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第54話:ダゴンダ市クティラ街を調査
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さて、ある夏の日。
あたしはフランコ官房長官に呼び出された。
「本格的に安全企画室も始動だ。ダゴンダ市クティラ街に行ってくれ。不審な状況にあるそうだ」
「何が不審なんですか?」
「それを調べるのがお前の役目だろうが!」
また怒鳴られた。
いちいちギャーギャー怒鳴るなよ。
ホントに偉そうだなあ、この四角い顔のおっさんは。
しかし、この安全企画室の仕事って、スパイみたいなもんなのか?
情報省がすでにあるのに。
謎だ。
ん、おっさんの机の上に変な機械があるぞ。
「この置物は何ですか」
「これは電話機だ」
「あら、随分、小さくなったんですね」
「これは連絡用に使う。お前にも番号を教えておこう」
さて、出張の準備。
着替えやパジャマを小さい旅行鞄に入れる。
調査というからには、この前、表彰で貰った双眼鏡でも持って行くか。
首都からダゴンダ市に行くには、あたしの故郷、ラドゥーロ市経由で行く。
そう言えば、チェーザレの子分のアベーレとベニートは元気にしているだろうか?
チェーザレの墓参りにいこう。
チェーザレの墓前で謝らないと。
乗合自動車で、取りあえずラドゥーロ市を目指す。
最近、各地で乗合馬車と並行して、乗合自動車が増えている。
それぞれの会社が、お互いに相手の会社に対して嫌がらせをしているようだ。
乗合馬車の関係者が乗合自動車に馬糞を投げつけたり、乗合自動車がわざと乗合馬車のまえで煙を出したりしている。
同じ停車駅名なのに、停車位置が、かなり離れているところもある。
お互い提携すればいいのに。
仲良くせいと言いたい。
乗り換えの関係で時間が余ったので、ラドゥーロ市の西地区トランクイロ街に行く。
ここがあたしの故郷。
小汚いバラックが並んでいるのは変わらないけど、なんだか人が少ないなあ。
昔は、スラム街とは言っても、活気はあったのだが。
こんなんだったっけ。
以前は、昼間でも女性一人だと危険な場所だったんだけど、今は寂れた感じ。
あたしが育った孤児院に行ったら、誰も居ない。
廃墟になっていた。
チェーザレたちとダンボール箱を使って、滑り台のように遊んだ坂道。
子供の頃はすごい急で長い坂道に見えたもんだけど。
今見るとしょぼいな。
ってあたしもそれなりに成長したからか。
精神的にも。
そんな気しないけどね。
スラム街のボス、アドリアーノ・ロベロに挨拶に行く。
ボスと言っても、バラック小屋に住んでいるのは、他の住民と変わらない。
「こんにちは、プルムです」
声をかけると、小屋の奥から白髪頭の爺さんが出てきた。
だいぶ老けたなあ。
元気も無さそうだ。
調子が悪いのかな。
「お久しぶりですね」
「プルムか。お前、あんまり変わらないなあ」
「はあ」
トランクイロ街の近況について聞いてみる。
「だいぶ人がいなくなったよ」
「孤児院はどうなったんですか」
「潰れたよ」
あたしが育った孤児院はもうないのか。
寂しいなあ。
「なんだか、街全体が寂れた感じですけど」
「政府の予算削減で、どんどん支援とか無くなったからな」
アドリアーノ・ロベロは不機嫌そうな顔している。
「アベーレはどうしてますか」
「肺炎で去年死んだよ」
「え!」
「病院に行く金も無くてな」
「ベニートは」
「半年前に餓死した」
「餓死! 何で?」
「あいつは要領悪い奴だったからな、お前と違って」
アドリアーノは、何だか非難がましく、あたしを見る。
「お前は、政府の役人になって、うまくやってるようだな。役人がぬくぬくとした生活している間にアベーレは病死、ベニートは飢え死にしたわけだ。他の住民もみなつらい状態だ。政府の連中は知っているのか」
そんな事、あたしに言われても……。
ここから飛び出て、約七年。
こんなにもひどくなってるとは。
せめて、お墓参りをしたい。
「チェーザレやアベーレ、ベニートのお墓はどこですか」
「再開発とやらで、先月破壊されたよ」
ひえ、お墓を壊すなんて、そんなめちゃくちゃなことあるのかよ。
フランコ官房長官にこの件も報告しておくか。
……………………………………………………
アドリアーノと別れて、すっかり憂鬱になる。
再び乗合自動車を乗り継いで、ダゴンダ市クティラ街を目指すことにした。
自動車に揺られている間、いろいろと考える。
あたしの生まれ故郷、ラドゥーロ市に近いダゴンダ市。
だから派遣されたのかなあ?
