフを準備。
赤ひげのおっさん、手ごわいと思う。おっさんがいきなりサーベルで切りかかってきたらどうしよう。勝てるかどうか分からない。
重苦しい空気が流れる。
緊張状態が続く。
いつ、襲いかかってくるのか。
いっそ逃げようか。
しかし、背中を向けるのは危険だ。
じっとしたまま時間が流れる。
額に汗が浮かんできた。
ううむ、どうしようかと思案していると、何だか、いい香りがしてきたぞ。
扉の方からだ。
あれ、何だか眩い光が近づいてくる。
すると、扉が開いて入ってきたのは、美しすぎる美人クレリックで情報省員のクラウディアさんだ。
「こんにちは! プルムさん、ご無沙汰ですね」
ニッコリ笑うクラウディアさん。
相変わらずお美しい。
おっ、私服だ。白いハイネックの長袖セーターに膝丈ハウンドトゥースチェック柄フレアスカート。左首元に犬の形のブローチをつけている。かわいい!
「ご無沙汰です、クラウディア様……」
あたしがクラウディアさんに挨拶をしようとするのを赤ひげのおっさんがさえぎる。
「参事官殿。わざわざ、御足労いただいて申し訳ありません」
おっさんも何だか、嬉しそう。
赤ひげのおっさん何気にクラウディアさんのセーターの胸のふくらみを見ている。いやらしいわね。見られてる女性の方は気づいているぞ、おっさん!
え? お前のはどこを見ていいか分からないって? うるせー死ね!
とは言え、美人は得ね。
こういう超絶美人は自分のことをどう思っているのだろう。一度聞いてみたいな。
赤ひげのおっさん、あたしには野良猫をしっしっと追い払うように席をずらさせて、ソファに座る。
「いえいえ、こちらから依頼した件ですので」
にっこりと微笑むクラウディアさん。
何の話だろう?
何であたしが呼ばれたんじゃ。
それにしても、クラウディアさんの『参事官』とはどれくらいの地位にあるのか、いまだに分からんな。
赤ひげのおっさんがクラウディアさんに話しかける。
「電話連絡でもかまわなかったんですが」
「いえ、一応、極秘事項なんで。早速ですが、例の運搬の件の最終確認ですが」
「運ぶ隊員はそちらの依頼通りでかまいません」
「プルムさんですね」
「そうです」
おい、何の話をしてるんだ。
そして、またクラウディアさんが私にはよくわからないことを赤ひげのおっさんに言った。
「情報省はすでに偽情報を流しています」
「同日に行うんですか」
「そうですね、予定通りです。明日の夜決行です」
おいおい、勝手に話を進めないでよー! 教えてよー! 何だよ、明日の夜決行って?
「あの~すみません。何を運ぶんですか? 何で私が運ぶんですか?」
あたしは無理矢理割って入る。
「俺も内容物には教えられてないよ」
赤ひげのおっさんがまたあたしの顔を見ながら不機嫌そうに言った。
「何で、私が選ばれたんですか?」
「お前はドラゴンキラーだろ。あんなバカでかいドラゴンを倒したんなら、何にも怖いものは無いだろ」
煩わしいといった感じで答える赤ひげのおっさん。
こらこら、そんなこと期待されても。
「まあ、万が一、こいつが死んでも我が大隊には何の影響もありませんがね。ワハハ!」
あたしを指差して、大笑いする赤ひげのおっさん。
死んでもって、何だよ、死んでもって。
何笑ってるんだよ、ふざけんな、赤ひげ!
あれ、クラウディアさんも笑ってる。
ひどいよー!