もしかして、そのために、あたしは安全企画室などという、わけのわからない部署に異動になったのか?
クラウディアさん、しらばっくれてたのかな。
クラウディアさんのことは好きなんだけどな。
あたしと似ているし。
え? 一億パーセント全く似てないって? 顔の事じゃねーよ!
いい加減なところが似ているんよ。
ただ、あたしは意識していい加減なんだけど、クラウディアさんは無意識にいい加減かの違いはあるけどね。
まあ、あの人はしらばっくれることが出来ない人だよね。
むしろ、本人がうたた寝している間に、状況が悪化していくタイプ。
ある意味最悪だけど。
と言って、あのフランコ官房長官も黒幕って感じじゃないんだな。
ギャーギャー怒鳴る人って実は小物だからね。
推理小説でも、人畜無害なふりをしている奴が最後に正体を現すってのが定番ね。
とすると、うーん、怪しいのは誰かと言うと。
そうだ、あのイガグリ坊主頭の王様だな。
呆けた顔して、裏で全てを操っているんじゃないか。
サビーナちゃんを室員にするとき、単に「一人くれ」って言ったら、あっさり「オーケー、オーケー」って。
全て分かっている証拠だぞ、要注意人物だな。
ラスボスかもしれん。
ダゴンダ市のはずれにあるクティラ街に到着。
乗合自動車の時刻表みたら、ありゃ、今のが最後か。
まだ、午後四時なんだけど。
明日の朝、午前九時まで無し。
まあ、宿泊所は予約してるけど。
天気がどんよりとしている。
今にも雨が降りそうだ。
なんだか寂れた街だなあ。
人が少ない。
暗い感じ。
建物が全体的にくすんでいる。
しばし散策するが、特に情報無し。
ただ、通り過ぎる人たちは生気の無い顔している。
確かに不審な状況って感じ。
ん? 背後から視線を感じる。
サっと振り向く。
人が逃げた。
中肉中背の男。
眼鏡をかけていた。
怪しいぞ。
追いかけるが、逃げられた。
気が付くと、街の端っこまで行ってしまった。
そこら辺にある倉庫は廃墟みたいになっている。
中に入ると、ゴミだらけだ。
ロッカールームがある。
会社でもあったのだろうか。
だいぶ陽が落ちてきた。
結局、何も分からんまま宿屋に行く。
宿屋に到着すると、あれ、なんだ、この外見は。
見た事あるぞ。
そう、レッドドラゴン事件の時に泊ったニエンテ村の宿屋に似ている。
似ているというか、まったく同じ。
どうなってんの。
玄関からはいると、受付カウンターにかわいい少年が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「予約していた、プルム・ピコロッティですけど」
「プルム様ですね。承っております」
この宿屋の中は、あたしの記憶にあるニエンテ村にあった宿屋と構造、装飾、壁紙、ソファセットも全部一緒。
灰皿の形まで一緒だぞ。
あたしの頭がおかしくなったのか?
「あの、ニエンテ村ってとこで、この宿屋と全く同じ作りの宿屋に泊ったことがあるんだけど」
少しビビりながらカウンターの少年に聞く。
「ああ、チェーン店ですね」
「は? チェーン店」
同じ部品を大量に作って、現地で組み立てるとのこと。
違うのは土産物くらい。
ニエンテ村の宿屋でも感じたんだけど、道理で安っぽいわけだ。
立地条件とか考えているのか。
地震があったら潰れそうだ。
「ニエンテ村の宿屋は閉めたそうですが」
「え、何で?」
「ニエンテ村が廃村になったからです」
廃村!
ひえー、知らんかった。
「すっかり観光客がいなくなったそうですよ」
「そうなんだ」
たしかにレッドドラゴン事件で、観光スポットの紅葉がきれいな山々が吹っ飛んだもんな。
「失礼ですが、あなたおいくつ?」
「十四歳です」
「十四歳でオーナーなの。すごいわね」
「違いますよ。アルバイトです。夕食の準備が終わったら、夕方にはここからだいぶ離れた街の自宅に帰ります。後ほど、夕食をお部屋にお持ちいたします。朝食はセルフサービスです。パンとチーズや果物などを一階のテーブルに用意しておきます」
「へ? 夜は誰もいなくなっちゃうの? 不用心じゃない」
「何も盗むものは無いですよ。お金や貴重品は街役場に預けちゃうし」
いい加減ね。
あたし並みにいい加減だ。
鍵を預かる。
部屋の番号は二階の二〇一号室。
宿屋の入り口のすぐ横の階段を上る。
この部屋、懐かしいなあ。
二階の二〇一号室。
レッドドラゴン事件の時、ニエント村でリーダーとバルドが泊っていた部屋だ。
懐かしいといっても、初めて入る部屋なのだが。
しかし初めてという気分にはならないな。
ベッドに寝転んでいると、ノックの音がした。
「開いてますよ」
声をかけると、バイトの男の子が夕食をサービスワゴンに置いて入ってきた。
「失礼いたします。夕食をお持ちいたしました。今日のメニューは、トマトとモッツァレラチーズのアジシオサラダ、ポークソテーのトマト煮、ペンネきのこクリームソース。デザートはパンナコッタです」
「まあ、美味しそう。これ、あなたが料理したの?」
「はい、そうです。召し上がった後、お皿は廊下に出しておいてください。では、ごゆっくり」
バイトの男の子は部屋を出て行った。
二〇一号室のテーブルで、一人寂しく夕食をとる。
この料理、美味しいぞ。
なかなかハイスペックな男の子ね。
食べ終わる。
「ごちそうさまでした」
しーん。
当然、答える者はいない。
孤独だ。
寮だと、食堂に誰かしら居てガヤガヤしてるし、寮母のジュスタおばさんとおしゃべりもできるんで、一人で食事してもあんまり寂しくないけどな。
この宿屋で、今いるのはあたし一人。
あたしは一生一人なのだろうか。
暗くなる。
歯磨きして、パジャマに着替えて、ベッドへダイブ!
寝る。
……………………………………………………
眠れん。
いろいろと思い出してきた。
五年前。
リーダーに告白しようと思ったら、アデリーナがトンビのようにかっさらっていきやがった。
あのオンナー! って別にアデリーナさん、あたしがリーダーの事を好きだなんて全然知らなくて、ホントにいい人だけど。
ニエンテ村であたしがリーダーに告白しようと街道を走っていた、あの時、このベッドであの二人がからみあって……。
「ウギャ!」
あたしは悲鳴をあげて、ベッドからジャンプして、空中で一回転、もう一つのバルドが使っていたベッドにダイブ!