「では、よろしくお願いいたします。プルムさんもよろしくね」
「ちょ、ちょっと」
クラウディアさんは、にこやかに笑って部屋を出て行った。
赤ひげのおっさんに文句を言おうとするが、机に戻って、左側の一番下の引き出しを開けて、なにやら数えている。
やばい! ウイスキー盗んだのがばれる。
あたしは、そそくさと部屋から逃げ出した。
そして、帰ろうとしているクラウディアさんを廊下で捕まえる。
「クラウディア様!」
「何でしょうか? プルムさん」
ニコニコしているクラウディアさん。
クラウディアさんの腕を引っ張って、誰もいない会議室に無理矢理連れて行き、テーブルの隅っこに座る。
「私は何をやらされるんですか」
「あら、アレサンドロ大隊長から何も聞いておられないんですか」
「何にも言われてないんですよう。完全に無視されてるんです」
あたしは涙目で事情を話す。
「あら、それは大変、じゃあ、私から説明いたしましょう。プルムさんなら全部喋っても大丈夫ですしね」
よかった、お優しいクラウディアさん。それにしても、チキショー! 赤ひげのオヤジめ、意地悪しやがって。パワハラで訴えてやる。いや、まさか、ドラゴン秘儀団のメンバーだとしたら、わざと、あたしを窮地に追いやって殺すつもりなのかも。やばいぞ。
「例のドラゴンペンダントはご存知でしょう。今、情報省の金庫に厳重に秘匿されているのですが、今回、廃棄することになったんで、運び出すことになったんです」
「廃棄って、いっそ、ハンマーでぶっ叩いて、粉々にして、燃えないゴミで捨ててしまえばいいんじゃないですか」
「それが、ものすごく頑丈なんですよ」
そういや、レッドドラゴンのときも、ナイフでガンガン叩いたけど、全然壊れなかったな。
「どちらに持って行くのですか」
「隣の王宮です」
「は? 隣の建物」
「はい、そうです」
「えーと、何個あるんですか、ドラゴンペンダントは」
「十六個です」
「えっ、そんなの誰でも出来るんじゃないんですか? たった十六個のペンダントですよね。鞄にでも入れて持って行けばいいんじゃないですか」
「そうですね、誰でも出来ますね」
「へ?」
「私が持って行くつもりだったんですが、危険ということで、他の人にということになりました。大げさだなと思ったんですけど、上からの指示ですので」
何だよー! 美人は危険だからダメで、あたしはどうでもいいのかよー!
けど、まあ、許しますよ、天然記念物に指定した方がいいんじゃないかってぐらいの完璧美人のクラウディアさんならね。はい、はい。
「何で危険なんですか」
「そちらから、黒装束の不審者が情報省の周辺で目撃されたと報告があったんです。例のドラゴン秘儀団の残党が、ドラゴンペンダントを奪いにきたのではという意見が、情報省内部で出ました」
「で、私なら、ドラゴン秘儀団に襲われて、死んでもいいってことですか」
許すと考えながらも、ちょっとあたしは拗ねてみる。
「ええ! そんなことありませんよ」
びっくりするクラウディアさん。びっくりしても美人です、と言ってる場合じゃない。
「だって、クラウディア様もさっき笑ってたじゃないですか」
「え、そうでしたっけ」
「だって、赤ひげのおっさん、じゃなくてアレサンドロ大隊長が『まあ、万が一、こいつが死んでも、我が大隊には何の影響もありませんがね』とか言って大笑いしてたら、クラウディア様も一緒に笑ってたじゃないですかあ」
もっと拗ねるあたし。
「えーと、その、アレサンドロ大隊長が嬉しそうに笑ってるので、つい、つられて笑ってしまったんです。内容聞いてませんでした。本当に申し訳ありません」
深々とあたしに頭を下げるクラウディアさん。
ん? ひょっとして、クラウディアさん、天然系じゃね。
「とにかく、そんな酷いこと思っていませんよ。どうしましょう、アレサンドロ大隊長がそんな風に考えていたら」
両手を頬にあててオロオロするクラウディアさん。
この間も、オロオロしてたな。
オロオロ美人と名付けたくなる。