そっちのベッドじゃとても眠れん。
同じベッドじゃないけどさ。
しかし、この部屋、ニエンテ村の宿屋とベッドカバーやカーテンのデザインやら、飾ってある絵やお茶入れ用きゅうすまで同じデザインとは芸がなさすぎるんじゃないか。
それにしても、この五年間は何だったんだろう。
リーダーは、アデリーナさんに取られた。
デルフィーノさんは、ドラゴン秘儀団メンバーで逮捕されちゃった。
アナスタシオさんは、女でアナスタシアさんだった。
ジェラルドさんは、同性愛者でチャラ男ことロベルトに取られた。
フランチェスコさんは、出家しちゃった。
あたしの恋愛活動五連敗。
なんて潤いのない五年間なの。
え? やたら純愛、純愛って叫んでいるわりには、いろんな男やらに色目を使ってるじゃないかって?
しょーがないじゃん。
そのたびに事実上、振られたようなもんなんだから。
付きまとったらストーカーじゃないか!
やれやれ。
しかし、この心の虚しさはなんだろう。
心が空っぽ。
この孤独には耐えられないぞー!
そうだ、年下もいいんじゃない。
いっそ、あの十四歳のバイトのかわいい男の子に、「お姉さんが教えてあげる」って迫ろうかしら。
って、いかん、いかん。
我ながら、キモイことを考えてしまった。
そもそも、全然教えられないじゃん!
それにしても、前回のフランチェスコさん。
惜しかったなあ。
何だよ、出家って。
急に出家とか言われて、あたしもびっくりして、かっこつけたあげく、背中を見送っちゃった。いっそのこと、そこで泣きわめいて、フランチェスコさんに無理矢理押し倒させて、強引に最後までやらせればよかった。そんで、出家は中止。何でそうしなかったの、今なら絶対そうしたわって、またまた何考えてんの、あたしは。
ああ、もうすっかりトラウマ。
普段は忘れっぽいのに。
天然女神のクラウディアさん、早くトラウマを消す魔法を開発してほしい。
そういや、ニエンテ村の宿屋で、『不用心ですわ。盗賊も出たことですし、部屋の鍵をかけたほうが良いですわよ』とクラウディアさんに言われた事を思い出した。
わたしもうら若きなのか二十一歳いまだに乙女だし。
見た目も中身も全然変わってないけど。
え? うら若きは二十歳までだって? ウルセーヨ!
一応、鍵かけて寝よっと。
あたしはフランコ官房長官に呼び出された。
「本格的に安全企画室も始動だ。ダゴンダ市クティラ街に行ってくれ。不審な状況にあるそうだ」
「何が不審なんですか?」
「それを調べるのがお前の役目だろうが!」
また怒鳴られた。
いちいちギャーギャー怒鳴るなよ。
ホントに偉そうだなあ、この四角い顔のおっさんは。
しかし、この安全企画室の仕事って、スパイみたいなもんなのか?
情報省がすでにあるのに。
謎だ。
ん、おっさんの机の上に変な機械があるぞ。
「この置物は何ですか」
「これは電話機だ」
「あら、随分、小さくなったんですね」
「これは連絡用に使う。お前にも番号を教えておこう」
さて、出張の準備。
着替えやパジャマを小さい旅行鞄に入れる。
調査というからには、この前、表彰で貰った双眼鏡でも持って行くか。
首都からダゴンダ市に行くには、あたしの故郷、ラドゥーロ市経由で行く。
そう言えば、チェーザレの子分のアベーレとベニートは元気にしているだろうか?
チェーザレの墓参りにいこう。
チェーザレの墓前で謝らないと。
乗合自動車で、取りあえずラドゥーロ市を目指す。
最近、各地で乗合馬車と並行して、乗合自動車が増えている。
それぞれの会社が、お互いに相手の会社に対して嫌がらせをしているようだ。
乗合馬車の関係者が乗合自動車に馬糞を投げつけたり、乗合自動車がわざと乗合馬車のまえで煙を出したりしている。
同じ停車駅名なのに、停車位置が、かなり離れているところもある。
お互い提携すればいいのに。
仲良くせいと言いたい。
乗り換えの関係で時間が余ったので、ラドゥーロ市の西地区トランクイロ街に行く。
ここがあたしの故郷。
小汚いバラックが並んでいるのは変わらないけど、なんだか人が少ないなあ。
昔は、スラム街とは言っても、活気はあったのだが。
こんなんだったっけ。
以前は、昼間でも女性一人だと危険な場所だったんだけど、今は寂れた感じ。
あたしが育った孤児院に行ったら、誰も居ない。
廃墟になっていた。
チェーザレたちとダンボール箱を使って、滑り台のように遊んだ坂道。
子供の頃はすごい急で長い坂道に見えたもんだけど。
今見るとしょぼいな。
ってあたしもそれなりに成長したからか。
精神的にも。
そんな気しないけどね。
スラム街のボス、アドリアーノ・ロベロに挨拶に行く。
ボスと言っても、バラック小屋に住んでいるのは、他の住民と変わらない。
「こんにちは、プルムです」
声をかけると、小屋の奥から白髪頭の爺さんが出てきた。
だいぶ老けたなあ。
元気も無さそうだ。
調子が悪いのかな。
「お久しぶりですね」
「プルムか。お前、あんまり変わらないなあ」
「はあ」
トランクイロ街の近況について聞いてみる。
「だいぶ人がいなくなったよ」
「孤児院はどうなったんですか」
「潰れたよ」
あたしが育った孤児院はもうないのか。
寂しいなあ。
「なんだか、街全体が寂れた感じですけど」
「政府の予算削減で、どんどん支援とか無くなったからな」
アドリアーノ・ロベロは不機嫌そうな顔している。
「アベーレはどうしてますか」
「肺炎で去年死んだよ」
「え!」
「病院に行く金も無くてな」
「ベニートは」
「半年前に餓死した」
「餓死! 何で?」
「あいつは要領悪い奴だったからな、お前と違って」
アドリアーノは、何だか非難がましく、あたしを見る。
「お前は、政府の役人になって、うまくやってるようだな。役人がぬくぬくとした生活している間にアベーレは病死、ベニートは飢え死にしたわけだ。他の住民もみなつらい状態だ。政府の連中は知っているのか」
そんな事、あたしに言われても……。
ここから飛び出て、約七年。
こんなにもひどくなってるとは。
せめて、お墓参りをしたい。
「チェーザレやアベーレ、ベニートのお墓はどこですか」
「再開発とやらで、先月破壊されたよ」
ひえ、お墓を壊すなんて、そんなめちゃくちゃなことあるのかよ。
フランコ官房長官にこの件も報告しておくか。
……………………………………………………
アドリアーノと別れて、すっかり憂鬱になる。
再び乗合自動車を乗り継いで、ダゴンダ市クティラ街を目指すことにした。
自動車に揺られている間、いろいろと考える。
あたしの生まれ故郷、ラドゥーロ市に近いダゴンダ市。
だから派遣されたのかなあ?
もしかして、そのために、あたしは安全企画室などという、わけのわからない部署に異動になったのか?
クラウディアさん、しらばっくれてたのかな。
クラウディアさんのことは好きなんだけどな。
あたしと似ているし。
え? 一億パーセント全く似てないって? 顔の事じゃねーよ!