「一緒に、アレサンドロ大隊長のとこにもう一度行きましょうか」
立ち上がるクラウディアさんをとめる。
「いやいや、いいです、いいです」
焦るあたし。
ウイスキーの小瓶盗んだのバレてるかもしれん。
おっさんに酒瓶で殴られるかも。怖い。
「けど、王宮に持って行って、どうするんですか」
「魔法高等官のアイーダ様に渡して、魔法を使ってドラゴンペンダントを無力化してもらうんです」
アイーダ様とは、このあいだドラゴンを倒した表彰のときに、王様の近くにいた魔法使いのような恰好をしている女性のことかな。
「あのー、それから偽情報って何ですか」
「情報省員が持って行くという偽情報を、情報屋に流したんです」
チェーザレが言ってた、情報省がペンダントを運搬するってのはこのことか。
一応、内容は合ってたんだ。
「けど、ドラゴンペンダントのことを流していいんですか」
「いえ、単純にペンダントと言ってます。ドラゴン秘儀団以外は、何のことか分からないと思います」
「そう言えば、このドラゴンペンダントって誰が作ったんですか」
「ペンダントの外見はドラゴン秘儀団が作ったらしいんですけど、中にある魔法石は誰がどのように作ったのか分かりません」
ふーん、ドラゴン秘儀団には裏で操ってる黒幕がいるのかな。
「それにしても、本当に大げさじゃないですか」
「まあ、そうなんですけど、万が一を考えてとのことです。ドラゴンを操れるペンダントですので。情報省員は普通に偽の鞄を持って地上から行きます。プルムさんは地下通路から行っていただくつもりです」
「へ? 地下通路でつながっているんですか、情報省と王宮は」
「はい、歩いて五分くらいで行けます。情報省と関係ない人ということで、プルムさんが選ばれたってことですね」
「明日の夜って、何時ですか?」
「午後九時です」
明日は、夜勤だから、都合がいいわけか。
大した仕事じゃないな。地下通路五分歩いて、鞄を持ってくだけ。誰でもできるじゃん。清掃のおばさんでも出来そうだ。赤ひげのおっさんが言った『まあ、万が一、こいつが死んでも、我が大隊には何の影響もありませんがね』って冗談ね。
いや、赤ひげのおっさんがドラゴン秘儀団だったら。うーん、クラウディアさんに言うべきか言わないべきか。悩んでいると、
「というわけです。じゃあ、プルムさん、よろしくお願いしますね」
またニッコリ笑ってクラウディアさんはお帰りになられてしまった。
午前中の巡回はバルドと組む。
デルフィーノさんはサビーナちゃんと。
がっかり。
けど、デルフィーノさんとのデート、じゃなくて巡回という楽しみは午後に取っておく。
美味しくない食べ物は先に食べて、美味しいのは後に残すと。
お前、バルドに失礼だろって? うーん、確かにひどい。すんまへん。
巡回中、無言でズンズンと先を歩くバルド。
デカいから歩幅が広い。
あたしは走って、バルドについていく。
「ちょっと待ってよ~、私はチビなんだから~」
「あ、ごめん」
バルドはようやく気づいたのか、ゆっくりと歩く。
けど、これで分かった。
バルドに彼女はいない。
シーフの勘よ。
何で、分かるのかって?
恋人がいる男性は、女性に合わしてゆっくりと歩くもんよ。
通常、女性のほうが背が低いからね。
お前を女と思っていないだけなんじゃないのかって? うるさいわい!
だいたい、仕事中だろって? そうでしたね。すんまへん。
それにしても、バルドっていつもむっつりして、何考えてるのか分からんとこあるなあ。
ちょっと、聞いてみるか。
「バルドって趣味は何?」
「……ジグソーパズルと貯金」
地味……。
まあ、ギャンブル依存症のあたしよりは健全か。
巡回から戻ると、セルジョ小隊長から大隊長室へ行けと言われた。
「何の件でしょうか」
「私も聞かされてない。とにかく行ってくれ」
何だろう、赤ひげのおっさん、あたしの日頃のいい加減な勤務態度についに切れたか。
説教されるんだろうか。
それともぶん殴られるのだろうか。
怖いよー!