いい加減なところが似ているんよ。
ただ、あたしは意識していい加減なんだけど、クラウディアさんは無意識にいい加減かの違いはあるけどね。
まあ、あの人はしらばっくれることが出来ない人だよね。
むしろ、本人がうたた寝している間に、状況が悪化していくタイプ。
ある意味最悪だけど。
と言って、あのフランコ官房長官も黒幕って感じじゃないんだな。
ギャーギャー怒鳴る人って実は小物だからね。
推理小説でも、人畜無害なふりをしている奴が最後に正体を現すってのが定番ね。
とすると、うーん、怪しいのは誰かと言うと。
そうだ、あのイガグリ坊主頭の王様だな。
呆けた顔して、裏で全てを操っているんじゃないか。
サビーナちゃんを室員にするとき、単に「一人くれ」って言ったら、あっさり「オーケー、オーケー」って。
全て分かっている証拠だぞ、要注意人物だな。
ラスボスかもしれん。
ダゴンダ市のはずれにあるクティラ街に到着。
乗合自動車の時刻表みたら、ありゃ、今のが最後か。
まだ、午後四時なんだけど。
明日の朝、午前九時まで無し。
まあ、宿泊所は予約してるけど。
天気がどんよりとしている。
今にも雨が降りそうだ。
なんだか寂れた街だなあ。
人が少ない。
暗い感じ。
建物が全体的にくすんでいる。
しばし散策するが、特に情報無し。
ただ、通り過ぎる人たちは生気の無い顔している。
確かに不審な状況って感じ。
ん? 背後から視線を感じる。
サっと振り向く。
人が逃げた。
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眼鏡をかけていた。
怪しいぞ。
追いかけるが、逃げられた。
気が付くと、街の端っこまで行ってしまった。
そこら辺にある倉庫は廃墟みたいになっている。
中に入ると、ゴミだらけだ。
ロッカールームがある。
会社でもあったのだろうか。
だいぶ陽が落ちてきた。
結局、何も分からんまま宿屋に行く。
宿屋に到着すると、あれ、なんだ、この外見は。
見た事あるぞ。
そう、レッドドラゴン事件の時に泊ったニエンテ村の宿屋に似ている。
似ているというか、まったく同じ。
どうなってんの。
玄関からはいると、受付カウンターにかわいい少年が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「予約していた、プルム・ピコロッティですけど」
「プルム様ですね。承っております」
この宿屋の中は、あたしの記憶にあるニエンテ村にあった宿屋と構造、装飾、壁紙、ソファセットも全部一緒。
灰皿の形まで一緒だぞ。
あたしの頭がおかしくなったのか?
「あの、ニエンテ村ってとこで、この宿屋と全く同じ作りの宿屋に泊ったことがあるんだけど」
少しビビりながらカウンターの少年に聞く。
「ああ、チェーン店ですね」
「は? チェーン店」
同じ部品を大量に作って、現地で組み立てるとのこと。
違うのは土産物くらい。
ニエンテ村の宿屋でも感じたんだけど、道理で安っぽいわけだ。
立地条件とか考えているのか。
地震があったら潰れそうだ。
「ニエンテ村の宿屋は閉めたそうですが」
「え、何で?」
「ニエンテ村が廃村になったからです」
廃村!
ひえー、知らんかった。
「すっかり観光客がいなくなったそうですよ」
「そうなんだ」
たしかにレッドドラゴン事件で、観光スポットの紅葉がきれいな山々が吹っ飛んだもんな。
「失礼ですが、あなたおいくつ?」
「十四歳です」
「十四歳でオーナーなの。すごいわね」
「違いますよ。アルバイトです。夕食の準備が終わったら、夕方にはここからだいぶ離れた街の自宅に帰ります。後ほど、夕食をお部屋にお持ちいたします。朝食はセルフサービスです。パンとチーズや果物などを一階のテーブルに用意しておきます」
「へ? 夜は誰もいなくなっちゃうの? 不用心じゃない」
「何も盗むものは無いですよ。お金や貴重品は街役場に預けちゃうし」
いい加減ね。
あたし並みにいい加減だ。
鍵を預かる。
部屋の番号は二階の二〇一号室。
宿屋の入り口のすぐ横の階段を上る。
この部屋、懐かしいなあ。
二階の二〇一号室。
レッドドラゴン事件の時、ニエント村でリーダーとバルドが泊っていた部屋だ。
懐かしいといっても、初めて入る部屋なのだが。
しかし初めてという気分にはならないな。
ベッドに寝転んでいると、ノックの音がした。
「開いてますよ」
声をかけると、バイトの男の子が夕食をサービスワゴンに置いて入ってきた。
「失礼いたします。夕食をお持ちいたしました。今日のメニューは、トマトとモッツァレラチーズのアジシオサラダ、ポークソテーのトマト煮、ペンネきのこクリームソース。デザートはパンナコッタです」
「まあ、美味しそう。これ、あなたが料理したの?」
「はい、そうです。召し上がった後、お皿は廊下に出しておいてください。では、ごゆっくり」
バイトの男の子は部屋を出て行った。
二〇一号室のテーブルで、一人寂しく夕食をとる。
この料理、美味しいぞ。
なかなかハイスペックな男の子ね。
食べ終わる。
「ごちそうさまでした」
しーん。
当然、答える者はいない。
孤独だ。
寮だと、食堂に誰かしら居てガヤガヤしてるし、寮母のジュスタおばさんとおしゃべりもできるんで、一人で食事してもあんまり寂しくないけどな。
この宿屋で、今いるのはあたし一人。
あたしは一生一人なのだろうか。
暗くなる。
歯磨きして、パジャマに着替えて、ベッドへダイブ!
寝る。
……………………………………………………
眠れん。
いろいろと思い出してきた。
五年前。
リーダーに告白しようと思ったら、アデリーナがトンビのようにかっさらっていきやがった。
あのオンナー! って別にアデリーナさん、あたしがリーダーの事を好きだなんて全然知らなくて、ホントにいい人だけど。
ニエンテ村であたしがリーダーに告白しようと街道を走っていた、あの時、このベッドであの二人がからみあって……。
「ウギャ!」
あたしは悲鳴をあげて、ベッドからジャンプして、空中で一回転、もう一つのバルドが使っていたベッドにダイブ!
そっちのベッドじゃとても眠れん。
同じベッドじゃないけどさ。
しかし、この部屋、ニエンテ村の宿屋とベッドカバーやカーテンのデザインやら、飾ってある絵やお茶入れ用きゅうすまで同じデザインとは芸がなさすぎるんじゃないか。
それにしても、この五年間は何だったんだろう。
リーダーは、アデリーナさんに取られた。
デルフィーノさんは、ドラゴン秘儀団メンバーで逮捕されちゃった。
アナスタシオさんは、女でアナスタシアさんだった。
ジェラルドさんは、同性愛者でチャラ男ことロベルトに取られた。
フランチェスコさんは、出家しちゃった。
あたしの恋愛活動五連敗。
なんて潤いのない五年間なの。
え? やたら純愛、純愛って叫んでいるわりには、いろんな男やらに色目を使ってるじゃないかって?
しょーがないじゃん。
そのたびに事実上、振られたようなもんなんだから。
付きまとったらストーカーじゃないか!
やれやれ。
しかし、この心の虚しさはなんだろう。
心が空っぽ。
この孤独には耐えられないぞー!
そうだ、年下もいいんじゃない。
いっそ、あの十四歳のバイトのかわいい男の子に、「お姉さんが教えてあげる」って迫ろうかしら。
って、いかん、いかん。
我ながら、キモイことを考えてしまった。
そもそも、全然教えられないじゃん!
それにしても、前回のフランチェスコさん。
惜しかったなあ。
何だよ、出家って。
急に出家とか言われて、あたしもびっくりして、かっこつけたあげく、背中を見送っちゃった。いっそのこと、そこで泣きわめいて、フランチェスコさんに無理矢理押し倒させて、強引に最後までやらせればよかった。そんで、出家は中止。何でそうしなかったの、今なら絶対そうしたわって、またまた何考えてんの、あたしは。
ああ、もうすっかりトラウマ。
普段は忘れっぽいのに。
天然女神のクラウディアさん、早くトラウマを消す魔法を開発してほしい。
そういや、ニエンテ村の宿屋で、『不用心ですわ。盗賊も出たことですし、部屋の鍵をかけたほうが良いですわよ』とクラウディアさんに言われた事を思い出した。
わたしもうら若きなのか二十一歳いまだに乙女だし。
見た目も中身も全然変わってないけど。
え? うら若きは二十歳までだって? ウルセーヨ!
一応、鍵かけて寝よっと。
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マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
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