大隊長室へ行く。
誰もいない。
仕方がないから、来客用ソファに座って待っている。
なかなか来ない。
ヒマだ。
ヒマなんで、失礼ながら大隊長の机を物色。
え? また泥棒かよって? いやあ、これは習慣ですので。
意外にもきれいな両袖机。
広い机。
未決裁箱に少し書類があるだけ。
右の一番上の引き出しを開ける。ここに小銭を置いている人が多い。おお、すごいきれいだ。鉛筆も全てきれいに削られている。他のペンと一緒にペン先が全部同じ方向に揃って置いてあるぞ。それ以外の文房具もきっちりと整理されている。うーん、赤ひげのおっさん、見かけによらず、繊細な人なのかな。お、コイン入れ発見。百エン硬貨を一枚ちょろまかす。後で、チョコレートでも買おうっと。他の引き出しはどうかな。ファイルがきれいにピシっと入っている。中身を見ても小難しい内容。つまらんな。しかし、赤ひげのおっさん、全然やる気無しで、ただ毎日、ぼーっと大隊長室の椅子に座ってるだけだと思ってた。目も死んでたし。意外にも真面目に仕事してたんね。
と思ったら、左の一番下の引き出しが妙に大きい。開けてみると、おお、お酒がどっさりあるぞ。ウォッカ、ウイスキー、ワイン、ブランデー、ジン、ラム、リキュール、テキーラ、ビール、梅酒、焼酎、泡盛、紹興酒など。大小、さまざま何でもある。これは仕事中にも飲んでるぞ。もはやアル中ですな。ウイスキーのミニチュアボトルをいただき。ポケットに入れる。寮に帰ったら、飲むつもり。
さて、他には目ぼしいものはないなと思ったら、机の下、足元にドラゴンのデザインのマットが敷いてある。
ひえ! とんでもない物を見てしまった。
まさか、赤ひげのおっさん、ドラゴン秘儀団の仲間?
えー! レッドドラゴンにひどい目にあったのに。
それとも、あの時点ですでにドラゴン秘儀団の仲間だったのか。だからさっさと逃げたふりしたのか。いや、軍から追放されたんで復讐のために入団したのか。そもそも、ドラゴン秘儀団については知らなかったから、騙されて入っちゃったのか。
そして、ドラゴンキラーと思われてる、あたしを消そうとしているのか?
怖いよー!
と思ったけど、この前、賭博場の用心棒から助けてくれたっけ。
うーん、分からん。とにかく、要監視対象だ。
おっ、大隊長がやってくる気配。
サッと部屋の壁際に立つ。
赤ひげのおっさんが入ってくる。
「大隊長殿! お疲れ様です!」
敬礼して挨拶したけど、全く、無視。
こりゃ、すごい嫌われてるなあ。まあ、しょうがない。あたし、いい加減だもん。仕事も机もメチャクチャだし。何も言ってくれないので、勝手にソファに座る。
勝手に座っても、何も言われない。何だか、おっさんは机に座って下向いて書類に目を通しているぞ。
呼んどいて、これだけ無視するとは、酷すぎる。
いや、まさか、あたしを殺す機会を狙っているのだろうか、ドラゴン秘儀団残党かもしれない赤ひげのおっさん。
緊張する。
袖の中のナイフを準備。
赤ひげのおっさん、手ごわいと思う。おっさんがいきなりサーベルで切りかかってきたらどうしよう。勝てるかどうか分からない。
重苦しい空気が流れる。
緊張状態が続く。
いつ、襲いかかってくるのか。
いっそ逃げようか。
しかし、背中を向けるのは危険だ。
じっとしたまま時間が流れる。
額に汗が浮かんできた。
ううむ、どうしようかと思案していると、何だか、いい香りがしてきたぞ。
扉の方からだ。
あれ、何だか眩い光が近づいてくる。
すると、扉が開いて入ってきたのは、美しすぎる美人クレリックで情報省員のクラウディアさんだ。
「こんにちは! プルムさん、ご無沙汰ですね」
ニッコリ笑うクラウディアさん。
相変わらずお美しい。
おっ、私服だ。白いハイネックの長袖セーターに膝丈ハウンドトゥースチェック柄フレアスカート。左首元に犬の形のブローチをつけている。かわいい!
「ご無沙汰です、クラウディア様……」
あたしがクラウディアさんに挨拶をしようとするのを赤ひげのおっさんがさえぎる。
「参事官殿。わざわざ、御足労いただいて申し訳ありません」
おっさんも何だか、嬉しそう。
赤ひげのおっさん何気にクラウディアさんのセーターの胸のふくらみを見ている。いやらしいわね。見られてる女性の方は気づいているぞ、おっさん!
え? お前のはどこを見ていいか分からないって? うるせー死ね!
とは言え、美人は得ね。
こういう超絶美人は自分のことをどう思っているのだろう。一度聞いてみたいな。
赤ひげのおっさん、あたしには野良猫をしっしっと追い払うように席をずらさせて、ソファに座る。
「いえいえ、こちらから依頼した件ですので」
にっこりと微笑むクラウディアさん。
何の話だろう?
何であたしが呼ばれたんじゃ。
それにしても、クラウディアさんの『参事官』とはどれくらいの地位にあるのか、いまだに分からんな。
赤ひげのおっさんがクラウディアさんに話しかける。
「電話連絡でもかまわなかったんですが」
「いえ、一応、極秘事項なんで。早速ですが、例の運搬の件の最終確認ですが」
「運ぶ隊員はそちらの依頼通りでかまいません」
「プルムさんですね」
「そうです」
おい、何の話をしてるんだ。
そして、またクラウディアさんが私にはよくわからないことを赤ひげのおっさんに言った。
「情報省はすでに偽情報を流しています」
「同日に行うんですか」
「そうですね、予定通りです。明日の夜決行です」
おいおい、勝手に話を進めないでよー! 教えてよー! 何だよ、明日の夜決行って?
「あの~すみません。何を運ぶんですか? 何で私が運ぶんですか?」
あたしは無理矢理割って入る。
「俺も内容物には教えられてないよ」
赤ひげのおっさんがまたあたしの顔を見ながら不機嫌そうに言った。
「何で、私が選ばれたんですか?」
「お前はドラゴンキラーだろ。あんなバカでかいドラゴンを倒したんなら、何にも怖いものは無いだろ」
煩わしいといった感じで答える赤ひげのおっさん。
こらこら、そんなこと期待されても。
「まあ、万が一、こいつが死んでも我が大隊には何の影響もありませんがね。ワハハ!」
あたしを指差して、大笑いする赤ひげのおっさん。
死んでもって、何だよ、死んでもって。
何笑ってるんだよ、ふざけんな、赤ひげ!
あれ、クラウディアさんも笑ってる。
ひどいよー!
「では、よろしくお願いいたします。プルムさんもよろしくね」
「ちょ、ちょっと」
クラウディアさんは、にこやかに笑って部屋を出て行った。
赤ひげのおっさんに文句を言おうとするが、机に戻って、左側の一番下の引き出しを開けて、なにやら数えている。
やばい! ウイスキー盗んだのがばれる。
あたしは、そそくさと部屋から逃げ出した。
そして、帰ろうとしているクラウディアさんを廊下で捕まえる。
「クラウディア様!」
「何でしょうか? プルムさん」
ニコニコしているクラウディアさん。
クラウディアさんの腕を引っ張って、誰もいない会議室に無理矢理連れて行き、テーブルの隅っこに座る。
「私は何をやらされるんですか」
「あら、アレサンドロ大隊長から何も聞いておられないんですか」
「何にも言われてないんですよう。完全に無視されてるんです」
あたしは涙目で事情を話す。
「あら、それは大変、じゃあ、私から説明いたしましょう。プルムさんなら全部喋っても大丈夫ですしね」
よかった、お優しいクラウディアさん。それにしても、チキショー! 赤ひげのオヤジめ、意地悪しやがって。パワハラで訴えてやる。いや、まさか、ドラゴン秘儀団のメンバーだとしたら、わざと、あたしを窮地に追いやって殺すつもりなのかも。やばいぞ。
「例のドラゴンペンダントはご存知でしょう。今、情報省の金庫に厳重に秘匿されているのですが、今回、廃棄することになったんで、運び出すことになったんです」
「廃棄って、いっそ、ハンマーでぶっ叩いて、粉々にして、燃えないゴミで捨ててしまえばいいんじゃないですか」
「それが、ものすごく頑丈なんですよ」
そういや、レッドドラゴンのときも、ナイフでガンガン叩いたけど、全然壊れなかったな。
「どちらに持って行くのですか」
「隣の王宮です」
「は? 隣の建物」
「はい、そうです」
「えーと、何個あるんですか、ドラゴンペンダントは」
「十六個です」
「えっ、そんなの誰でも出来るんじゃないんですか? たった十六個のペンダントですよね。鞄にでも入れて持って行けばいいんじゃないですか」
「そうですね、誰でも出来ますね」
「へ?」
「私が持って行くつもりだったんですが、危険ということで、他の人にということになりました。大げさだなと思ったんですけど、上からの指示ですので」
何だよー! 美人は危険だからダメで、あたしはどうでもいいのかよー!
けど、まあ、許しますよ、天然記念物に指定した方がいいんじゃないかってぐらいの完璧美人のクラウディアさんならね。はい、はい。
「何で危険なんですか」
「そちらから、黒装束の不審者が情報省の周辺で目撃されたと報告があったんです。例のドラゴン秘儀団の残党が、ドラゴンペンダントを奪いにきたのではという意見が、情報省内部で出ました」
「で、私なら、ドラゴン秘儀団に襲われて、死んでもいいってことですか」
許すと考えながらも、ちょっとあたしは拗ねてみる。
「ええ! そんなことありませんよ」
びっくりするクラウディアさん。びっくりしても美人です、と言ってる場合じゃない。
「だって、クラウディア様もさっき笑ってたじゃないですか」
「え、そうでしたっけ」
「だって、赤ひげのおっさん、じゃなくてアレサンドロ大隊長が『まあ、万が一、こいつが死んでも、我が大隊には何の影響もありませんがね』とか言って大笑いしてたら、クラウディア様も一緒に笑ってたじゃないですかあ」
もっと拗ねるあたし。
「えーと、その、アレサンドロ大隊長が嬉しそうに笑ってるので、つい、つられて笑ってしまったんです。内容聞いてませんでした。本当に申し訳ありません」
深々とあたしに頭を下げるクラウディアさん。
ん? ひょっとして、クラウディアさん、天然系じゃね。
「とにかく、そんな酷いこと思っていませんよ。どうしましょう、アレサンドロ大隊長がそんな風に考えていたら」
両手を頬にあててオロオロするクラウディアさん。
この間も、オロオロしてたな。
オロオロ美人と名付けたくなる。
「一緒に、アレサンドロ大隊長のとこにもう一度行きましょうか」
立ち上がるクラウディアさんをとめる。
「いやいや、いいです、いいです」
焦るあたし。
ウイスキーの小瓶盗んだのバレてるかもしれん。
おっさんに酒瓶で殴られるかも。怖い。
「けど、王宮に持って行って、どうするんですか」
「魔法高等官のアイーダ様に渡して、魔法を使ってドラゴンペンダントを無力化してもらうんです」
アイーダ様とは、このあいだドラゴンを倒した表彰のときに、王様の近くにいた魔法使いのような恰好をしている女性のことかな。
「あのー、それから偽情報って何ですか」
「情報省員が持って行くという偽情報を、情報屋に流したんです」
チェーザレが言ってた、情報省がペンダントを運搬するってのはこのことか。
一応、内容は合ってたんだ。
「けど、ドラゴンペンダントのことを流していいんですか」
「いえ、単純にペンダントと言ってます。ドラゴン秘儀団以外は、何のことか分からないと思います」
「そう言えば、このドラゴンペンダントって誰が作ったんですか」
「ペンダントの外見はドラゴン秘儀団が作ったらしいんですけど、中にある魔法石は誰がどのように作ったのか分かりません」
ふーん、ドラゴン秘儀団には裏で操ってる黒幕がいるのかな。
「それにしても、本当に大げさじゃないですか」
「まあ、そうなんですけど、万が一を考えてとのことです。ドラゴンを操れるペンダントですので。情報省員は普通に偽の鞄を持って地上から行きます。プルムさんは地下通路から行っていただくつもりです」
「へ? 地下通路でつながっているんですか、情報省と王宮は」
「はい、歩いて五分くらいで行けます。情報省と関係ない人ということで、プルムさんが選ばれたってことですね」
「明日の夜って、何時ですか?」
「午後九時です」
明日は、夜勤だから、都合がいいわけか。
大した仕事じゃないな。地下通路五分歩いて、鞄を持ってくだけ。誰でもできるじゃん。清掃のおばさんでも出来そうだ。赤ひげのおっさんが言った『まあ、万が一、こいつが死んでも、我が大隊には何の影響もありませんがね』って冗談ね。
いや、赤ひげのおっさんがドラゴン秘儀団だったら。うーん、クラウディアさんに言うべきか言わないべきか。悩んでいると、
「というわけです。じゃあ、プルムさん、よろしくお願いしますね」
またニッコリ笑ってクラウディアさんはお帰りになられてしまった。
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